本レポートは、2020年2月発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、コロナウィルスの流行が世界的な景気悪化を引き起こすかもしれないとの不安から下落し、米ドル・ベースのリターンが-4.5%となった。国別では、タイおよびフィリピンの株式市場が最も打撃を受ける一方、インドとインドネシアは下落幅が最小にとどまった。
  • タイ市場は、中国が団体旅行を禁止したことで経済成長の主な牽引役であるタイの観光業が打撃を受けるとの懸念から、大幅に下落した。フィリピン市場は、2019年のGDP成長率が5.9%と市場予想を下回るとともに通年の成長率としては8年ぶりの低水準となったことが重石となった。
  • コロナウィルス流行の震源地である中国は、域内市場全体の下落を先導した。同国市場は、月の最終週が春節(旧正月)のため休場となっていたものの、米ドル・ベースの月間リターンが-4.8%となった。
  • インド株式は、同国が域内の他国に比べてより内需主導型の経済で足元のアジアの状況においては相対的に「安全な逃避先」であると見なされたことから、月間市場リターンが米ドル・ベースで-0.8%と小幅なマイナスにとどまり、相対的に底堅い展開となった。
  • アジア市場の見通しは回復しつつあると見ている。中国とインドは最近になってようやく金融緩和に乗り出したが、財政政策面での景気刺激策についてもインドで顕著であるとともに中国で強化されつつあり、これらの相乗効果が域内の経済成長を促進するものと思われる。より根源的なレベルでは、インドや中国、インドネシアを含む多くの国で、長年の懸案であった構造的な問題に対処するための改革が進められてきている。

アジア株式市場

市場環境

アジア株式はコロナウィルス不安から下落
力強い上昇で2019年を終えたアジア株式市場は、当月初めもその流れが継続し、月半ばに予定されていた米中貿易協定「第1段階」署名への期待を追い風に好調なスタートとなった。しかし、月の第3週に入ると、中国武漢市における新型コロナウィルス流行のニュースを受けて、市場センチメントは急速に冷え込んだ。コロナウィルスによる中国の死者は1月末時点で200名を超え、その後、感染が他の国々へと広がっていることから、WHO(世界保健機関)は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。

コロナウィルスの流行が世界的な景気悪化を引き起こすかもしれないとの不安からグローバル株式市場が下落するなか、その矢面に立ったアジア株式市場は米ドル・ベースの月間リターンが-4.5%となった。国別では、タイおよびフィリピンの株式市場が最も打撃を受ける一方、インドとインドネシアは下落幅が最小にとどまった。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2019年1月末~2020年1月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2019年1月末を100として指数化(すべて米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2010年1月末~2020年1月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

タイおよびフィリピン市場は劣後
タイ株式は、中国が団体旅行を禁止したことで経済成長の主な牽引役であるタイの観光業が打撃を受けるとの懸念から大幅に下落し、月間市場リターンが米ドル・ベースで-8.6%となった。タイ財務省は、輸出の低迷、予算成立の遅れ、コロナウィルスの感染拡大を理由に、2020年のGDP成長率見通しを3ヵ月前の3.3%から2.8%へと引き下げた。フィリピンは株価が1年ぶりの安値へと下落し、月間市場リターンが米ドル・ベースで-8.0%となった。同国市場の重石となったのは、コロナウィルス不安が台頭したことに加え、2019年のGDP成長率が5.9%と市場予想を下回るとともに通年の成長率としては8年ぶりの低水準となったことだった。マレーシア、シンガポール、インドネシアは、月間市場リターンが米ドル・ベースでそれぞれ-3.9%、-3.5%、-2.7%となった。

北アジア市場も地域全体に同調して下落
韓国および台湾市場は、コロナウィルスの流行に対する懸念から、月間リターンが米ドル・ベースでそれぞれ-5.3%、-4.7%となった。台湾では、当月の総統選で、現職の蔡英文総統(民進党)が2期目再選を果たした。足元で各国市場が下落するなか、中国ではコロナウィルス危機の悪化に対処するために休場期間が延長され、春節前日の1月24日から2月3日までとなった。この休場期間延長にもかかわらず、中国市場は米ドル・ベースの月間リターンが-4.8%と大幅なマイナスになり、また香港市場は同リターンが-4.5%となった。

