本レポートは、2020年3月6日発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 1月に下落したアジア株式市場(日本を除く)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)不安を受けて、2月も引き続き売り圧力に晒された。しかし、米ドル・ベースの月間市場リターンは、グローバル株式の-8.5%に対して-2.9%と、マイナス幅が相対的に小幅にとどまった。国別では、タイおよびインドネシア市場が最も大きな打撃を被る一方、中国はパフォーマンスが最も良好で月間市場リターンが若干のプラスとなった。
  • タイ株式は、同国にとって極めて重要な観光業がCOVID-19の影響で打撃を受ける可能性があるとの懸念から、米ドル・ベースの月間市場リターンが-12.2%となった。一方、インドネシア株式は、同国の2019年通年のGDP成長率が市場予想を下回ったことが重石となり、米ドル・ベースの月間市場リターンが-12.1%となった。
  • アジア市場全体の下落基調に反して、中国株式は米ドル・ベースの月間市場リターンが1.0%のプラスとなった。市場の追い風となったのは中国人民銀行による景気刺激策で、同中銀は経済支援措置として利下げを行うとともに市場に資金流動性を注入した。
  • ウイルスの発生源が中国であるにもかかわらず、アジア市場は年初来ベースで、先進国・新興国を含む世界の他市場よりも持ち堪えている。また、ウイルス流行以前に既に明らかとなっていたトレンドも加速している。具体的にはデジタル化、脱グローバル化、ローカル化、そして再生可能エネルギーや5G(第5世代移動通信システム)関連設備投資、オートメーション化といった分野に的を絞った支援策の強化だ。当社のボトムアップの銘柄選択には、これらのトレンドが引き続き反映されている。概して言えば、当社では引き続き構造的成長や技術革新の期待できる分野を選好している。

アジア株式

市場環境

アジア株式は耐性を示しグローバル株式をアウトパフォーム
1月に下落したアジア株式市場は、COVID-19のパンデミック(世界的流行)不安を受けて、2月も引き続き売り圧力に晒された。3月上旬現在、同感染症はアジアを越えて6大陸の40超の国々に広がっている。アジア諸国で見られていた景気回復の初期兆候は、世界的なサプライチェーンの混乱に対する懸念に取って代わられ、AppleはCOVID-19のみを理由に2020年第2四半期の売上げガイダンスを引き下げた。しかし、アジア各国の政府や中央銀行が、ウイルスによる景気への悪影響を軽減すべく、財政政策面での経済支援措置や金融政策による景気刺激策を講じたことから、アジア株式の下落は前月ほど厳しいものとはならなかった。

アジア株式の米ドル・ベースの月間市場リターンは、グローバル株式の-8.5%に対して-2.9%と、マイナス幅が相対的に小幅にとどまった。国別では、タイおよびインドネシア市場が最も大きな打撃を被る一方、中国はパフォーマンスが最も良好で月間市場リターンが若干のプラスとなった。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2019年2月末~2020年2月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI EMERGING MARKETSインデックス、グローバル株式はMSCI AC WORLDインデックスを、2019年2月末を100として指数化(すべて米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2010年2月末~2020年2月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI EMERGING MARKETSインデックス、グローバル株式はMSCI AC WORLDインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

域内で最も打撃を受けたのはタイおよびインドネシア株式
アセアン地域で市場センチメントの重石となったのはCOVID-19不安と政治的不透明感で、特にマレーシアとタイではそれが顕著となった。タイ株式は、同国にとって極めて重要な観光業がCOVID-19の影響で打撃を受ける可能性があるとの懸念から、米ドル・ベースの月間市場リターンが-12.2%となった。また、同国の憲法裁判所が新未来党(人気の高い民主派政党)に解散を命じる決定を下したことも、同国株式市場のセンチメントを悪化させた。同様に、インドネシア株式も域内の他国市場をアンダーパフォームし、米ドル・ベースの月間市場リターンが-12.1%となった。新型コロナウイルス流行への懸念が強まったのに加え、同国の2019年通年のGDP成長率が5.0%と市場予想を下回り政府の目標である5.3%にも達しなかったことが、市場の重石となった。

マレーシアは政局が混乱、インドは地域全体の下落に追随
他では、シンガポール、マレーシアおよびフィリピン株式の米ドル・ベースの月間市場リターンが、それぞれ-7.1%、-6.4%、-5.9%となった。シンガポール政府は、2020年度の予算発表に際して、COVID-19の流行が続く間ビジネスの現場や労働者、家計を支援するために64億シンガポールドルを投じると述べた。マレーシアでは、マハティール・モハマド首相が辞表を提出したことから、月末にかけて政局に混乱が生じた。1週間にわたる政治的紆余曲折を経て、2月29日にマハティール氏が率いる与党パルティ・プリブミ・ベルサトゥ・マレーシアのムヒディン・ヤシン総裁が、同国の第8代首相に就任した。

