本レポートは英語による2020年3月10日発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 2月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界経済への影響をめぐる懸念が強まり投資家心理が悪化するなか、米国債市場は上昇した。月末にかけて、米国債利回りは10年物で過去最低水準となる1.12%へと急低下した。最終的に2月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.40%低下の0.91%、10年物が同0.36%低下の1.15%となった。
  • 2月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.21%拡大したものの米国債利回りが急低下したことから、市場リターンが1.01%となった。格付け別では、投資適格債がハイイールド債をアウトパフォームした。投資的適格債は、デュレーションが相対的に長いことと、スプレッドの拡大が0.14%にとどまったことから、市場リターンが1.34%となった。ハイイールド債は、信用スプレッドが0.39%拡大して市場リターンが-0.06%となった。
  • 2月は、アジアのクレジット市場の起債活動が若干鈍化した。投資適格債分野で計36件(総額約192億米ドル)、ハイイールド債分野で計31件(総額約118億米ドル)の新規発行があった。市場が落ち着きを取り戻すまでは、起債活動が鈍化すると予想している。決算シーズンを控えて一部の発行体がまもなく「ブラックアウト期間」(決算期直後から決算発表までの期間で、新規発行などを行うことができない)に入ることから、発行市場の活動は一段と鈍くなる可能性がある。
  • アジア域内のインフレ率はまちまちとなった。域内各国の中央銀行が利下げを行うとともに経済成長率予想を下方修正する一方、格付け会社フィッチ・レーティングスはフィリピンの格付け見通しを引き上げた。中国人民銀行は景気支援策として、利下げおよび市場への流動性供給を行った。
  • アジア債券は引き続き堅調に推移すると予想している。当社では、中央銀行の緩和的な政策スタンスが追い風となっているフィリピン債券を選好している。また、インド準備銀行には依然として利下げ余地があると見ていることから、インド債券についてもポジティブな見方をしている。通貨においては、シンガポールドルおよびタイバーツに対して相対的に弱気な見方、フィリピンペソに対しては相対的に強気な見方をしている。
  • アジアのクレジット市場については、新型ウイルスの流行とその封じ込めが引き続き市場を左右する重要な要素となっており、当面、信用スプレッドに拡大圧力がかかると見ている。アジア諸国の一部の政府と中銀はすでに財政・金融政策における緩和措置を発表しており、他の国々も追随すると予想される。これらの措置は、経済への悪影響の軽減や信用スプレッドに対する当面の拡大圧力の抑制に効果を発揮すると考えられ、また、新型ウイルスの感染拡大収束時には経済と市場の回復を後押しすると見られる。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

2月の米国債市場は上昇
2月、COVID-19の世界経済への影響をめぐる懸念が強まり投資家心理が悪化するなか、米国債市場は上昇した。月の初めには、新型ウイルス流行の封じ込めについて楽観視する向きもあった。第1週は、新型ウイルスに対して有効な可能性のある新薬のニュースや中国による政策面からの支援、米国の好調な経済指標などを受けてリスク回避ムードが後退し、米国債利回りは上昇した。しかし、韓国やイタリア、イランなど中国以外の国々で新型ウイルス感染が急拡大し、投資家心理が悪化したため、債券利回りの上昇は短期間に終わった。また、アップル社が新型ウイルス流行による生産中断を受けて売上高目標を達成できない可能性があると発表したことも、リスクオフ・ムードを強めた。月末にかけて、米国債利回りは10年物で過去最低水準となる1.12%まで急低下した。最終的に2月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.40%低下の0.91%、10年物が同0.36%低下の1.15%となった。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2020年1月末~2020年2月末)

過去1ヵ月(2020年1月末~2020年2月末)

過去1年(2019年2月末~2020年2月末)

過去1年(2019年2月末~2020年2月末)

