本レポートは英語による2020年2月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 1月は、米国・イラン情勢の緊迫化を受けた地政学的リスクの高まりや新型コロナウイルスの流行をめぐる懸念が高まるなか、市場センチメントが低迷した。米国と中国が予想された通り貿易協定の「第1段階」に署名する一方、米FRB(連邦準備制度理事会)は金融政策を据え置いた。「安全な逃避先」資産が堅調なパフォーマンスとなるなか、米国債市場は全般的に上昇し、利回りが10年物で1.51%の水準まで低下した。米国債のイールドカーブは一時的に長短金利が逆転したが、最終的に月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.25%低下の1.32%、10年物が同0.41%低下の1.51%となった。
  • 1月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.11%拡大したものの米国債利回りが急低下したことから、市場リターンが1.36%となった。格付け別では、デュレーションが相対的に長くスプレッドの拡大が0.09%にとどまった投資適格債が、市場リターン1.54%とハイイールド債をアウトパフォームした。ハイイールド債は、信用スプレッドが0.19%拡大したが、それでも0.78%の月間市場リターンとなった。
  • 1月のアジアのクレジット市場の新規発行は好調な出だしとなり、投資適格債分野で計28件(総額約154億米ドル)、ハイイールド債分野で計51件(総額約214億米ドル)の新規発行があった。しかし、月の後半には、中国の春節(旧正月)休暇時期に入ったことや新型コロナウイルスの流行を受けてリスクオフ環境となったことから、発行活動は急激に失速した。
  • インフレ圧力はアジア域内の大部分の国において高まった。金融政策動向では、マレーシアの中央銀行が市場の予想に反して政策金利を引き下げる一方、韓国およびインドネシアの中央銀行は金利を据え置いた。中国人民銀行は1年物および5年物最優遇貸出金利(LPR)を据え置いたが、条件付き中期貸出ファシリティ(TMLF)のロールを通じて流動性注入を実施した。
  • 新型コロナウイルスの流行を受けて、アジア各国の中央銀行は、経済成長率予想を小幅に下方修正し緩和的な金融政策を実施していくと予想される。当社では、債券の利回り水準が低い国に対しては見方を「ネガティブ」から「ニュートラル」へと変更し、インドネシアやマレーシアといった利回りが中~高水準の国に対しては強気な見方を維持している。通貨においては、シンガポールドルおよびタイバーツに対して相対的に弱気な見方、一方でフィリピンペソに対しては相対的に強気な見方をしている。
  • アジアのクレジット市場については、当面、信用スプレッドに拡大圧力がかかり続けると見ているが、ひとたびウイルス関連の懸念が後退すればスプレッドは急速に縮小回復に転じる可能性がある。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

1月は市場センチメントが低迷、米国債はイールドカーブが一時長短金利逆転
米国・イラン情勢の緊迫化を受けた地政学的リスクの高まりや新型コロナウイルス流行をめぐる懸念が高まるなか、2020年の市場センチメントは低調な出だしとなった。米国がバグダッドで空爆を行いイラン軍の有力司令官を殺害したとのニュースを受け、中東での衝突が拡大するとの懸念が高まり、月の序盤において原油価格の急上昇と債券利回りの低下を招いた。月の中盤には、米国と中国が予想された通り貿易協定の「第1段階」に署名したが、その後、新型コロナウイルスの感染者数と死者数が増加し続けるにつれ、金融市場は月内いっぱい概ねリスクオフ・ムードとなった。米FRBは、月末に開かれた会合で金融政策の維持を決定し、政策金利の目標レンジを1.5~1.75%に据え置いた。「安全な逃避先」資産が堅調なパフォーマンスとなるなか、米国債は全般的に上昇し、利回りが10年物で1.51%の水準まで低下した。米国債のイールドカーブは一時的に長短金利が逆転したが、最終的に月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.25%低下の1.32%、10年物が同0.41%低下の1.51%となった。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2019年12月末~2020年1月末)

過去1ヵ月(2019年12月末~2020年1月末)

過去1年(2019年1月末~2020年1月末)

過去1年(2019年1月末~2020年1月末)

