本レポートは2019年9月発行「RMB BOND MARKET – POISED FOR GROWTH」(英語)の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

中国のオンショア債券市場

2017年に開催された中国共産党第19回全国代表大会で、習近平国家主席は「中国は世界への扉を閉ざすことはなく、市場開放を進めるのみである」と述べた1。それから2年が経ったが、中国政府は債券市場を含め金融業界を開放するための改革やイニシアチブを継続的に打ち出している。10年前は、外国人投資家の中国債券市場へのアクセスは限られていた。現在では、中国の金融市場は自由化が進んでおり、外国人投資家にとってアクセスが限定的だというのはもはや同市場に投資しない理由にならない。中国オンショア債券市場の発展・開放と密接な関係にあるのが人民元の国際化で、2000年代の終盤以降、中国政府は貿易や投資を促進するために当該政策を押し進めてきた。人民元の国際化は、構造改革を含む重要な改革、金融市場の自由化、人民元の活用拡大を促し、好循環をもたらしている。

構造改革- 中国の成長牽引役の変化

中国は規模が大きく、その変化を無視することはできない。中国は経済規模が13.4兆米ドルと世界最大の経済大国の1つであり、世界経済の16%を占める。現在の成長率でいくと、中国は2030年までには経済規模で米国を凌ぐと予想されている。中国政府は、同国を投資主導の経済から消費主導の経済へと転換させるべく、大幅な改革にコミットしてきた。引き続きよりバランスのとれた成長を目指して、輸出や製造業を中心とする経済から消費やサービスを牽引役とする経済へと移行している。また、付加価値のより高い製造業やサービスへの移行も進めるとともに、効率改善のための国有企業改革や民間セクターへの資本配分の促進に取り組んでいる。

チャート1:世界のGDPに対する主要国の経済規模

チャート1:世界のGDPに対する主要国の経済規模

出所:IMF(2019年4月時点)

金融市場の自由化

金融市場の自由化は、中国経済における効率的な資本配分を後押しする。中国の民間非金融セクターの資金源は、間接金融の形式である銀行融資が今でも大半である。中国政府は債券市場を通じた直接金融の促進を目指しているが、この間接金融から直接金融へのシフトは、価格発見機能やより効率的な資本配分を実現させることにより、投資機会を生み出す。中国の金融市場の改革は、銀行セクター、資産運用の発展、金融政策の進歩にわたっており、これのもたらす債券・株式市場の発展によって市場の厚みと流動性が増し、様々な投資家のニーズを満たす商品の多様化につながっている。

加えて、中国の金融市場自由化には、金融システム全体に悪影響を及ぼすことなくクレジット・デフォルトを起こすことができる環境整備も含まれ、これによって信用リスクを適切に価格で評価する市場規律が向上している。信用度による差別化は、流動性が十分にあるオンショア市場では見受けられるが、ハイイールド債の投資適格債に対するスプレッド格差は依然として大きい。デフォルト件数は増加しているが、中国のデフォルト率は元々低かったことから、依然として世界平均を下回っている。

チャート2:手段別資金調達(対GDP比)

チャート2:手段別資金調達(対GDP比)

出所:BIS(国際決済銀行)、WIND他、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2019年7月時点)

チャート3:中国オンショア債券のデフォルト額

チャート3:中国オンショア債券のデフォルト額

出所: WIND(2019年7月時点)

人民元の活用促進

人民元の国際化の一端を成す人民元の活用促進は、同通貨の魅力を高める。政府は、以下のような用途において人民元の活用を推進している。

  • 貿易決済通貨-人民元によるモノやサービスの支払い決済
  • 投資および資金調達通貨-人民元建て資産市場の魅力や人民元での資金調達のコスト効率
  • 準備通貨-中央銀行が保有する外貨準備の通貨分散
  • プライシング通貨-コモディティのプライシングにおける選択肢

貿易決済通貨としての人民元の活用は急速に拡大している。人民元は今や米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円に続き、取引額が世界で5番目に多い決済通貨となっている。しかし、中国が世界第2位の貿易大国であり、世界との純貿易の観点では米国に追いつきつつあることを考えると、人民元は貿易における重要性に比べて依然十分には活用されていないと言える。決済の約34%を占めるユーロに対しても、人民元には拡大余地が残っている。また、中国が他のアジア諸国との結びつきを強めていることや一帯一路構想が継続されていることからも、貿易決済通貨としての人民元の拡大傾向は続くものと見られる。

