本レポートは英語による2020年1月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 12月の市場センチメントは、米中間で暫定的な貿易協定が順調に1月に署名されるとの期待が高まったことから、ポジティブなムードとなった。 米FRB(連邦準備制度理事会)は、予想されていた通り政策金利を据え置くとともに、2020年は利上げを実施しない意向を示した。最終的に、月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.04%低下の1.57%、10年物が0.14%上昇の1.92%となり、イールドカーブはスティープ化した。
  • 12月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.09%縮小したことを主な要因として、市場リターンが0.34%となった。格付け別では、投資適格債はスプレッドが0.06%縮小して0.22%の市場リターン、ハイイールド債はスプレッドが0.20%縮小して0.71%の市場リターンとなった。
  • アジア域内の大半の金融当局は12月に政策金利を据え置いたが、中国人民銀行は14日物リバースレポ金利を引き下げた。また同中銀は、最優遇貸出金利(LPR)をすべての既存銀行融資の新たな基準金利とすることも発表した。一方、格付け機関S&Pはタイの格付け見通しを「ポジティブ」に引き上げた。
  • 12月の発行活動は年末に入るなかで鈍化した。投資適格債分野で計11件(総額約52億米ドル)、ハイイールド債分野で計7件(総額約32億米ドル)の新規発行があった。
  • 米中貿易協定の「第1段階」が1月に署名されるだろうとの楽観ムードから、市場センチメントが全体的にポジティブなものとなり、リスク資産は総じて良好なパフォーマンスを見せると予想する。当社では、インドネシアおよびマレーシアの債券に対して強気な見方をしているが、シンガポールのような利回りが低い市場についてはそれほど強気ではない。また、インド債券は、12月の下落を経て割安感が出てきたと考えている。
  • アジアの信用スプレッドと米国債利回りについては、当面レンジ内での推移が続くと予想しているが、若干ながらスプレッドは縮小方向、金利は上昇方向にバイアスがかかると見られ、リターンの源泉は主にキャリーとなるだろう。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

12月の市場センチメントはポジティブ、米国債イールドカーブはスティープ化
12月の市場センチメントは、米中間で暫定的な貿易協定が1月に署名されるだろうとの期待が高まったことから、全体的にポジティブなムードとなった。月初は、米中貿易交渉のニュースや市場予想を上回る米国雇用統計などにより、米国債利回りが上昇した。ドナルド・トランプ米大統領が米国政府と中国政府は「重要な協定合意」に「非常に近づいている」と発言すると、米国債利回りは10年物で1.91%に達した。投資家のあいだでは、トランプ大統領の弾劾問題は材料視されず、住宅関連統計や鉱工業生産を含め米国の経済指標が上向きなことを受けて楽観的な姿勢が続いた。一方、FRBは、予想されていた通り政策金利を据え置くとともに、2020年には利上げを実施しない意向を示した。最終的に、月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.04%低下の1.57%、10年物が0.14%上昇の1.92%となり、イールドカーブはスティープ化した。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2019年11月末~2019年12月末)

過去1ヵ月(2019年11月末~2019年12月末)

過去1年(2018年12月末~2019年12月末)

過去1年(2018年12月末~2019年12月末)

信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

域内のインフレ圧力はまちまち
域内の11月の総合CPI(消費者物価指数)インフレはまちまちとなった。韓国のCPIインフレは、食品および原油価格の下落ペースが緩やかとなったことから4ヵ月ぶりに若干のプラスに転じ、前年同月比0.2%となった。フィリピンでは、インフレが前年同月比1.3%へと加速したが、依然としてフィリピン中央銀行の目標レンジである2~4%を下回った。シンガポールでは、民間道路輸送費の伸びの加速や小売品価格および住居費の下落ペース緩和がサービス価格インフレの鈍化を相殺したことから、総合インフレが前年同月比0.6%と小幅に加速した。中国のCPIは、豚肉価格の高騰が主因となり前年同月比4.5%へ一段と加速した。対照的に、インドネシアとマレーシアの11月のインフレ指標はともに上昇率が鈍化した。

金融当局は政策金利を維持
インド準備銀行は、2019年に合計1.35%の利下げを実施したが、当月は市場の予想に反して政策金利を据え置いた。タイおよびフィリピンの中央銀行は、予想されていた通り政策金利を維持した。タイ中央銀行は、2019年の経済成長見通しを2.8%から2.5%に、2020年については3.3%から2.8%に引き下げ、インフレ率予想についても2019年は0.8%から0.7%へ、2020年は1.0%から0.8%と下方修正した。一方、フィリピン中央銀行は、内需の回復に対してポジティブな見方を維持したが、インフレ圧力は落ち着いた水準にとどまると予想している。同中銀の総裁は、2020年に0.50%の利下げを検討していると述べた。2019年のインフレ率予想も2.5%から2.4%に引き下げられたが、一方で2020年および2021年のインフレ率予想については2.9%に据え置かれた。インドネシア中央銀行も同様に政策金利を据え置いたが、2020年に金融政策を緩和的に維持することへのコミットメントについては繰り返し強調した。

中国人民銀行は14日物リバースレポ金利を引き下げ、中国はLPRを既存銀行融資の基準金利として適用
中国人民銀行は、14日物リバースレポ金利を2.70%から2.65%に引き下げる一方、7日物金利については2.50%に据え置いた。流動性の注入によって、マネー・マーケット金利のボラティリティを抑制し年末の資金需要が満たされるようにすべく、同中銀が柔軟なスタンスを維持していることが示された。また、同中銀は、すべての既存銀行融資に対して、1年物の貸出金利に代わりLPRを新たな基準金利とすることも発表した。この措置は、主に企業にとって資金調達コストの低下を促すことにより、成長を下支えするものと予想される。

