当レポートは、英語による2019年11月発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

市場はまたしてもリスクオン/オフに大きく左右される展開となったが、今回は上方への動きを見せた。米中貿易交渉が再開され何らかの「ミニディール」が合意される可能性が高まったことから、投資家の間では楽観的な見方が広がり始めた。その後、米国が複数段階の協定合意に向けた前進度合いに合わせて関税を段階的に撤回することに合意した模様となり、より実質的な最終合意実現の可能性が示されると、市場センチメントは本格的に押し上げられた。

貿易協定は未だ確定からは程遠い。しかし、重大な事実に変化が生じ、それの示す世界の経済成長見通しがより楽観的なものに転じたのであれば、投資スタンスを転換する必要がある。とは言え、貿易戦争はツイート1つで再開する可能性があり(5月5日や8月2日のことを思い出していただきたい)、したがって当社ではディフェンシブなスタンスに戻る用意を継続している。

一方で、当社では今回は状況が異なる可能性があると見ている。なぜなら、世界的な製造業リセッション(景気後退)が米国にも波及してきたからだ。関税の引き上げ(特に12月に予定されている分)が実施されれば、それに伴う経済への悪影響が2期目続投を勝ち取りたいドナルド・トランプ米大統領の希望に冷や水を浴びせるのは間違いない。トランプ大統領と中国の習近平国家主席は、ともに貿易協定合意を望み、必要としている。したがって当社は、両国が最終的には貿易協定合意に至るという想定を基本シナリオに戻している。

世界の経済成長は依然として失望的なペースにあるが、PMI(購買担当者景気指数)は半導体などテクノロジー分野の回復加速を受けて安定化してきている。一方、中国は景気刺激策の微調整を続けており、2020年前半に成長が加速する可能性が高い。完全にバラ色の状況というわけではないが、直近の景気悪化が中国による一連の大幅な政策引き締めやテクノロジー・セクターの不況、貿易戦争がもたらした大きな不透明感によって引き起こされたことを考えると、これらの要因の安定化は見通しの改善を指し示している。

直近の状況は、2012年および2015年の景気悪化局面と類似点が見られる。両ケースとも、中国の政策引き締めに端を発して世界の需要が鈍化し貿易が阻害された結果、製造業が世界的にリセッションに陥ったもので、足元で経験している状況に似ていた。しかし、以前と異なる点として、現在の中国は質を伴う成長の促進を目指しており、そのため一部の人が世界経済の立ち直りに必要と感じている信用創造の「大放出」を控えている。

中国は、不動産市場での引き締めや輸出の鈍化、消費の幾分かの低迷に見舞われながらも、質を伴う成長への奮闘が実際に奏功してきている。注目すべき点として、同国の製造業セクターはバリューチェーンの高付加価値方向にシフトしつつあり、半導体やその他のハードウェアが主力となってきている。これによって、同セクターの成長加速が促されるとともに、華為技術(ファーウェイ)のような企業への部品供給を断つと警告している米国からの脅威の影響が緩和されやすくなる。

このような中国の成長は、新たな信用の大盤振る舞いが実施されていた場合に想定されるほどは世界の需要を押し上げていないが、製造業は底入れしつつあるように見受けられ、一方で需要は安定している様子である。製造業が回復し在庫が新たに積み上げられることによって、世界的な需要創出が始まる可能性がある。

設備投資には特に注視が必要だ。貿易戦争に伴う不透明感を主因として、設備投資にはしばらく失望的な状況が続いてきている。長期にわたる設備投資低迷に製造業リセッションが加わったことによって、雇用およびサービス業にも悪影響の及ぶ可能性があり、そうなればより広範なリセッションに陥る確率が大きく増すことになる。しかし、これまでの経済指標を見るところ、より広範なリセッションが近いという状況では依然ないようだ。

貿易交渉が前進と後退を繰り返すとともにマクロ指標が強弱混合の景況を示すなか、市場は神経質な動きが続くものと見られる。今のところは楽観ムードが当然ながら株式市場を押し上げており、米国市場が最高値を更新している。しかし、当社では打撃を受けた市場により魅力的な投資機会を見出しており、例えば中国は株価の上昇余地が格段に大きい。一方、債券については、8月を通じて見られたリセッション・リスクの市場への織り込みが概ねすでに巻き戻されたものの、慎重な姿勢を取っている。

当社では、見通しを急変させ得る経済指標や重大な事象(晴天の霹靂のようなツイートもその1つである)に対応していく用意を整えている。世界の需要バランスの微妙さを考えれば、見通しはかなり急速に悪化する可能性があり、投資家はリスク削減かダウンサイド・プロテクションのいずれかを行う準備を整えておく必要がある。

