当レポートは、英語による2019年12月発行「GLOBAL MULTI-ASSET MARKET OUTLOOK 2020」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2019年は、ほぼすべての資産クラスが高リターンを達成した年として振り返られることになりそうだ。その原動力となった要因としては、各国中央銀行が金融政策を急転換してハト派的な姿勢を強めたことに加え、世界的な景気後退懸念が和らいだこと、米中間の貿易合意間近との期待が高まったことなどが挙げられる。2018年終盤の市場の急落を受けてバリュエーションの魅力度が増していたことも後押しし、2019年第1四半期の株式市場のリターンは、第1四半期としては過去有数の高水準に達した。しかし、5月と8月には米中が追加関税を発動し、(驚くまでもなく)アジア株式市場がその最も大きな打撃を受けると、再び米国株式が世界でパフォーマンストップの株式市場となった。

2020年に目を向けると、足元のバリュエーションは2018年末当時の魅力的な水準からは程遠いが、金融緩和によってもたらされた潤沢な流動性に加え、世界需要の改善、そして(願わくは)米中間で間近とされる何らかの形の貿易合意が追い風となり、2020年はまずまず良好なリターンが達成されるとみられる。

2019年の序盤において、米国連邦準備制度理事会(FRB)は金融引き締めサイクルの停止やおそらく量的引き締め(QT)の減速を決定する用意も出来ていたように見受けられたが、3度の利下げを実施し、毎月600億米ドルの資産を買い入れる量的緩和(QE)を再開、それに今では欧州中央銀行(ECB)も毎月200億ユーロの資産を買い入れている状況となり、つまり両中央銀行による史上初の協調的QEという世界金融危機時でさえもみられなかった動きを想像できた者は殆どいなかっただろう。

そうした金融緩和拡大への急転換が行なわれた根拠は何だったのだろうか。基本的には、世界の需要は極めて弱い状態が続いている。中国が2018年に実施した金融引き締め策をまだ緩和していなかったことを背景に、世界的に需要がかなり低迷し、ドイツは景気後退に陥る寸前に追いやられていた。中国の金融環境のタイト化や米中貿易戦争をめぐる先行き不透明感の強まりに追い打ちをかけたのは、半導体や電子機器市況の悪化だった。それが世界的な製造業不況へと広がり、その影響が米国に波及し始めた。そうしたなか、各国中央銀行は世界的な景気後退を回避すべく政策を急転換したのだった。

足元では、これらの逆風が追い風に変わりつつあることを示す兆しが現れてきている。製造業不況は、半導体や電子機器を中心に底入れしつつあり、この先、在庫積み増し局面が控えていることを意味している。中国では、外需が依然低迷しているものの、経済成長の質を重視した景気刺激策を受けて、半導体分野からコンピューター機器分野に至るまで同国製造業はバリューチェーンの上位へと徐々に移動してきており、それが同国の対米輸出減少分の埋め合わせに寄与している。中国経済はまだ底入れしていないが、需要動向が改善の兆しをみせていることから、2020年前半には景気が上向くと予想される。

2020年は年間を通して成長が加速するというのが当社の基本シナリオである。まず製造業の成長が加速し、その好影響が中国の消費へと広がり、延いてはそれが欧州から新興国に至るまで世界中の需要改善を後押しするとみている。米国の消費は引き続き好調に推移し、在庫積み増しの波を受けて製造業不況が解消される場合にはその傾向が特に顕著となるだろう。また、緩和的な金融環境が後押しして投資家のアニマル・スピリット(野心)が強まるとみられ、投資の拡大を促す可能性もある。

言うまでもなく、この明るい見通しは米中間の貿易合意が実現することを前提条件としている。それが実現せず、さらなる追加関税が課される場合、容易に世界不況に陥る可能性もあり、先は全く読めなくなる。以下に、当社が現在注視している主な投資テーマの一部を紹介する。

