本レポートは2019年11月発行「THE INSIDE STORY: UNCOVERING FUTURE QUALITY IN HEALTHCARE」(英語)の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

当社の投資アイデア発掘方法を掘り下げる

日興アセットマネジメントのグローバル株式チームでは、投資哲学の中心を企業における「フューチャー・クオリティ」の探求に置いている。「フューチャー・クオリティ」企業とは、高いキャッシュフロー投資収益率を達成し維持することができる企業である。ヘルスケア・セクターにおける「フューチャー・クオリティ」企業の発掘方法について理解を深めるべく、ポートフォリオ・マネジャーのグレイグ・ブライソン氏に話を聞いた。

主要テーマの特定方法は?

当チームのポートフォリオ構築プロセスは、ボトムアップの銘柄選択により行っています。投資対象企業に対してはすべて、チームのセクター・アナリスト7名(フラットなチーム構成により合同でグローバル株式ポートフォリオの運用も行うポートフォリオ・マネジャーを兼務しています)のうちの1人が、リサーチを行った上で業績予想モデルを作成します。1つの企業に対してデューデリジェンスを行い向こう5年の業績予想モデルを作成すると、他の企業やセクターにも適用できる幅広い投資アイデアを見つけることができ、当チームではこれを二次・三次派生アイデアと呼んでいます。

アナリストは、医療費抑制やIoT(モノのインターネット)のように投資テーマとなり得る材料を見つけると、次に「このテーマが関わるすべての企業にとって追い風となるのか、それとも特定の企業のみに独自の恩恵をもたらすのか」を考えます。

これこそが、セクター・アナリストとしての腕の見せどころとなります。そのテーマから影響を受ける銘柄のうち、どれが当チームの「フューチャー・クオリティ」の評価基準である「事業」、「経営」および「バランスシート」の質を満たすのか、精査しなければなりません。また、その銘柄が株式市場から未だに適正に評価されていない割安な状況にあることも同様に重要です。

当チームが見つけだした医療費抑制に関する投資テーマが良い例ですが、当該テーマはもともとICONやLabCorp、Phillipsといった銘柄のリサーチから発展していったものです。これら銘柄を分析していくうちに、世界の医療費支払機関(保険制度運営機関、保険会社等)が直面している医療費拡大という問題の深刻さが徐々に明らかになり、そのような問題への取り組みを後押しする一連の非常に面白い企業も発掘することができました。

チームの他のメンバーは銘柄やテーマのアイデアにどのように貢献しますか?

当チームのメンバー全員が豊富な経験を有しており、20年以上の業界経験のなかで多くのセクターを担当してきました。ですから、アイデアはどこからでも生まれ得ます。なにげない意見が、より深堀りして調べてみようと考えるきっかけになることもあります。

例えば、私の同僚のイアン・フルトン氏がヘルスケア・サービス企業Quintiles(現在のIQVIA)の企業訪問を終えて米国出張から帰国した時のことです。同社は医薬品開発業務受託分野におけるICONの最大の競合企業の1つですが、フルトン氏が米国出張の話をしているのを聞いて、2000年代半ばにダブリンで行ったICONの経営陣とのミーティングを思い出しました。当時、市場は米国の薬価改革とそれがバイオテクノロジー業界にもたらし得る影響の話で持ちきりでした。当チームの見方は、ビジネス面および政治面の圧力増大が予想されるなか、医薬品開発企業は「イノベーション(革新)か死か」という厳しい選択を迫られるというものでした。QuintilesやLabCorp、ICONなどの医薬品開発業務受託機関は、より高いコスト効率でイノベーション達成を支援できる企業として際立っていました。なかでもLabCorpとICONは、IQVIAのような他の医薬品開発業務受託機関に比べ目立って割安なバリュエーションで取引されており、当チームの目に留まりました。

医療費抑制という主要テーマに行きついたのはどのような経緯ですか?

米国のヘルスケア市場は新しいヘルスケア技術の「実験場」となることがよくありますが、その理由の1つは予算が潤沢であることです。しかし、そのような予算が永遠に増え続けられるわけではありません。米国はすでにGDPの約20%をヘルスケアに費やしており、これが向こう5年で25%に拡大すると予想されています。コスト管理の必要性は切迫していますが、一方でこれがイノベーションを犠牲にするものであってはなりません。

当チームがこの投資テーマに取り組み始めた当初(2015年後半)、市場が注目していた(そして今でもしている)のは薬価改革でしたが、医薬品支出が医療費支出の10%に過ぎないことから、市場が注目する範囲は狭すぎるというのが当チームの見方でした。当チームでは、そのような状況での規制変更は、下方リスクのみをもたらすのではなく投資機会を提供するかもしれないと考えています。新しい手段によって科学や健康の理解が向上するにつれ、新薬開発のペースが加速しています。薬価への下押し圧力は、そのようなイノベーションをできるだけ早急に、かつ高いコスト効率で市場にもたらす必要性を強めるだけでしょう。