資産クラスの選好順位(2019年10月末時点)

資産クラスの選好順位(2019年10月末時点)

* 株式、ソブリン債およびクレジットのスコア合計は時価総額ベースで加重平均して算出。
上記のアセットクラスおよびセクターは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

10月、当社では株式に対するスタンスを慎重/やや弱気からポジティブ/やや強気へと転換した。これは、関税撤回の可能性など米中貿易交渉における前向きな進展や、製造業リセッションが底入れし世界の需要増加を促しつつある可能性を示す兆候が見られたことを受けたものだ。

米国市場は、最高値を更新しバリュエーションがかなり割高となる一方で、企業収益成長率が横這いであることから、当社では新興国市場を選好する。当社はドルがピークを打ったかもしれないとも考えており、これが新興国市場全体にわたってさらなる追い風になると見ている。アジア全般、特に中国は、需要の鈍化や貿易戦争の不透明感を要因として他地域よりも大幅な株価下落に見舞われており、したがってそれらの下方圧力が緩和した場合の相場上昇余地が最も大きいと言える。中国では、バリュー特性面の投資機会だけでなく企業収益面の支援材料もある銘柄に注目している。

固定資産投資やクレジット・インパルス(新規与信の対GDP比の伸び率)など、中国経済の状況の伝統的尺度とされる指標は引き続き弱く、特に輸出における中国需要依存度の高い国々に失望をもたらしている。しかし、民間企業の状況をより適切に示すとされる財新の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、8月の50をわずかに上回る水準から9月には2018年初め以来の52へと上昇している。

減税やより低コスト資本へのアクセス改善といった景気刺激策が民間セクターの追い風となっている一方、製品輸出への需要の減少分は今や半導体やその他のハイテク部品への国内需要に取って代わられつつある。米国がファーウェイやおそらくは他の企業に対しても部品供給を断つと警告しているなか、このようなシフトは重要な展開と言える。

A株市場の企業収益予想は、売上げの伸びと利益率の改善の両方を通じて、1月末以来上方修正が続いている。株価は長期的には企業収益に追随するものであるが、貿易戦争が市場センチメントに悪影響を与えてきたのは言うまでもなく、これを受けて下振れしてきた株価は、貿易協定が合意されれば十分に上昇する可能性がある。

チャート1:中国A株は企業収益が伸びるも株価が横這い

チャート1:中国A株は企業収益が伸びるも株価が横這い

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年10月17日~2019年10月16日

A株のパフォーマンスは確かに期待外れだが、(労働集約型産業など、かつての中国経済の成長原動力となってきた)「オールド・チャイナ」セクターの占める割合が高いMSCIチャイナ・インデックスのパフォーマンスは、貿易戦争に加えて同セクターの収益成長がいまだに失望的な状況にあることから、A株をさらに大きく下回っている。

チャート2:中国A株とMSCIチャイナ・インデックス

チャート2:中国A株とMSCIチャイナ・インデックス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2018年11月1日~2019年10月16日

グローバル債券

当社ではグローバル国債に対する見方を下方修正した。以下の要素に対するセンチメントがシフトしたことで、リスクフリー資産への需要が後退しているからだ。

  • 継続中の貿易摩擦:米中貿易交渉における両国からのシグナルを受けて、まずは「第1段階」の合意に達するのではないかとの慎重ながらも前向きな期待が広がっている。市場の当初の注目は、中国が農産物の購入を増やす見返りに米国が12月に予定していた追加関税を取りやめることに集まっていたため、両国が関税の一部を撤回する見込みが出てきたことはおまけの好材料と言えるだろう。
  • 世界の金融政策に対する予想:世界の主要中央銀行のうち、米FRB(連邦準備制度理事会)とRBA(オーストラリア準備銀行)の2行は2019年に政策金利を引き下げてきており、最近まで市場は両行の緩和サイクルが来年も継続すると予想していた。しかし、ジェローム・パウエルFRB議長とフィリップ・ロウRBA総裁はともに、最近の発言において利下げを休止する方向のガイダンスを投資家に示し始めており、市場はそれを織り込みにいっているように見受けられる。チャート3は、FRBとRBAが2020年6月時点で金融政策を現行水準に据え置いている確率を示している。米国市場はフェデラル・ファンド金利が1.5~1.75%の現行レンジにとどまる確率を6週間前には10%と織り込んでいたが、これが今では60%に上昇している。オーストラリア市場についても同様で、来年の6月にかけて政策金利が現行の0.75%に据え置かれる確率は、同期間で15%から45%へと上昇している。