  • ドルの安定化:米国の経済成長が他国よりも好調であり、特に激化と休戦を繰り返す貿易戦争によって先行き不透明感が大幅に高まっている状況にあって、米国が消去法的に「一番汚くないシャツ」とみられていることから、FRBのハト派転換にもかかわらずドルは引き続き下支えされている。当社では、貿易合意が実現すると米国の経済成長の優位性がついに消え、縮小傾向にある製造活動は在庫積み増しを受けて拡大に転じると考えている。世界各国の成長加速に加え、協調的QEや世界的な金融緩和は、ドルを弱めないまでも安定化させる環境をもたらし、世界中(特に米国以外)の株式市場に好影響をもたらすだろう。
  • 世界の経済成長が(ついに)加速:当社では、中国の経済成長は足元で安定化しつつあり、2020年前半には需要が上向くとみられ、それが欧州および他の新興国の追い風になると考えている。今回の中国需要はこれまでと異なるとみられ、需要に占めるコモディティの割合が2012年または2015年当時に比べると確実に低くなるだろう。
  • インフレ加速リスク? 米国を中心として労働市場の逼迫が続くなか、超緩和的な金融政策を受けて成長が加速すれば、需要が大方の予想よりも若干加熱する可能性がある。足元では、世界中のどこを見渡しても物価が上昇している地域を見つけるのは困難だが、需給ギャップがすでに解消されているなかで成長が加速すれば、こうした状況は急変する可能性がある。もしインフレが実際に加速する場合、FRBはそれに応じて金融政策を引き締めざるを得なくなり、それこそが次の景気下降局面を誘発する要因となるかもしれない。
  • 米中貿易摩擦は継続:「第1段階」の貿易合意はより広範な問題の解決に向けた小さな一歩に過ぎず、いずれにしてもテクノロジー覇権をめぐる冷戦は継続することから、米国が中国企業に対する新たな制裁を打ち出すなり、香港、台湾または南シナ海での中国の立場に異論を唱えるなり、新しい摩擦が生じるはずである。こうした不透明感は今後も長年続くだろう。
  • 地政学的情勢は沈静化? 2019年8月は、月の初めにドナルド・トランプ米大統領が対中関税のさらなる引き上げを発表し、続いてハードブレグジット(英国のEU強硬離脱)の可能性が高まり、イタリアの連立政権が崩壊の危機に瀕し、香港の抗議デモにおける暴力が激しさを増すなど、地政学的情勢が急展開して手に負えない状況に陥りつつある感があった。これらのリスクは燻り続ける可能性が高いものの、欧州においては、英国の12月の総選挙で保守党が圧勝し、スムーズなEU離脱に向けた道筋が作られる可能性が高いことや、イタリアでは連立政権が維持されるとともにEU離脱論が唱えられなくなっていることから、リスク要因が消えつつあるように見受けられる。香港では、11月の選挙で民主派が圧勝したことから、中国政府は、抗議デモ参加者に対する強硬姿勢を強めるよりも、むしろ状況を鎮めるための譲歩を容認する可能性の方が高いと窺われる。これらの情勢が再び深刻化するリスクや、中南米や中東などの地域で高まっているストレスが世界へ波及するリスクは常に存在する。しかし、特に経済成長が加速するなかで、2020年は概して地政学的情勢が多少落ち着きそうにみえる。
  • 米国選挙リスク:米国は景気後退を回避した様子であるなか、トランプ大統領は支持率が低いものの2期目当選確率が相当上昇している。民主党候補のなかでは、ジョー・バイデン前米副大統領が依然として支持率上は最有力候補となっているものの、勢いで勝るのはエリザベス・ウォーレン候補である。ウォーレン候補が掲げる進歩的な政策は、概して景気に悪影響を及ぼすとみられている。もしウォーレン候補の支持率がトランプ大統領を上回ることになれば、市場はネガティブな反応を示す可能性が高いとみられるため、確実に注視が必要である。