研究・開発の外部委託はそのような状況における投資機会と見受けられました。あらゆる新薬開発に必要な臨床試験は費用が高くつきますが、ICONは臨床試験を他の医薬品企業の社内チームよりも早く、かつ30%超安いコストで実施できる能力を実証済みです。結果として、当該業界は毎年4~6%のペースで成長しており、なかでもICONはそれを上回る潜在成長力を有していました。

そこから、他の分野も見てみると、新しい技術がさらに大きなコスト削減の機会を生み出していました。重要な分野の1つはヘルスケアITです。この分野は、患者の健康にかかわる情報の管理を改善することから、患者が自宅で病院さながらの治療を受けられるようにすることまで、様々な形態をとります。このような流れから、当チームではPhillipsやLHC Group、ResMedなどの企業をより深くリサーチすることになりました。患者は自分自身の治療により一層関与するようになってきており、医療費支払機関の間ではそのような関わりによってもたらされる医療効果の向上やコスト低減への認識が高まっています。結果として当チームでは、真の「コネクテッドヘルスケア(医療連携)」の長期的な成長性について強い確信を維持しています。

一方で、技術自体はソリューションの一部にすぎません。そのようなイノベーションが実際に対価としての収益を生み出すことを確認する必要があります。そのためには、イノベーションは患者に実証可能な価値を提供することがますます必要になるでしょう。非効率的な「出来高払い」の旧モデルから「バリュー・ベースド・ケア*注記(価値に基づく医療)」への移行においては、Anthemのようなマネージドケア(医師まかせではなく医療保険会社が医療内容を管理することにより医療費の低減を図る制度)機関がその最先端に立っています。

米国はこの医療費抑制という課題の象徴的存在ですが、当チームでは同様の動きが世界の他の国々にも広がると確信しています。日本やフランスではすでにそれが見られつつあり、ResMedが睡眠時無呼吸症向けに提供するコネクテッドケア製品・サービスが最近、健康保険適用対象となりました。誰が医療費を支払うかという構造は、医療費支払機関が営利機関か国の機関かなどによって異なるかもしれませんが、どの国においても、使われる技術は世界中で類似したものになると想定されます。

*注記:患者にとって本当に効果(Value)のある医療サービスを、費用対効果(Value for Money)という面で評価し、医療機関に対する医療費還付の可否を判断したり、または、医療費還付の際の価格調整を行うという考え方。単に医療費抑制を目指すのではなく、効果の高い医療サービスを適切な症例・体質の患者に提供することで、医療サービス全体の費用対効果を高めていこうという考え方です。

組み入れるヘルスケア銘柄の選択方法は?

ポートフォリオに組み入れる銘柄はすべて、高いキャッシュフロー投資収益率を達成・維持する道筋を有していなければなりません。当チームではこの指標におけるハードル・レートを10~12%としています。経済環境が追い風であったり、または、借入コストが安く何件か買収を行ったり、積極的な事業再編計画を進めたりできる場合、10~12%程度のキャッシュフロー投資収益率を数年の間であれば達成できる企業はたくさんあります。しかし、最終的に業界構造や当該企業の事業の質がそのような収益率改善や収益成長を中長期的に下支えしていけるほど堅固でなければ、そのような企業はかなり早く消えてしまう傾向にあります。

実証データによると、キャッシュフロー投資収益率が10~12%に達してその水準を維持している企業は、同指標が最初からそれを超える水準にあってそこにとどまっている企業よりも、さらに高い株価リターンをもたらします。ハードル・レートをその水準に設定することにより、キャッシュフロー投資収益率が現時点では10%を下回っていても将来的にはキャッシュフロー投資収益率が10~12%を超えてくるような、「ファンダメンタルズが改善しつつある企業」もスクリーニングできる機会がもたらされます。そのようなファンダメンタルズが改善しつつある銘柄は、伝統的なクオリティ重視グロース・スタイルの運用者はおそらくポートフォリオに組み入れていないと思われますが、当チームではポートフォリオのおよそ25%を占めており、一定の豊富な投資機会をもたらしています。当チームと他のクオリティ重視グロース型の運用会社との間では、運用ファンドにおける銘柄の重複度合いはかなり低くなっています。

トップダウンの観点で足元の状況を評価しようとする試みにあまり多くの時間は割かず、他の検討事項により注力します。金利であれコモディティ価格であれ、マクロ・レベルの状況がその企業の収益に現実的にどの程度影響を及ぼすかは、当チームが競合他社に対して優位性を発揮できると考える分野ではありません。したがって当チームでは、「フューチャー・クオリティ」の柱の2つである事業の質と経営の質を有する企業、つまりフューチャー・クオリティへの道がその企業自体の手に握られている度合いの高い企業に注目します。