S&Pがタイの格付け見通しを「ポジティブ」に引き上げ
格付け機関S&Pグローバル・レーティングは、タイの政治的不透明感の後退を受けて現在「BBB+」である同国のソブリン債格付見通しを「安定的」から「ポジティブ」に引き上げ、向こう1年程度で格付けが引き上げられる可能性を示唆した。

今後の見通し

FRBの緩和休止はインドネシアおよびマレーシアの債券の追い風になると予想、インド債券は下落を経て割安感が台頭
今後については、1月に米中貿易協定の「第1段階」が署名されるとの楽観的な見方から、市場センチメントは全体的にポジティブなものとなり、リスク資産は総じて良好なパフォーマンスを見せると予想している。しかし、協定の第2段階は、より長い時間を要するとともに複数の段階を経ることになるかもしれない。

FRBの緩和サイクル休止の長期化を受けて、インドネシアやマレーシアなど利回りがより高い新興国への資金流入が促進されると見られることから、当社ではインドネシアおよびマレーシアの債券に対して強気な見方をしている。一方、シンガポールのように利回りがより低い市場に対しては、それほど強気ではない。シンガポール国債の利回りが密に連動する傾向にある米国債利回りは、緩やかな上昇が予想されている。インドの債券については、12月の下落を経て割安感が出てきたと見ており、またインド準備銀行には依然として利下げ余地があると考えている。インドの総合インフレは加速したが、当社の見方ではこれは一時的なものであり、野菜価格高騰の落ち着きに伴って今後数ヵ月のうちに減速すると想定される。

アジアのクレジット市場

市場環境

アジアの信用スプレッドは引き続き貿易面の展開を主材料として縮小
12月のアジアのクレジット市場は、月間に信用スプレッドが0.09%縮小したことを主な要因として、市場リターンが0.34%となった。格付け別では、投資適格債はスプレッドが0.06%縮小して0.22%の市場リターン、ハイイールド債はスプレッドが0.20%縮小して0.71%の市場リターンとなった。

月初は、米国が12月15日に中国からの輸入品1,600億米ドル相当に追加関税を課す予定となっていたことから、軟調な滑り出しとなった。マレーシア、韓国、香港で、貿易統計が輸出入ともに減少しマークイットPMI(購買担当者景気指数)の数値が低下するなど、一連の経済指標が悪化したことも、市場の重石となった。投資適格債は堅調を維持していたものの、ハイイールド債分野では、市場センチメントが悪化するとともに年末で流動性が細るなか、(合併・買収など銘柄固有のイベントの発生が見込まれる)イベント・ドリブン銘柄が売買フローの大半を占めた。中旬になると、米中貿易協定の「第1段階」が大方合意されたとのニュースを受けて市場センチメントが改善し、アジアのクレジット市場は上昇し始めた。その後、両国から合意内容の詳細が確認されると、信用スプレッドは全般的に縮小した。特にアジアのハイイールド債分野は、中国の不動産銘柄に対する需要が牽引役となり、好調なパフォーマンスを見せた。中国ハイイールド債の資本財セクターは、個別のクレジット・イベントの可能性が嫌気され月の大半にわたって低迷したが、その後月末にかけては結果的にいくつかポジティブなニュースが出てきたことから急反発した。

国別の固有の動向としては、インド準備銀行は2019年最後の政策会合でインフレ懸念を理由に市場の予想に反して主要政策金利を据え置いた。一方、格付け機関ムーディーズはインドについて、法人減税や農家への財政支援、金融政策が経済にもたらす効果は限定的なものにとどまるとして、2020年度(2020年3月までの1年間)のGDP成長率予想を5.8%から4.9%に引き下げた。こうした動きにもかかわらず、インド債券のスプレッドは概ね他のアジア諸国と同じような推移を見せ、市場センチメントが全般的に回復するなか月末にかけて縮小した。同様に香港でも、クオリティの高い投資適格銘柄に需要が集まり、継続する社会政治的混乱が信用スプレッドに目立った影響を及ぼすことはなかった。

12月は発行市場の活動が鈍化
12月は、年末を控え、アジア・クレジット市場の新規発行ペースが鈍化した。投資適格債分野では、China Huaneng Groupのディール(複数トランシェで15億米ドル)を含め、計11件(総額約52億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計7件(総額約32億米ドル)となった。最終的に、2019年の発行額は2018年の2,310億米ドルから増加して約2,980億米ドルとなり、そのうち投資適格債が約58%を占めた。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(期間) 2018年12月末~2019年12月末
(注) JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年12月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

信用スプレッドはレンジ内の推移が継続
下方リスクに繋がりかねない主要イベントの一部が年末にかけて回避された一方、世界経済の成長ペースや地政学的リスクの再燃に関する不透明感は今後も続く可能性が高い。一方、アジア・クレジットのファンダメンタルズは引き続き総じて安定している。アジアの信用スプレッドと米国債利回りは当面レンジ内での推移が続くと予想しているが、若干ながらスプレッドは縮小方向、金利は上昇方向にバイアスがかかると見られることから、リターンの源泉は主にキャリーとなるだろう。ビジネスや資金調達が困難な環境を通じて事業運営を行ってきた実績がある銘柄や、債務削減に取り組んできた発行体の銘柄が、より堅調なパフォーマンスを示すと見られる。中国のハイイールド債のなかでは、工業企業銘柄に対して残存期間が短い不動産企業の銘柄を選好する。中期的には下方リスクが依然残っている。米中貿易協定の「第1段階」は合意されたものの、その範囲は米国が目指していた包括的協定からは程遠いものであるように見受けられる。この重要な戦略的問題を解決するにはさらに長い時間がかかるものと見られ、2国間の緊張関係は継続するとともに2020年に再び高まる可能性が高い。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。