投資および資金調達通貨としては、中国は外国人投資家に対してオンショアの株式・債券市場を段階的に開放してきている。オフショア人民元(CNH)市場の創設に始まリ、機関投資家への投資枠の付与を経て、現在ではより制約の少ない株式・債券コネクトでのアクセスが実現しており、今や外国人投資家は10年前のような規制に制限されることなくオンショア資本市場に投資することができる。
資金調達通貨面では、非居住者発行体による人民元建て債券の発行に増加の余地がある。一帯一路構想における資金調達やパンダ債(非居住者発行体がオンショア債券市場で発行する人民元建て債券)は、ともに人民元建て債券の発行の実例である。

チャート4:非居住者発行体による債券の発行残高

チャート4:非居住者発行体による債券の発行残高

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2019年第1四半期時点)

チャート5: パンダ債の年間発行額

チャート5: パンダ債の年間発行額

出所: 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2019年7月時点)

準備通貨としては、2016年10月に人民元がIMF(国際通貨基金)の特別引出権のバスケットに5番目の構成通貨として採用されたことによって、準備通貨としての人民元の重要性が世界の中央銀行に深く認識された。外貨準備における米ドルやユーロへの現在の配分と比べると、人民元には依然として大幅な拡大余地がある。貿易および投資通貨としての人民元の活用が広がるのに伴い、準備通貨としての人民元の利用は増加していくと見られる。2018年末の総外貨準備高に基づくと、中央銀行が外貨準備における人民元の配分を1%増加させた場合、増加額は約1,070億米ドルに相当することになる。

チャート6:世界の外貨準備の通貨構成

チャート6:世界の外貨準備の通貨構成

出所:IMF(2018年第4四半期)

チャート7: 米国と中国の原油輸入量

チャート7: 米国と中国の原油輸入量

出所: 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2017年12月31日時点)

また、中国が世界最大の原油輸入国の1つであることは、プライシング通貨としての人民元に有利に働く。こうした流れに沿って、中国は2018年3月に上海先物取引所で原油先物取引を開始し、月次の平均建玉残高は増加傾向にある。価格決定通貨としての活用の高まりは、人民元を原油輸出国から中国債券市場へと向かわせる可能性があることを示唆している。

規模の大きさから無視できない債券市場

中国のオンショア債券市場は大規模であり、2019年6月末時点の債券発行残高はおよそ9兆米ドルにのぼる。世界では米国と日本に次ぐ第3位の債券市場で、 発行体ユニバースは政府、国有企業、金融機関、企業など多岐にわたる。クレジットものは人民元建てオンショア債券市場の約50%を占め、様々な投資家のニーズを満たす多様な商品が提供されている。

チャート8:オンショア人民元建て債券の発行残高

チャート8:オンショア人民元建て債券の発行残高

出所: BIS(2019年6月時点)

チャート9: 主要市場の債券発行残高

チャート9: 主要市場の債券発行残高

出所:BIS(2018年第3四半期)

中国政府が規制の自由化を進めるなか、人民元建て債券へのアクセスは年月を経て向上してきている。人民元建て資産へのアクセスは当初、オフショア人民元建て債券(いわゆる点心債)市場を通じて行われていた。流動性のより高いインターバンク債券市場への外国人投資家のアクセスは、QFII(適格外国機関投資家)制度によって制限されていたからだ。このような投資枠規制が緩和されるにつれ、QFII制度やRQFII(人民元適格外国機関投資家)制度、中国のインターバンク債券市場への直接投資プログラムを通じて、外国人投資家のオンショア市場へのアクセスが向上した。2017年にはボンドコネクト・スキームが導入されて、門戸がさらに開放された。このスキームでは、QFII やRQFIIと異なり、登録を行った海外の機関投資家が制限枠なく債券を購入することができる。オンショア債券市場へのアクセスが継続的に改善するなかにあっても、外国人投資家による保有割合は市場全体の3%と依然低水準に留まっており、大幅な拡大余地がある。

チャート10:外国人投資家による中国オンショア債券の保有率

チャート10:外国人投資家による中国オンショア債券の保有率

出所: BNPパリバ「Guide to 2019 Index Inclusions of Chinese Onshore Assets」(2019年1月15日)