インドは、格付機関ムーディーズが同国の2020年のGDP成長率予想を6.6%から5.4%へと大きく下方修正したことから、株式市場が下落して米ドル・ベースの月間リターンが-7.3%となった。同格付機関は、新型コロナウイルスの流行による世界経済の低迷がインド経済の回復に悪影響を及ぼすと見ている。

中国株式は下落基調に抵抗
アジア市場全体の下落基調に反して、中国株式は米ドル・ベースの月間市場リターンが1.0%のプラスとなった。市場の追い風となったのは中国人民銀行による景気刺激策で、同中銀は経済支援措置として利下げを行うとともに市場に資金流動性を注入した。北アジア市場の残りの市場については、香港および台湾が比較的緩やかな下落にとどまり米ドル・ベースの月間リターンがそれぞれ-1.4%、-1.9%となる一方、韓国は国内で確認されたCOVID-19感染者数が急増したことから、大きく下落して米ドル・ベースの月間市場リターンが-7.4%となった。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2020年1月31日~2020年2月29日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2020年1月31日~2020年2月29日)

過去1年間(2019年2月28日~2020年2月29日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2019年2月28日~2020年2月29日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

COVID-19の流行によってデジタル化、脱グローバル化、ローカル化が一段と加速
かなりの解説や放送時間がCOVID-19とそれがもたらす深刻な経済的混乱に割かれているが、当社では、ウイルス流行の結果として築かれつつある重要な長期的影響やマクロ面の変化のいくつかに焦点を当てることが重要であると考える。

まず第1に、ウイルスの発生源が中国であるにもかかわらず、アジア市場は年初来ベースで、先進国・新興国を含む世界の他市場よりも持ち堪えている。政府や、このようなパニックの対応に手慣れている医療関係者の迅速な対応が奏功し、これまでのところは感染拡大を限定的にとどめることができている。2番目に、危機の時に需要が高まりやすい米ドルが、今回は「安全な避難先」としての動きを見せていない。その代わりに、3月上旬現在、米FRB(連邦準備制度理事会)がより大幅な利下げを行うとの見込みから、他の先進国通貨に対して弱含んでいる。最後に、ウイルス流行以前に既に明らかとなっていたトレンドも加速している。具体的にはデジタル化、脱グローバル化、ローカル化、そして再生可能エネルギーや5G関連設備投資、オートメーション化といった分野に的を絞った支援策の強化だ。当社のボトムアップの銘柄選択には、これらのトレンドが引き続き反映されている。

構造的成長や技術革新の期待できる分野を選好
量よりも質に焦点を当てる中国の政策姿勢はCOVID-19による経済への影響によって試されることとなるが、当面の景気を支えるために当局がインフラや不動産といった従来の支援分野に対する規制を緩和する可能性が増している。とは言え、当社では、5Gやテクノロジー、再生可能エネルギーなど戦略的開発目標向けの的を絞った景気刺激策が引き続き増えると見ている。今回のウイルス流行期間にオンライン・サービスの使用が増えた結果、決済や教育、ゲーム、商業といった分野で一定の構造的シフトが起きるだろう。したがって、当社では引き続き、保険やヘルスケア、ソフトウェア、産業オートメーションなど、国内の構造的成長分野を選好している。

日常生活におけるテクノロジーの普及と高度化は、その大半が台湾と韓国を拠点としているサプライチェーンにとって長期的にポジティブな影響をもたらす。とは言え、米中間のテクノロジー冷戦に明確な解決が見られず、Appleなどの主要なグローバル下流企業からの需要が減少していることを考えると、当面はハードウェア・セクターに対して慎重なスタンスを取るのが妥当だろう。テクノロジー・セクターにおいては引き続き、5GやIOT(モノのインターネット)、再生可能エネルギー、クラウド開発から長期的に恩恵を受ける企業に注目していく。

サプライチェーンの混乱から恩恵を受ける国
インドでは、PMI(購買担当者景気指数)が2ヵ月連続で改善するなど直近の景気先行指標に一部加速が見られたものの、低調なGDP統計が影を落とした。世界的な景気減速時に複数の構造改革が行われたことで、インド経済には下方圧力がかかっている。しかし、18ヵ月におよぶ金融緩和と法人税減税により、インドはCOVID-19問題解決に続いて想定される景気回復において優位な状況にある。モディ政権は、インドが世界のサプライチェーンにおいてはるかに大きな役割を果たせる機会があることを認識している。当社では引き続き、インフォーマル経済のフォーマル化や国内普及率の低さ、長期的な成長からの恩恵が見込まれる分野、具体的には民間銀行、不動産、物流などを選好している。

アセアンも、インドネシアを筆頭に、現在中国に大きく依存しているサプライチェーンの再編からの恩恵が見込まれるもう1つの地域だ。ただし、政情が悪化しているのに加えウイルス封じ込め対策の動きが比較的鈍いことから、アセアン地域全体としては見通しがそれほど楽観的とは言えない。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所) 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) PER、PBRともにMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

個別銘柄への言及は例示目的のみであり、当社の運用戦略に基づいて運用するポートフォリオにおける保有継続を保証するものではなく、また売買推奨を示すものでもありません。
当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。