総じて、当社では、①世界の製造活動回復の見通し、②2020年前半に中国の経済成長および需要が改善に転じる見通し、③各国中央銀行による金融緩和や(当社が貿易合意実現の基本シナリオを維持している米中貿易戦争を中心として)世界的な先行き不透明感の緩和を背景として投資が拡大するとの期待を踏まえて、世界の経済成長に対して明るい見方を維持している。米国では特に顕著であるが、景気サイクルは終盤を迎えていることから、今回の上昇局面を最後として、2021年または2022年にはついに世界経済が後退期に入るかもしれない。インフレが加速してFRBがタカ派姿勢を強めざるを得ない状況となれば、それが次の景気下降局面を誘発する可能性があることは確かである。

各資産クラスの展望

株式

経済成長見通しの改善や、少なくとも2020年前半は続くとみられる緩和的な金融環境による追い風を考慮し、株式についてはポジティブな見通しを持っている。米国株式は引き続き世界でも特に割高な水準にあり、企業収益が悪化していることからディフェンシブ性が相対的に低いが、経済成長の再加速を受けて状況は多少改善するとみられる。しかし、当社が基本シナリオとしている緩和的な金融環境およびドル安方向への転換を受けて、米国に比べてバリュエーションが大幅に割安でありながら、より力強い景気回復を実感するとみられる新興国、日本、欧州など、米国外においてより魅力的な投資機会が見出されるだろう。

より具体的には、当社では中国株式を選好している。そのなかでも特に有望視しているのは、習近平国家主席自らが民間セクターへの支援を明確に表明した「新しい中国」へのエクスポージャーを得られる中国A株である。中国A株の株価が米中貿易戦争に関するニュースに振り回されてきたなかでも、テクノロジーや消費分野の継続的成長が原動力となって企業収益の伸びは損なわれていない。貿易をめぐる不透明感が高まってきた結果として、「第1段階」の貿易合意が発効すれば株価の見直しが進む可能性がある。

バリュー株とグロース株のバリュエーションが大幅に乖離してきたところに債券利回りが上昇したことを一因として、9月以降バリュー株がグロース株をアウトパフォームする傾向が続いた。新たな成長サイクル入りを受けて、バリュー株が引き続きグロース株をアウトパフォームする可能性もある。しかし、こうしたロジックには無理があるようにみえる。少なくとも、経済成長が緩やかながら今や10年超にわたってプラスを維持している米国の場合はそうであろう。しかし、米国に比べて成長サイクルが大幅に遅れているとみられる世界の他の国々では、バリュー株に投資機会があることは比較的妥当であると言える。したがって、当社ではこれらの投資機会も注視している。

ソブリン債

2019年のグローバル債券は堅調なパフォーマンスとなった。そのパフォーマンスを牽引したオーストラリア国債と米国債の両市場においては、それぞれの国における金融政策の緩和が追い風となった。また、地政学的リスクの高まりを背景に、ソブリン債市場全般に対して投資家が強い関心を示す状況が続いた。2020年に目を向けると、債券利回りが当初から超低水準にあり、世界の国債ユニバースのかなりの部分がマイナス利回りとなっている。世界経済の改善という当社の見立てが正しいと証明される場合、これは債券にとって良いスタート地点であるとは言えない。世界の主要中央銀行が政策金利をさらに引き下げる見込みは薄く、市場は2020年中の緩やかな利上げを考慮せざるを得ない状況となる可能性さえある。ソブリン債はここ数年間で何度も悲観的な見方をされてきたことは事実だが、向こう1年間においては、割高なバリュエーションおよび世界経済の見通し改善が債券利回りの上昇を示唆している。

クレジット

グローバル・クレジット市場は、債券利回りが上昇基調を辿るなかで国債をアウトパフォームするとみられる。世界的な経済成長の改善を受けて、投資適格社債のスプレッドは歴史的にみてもタイトな水準ながら安定した推移を続ける見通しである。ソブリン債に比べて、投資適格債市場はイールドプレミアムや比較的短い平均償還期限によってリターンが守られるだろう。また、デュレーションリスクによる悪影響が相対的に少ないグローバル・ハイイールド債市場にとっても、こうした環境は相応に魅力的なものとなろう。

