本レポートは英語による2019年12月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 11月の米国債市場は、貿易面での楽観ムードを受けて月初に利回りが上昇した。月末にかけては、米国で香港の民主化運動のデモ参加者を擁護する新法が立法化されたことにより、米中間の貿易交渉が難しくなるかもしれないとの懸念が生じ、リスク回避志向が強まった。最終的に、米国債利回りは前月末比で上昇し、月末の水準は10年物で1.77%となった。
  • 11月のアジアのクレジット市場は、月間に信用スプレッドが0.04%程度縮小したことを主な要因として、市場リターンが0.28%となった。格付け別では、投資適格債とハイイールド債が概ね同様のパフォーマンスを見せ、投資適格債はスプレッドが0.045%縮小して0.28%の市場リターン、ハイイールド債はスプレッドが0.05%縮小して0.29%の市場リターンとなった。
  • アジア域内では、タイ中央銀行が月中に政策金利を0.25%引き下げて過去最低の1.25%とする一方、マレーシア中央銀行は翌日物政策金利を3.00%に据え置いた。第3四半期のGDPの数字は域内でまちまちとなったが、最も高い成長を見せた国の1つはフィリピンで、第3四半期のGDP成長率が前年同期比6.2%と上振れした。
  • 11月の発行市場では、年末を控えて資金調達の前倒しが続くなか、新規発行のペースが加速した。投資適格債分野で計34件(総額約190億米ドル)、ハイイールド債分野で計39件(総額約105億米ドル)の新規発行があった。
  • アジアの通貨は、貿易をめぐる先行き不透明感からボラティリティの高い展開が続くと予想する。現地通貨建て債券では、利回りが魅力的な水準にあるマレーシアおよびインドネシアの債券を選好しており、これらの市場が他国市場をアウトパフォームすると見ている。利回り水準が低く貿易の影響を受けやすい国の債券に対しては、中立からやや慎重なスタンスを取っている。
  • アジアのクレジット市場については、スプレッドと米国債利回りがレンジ内で推移する状況が当面続き、スプレッドはやや縮小気味、米国債利回りはやや上昇気味となるなかで、リターンの主な源泉はキャリーになると見ている。米中貿易交渉の結果は引き続き非常に重要な材料だ。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

11月のリスク・センチメントはまちまち、米国債利回りは上昇
11月の市場センチメントは、米中貿易協議の前進・後退と当該2国が貿易協定の「第1段階」に合意する見込みに左右される状況が続いたが、月の前半は概ねポジティブなムードとなった。しかし、月末にかけては、米国で香港の民主化運動のデモ参加者を擁護する新法が立法化されたことによって、米中間の貿易交渉が難しくなるかもしれないとの懸念が生じ、リスク回避志向が強まった。当月に発表された米国の経済指標は全体的にまちまちで、米FRB(連邦準備制度理事会)の高官は、同中銀が米国経済に対するポジティブな基本見通しを見直す必要に迫られるような展開が起きない限り、適切な金融政策スタンスを維持する見込みであることを繰り返し述べた。米国債市場はイールドカーブ全体にわたって若干売り込まれ、月末の利回りは10年物で前月末の1.69%から0.08%上昇の1.77%、2年物で前月末比0.09%の上昇となった。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2019年10月末~2019年11月末)

過去1ヵ月(2019年10月末~2019年11月末)

過去1年(2018年11月末~2019年11月末)

過去1年(2018年11月末~2019年11月末)

信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

タイ中銀は利下げを実施
11月は、タイ中央銀行が予想通り政策金利を0.25%引き下げて過去最低の1.25%とした。金融政策委員会は、今年2回目となる今回の利下げを5対2の賛成多数で決定し、その理由として景気の低迷と経済の重石となっているバーツ高の悪影響を挙げた。加えて、同中銀はバーツ高抑制策として外国為替規制の一部緩和を発表した。

マレーシア中銀は政策金利を据え置くも法定預金準備率を引き下げ
当月、マレーシア中央銀行は、翌日物政策金利を3.00%に据え置くとともに2019年の経済成長率予想を4.3~4.8%に維持した。しかしその後、同中銀は金融システムに流動性を注入すべく、法定預金準備率を0.5%引き下げて3.00%とした。法定預金準備率によって、銀行が適格債務の一部として法定準備口座に維持しなければならない必要残高が決まる。

第3四半期のGDPの数字はアジア域内でまちまち、フィリピンは上振れ
当月は、アセアン諸国の2019年第3四半期のGDP統計が相次いで発表された。域内で最も高い成長を見せた国の1つはフィリピンで、民間投資および民間消費の回復に押し上げられて、第3四半期のGDP成長率が第2四半期の前年同期比5.5%から同6.2%へと加速した。タイは、政府支出と民間投資の伸びが加速したことから、第3四半期のGDP成長率が第2四半期の前年同期比2.3%から加速して同2.4%となった。マレーシアでは、民間投資の低迷と民間消費の若干の鈍化を受けて、第3四半期のGDP成長率が第2四半期の前年同期比4.9%から同4.4%へと減速した。シンガポールは、製造業セクターの生産減少が前四半期に比べて小幅にとどまったため、第3四半期のGDP成長率が第2四半期の前年同期比0.2%から同0.5%へと改善した。最後にインドは、民間消費に緩やかな回復の兆しが見られたものの民間投資の伸びが鈍化したことから、第3四半期のGDP成長率が第2四半期の前年同期比5%から同4.5%へと減速した。

