本レポートは、2019年11月発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 10月のアジア株式市場(日本を除く)は、米中貿易協定の部分的合意への期待が高まったこと、米FRB(連邦準備制度理事会)が0.25%の追加利下げを実施したことが追い風となり、勢いを増して続伸した。米ドル・ベースの月間市場リターンは新興国全体と同水準の4.55%となった。
  • 域内の株価上昇を牽引したのは台湾株式で、インデックスに占める構成比率の高い台湾積体電路製造(TSMC)の株価が予想を上回る決算発表を受けて上昇したことから、月間市場リターンが米ドル・ベースで8.1%に上った。北アジアの他の市場も良好なパフォーマンスを見せ、韓国、香港、中国はそれぞれ米ドル・ベースの月間市場リターンが4%を超えた。
  • その他では、インド市場が堅調な企業収益と国有企業の株式売却を進める政府の意向を好感して上昇した。一方、タイは域内の株価上昇傾向に反し、月間市場リターンが米ドル・ベースで-1.5%となった。
  • 米中貿易協定の「第1段階」合意への期待が市場を押し上げており、当面は(可能な国における)金融緩和政策の継続が株価上昇をさらに促すだろう。しかし、中国は(成長における量から質への転換という)「長征」にコミットする意志が強く放漫な緩和策に戻ることに引き続き消極的であることから、中期的にはより慎重なスタンスが妥当と思われる。この低成長環境を乗り切る株式運用には、テクノロジーが推進したり可能にしたりする変化が様々な業種へ拡散することから生じるより長期的な構造的トレンドを把握し、規律だったアプローチで臨む姿勢が求められる。

アジア株式市場

市場環境

10月のアジア株式市場は上昇
10月のアジア株式市場は、米中間の関税合戦が一時中断して貿易協定の部分的合意への期待が高まったことが追い風となり、勢いを増して続伸した。また、米FRB(連邦準備制度理事会)が0.25%の追加利下げを実施したこと、米国の経済指標がある程度好調な成長を示したこと、中国の製造業統計に回復が見られたことも、投資家のリスク選好度を高めた。米ドル・ベースの月間市場リターンは新興国市場全体と同程度の4.55%となった。地域内では、台湾とシンガポールが最も良好なパフォーマンスを見せる一方、タイとマレーシアは他国市場に劣後した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年10月末~2019年10月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年10月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年10月末~2019年10月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

台湾市場は大幅上昇、他の北アジア市場も良好なパフォーマンス
台湾株式は、インデックスに占める構成比率の高いTSMCの株価上昇を受け、月間市場リターンが米ドル・ベースで8.1%に上った。TSMCは第3四半期の収益が市場予想を上回ったのに加え、第4四半期の売上げについても強気の見通しを示すとともに、2019年の設備投資計画を最大で50億米ドル拡大した。

韓国株式は、韓国銀行による0.25%の利下げや同国の半導体業界に対する楽観的な見通しを好材料として、月間市場リターンが米ドル・ベースで4.6%となった。サムスン電子は、第3四半期の営業利益が56%減となったものの、2020年には半導体チップの売上げが加速するとして強気の見通しを示した。

北アジアの他の市場では、香港と中国の市場リターンが米ドル・ベースでそれぞれ4.7%、4.0%となった。中国は、2019年第3四半期の経済成長率が前年同期比6%にとどまったが、9月の国家統計局の製造業PMI(購買担当者景気指数)と財新のPMIがともに市場予想を上回り、それぞれ49.8と51.4へと上昇したことから、市場センチメントが下支えされた。香港は、反政府運動が5ヵ月にわたって続いていることから、2019年第3四半期に経済がテクニカル・リセッション(2四半期連続のマイナス成長で景気後退の定義とされる)に陥った。

インド株式は過去最高値を更新
インド株式は、米国が今年3度目となる利下げを行った後に過去最高値を付け、月間市場リターンが米ドル・ベースで4.3%となった。企業収益の上振れが楽観ムードをもたらしたのに加え、政府が国有企業の株式売却を進める意向を示したことが、市場センチメントを下支えした。