コモディティ

世界経済成長の持ち直しはエネルギーや産業用金属の追い風になるとみられる。ドルが引き続き安定的に推移する場合は、その傾向が特に強まるだろう。しかし、中国が経済成長の質を重視する方針を打ち出しており、不動産またはインフラ分野への大規模な景気刺激策は避ける構えであることから、産業用金属を中心として上昇余地は限定されると考える。足元では地政学的リスクが消えつつあるかもしれないが、情勢の不安定化をもたらし得る種が多数存在しており、金は引き続きそうしたリスクに対する妥当なヘッジ手段となっている。また、通貨切り下げに対するヘッジ手段である金にとっては、FRBによるQE再開もサポート要因となっている。

結論

製造業の縮小局面は在庫積み増しによる拡大局面へと変わっていく見通しであり、世界経済はより広範な景気後退を回避したとみられる。概して緩和的な金融情勢を背景に、経済成長そして特に株式にとって良好な環境にある。債券市場においては、実際よりも深刻な景気下降局面を織り込んで利回りが大幅に低下しており、利回りが上昇するリスクがある。ドルが安定化する場合や、もしドル安に転じる場合、最も良好な投資機会が見出されるのは、バリュエーションがより魅力的で、経済成長が上振れする可能性の方が高い米国以外となるだろう。

米国は景気サイクルの終盤にあり、バリュエーションが割高であることは明らかだ。しかし、景気拡大期は長く続いてきたからそろそろ寿命を迎えるというものではなく、政策の引き締めに伴なって過剰状態が持続不能となることで終わりを迎える。企業の信用拡大は一見過剰にみえるが、企業の利益やキャッシュフローの増加度合いからすると、そうした負債水準も持続可能であると示唆される。いつのときも、政策が大幅に引き締められると枯れ木のように焼失してしまう企業は存在するものだが、2007~08年当時には脆弱だった米国の銀行のバランスシートは強固になっており、システミック・リスクは見当たらない。

一方、世界の他の国々は、中国からの需要の波が激しいことからもたついてきているが、足元では中国需要は改善に向かう見込みだ。しかし、従来のように信用が急拡大したのちに過度に引き締められるといった両極端ではなく、世界の他の国々は質の高い経済成長を遂げ、緩やかながら確実な景気改善の恩恵を享受できる可能性がある。

このように至ってゴルディロックス(適温)的なシナリオに対する下方リスクは多数ある。まずは、ドル高が続き、米国以外の国々、特にアジア諸国やアジア以外の新興国が逆風に晒され続けるシナリオである。実際、FRBのハト派転換が今のところドル安方向にほぼ作用していないことから、これは確率の低いイベントではない。カギとなるのは、米国に向かっていた資本が還流するほどに他の国々が経済成長を加速させられるかどうかである。

二つ目の重要なリスクは、FRBは労働力供給がかなり逼迫した状況が続いている状況の下、金融政策を緩和するという前例のない動きに出ているなか、インフレが加速するシナリオである。インフレが実際に上振れする場合(2020年後半の見通しだが、より可能性が高いのは2021年中)、FRBはより積極的な引き締めを余儀なくされる可能性があり、そうなればリスク資産にとっては確実にマイナスに働き、おそらく今回の景気サイクルが終わりを迎えるであろう。

三つ目の重要なリスクは、米中間の貿易合意が締結されず、それを受けて関税が引き上げられるシナリオである。これは当社の基本シナリオではない。それは、米中が貿易協定締結に意欲を示しており、両国ともこのタイミングで実現させたい強いインセンティブもあるからである。トランプ大統領にとっては、交渉が決裂すれば2020年大統領選挙でその代償を払うことになるとみられる。中国にとっては、さらに関税が引き上げられれば綱渡り的な駆け引きが一層難しくなり、場合によってはエリザベス・ウォーレンというさらなる難敵に直面し、環境および人権関連の問題においてもっと困難な条件を要求される可能性もある。

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