中国のような規模の大きい債券市場であれば、通常はグローバル債券インデックスの一部として採用されるものだ。しかし以前は外国人投資家によるアクセスが制限されていたことから、中国オンショア債券はインデックスに採用されてこなかった。市場の規制環境がよりアクセスしやすいものとなったことに伴い、ブルームバーグ・バークレイズはついに2019年4月からグローバル総合債券インデックスに中国オンショア人民元建て債券を採用した。段階的な採用を経て、インデックスにおける中国国債および政策銀行債の構成比率は最大5~6%になると推測される。今回の採用は中国債券市場が成熟してきたことを示している。オンショア債券の想定可能な主要グローバル債券インデックスへの採用が実現すれば、約2,950億米ドルの資金流入が見込まれる。外国人プレーヤーが加わることで、市場の発展と投資機会群の拡充が進むだろう。現在インデックスに採用されているのは国債および政策銀行債のみであり、中国オンショア債券市場の概ね半分を占めるクレジットものはまだインデックスに採用されていない。

表1. インデックスへの採用および外貨準備における配分から予想される中国オンショア債券市場への資金流入額

表1.  インデックスへの採用および外貨準備における配分から予想される中国オンショア債券市場への資金流入額

出所: JPモルガン、バークレイズ、シティ、IMF(2019年7月)
* 世界のGDP対比

表2. ブルームバーグ・バークレイズ中国総合債券インデックスの特性

表2. ブルームバーグ・バークレイズ中国総合債券インデックスの特性

出所:バークレイズ・ライブ(2019年6月28日時点)

中国オンショア債券-より高い利回り、より低い相関、より大きな分散効果

このような環境下、中国オンショア債券は投資家に相対的に高い利回りを提供しており、また長期的に良好な通貨見通しも補完材料となっている。世界的にマイナス金利環境となるなか、中国債券は大半の先進国債券市場に比べて相対的に高い利回りを提供している。チャート11が示す通り、中国国債の利回りは総じて大半の先進国債券市場よりも高い水準にある。利回りがより高いという点以外にも、中国債券はグローバル債券市場全体との相関がより低いことから、分散効果の向上ももたらす(チャート12参照)。

中国国債の過去のリターンは、人民元が下落する局面においても市場をアウトパフォームしてきた実績を示している。また、ボラティリティ調整後のリターンも先進国市場を上回っている。

チャート11:主要国の10年物国債利回り

チャート11:主要国の10年物国債利回り

出所: 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2019年5月時点)

チャート12:主要国国債のグローバル総合インデックスに対する相関

チャート12:主要国国債のグローバル総合インデックスに対する相関

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2019年5月時点)

チャート13: 国債インデックスのリターン

チャート13: 国債インデックスのリターン

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2019年7月時点)
リターンは為替ヘッジなしインデックスに基づく

チャート14:ボラティリティ調整後リターン

チャート14:ボラティリティ調整後リターン

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成(2019年7月時点)
ボラティリティ調整後のリターンは為替ヘッジなしインデックスに基づく

まとめ- 中国債券の投資妙味

人民元の国際化が継続すると同時に中国債券市場の開放が進むことによって、中国債券の投資ストーリーはその有効性を増している。とりわけ、中国オンショア債券は、魅力的な利回り水準、ポートフォリオの分散効果、優れたトータル・リターンおよびボラティリティ調整後リターンから、中国の長期的な投資機会を捉えるのに魅力的な選択肢となり得る。

中国の金融・国内市場の開放は、投資家により多くの分散やリターン獲得の手段を提供する。また、プライシング・リスクの規律や効率的な価格発見機能をもたらすことによって、中国の直接金融への転換も促すと見られる。したがって、中国の市場開放は、世界的な影響力の拡大と人民元の国際化推進に寄与している。世界のインデックス提供会社が中国の株式や債券をグローバル・インデックスに採用し始めたことも、人民元への需要を下支えするだろう。もちろんリスクは依然として残るが、多様な商品や超過収益の獲得機会など、中国債券市場の発展ポテンシャルは非常に大きく、投資家は中国債券へのエクスポージャー確立という選択肢について、理解し評価する必要が生じるだろう。

Footnote

1 出所: Xi says China will only become more and more open

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