インド市場は最も底堅い展開
インド市場は、同国が域内の他国に比べてより内需主導型の経済で足元のアジアの状況においては相対的に「安全な逃避先」であると見なされたことから、月間リターンが米ドル・ベースで-0.8%と小幅なマイナスにとどまり、域内の他国市場と比べて底堅い展開となった。インドの12月のCPI(消費者物価指数)上昇率は、食品価格の上昇を主因として前年同月比7.35%と5年超ぶりの高水準となった。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年12月31日~2020年1月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2019年12月31日~2020年1月31日)

過去1年間(2019年1月31日~2020年1月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2019年1月31日~2020年1月31日))

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

金融緩和と財政出動が域内の成長を押し上げ
すでに低水準にある金利がさらに低下し、インフレおよび経済成長が低迷する環境において投資リターンを生み出すには、リスク回避とリスクテイクのバランスが必要になる。これが特に言えるのは、この1年のグローバル株式市場がドナルド・トランプ米大統領の予測不可能な行動にもかかわらず米ドル・ベースで27%を超えるリターンを上げてきたからだ。市場では、注目テーマの一過性、特化型投資の選好、パッシブ・ファンドの優勢といった傾向がますます強まっている。「ビッグデータ解析」を用いたある種の発展型「AI(人工知能)モデル」を採用するクオンツ戦略が増加していることにより、資産価格からの情報収集が阻害されている。加えて、長年損失を出し続けている事業に民間資本が過度に提供されていることにより、マネーや価値の知覚価格が歪められている。

とは言え、アジア市場の見通しは改善しつつある。潤沢で安価な資本がこの地域に恩恵をもたらしており、米ドル安もリスク市場にとってプラス材料となっている。さらに、大半の先進国がかなり以前から金融緩和を行ってきているなか、中国とインドは最近になってようやく金融緩和に乗り出したが、財政政策面での景気刺激策についても、インドで顕著であるとともに中国で強化されつつあり、これらの相乗効果が域内の経済成長を促進するものと思われる。より根源的なレベルでは、インドや中国、インドネシアを含む多くの国で、長年の懸案であった構造的な問題に対処するための改革が進められてきている。

構造的な成長が見込まれる分野や革新的テクノロジー分野を選好
中国は、経済成長において量よりも質に重点を置く選択によって引き続き変化を受け入れており、したがって、減速しつつある経済成長を再加速させるために固定資産投資に打って出ることはしていない。また、国有企業について、選別的かつ散発的ベースでの倒産を容認している。加えて、付加価値の低い製造業だけではなくハイテク産業においても、バリューチェーンの上流への移行を着実に進めている。したがって、保険、ヘルスケア、ソフトウェア、産業オートメーションといった国内での構造的成長が見込まれる分野を引き続き選好する。

日常生活におけるテクノロジーの浸透とその高度化が進んでいることは、大半が台湾と韓国を拠点としているサプライチェーンに長期的な好影響をもたらす。とは言え、米中間のテクノロジー冷戦には明確な解決が見られておらず警戒を要することから、当社ではテクノロジー・セクターにおいて5G(第5世代移動通信システム)、IoT(モノのインターネット)、クラウド開発から長期的な恩恵が受けられる銘柄に引き続き注目している。

インド経済は、図らずも成長が世界的に鈍化している不運なタイミングで多くの構造改革が実施されたことにより循環的な谷を迎えていたが、足元ではそこから脱却しつつあるようだ。モディ政権は、インドが世界のサプライチェーンにおいてはるかに大きな役割を果たせる機会があることを認識している。緩やかに好転しつつあるマクロ環境下、当社では、インフォーマル経済のフォーマル化や国内普及率の低さ、長期的な成長からの恩恵が見込まれる分野、具体的には民間銀行、不動産、物流などを引き続き選好している。

またアセアン諸国も、インドネシアを筆頭に、現在中国に大きく依存しているサプライチェーンの再編から恩恵を受けるもう1つの地域となるはずである。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。