当レポートは、英語による2019年12月発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

1年前、市場は崩壊状況にあったが、これはクリスマス休暇を迎える時期としては異例であった。2018年12月には貿易戦争が休戦に入るとともに米FRB(連邦準備制度理事会)が幾分ハト派色を強めたものの、市場は世界的なリセッション(景気後退)を急速に織り込んでいった。当時、当社では、FRBがハト派色を強めること、貿易戦争に何らかの解決がもたらされること、中国の景気刺激策がついに奏功し将来の景気見通しが改善することが支援材料となって、逆風が追い風に変わるとのシナリオを主張した。当時のバリュエーションは非常に魅力的な水準にあったことから、逆張りのポジションを取ってリスク資産を買い持ち/オーバーウェイトとする戦略は良好なリターンをもたらした。

12ヵ月後、リスク資産を買い持ち/オーバーウェイトとする戦略は結果的に奏功したが、その道のりは控えめに言っても異例なものであった。ドナルド・トランプ米大統領が5月と8月に発した2件のツイートによって、市場は貿易協定の合意が近いとの確信から追加関税で貿易戦争が再燃するとの思惑へと振れ、混乱に陥った。債券市場は貿易戦争の激化によって世界経済がリセッションに陥るとの結論に至ったようだったが、一方で株式市場はより楽観的な先行きを織り込み、メディアの報道ぶりを最悪シナリオ回避の兆候と捉えた。

債券市場と株式市場が想定している成長見通しの乖離はまだ埋まっておらず、2019年は両市場とも多大なリターンをもたらす結果となっている。これはマルチアセット・ポートフォリオのパフォーマンスにとって大きな追い風となり、株式と債券がともに苦戦した2018年とは打って変わった状況となった。足元の問題は、この株高と債券高の同時進行が最終的にどのように帳尻合わせを見せるのだろうかということだ。相対バリュエーションは、株式が過度に楽観的であるか債券が過度に悲観的であるかのいずれかであることを示している。

世界的な需要改善と近いように見受けられる米中貿易協定合意を大きな推進力として、見通しにはある程度「ゴルディロックス経済」(過熱せず低迷もしない適度な経済状態)の感がある。一方、世界中の中央銀行によるハト派スタンスの継続が、債券利回りの上昇抑制に貢献している。事態が悪い方向に進むとすれば、その要因となるのは何か。残念ながら、そのような要因はいくつかある。最も重大なのは、足元の市場には楽観的見通しで織り込まれている米中貿易協議が、物別れに終わること、または内容や時期において失望的なものになることだ。12月15日に予定されている関税発動は延期されると見ているが、交渉においてこれまで頻繁に頓挫が見られてきたことを考えると、貿易面の展開は依然として注視が必要である。

もう1つの主要なリスクは、景気がゴルディロックス・シナリオの「適度」よりもやや過熱することだ。在庫は減少しており、そのギャップを埋めるべく製造業が加速しているが、これは通常なら世界経済を十分に押し上げる力となる。中国は景気刺激策の効果が出るまでに時間がかかったが、経済指標が景気の底入れを示しており、2020年前半には成長が加速する見込みだ。FRBはこれまでのところハト派スタンスをキープする決意を固めている様相であり、景気が予想以上に過熱すれば債券の方が下方調整する可能性がある。

資産クラスの選好順位(2019年11月末時点)

資産クラスの選好順位(2019年11月末時点)

* 株式、ソブリン債およびクレジットのスコア合計は時価総額ベースで加重平均して算出。
上記のアセットクラスおよびセクターは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

株式の選好順位においては、米国株式の総合スコアを中立としている。その理由の一部は、(先月の)ドル高が米国以上にグローバル株式にとってより逆風となることだ。とは言っても、直近にFRBがハト派スタンスの継続を繰り返し強調したこともあり、ドル安基調に戻る可能性には留意が必要である。

過去10年の資産配分において、米国株式を世界の他国市場に対してオーバーウェイトし続けた場合は、かなり良好なパフォーマンスをもたらしたはずだ。新興国を含むグローバル株式のリターンが年率6.3%であったのに対し、米国株式のリタ―ンは同11%近くとなった。世界金融危機を経て「ニュー・ノーマル」に適応しようとする困難な10年にあって、米国はよく他国との比較において「最も汚れが少ないシャツ」と評され、これが他国を上回るパフォーマンスを支えてきた。

「最も汚れが少ないシャツ」というのは、特にドル高であるとともに米国がその比較的閉鎖性の強い経済のため世界的な景気低迷の影響を受けにくい状況にある場合は、適切な描写であると言える。ドル高は、海外収益のドル換算額が少なくなるため米国の企業収益にとって悪材料となるが、相対的な影響度は、需要の減少が売上げと利益に直接打撃を与える世界の他国の場合に比べてかなり小さい。