アセアン地域では、シンガポールとフィリピンが最も良好なパフォーマンスを示し、月間市場リターンが米ドル・ベースでそれぞれ5.4%、4.7%となる一方、インドネシアとマレーシアは劣後して米ドル・ベースの市場リターンが2.8%と1.1%にとどまった。月中、MAS(シンガポール金融通貨庁)は、経済成長の低迷と低インフレが続くなか、シンガポールドルの上昇ペースをやや緩やかにする金融緩和策を実施した。フィリピンでは、中央銀行が資金流動性を増強するために預金準備率を1.00%引き下げ、またインドネシア中央銀行も、世界経済の見通しが悪化するなか主要政策金利を0.25%引き下げて5.00%とした。タイは域内の株価上昇傾向に反し、月間市場リターンが米ドル・ベースで-1.5%となった。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年9月30日~2019年10月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2019年9月30日~2019年10月31日)

過去1年間(2018年10月31日~2019年10月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年10月31日~2019年10月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

金融緩和の継続が域内株式市場の追い風に
米中貿易協定の「第1段階」合意への期待が市場を押し上げており、当面は(可能な国における)金融緩和政策の継続が株価上昇をさらに促すだろう。貿易面は明らかにポジティブな展開が見られているものの、中国は(成長における量から質への転換という)「長征」にコミットする意志が強く放漫な緩和策に戻ることに引き続き消極的であることから、中期的にはより慎重なスタンスが妥当と思われる。アジア株式は米ドル安の環境でパフォーマンスが向上しやすい。加えて、インドなどの市場は貿易戦争の影響をほとんど受けておらず、またアセアン地域の国々はサプライチェーンの再構成から恩恵を受けるポジションにある。この低成長環境を乗り切る株式運用には、テクノロジーが推進したり可能にしたりする変化が様々な業種へ拡散することから生じるより長期的な構造的トレンドを把握し、規律だったアプローチで臨む姿勢が求められる。

香港の社会不安に対する中国の対応と、(依然)続いている同国の「量より質」へのコミットメントは、短期的には貿易戦争で悪化した経済成長の回復を犠牲にせざるを得ないものの、長期的には同国にとって吉兆と言える。しかし、香港にとってはより長期的に見てネガティブな影響をもたらす可能性がある。当社では、保険やヘルスケア、ソフトウェアといった国内経済の構造的成長を体現する企業を有望視するスタンスを維持し、バリュエーションの魅力度が高いクオリティ銘柄を引き続き選好している。

インドでは、多くの構造改革があまり幸運とは言えないタイミングで行われたことにより世界的な成長鈍化に伴ってもたらされた景気サイクルの底から、経済が脱しつつあるように見受けられる。しかし、モディ政権の改革案は進められており、同政権は世界のサプライチェーンにおける自国の役割を大きく拡大する機会を認識している。当社では、今回の景気浮揚を投資機会として捉えるにあたって、主にクオリティの高い民間セクター銀行および不動産企業を選好している。

アセアンはサプライチェーンの再設計から恩恵を受ける可能性
アセアンは、現在中国への依存度が大きいサプライチェーンの再設計から恩恵が見込まれるもう1つの地域である。特にインドネシアはとりわけコスト面の優位性で際立っており、ジョコ・ウィドド大統領があらためて信任を得たことによって、長年の懸案だった構造改革が実際に実施される可能性が生まれている。

サプライチェーン(特にテクノロジー関連)の再設計がもたらすもう1つの影響は、中国企業が米国のサプライヤーよりも韓国や台湾のサプライヤーへの依存度を高めてきていることだ。循環的な景気回復の可能性が高まってきており、一部にバリュエーションが割安でリスク・リワードのトレードオフが魅力的な投資機会が提供されているなか、当社ではヘルスケアや5G、エネルギー貯蔵など、長期的なトレンドを追い風とするニッチ分野のリーディング企業を選好している。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。