今後の見通し

当面は貿易協議がアジア通貨の方向性を左右、より長期的な見通しはやや強気
アジアの通貨は、貿易協議をめぐる先行き不透明感を主因として、ボラティリティの高い展開が続くと予想する。中国人民元や韓国ウォンのように貿易の影響を受けやすい通貨は特に、当面大きい相場変動に晒され続けるだろう。より長期的には、来年に世界の経済成長に回復が見られFRBが金融政策をしばらく現行のまま据え置くなか、アジアへの資金流入が再び始まって同地域の通貨を下支えするものと見ている。

インドネシアやマレーシアのように実質利回りが魅力的な国の債券がアウトパフォームすると予想
アジアの債券市場のなかでは、利回りが魅力的な水準にあるマレーシアおよびインドネシアの債券を選好しており、これらの市場が他国市場をアウトパフォームすると見ている。利回り水準が低く貿易の影響を受けやすい国の債券に対しては、中立からやや慎重なスタンスを取っている。来年は世界の経済成長が回復し、利回り水準の低い債券は利回りがレンジ内の推移となるか緩やかに上昇すると予想している。

アジアのクレジット市場

市場環境

アジアの信用スプレッドは縮小、貿易面の展開が引き続き主要な材料に
11月のアジアのクレジット市場は、月間に信用スプレッドが0.04%程度縮小したことを主な要因として、市場リターンが0.28%となった。格付け別では、投資適格債とハイイールド債が概ね同様のパフォーマンスを見せ、投資適格債はスプレッドが0.045%縮小して0.28%の市場リターン、ハイイールド債はスプレッドが0.05%縮小して0.29%の市場リターンとなった。

アジアのスプレッドは、引き続き米中貿易交渉が方向性を左右する主要な材料となっている。月の上旬は、ポジティブなムードを受けてスプレッドが大幅に縮小した。しかし、月の半ばにかけては、一連のニュースによって貿易協定の初めの「第1段階」に向けた交渉が依然行き詰まっていることが示唆されたため、市場センチメントが反転し信用スプレッドは拡大に転じた。米中の2国は現在協議を続けており、貿易をめぐる小競り合いは来年の初めにかけて一時休戦が継続するものと見られるが、この面におけるテール・リスク(まれにしか起こらないはずの想定外の暴騰・暴落が起こるリスク)は明らかに増大してきたと当社では見ている。また11月には、ドナルド・トランプ米大統領が香港の民主化運動のデモ参加者を擁護する法案に署名し法律として成立させたことから、警戒感も広がった。貿易面の展開が吉凶混合である一方、中国の10月の経済指標は、鉱工業生産や固定資産投資、小売売上高を含め、おしなべて弱いものとなった。これを受けて、中国は国内経済を下支えすべく、特定の政策金利を0.05%引き下げるとともに一部のインフラ・プロジェクトの資本要件を緩和した。これらの展開は11月の後半、スプレッドにとってさらなる拡大圧力となったが、最終的には市場にとって貿易協議ほど重要性が高くはなかった。その他では、月の上旬に格付機関ムーディーズが、現在Baa2であるインドのソブリン債格付けについて、景気減速懸念と財政悪化リスクの増大を理由に見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ、これを受けてインドの信用スプレッドはやや拡大した。一方、香港の社会政治的混乱は月中さらにエスカレートしたが、香港の信用スプレッドに対する悪影響は引き続き軽いものにとどまった。

発行市場の活動は勢いが加速
アジアのクレジット物の新規発行は11月、年末を控えて資金調達の前倒しが続くなか、新規発行のペースが加速した。投資適格債分野では、中国のソブリン債ディール(複数トランシェで60億米ドル)を含め、計34件(総額約190億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計39件(総額約105億米ドル)となった。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(期間) 2018年11月末~2019年11月末
(注) JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年11月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

信用スプレッドはレンジ内の推移、米中貿易協議の結果は引き続き非常に重要な材料
アジアの信用スプレッドと米国債利回りはレンジ内で推移する状況が当面続き、スプレッドはやや縮小気味、米国債利回りはやや上昇気味となるなかで、リターンの主な源泉はキャリーになると見ている。経営陣が優秀でビジネスや資金調達が困難な環境を通じた事業運営の実績がある発行体の銘柄は、アウトパフォームしやすいと想定される。中国のハイイールド債のなかでは、工業企業銘柄に対して残存期間が短い不動産企業の銘柄を選好する。中期的には下方リスクが依然残っている。米中間で貿易協定の「第1段階」が12月半ばまでに合意されたとしても、貿易協定の範囲は米国が目指していた包括的協定からは程遠いものになる可能性が高いように見受けられる。これらの問題を解決するにはかなり長い時間がかかる可能性が高く、2国間の緊張関係は長引くものと思われる。したがって、貿易摩擦は2020年に再燃するかもしれない。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。