2018年終盤にFRBがハト派に転じた時、ドルは安定化もしくは下落するかもしれないと見受けられ、それによってグローバル株式の市場間のパフォーマンス格差がおそらくある程度埋まるものと思われた。しかし、ドル高のペースは2018年に比べて鈍化したかもしれないものの、ドルの相対的な強さを受けて米国株式はまたもや世界の他国市場をアウトパフォームした。

チャート1:米国株式の世界の他国市場に対する超過リターンとドルの推移比較

チャート1:米国株式の世界の他国市場に対する超過リターンとドルの推移比較

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2018年12月31日~2019年12月11日

2018年終盤にFRBはハト派に転じたものの、金利については他のG7各国よりもかなり高い水準に据え置くとともに、バランスシートの縮小(量的引き締め)を続けていた。このような政策は世界の他国に比べて依然引き締め度がとても強く、ドル高を支える要因となった。しかし、7月以降、FRBは先制措置として合計0.75%に上る3回の利下げを行うとともに、月次300億米ドルの量的引き締めから同600億米ドルの量的緩和に転じており、ドルは転換点を迎えているように見受けられる。

これまでのところ、米国株式は世界の他国市場をアウトパフォームし続けられることにおいて容赦なしといったところだ。しかし、FRBの緩和政策を受けてドルが下落を続け世界の需要が改善すれば、米国以外の市場の方がバリュエーションが大幅に割安であることから、世界の他国市場がアウトパフォームする日がついに来るのかもしれない。

グローバル債券

先月は債券利回りが狭いレンジでの推移となったが、当社では世界の国債に対して引き続き慎重な姿勢で臨んでいる。市場が米中貿易交渉のさらなるニュースを待つとともに、FRBとECB(欧州中央銀行)がともに12月に政策会合を行うなか、当社としては一歩離れ、バリュエーションの評価基準として債券リターンの基本的なファンダメンタルズを検討したいと考える。

例えば、年間の債券リターンは、「キャリー」のリターンと「ロール」のリターンに分解することができる。キャリーは単純に債券の利回りから得られるリターンで、ロール・リターンはイールドカーブの傾斜度によって決まる。例を挙げると、利回りが2%の10年債の年間リターンは、2%に残存期間10年が9年になることによって利回りが低下するロールダウン効果からの若干の利益を加えた(順イールドカーブの場合。逆イールドカーブの場合は、残存期間が短くなることによって利回りが上昇するロールアップ効果からの若干の損失を差し引く)ものとなる。イールドカーブは通常は順傾斜であるため、投資家は従来キャリーとロールの両方からプラスのリターンを得てきた。

先進国ソブリン債を現在のキャリーおよびロールの観点からわかりやすく比較するために、チャート2においてキャリー部分を10年債の利回りで、ロール部分を10年債と2年債の利回り格差で表してみた。

チャート2:ソブリン債10年物の利回りとイールドカーブの利回り格差

チャート2:ソブリン債10年物の利回りとイールドカーブの利回り格差

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成(2019年12月現在)

キャリー部分(または利回り)は米国が最も高く、カナダとオーストラリアがそれに続く一方、ドイツと日本はマイナス利回りで最下位となっている。ロール部分の魅力度はフランスとオーストラリアで最も高く、カナダと日本が最も低い。これら2つの要素を考え合わせると、最も魅力度が乏しいのはドイツと日本で、ドイツはイールドカーブの長短利回り格差が比較的大きいもののマイナス利回りがそれを相殺してしまっており、日本はキャリーとロールの両評価基準で見劣りする。対極にあるのは米国とオーストラリアで、イールドカーブが通常の順イールドにあるとともに利回りが相対的に高めであることから、最も魅力的となっている。

グローバル・クレジット

年末が近づくなか、米国の投資適格クレジット債は米国債を余裕でアウトパフォームした。投資適格社債7~10年物の年初来の市場リターンは12月半ば現在で16%と、米国債7~10年物のパフォーマンスを7%上回っている。チャート3および4は投資適格債の米国債に対する相対パフォーマンスを年初来ベースで示したものだが、投資適格債はほんの数回の例外を除き、ほぼ年を通じて着実に超過リターンを積み上げてきた。5月と8月には、米中貿易交渉が悪化方向に転じてトランプ米大統領が中国製品に対し追加関税を賦課すると警告したことを受け、米国の投資適格債はパフォーマンスが劣後した。これら2回の「リスクオフ」イベントはともに長続きせず、社債市場は回復して米国債に対するプラスのパフォーマンス格差を拡大し続けた。