当チームでは、チームとして投資魅力が高いと考える企業の共通特性を解明するのに多くの時間を費やしますが、それには多くの実証的分析が含まれます。当社が企業に見出そうとする共通特性は、例えば以下のようなものです。

  • 好調な業界にあって持続的な競争優位性に恵まれている企業
  • 質が高く、成長と収益を高める適切なインセンティブが与えられている経営陣
  • 堅固なバランスシート

一方で、同様に重要視しているのは魅力的なバリュエーションです。クオリティを買うためならいくらでも払うというわけではありません。当チームでは、「次の大ヒット」のように見えても信用サイクルが逆風に転じた場合に運転資金に困るような企業には投資したくないので、キャッシュフロー・ベースの評価指標に注目しています。

当チームは、実際の事業において技術が実証され利益率とキャッシュ創出において転換点を迎えるまで、投資を待つ傾向にあります。そのような時点こそキャッシュフロー投資収益率が拡大しやすいタイミングであり、株価は利益率に追随すると固く信じているからです。

FacebookとAmazonは当チームの実践アプローチの好例です。Amazonは当チームが2018年初盤に購入する前からすでに人気のある銘柄でしたが、設備投資水準が非常に高くキャッシュフロー投資収益率の低下を示唆していたことから、投資を控えていました。当チームでポートフォリオに組み入れたのは、同社が設備投資の恩恵を利益として刈り入れ始めたと感じてからです。その時点まで、当チームではFacebookを選好していたのですが、皮肉にもAmazonに設備投資の実りが見られ始めたのと同じ時期に、今度はFacebookに設備投資を積極的に増やす必要性が生じ、それが少なくとも短中期的に利益を圧迫するであろうことが明らかになりつつありました。したがって、当チームではFacebookを売却してAmazonへの入れ換えを行いました。

中国のヘルスケア業界についての見解は?

生命科学分野の研究は、米中間の主要な競争分野の1つになると想定され、両国ともそれぞれお互いに対して長期的な優位性を確立しようとしています。中国は多大な資本を投下しており、AI(人工知能)や機械学習といったより新しい技術を投入することによって、生命科学の研究・開発における世界的リーダーとしての米国との差を埋めよう(そして最終的には米国を追い抜こう)としています。

この「激しいせめぎ合い」のさらなる兆候は、世界中の質の高い大学に入学する若い中国人の数が増加していることにも表れています。これらの若者は中国に戻り、中国のヘルスケア産業において次のイノベーションの波を推進する力になるものと見られます。

中国の生命科学関連銘柄はバリュエーションが非常に割高となっているケースが多いため、適切な投資機会を見出すことが当チームにとっての課題となります。もう1つの課題は、そのような企業に対するデューデリジェンスの実施です。当チームでは、顧客の資金を投資するにあたり、投資先に対して事前に必ずデューデリジェンスを行います。これだけが理由ではありませんが、当チームでは最近、中国語(北京語)を話すメンバーを採用しており、このことによって、顧客の資金でリスクをとる前に実施する必要のある銘柄レベルの詳細なリサーチが行いやすくなるとみています。

ポートフォリオ構築においてESG(環境・社会・ガバナンス)はどのように取り入れていますか?

ESGは当チームの投資プロセスにおいて主要な基盤となっています。当チームが運用するポートフォリオを、特により高い収益(あるいは高いキャッシュフロー収益)の持続可能性について見てみると、収益が維持できなくなる要因の1つは経営陣が企業の質に対して十分に投資を行っていない場合です。

一般的に、当チームのポートフォリオでは、鉱業やエネルギー・セクターが構造的にアンダーウェイトとなってきました。この主因はそれらの企業の利益率におけるボラティリティの高さですが、そのような産業の環境負荷低減にかかる長期的なコストや、それが中長期的にキャッシュフロー投資収益率に及ぼすであろう影響に対し、当チームが懸念を抱いていることも一因となっています。つまり、それらの企業は当チームの「フューチャー・クオリティ」の基準にまったく合致しないという訳です。

当チームのポートフォリオの保有銘柄は、CO2(二酸化炭素)排出量が市場全体に比べて非常に低くなっており、これは今後もずっと変わることはないと考えます。当チームはコーポレート・ガバナンスを常にとても重視しており、それは今後も変わらないでしょう。当チームにとって、ESGは新しいテーマではありません。なぜなら、ESGは我々の顧客が我々に話題にしてほしいと思っていることであるからで、当チームの投資手法の基軸となっています。

優れたパフォーマンスは、持続可能な基盤の上に築かれたものでなければ意味がありません。双方にとって利益となるような真の「ウィンウィン」となる状況とは、優れた運用パフォーマンスを提供できるだけでなく、投資先企業に関わって世界を少しでもより健全でよりインクルーシブな場所にできることです。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。