信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

域内諸国のインフレ圧力はまちまち
域内諸国の1月の消費者物価指数(CPI)はまちまちな内容となった。フィリピンでは、インフレ率が市場予想を上回る前年同月比2.9%となり、前月の同2.5%から加速したが、引き続きフィリピン中央銀行の目標レンジ内にとどまっている。マレーシアは、総合インフレ率が前年同月比1.6%と前月の同1.0%から加速する一方、コアCPI上昇率が同1.7%となった。中国では、豚肉価格の上昇やCOVID-19の流行の影響、春節(旧正月)休暇を主因に、インフレ率が前年同月比5.4%と大幅に加速した。対照的に、シンガポールでは、サービス価格の上昇鈍化や小売その他物品の価格下落幅の拡大、基準となる月の変更によるベース効果が主に響き、コアインフレ率が4年ぶりの低水準となる前年同月比0.3%へと減速した。タイはインフレ率が前年同月比1.05%、コアインフレ率同0.47%と低水準にとどまる一方、インドネシアのインフレ率は同2.68%と市場予想を小幅に下回った。

域内諸国の中央銀行は利下げを実施し経済成長率予想を下方修正
当月、アジア域内の一部の中央銀行は、COVID-19の流行によって打撃を受けた経済を下支えするべく、利下げを実施した。フィリピン中央銀行は、市場の予想通り政策金利を0.25%引き下げて3.75%とした。また、インドネシア中央銀行も政策金利を0.25%引き下げて4.75%とし、2020年の経済成長率予想を5~5.4%へと下方修正した。その他では、タイ中央銀行が市場の予想に反して利下げに踏み切り、政策金利を1.25%から過去最低の1.00%へと引き下げた。MAS(シンガポール金融通貨庁)は金融政策スタンスの現状維持を表明したが、シンガポールドルの名目実効為替レート(NEER)の政策バンド内で依然十分な緩和余地があるとし、市場を安心させた。同国の2020年の経済成長率予想は、新型ウイルスの影響から-0.5~1.5%へと下方修正された。一方、韓国およびインドの中央銀行は当月、政策金利を据え置いた。

フィッチがフィリピンの格付け見通しを引き上げ、中国人民銀行は景気刺激策を実施
格付け会社フィッチ・レーティングスは当月、フィリピンの格付けを現行の「BBB」に据え置くことを確認し、その見通しを「ポジティブ」へと引き上げた。今回の見通し引き上げは、フィリピンが健全な経済政策や財政改革を継続しており、これによって債務水準が管理可能な水準内に維持されるとのフィッチの見通しを反映したものである。一方、中国人民銀行は景気支援策として、政策金利(具体的には中期貸出ファシリティ金利および最優遇貸出金利)を引き下げるとともに市場への流動性供給を行った。

今後の見通し

アジア債券は堅調に推移する見通し、フィリピンおよびインド債券を選好
目下、COVID-19の流行は次の段階に移りつつあり、中国国外での感染者数が増加傾向にある。このことが世界経済の成長懸念を招いており、それを受けて世界的に債券利回りが急低下している。一方、アジア諸国の中央銀行は経済成長予想を下方修正するとともに、緩和的な金融政策を維持している。したがって、当社では、複数のアジアの中央銀行が自国経済を下支えするために利下げに動くと予想している。こうしたなか、アジア債券は引き続き堅調に推移すると見られ、当面は株式をアウトパフォームする可能性がある。

アジア債券市場のなかでは、中央銀行の緩和的な政策スタンスが追い風となっており域内他国市場対比での相対的魅力度が高まっているフィリピン債券を選好している。当社では、この先、フィリピン中央銀行が政策金利と預金準備率の両方を通じて追加緩和を実施すると予想している。また、インド準備銀行には依然として利下げ余地があると見ていることから、インド債券についてもポジティブな見方をしている。インドの総合インフレ率は高止まりしているが、これは一時的なものであり野菜価格が下落するにつれて今後数ヵ月のうちに減速してくると見ている。

シンガポールドルとタイバーツに対して弱気な見方、フィリピンペソを選好
通貨においては、シンガポールドルおよびタイバーツに対して相対的に弱気な見方、フィリピンペソに対しては相対的に強気な見方をしている。シンガポールは経済の開放度が高いこと、また、タイは観光業、特に中国からの旅行客への依存度が高いことが逆風となっている。フィリピンペソについては、ディフェンシブな通貨であることから選好している。同国は観光業や世界貿易への依存度が相対的に低いことや、海外出稼ぎ労働者からの送金による資金流入が好調であることが、フィリピンペソの底堅さと上昇の要因となっている。