チャート3:2020年6月時点で政策金利が現行水準に据え置かれている確率

チャート3:2020年6月時点で政策金利が現行水準に据え置かれている確率

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2019年10月2日~2019年11月12日

貿易交渉の結果と将来の金融政策に対する市場の評価が連動しているのは確かだ。過去数ヵ月間、貿易をめぐる緊張が落ち着くと、時を同じくして中央銀行が見通しの改善を示してきた。貿易に関するニュースが好転し世界的な追加金融緩和の見込みが低下した状況下、当社ではグローバル債券に対して慎重なスタンスに転じている。一方で、現在の米大統領の下で以前にも見てきたように、振り子が急速に振り戻り得ることも引き続き認識している。

グローバル・クレジット

信用スプレッドは過去数ヵ月間、世界的に概ね安定的な推移を保っているが、指標となる国債の利回り上昇を受けてデュレーション・リスクが表面化している。リスク選好ムードを高めグローバル株式への需要を増大させている好材料は、クレジットにとっても同様に追い風となるが、特にハイイールド債はその恩恵が大きいと見ている。当社では、足元の市場センチメントの変化を踏まえて、ハイイールド債の選好順位を引き上げた。加えて、ハイイールド債はデュレーション・リスクが相対的に低いことも、選好順位引き上げの要因となった。チャート4は、2019年における米国ハイイールド債のパフォーマンスが、米国株式からの追い風を受けて同様に好調であることを示している。

チャート4:米国ハイイールド債と米国株式のパフォーマンス

チャート4:米国ハイイールド債と米国株式のパフォーマンス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2018年12月31日~2019年11月12日(2018年12月31日=100として指数化)

通貨

貿易協定合意への期待や世界的な経済成長の安定化、FRBによる3度目の利下げを受けて楽観ムードが高まるなか、「リスクオン」モードとなった市場では米ドルが若干弱含む一方で新興国通貨が上昇した。英ポンドは、ハード・ブレグジット(英国がEU離脱を同連合との合意なしに強硬的に行うこと)をめぐる不透明感が後退し12月に総選挙が実施される運びとなったことから、大きく上昇した。

FRBが7月以降3回の利下げを行ったにしては、米ドルはかなり底堅さを保っている。これを主に支えてきたのは、経済成長において米国が他国に比べ優位であること、米ドルのネット・ポジションがロング(買い越し)となっていること、米ドルのモメンタムがプラスであることだが、当社では、これらの要因がそれぞれ後退し始めていると見ている。米国の経済成長は中国を含め他国比で鈍化し始めており、また貿易協定をめぐって楽観的な見方が再浮上したことで、投資資金のフローは米国からアジアを中心とする新興国へとシフトしている。チャート5に見られるように、かなりのロング状態が続いてきた米ドルの投機的ネット・ポジションは、10月半ばに急減し月末には中立近くとなった。米ドルのモメンタムは依然プラスだが、足元の動向はこれがまもなくマイナスに転じる可能性を示している。

次の米大統領選が視野に入ってきたことから、経済指標が全般的な景気鈍化を示した場合は、FRBの追加緩和につながり得る。その結果として政策金利が引き下げられれば、米ドルのキャリーにおける優位性が一段と後退することになりかねず、米ドルは再び下落基調に戻る可能性がある。

チャート5:米ドルのネット・ポジションと米ドルの推移

チャート5:米ドルのネット・ポジションと米ドルの推移

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2019年6月3日~2019年11月13日

コモディティ

8月には地政学的リスクの激化と債券利回りの大幅低下が金にとって支援材料となったが、それ以降は状況が反転し、安全な避難先と見なされている同資産は、地政学的リスクの緩和とそれに伴うグローバル債券の利回り上昇が逆風となってきた。とは言え、世界中の中央銀行がさらなる緩和の意向を示しているなか、当社では、ある程度の通貨価値の低下がもたらすドル安が金にとって幾分かのサポート材料になると見ている。

金は売り込まれたものの、パフォーマンスは依然として債券を上回っている。チャート6は、米国の実質金利と金価格の間に負の相関関係があることを示している。実質金利の低下に伴って金価格は上昇し、反対に最近のように実質金利が上昇すると金価格は下落する傾向がある。

チャート6:金価格と米国実質金利

チャート6:金価格と米国実質金利

出所:Energy Intelligence Groupなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年12月5日~2019年11月8日

しかし、この関係が常に成立するわけではない。チャート7が示す通り、最近では金が債券をアウトパフォームしており、金価格は割高だと言えるかもしれない。これが金価格のリスクであるのは確かだが、一方では中央銀行による金融緩和やドル安の可能性が金を下支えすると見ている。

チャート7:米国実質金利に対する金のプレミアム/ディスカウント

チャート7:米国実質金利に対する金のプレミアム/ディスカウント

出所:Energy Intelligence Groupなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年12月5日~2019年11月8日

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。