チャート3:米国の投資適格社債と国債のパフォーマンス格差

チャート3:米国の投資適格社債と国債のパフォーマンス格差

出所: ICE BofAMLなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2018年12月31日~2019年12月10日(2018年12月31日=100として指数化)

チャート4:米国投資適格債の米国債に対する相対パフォーマンス

チャート4:米国投資適格債の米国債に対する相対パフォーマンス

出所:ICE BofAMLなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2018年12月31日~2019年12月10日

通貨

市場は年内の直近の2大地政学的イベント、つまり12月12日の英国の総選挙と12月15日の米国が中国に対し追加関税を発動するか否かの決定に(希望を持って)備えていた。英国の総選挙で保守党が大差の勝利を収めると、英国がついに秩序だった形でブレグジット(英国のEU離脱)を開始し貿易への深刻な打撃を回避できるようになるとの期待から、英ポンドが大きく上昇した。一方ドルは、追加関税が延期される可能性が高まっているように見受けられることから若干下落した。

ファンダメンタルズ面では英国の経済状況は冷え込んでおり、市場は2020年の再利下げを織り込んでいる。しかし、経済が低迷し利下げが予想されているものの、ポンドは依然として相対的に割安であり、これがブレグジット問題の解決期待によるポンド高を下支えした。英ポンドは売り持ちポジション縮小の動きが最近のパフォーマンスの追い風となっているが、依然として広く売り持ち/アンダーウェイトされている傾向にある。売り持ちポジション解消の動きが続くことで、同通貨は一段と押し上げられるかもしれない。

選挙で保守党が過半数を勝ち取った度合いから考えて、英国が新年にかけてEU(欧州連合)との交渉を続け、秩序だったブレグジットとなるような進展を見せるあいだ、市場センチメントの回復は持続し英ポンドの追い風となる可能性がある。

チャート5:英ポンドのネット・ポジション

チャート5:英ポンドのネット・ポジション

出所: 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2019年1月1日~2019年12月12日

コモディティ

経済成長の環境が改善しているなか、コモディティの見通しも改善しており、特に世界需要の影響を最も受けやすいエネルギーや産業用金属ではそれが顕著だ。相対ベースでは、当社では供給動向がより良好であるエネルギーを金属に対して選好する。

OPECプラス(石油輸出国機構の加盟国と非加盟主要産油国で構成)は、12月の合同閣僚級会合で日量50万バレルの追加減産(合計減産量は日量170万バレル)を発表して市場を驚かせた。加えて、サウジアラビアを中心とする数ヵ国が、合計で日量210万バレルの供給減となる自主的な追加減産を継続する。とは言っても、サウジアラビアは今や世界最大の上場企業となった国営石油会社AramcoのIPO(新規株式公開)を同月に控えていたことを考えれば、自主減産に私心がなかったわけではない。

米国でも原油生産の伸びが鈍化し始める兆しが現れてきており、これを裏付けるものとして、稼働リグ(掘削装置)総数の推移が直近では2014~2015年の原油価格暴落の後の2017年に見られた水準にまで戻っている(チャート6参照)。米国は原油価格上昇時には供給を増やしてOPECの供給縮小の効果を実質的に弱めるのが通常であることを考えると、2018年末から見られているこの稼働リグ総数の減少傾向はある程度異例と言える。

チャート6:米国の稼働シェール・リグ数とWTI原油価格の推移比較

チャート6:米国の稼働シェール・リグ数とWTI原油価格の推移比較

出所: Baker Hughesなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2009年12月31日~2019年12月12日

チャート7が示す通り、石油探査・生産企業の設備投資は過去10年で初めてキャッシュフローを下回っているが、これはそれらの企業が生産増強への投資を行うよりも増配と自社株買いに資金を使っているからだ。米国の産油量の伸びは少なくとも中期的には停滞が続くものと思われ、米国エネルギー情報局は最近2020年の生産量予想を下方修正した。

チャート7:S&P500指数に含まれる石油探査・生産企業の設備投資のキャッシュフローに対する超過分(1株当たり)

チャート7:S&P500指数に含まれる石油探査・生産企業の設備投資のキャッシュフローに対する超過分(1株当たり)

出所:ICE BofAMLなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2009年12月31日~2019年12月10日

このような生産調整は短中期的に原油価格の追い風になるものと見られる。向こう数ヵ月は、世界の経済成長が上向くと予想されるなか、需要動向をより注視していく必要があるだろう。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。