信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

域内諸国の12月のインフレ率は概ね加速
域内諸国の12月の総合CPI(消費者物価指数)上昇率は、インドネシアを除いて概ね加速した。インドでは、野菜価格の高騰を主因としてインフレが前年同月比7.35%へと加速し、中央銀行の目標である2~6%を大きく上回った。フィリピンでは、台風被害が食品価格を押し上げたことによって、インフレ率が市場予想を上回る前年同月比2.5%となる一方、タイのインフレ率は同0.87%へと上向き、2019年7月以来の高水準となった。シンガポールでも総合およびコアCPIが小幅に加速した。対照的に、インドネシアのインフレは前年同月比2.7%へと減速し、インドネシア中央銀行のインフレ目標2.5~4.5%の中央値を下回った。中国のCPIは、豚肉価格の高騰が落ち着くなか、市場予想を小幅に下回る前年同月比4.5%となった。

マレーシア中央銀行は予想外の利下げを実施、韓国とインドネシアの中央銀行は金利を据え置き
マレーシア中央銀行は、経済成長を確保するための予防的措置として、市場の予想に反し政策金利を0.25%引き下げて2.75%とした。一方、韓国銀行は、政策金利を1.25%に据え置いた上で国内経済の低迷がやや和らいだと示唆し、タカ派的なトーンを印象付けた。また、インドネシア中央銀行も現行政策の維持を決定し、政策金利を5.0%に据え置いた。

中国は条件付きTMLFで資金供給、LPRは据え置き
中国人民銀行は1月、1年物および5年物LPRを据え置く一方、TMLFのロールを通じて流動性注入を実施した。TMLF金利は3.15%に据え置かれた。中国の2019年のGDP成長率については、6.1%と目標の6~6.5%に達したが、2018年の6.6%から減速するとともに1990年以来で最低となった。

今後の見通し

アジア各国の中央銀行は経済成長率予想を下方修正する見通し、アジア債券は堅調と見られる
新型コロナウイルスは、2003年に世界で猛威を振るった重症急性呼吸器症候群(SARS)より致死率が低いものの、感染率では上回っている。したがって、当社では引き続き状況を注視していく。当面は、アジア域内への主な影響として、大部分の人々が買い物や旅行を控えることによる消費の成長鈍化が見込まれる。しかし、現在のアジア諸国の大半は以前よりも危機対応の態勢が向上し手段も十分に整っており、また状況は次第に改善すると見られている。一方、アジア各国の中央銀行は、経済成長率予想を小幅に下方修正し概ね緩和的な金融政策を実施していくと予想される。こうしたなか、アジア債券は引き続き堅調に推移すると見られ、当面は株式をアウトパフォームする可能性もある。アジア債券市場のなかでは、当面の成長減速が予想されることから、債券の利回り水準が低い国に対する見方を「ネガティブ」から「ニュートラル」へと変更した。インドネシアやマレーシアといった利回りが中~高水準の国に対しては、強気な見方を維持している。

シンガポールドルとタイバーツに対して弱気な見方、フィリピンペソに対しては強気な見方
通貨においては、シンガポールドルおよびタイバーツに対して相対的に弱気な見方、一方でフィリピンペソに対しては相対的に強気な見方をしている。シンガポールは経済の開放度が高いこと、また、タイは観光業、特に中国からの旅行客への依存度が高いことが逆風となっている。さらに、シンガポールとタイは、中国以外で新型コロナウイルスの感染事例が特に多い国である。フィリピンペソについては、ディフェンシブな通貨であることから選好している。同国の観光業への依存度が相対的に低いことや、海外出稼ぎ労働者からの送金による資金流入が好調であることが、フィリピンペソ高を支えると見られる。

アジアのクレジット市場

市場環境

アジアの信用スプレッドは新型コロナウイルス流行懸念を受けて拡大
1月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.11%拡大したものの米国債利回りが急低下したことから、市場リターンが1.36%となった。格付け別では、デュレーションが相対的に長くスプレッドの拡大が0.09%にとどまった投資適格債が、市場リターン1.54%とハイイールド債をアウトパフォームした。ハイイールド債は、信用スプレッドが0.19%拡大したが、それでも0.78%の月間市場リターンとなった。月の前半は、リスク選好ムードを受けて信用スプレッドが縮小した。しかし、新型コロナウイルスの流行が中国国内同様他の国へも広がると、リスク選好ムードが急速に後退し、信用スプレッドはそれまでの縮小分が巻き戻され前月末比で拡大して月を終えた。