アジアのクレジット市場

市場環境

アジアの信用スプレッドはCOVID-19流行の悪影響をめぐる懸念を受けて拡大
アジアの信用スプレッドは、COVID-19流行の悪影響をめぐる懸念を受けて0.21%拡大した。2月のアジアのクレジット市場は、スプレッドが拡大したものの米国債利回りが急低下したことから、市場リターンが1.01%となった。格付け別では、投資適格債がハイイールド債をアウトパフォームした。投資的適格債は、デュレーションが相対的に長いことと、スプレッドの拡大が0.14%にとどまったことから、市場リターンが1.34%となった。ハイイールド債市場は、信用スプレッドが0.39%拡大して月間トータルリターンが-0.06%となった。

市場の主な懸念材料となり続けているのは、COVID-19の流行とそれがアジアや世界の経済見通しに及ぼし得る影響である。月の前半には、中国国内での感染拡大が収束したように見受けられたことを受けて、アジアの信用スプレッドは底堅く推移した。しかし、月末にかけては、韓国や日本、欧州、中東といった国や地域を中心に中国国外において感染が急速に拡大したため、投資家のリスク選好ムードが急激に後退した。これにより、新型ウイルス流行がサプライチェーンの混乱や中国からの需要の弱まりを通じて世界経済成長に悪影響を及ぼし得るとの既存の懸念が、一段と強まった。ファンダメンタルズ面の懸念材料の他に、アジアのクレジット市場の需給バランスについて見てみると、2月の前半は、新発債供給量が減少したこと、またハードカレンシー建て新興国債券への投資資金フローが依然純流入であることから、良好な状況が続いた。しかし、これも月の最終週にかけてはやや軟化した。

2月の起債活動は若干鈍化
2月のアジアのクレジット市場では新規発行が再開されたものの、その額は減少した。投資適格債市場では、Adani Electricity Mumbaiのディール(10億米ドル)、韓国産業銀行のディール(変動利付債、2トランシェで15億米ドル)、インドネシアのPT Pertamina Perseroのディール(14.5億米ドル)を含め、計36件(総額約192億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債市場の新規発行は計31件(総額約118億米ドル)となり、中国の不動産セクターが大きな割合を占めた。起債活動は、市場が落ち着きを取り戻すまでは鈍化すると予想される。決算シーズンを控えて一部の発行体がまもなくブラックアウト期間に入ることから、発行市場の活動は一段と鈍くなる可能性がある。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(期間)2019年2月末~2020年2月末
(注)JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2019年2月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

当面は信用スプレッドに拡大圧力、引き続きカギとなるのは新型ウイルス流行の封じ込め
COVID-19流行懸念の世界的な広がりを受けて、リスク資産が急落するなかアジアの信用スプレッドも拡大した。新型ウイルスの流行規模やそれを受けた世界の経済活動の長期的混乱の可能性を考慮すると、アジアの発行体は当面、ソブリン債から金融債、社債に至るまで、信用ファンダメンタルズに悪化圧力がかかると見られる。しかし、当社では、3月上旬現在、大半の発行体は現局面に入るまでに十分なバッファーを確保していたことから信用格付けを維持できると考えている。2月の最終週に信用スプレッドが大幅に拡大したことを受けて、バリュエーションの魅力度も増している。しかし、スプレッドの当面の方向性を左右するのは、中国国外での新型ウイルス流行の行方、そして企業と消費者の心理を下支えするために世界各国の政府と中銀が行う財政・金融政策対応となるだろう。この点において、中国、香港、シンガポールをはじめとするアジア諸国の政府と中銀は、大規模な財政緩和策や対象を絞った金融・信用緩和策をすでに発表しており、他の国々も追随すると予想される。これらの措置は、経済への悪影響の軽減や信用スプレッドに対する当面の拡大圧力の抑制に効果を発揮すると考えられ、また、新型コロナウイルスの感染拡大収束時には経済と市場の回復を後押しすると見られる。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。