年末年始休暇明けの市場では、米国とイラク間の緊張激化のニュースに注目が集まった。両国間の小競り合いは、市場全体のリスク選好ムードに一時影響を及ぼし、アジアの信用スプレッドの小幅な拡大を招いた。しかし、衝突は激化したのと同じくらい急速に収束し、リスク選好ムードの急激な回復を受けて信用スプレッド縮小の動きが再開した。月の中旬には、米国と中国が貿易協定の「第1段階」に正式に署名した。署名後にようやく公表された合意内容の全詳細は、市場の予想と概ね一致するものであった。今回の合意は、(先月すでに発表されていた以上の)さらなる関税引き下げがなかったという点において多少期待外れではあったが、世界の二大経済大国間の貿易紛争に今回一区切りがついたことは、リスク選好ムードの回復に一段と拍車をかける十分な材料となった。また、アジアや世界のクレジット・ファンドに多額の資金流入が見られ、同様に高水準となった当月の新発債供給を相殺したことから、月の大部分を通じて良好な需給バランスが続いた。しかし、月の前半に明らかに勢いを増していたリスク選好ムードは、新型コロナウイルスの流行が及ぼし得る悪影響をめぐって懸念が強まるにつれ、月の後半に悪化に転じた。

1月の起債活動は好調な出だし
1月のアジアのクレジット市場の新規発行は好調な出だしとなった。投資適格債分野では、インドネシアのソブリン債(2トランシェで20億米ドル)、中国の交通銀行の変動利付債(13億米ドル)、Export-Import Bank of Indiaのディール(10億米ドル)を含め、計28件(総額約154億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計51件(総額約214億米ドル)となり、中国の不動産セクターが大きな割合を占めた。月の後半には、中国の春節(旧正月)休暇に入ったことや新型コロナウイルス流行を受けてリスクオフ・ムードとなったことから、発行活動は急激に失速した。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(期間) 2019年1月末~2020年1月末
(注) JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年11月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

信用スプレッドは当面拡大圧力に晒され続ける見通しも、ウイルス関連の懸念が後退すれば急回復の可能性
年明けは信用スプレッドのパフォーマンスにとって追い風となる環境にあったが、新型コロナウイルスの流行によって事態は一変した。当社では、目下の情報に基づき、中国、そしてアジア全体のクレジット市場への影響は比較的小規模なものにとどまってSARSの事例の範囲内に収まると依然予想しており、スプレッドは短期的な拡大を経て急速に縮小回復する可能性があると見ている。とは言え、先行きは、状況の最終的な深刻化・長期化の度合い、そしてそれによる企業や消費者の景況感への波及的影響に大きく左右されるだろう。SARS流行時に比べると、中国政府はより先手の姿勢でウイルスの感染拡大を抑えるべく強力な措置を迅速に講じている。状況は依然流動的であるものの、中国政府は比較的短期間のうちに事態を収拾させ、経済やクレジット市場のファンダメンタルズへの悪影響を和らげることができると期待される。また、国際社会との早期からの情報共有も、アジアや他の地域へのウイルス感染拡大の可能性を低減させるのに奏功していると見られる。

状況が相当悪化しない限り、主要中央銀行による即座の利下げや量的緩和関連の追加措置は実施されないと予想している。しかし、今後の金融政策決定会合では下方リスクが強調され、それぞれの緩和的な政策スタンスが繰り返し言及されるものと見られる。中国当局はすでにターゲットを絞った金融・財政緩和策を実施している。当社では、これが継続され、おそらくやや強化されるとともに、当面の金融市場を安定化させるための追加措置も講じられると予想している。このような対策が、信用スプレッドへの拡大圧力を和らげ、ひとたびウイルス感染拡大が封じ込められれば信用スプレッドの縮小回復を支えるものと見られる。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。