本レポートは、2020年4月16日発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月はアジア株式市場にとって厳しい1ヵ月となり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)と原油価格急落の影響によって市場が大きく下落した。3月終盤には市場が反発を見せたものの、アジア株式市場(日本を除く)の月間市場リターンは米ドル・ベースで-12.1%と大幅なマイナスになった。国別では、インドネシアおよびインド市場が最も大きな打撃を被る一方、中国やマレーシア市場は相対的に最も下方抵抗性を見せた。
  • アセアン地域の株式は、COVID-19のパンデミックによる観光関連活動の落ち込みや広範な事業活動の停止を受けて各国が深刻な景気後退に陥るとの不安が強まったため、インドネシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが-29.4%)、フィリピン(同-21.7%)、シンガポール(同-19.9%)、タイ(同-17.4%)を含め、当月のアジア市場でパフォーマンスが最も低調な部類となった。インド株式も、当月の市場総崩れの煽りをまともに受けて大幅に下落し、米ドル・ベースの月間市場リターンが-25.1%となった。
  • 中国は、米ドル・ベースの月間市場リターンのマイナス幅が6.6%にとどまり、当月のアジアで最も良好なパフォーマンスとなった。新型コロナウイルスの流行の効果的な封じ込めや政策による景気支援の公約が下支え要因となった。
  • 世界的な景気後退が迫り金融環境がタイト化する現在、世界経済の見通しは各国の政府および中央銀行がこの前例のない危機にどう対処するかにかかっている。世界の痛手が癒えるにつれて、COVID-19の流行以前からすでに明らかであった構造的なトレンド、つまりデジタル化、ローカル化、そして再生可能エネルギーや5G(第5世代移動通信システム)の設備投資、オートメーションといった分野での対象を絞った促進策の強化が加速するものと予想する。これらの構造的シフトは、当社のボトムアップの銘柄選択に引き続き反映されている。

アジア株式

市場環境

アジア株式はCOVID-19の影響により急落
当月はアジア株式市場にとって厳しい1ヵ月となり、COVID-19のパンデミックと原油価格急落の影響によって市場が大きく下落した。

ウイルスの影響で総崩れとなった当月の株式市場は、2008年の世界金融危機以来最大となる下げ幅を見せた日が何日となくあった。これを受けて、世界各国の政府と中央銀行は、市場を安定化させるとともにCOVID-19の流行による経済への影響を軽減するべく、財政政策による大規模な支援措置や、大幅利下げに加え量的緩和を含む金融緩和策を実施した。

例えば、米FRB(連邦準備制度理事会)は、2020年3月3日と3月15日にそれぞれ0.50%、1.00%の緊急利下げを行い、フェデラル・ファンド金利の誘導目標を0~0.25%とした。アジアでも、香港、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国、台湾、タイなどの中央銀行が、それぞれの市場に流動性を提供しウイルスによって打撃を受けた自国経済を支援するために、当月中に大幅な利下げを実施した。

3月終盤には市場が反発を見せたものの、アジア株式(日本を除く)の月間市場リターンは米ドル・ベースで-12.1%と大幅なマイナスになった。国別では、インドネシアおよびインド市場が最も大きな打撃を被る一方、中国やマレーシア市場は相対的に最も下方抵抗性を見せた。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2019年3月末~2020年3月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI EMERGING MARKETSインデックス、グローバル株式はMSCI AC WORLDインデックスを、2019年3月末を100として指数化(すべて米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2010年3月末~2020年3月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI EMERGING MARKETSインデックス、グローバル株式はMSCI AC WORLDインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

域内で最も打撃を受けたのはインドネシアおよびインド株式
アセアン地域の株式は、COVID-19のパンデミックによる観光関連活動の落ち込みや広範な事業の活動の停止を受けて各国が深刻な景気後退に陥るとの不安が強まり、インドネシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが-29.4%)、フィリピン(同-21.7%)、シンガポール(同-19.9%)、タイ(同-17.4%)を含め、当月のアジア市場でパフォーマンスが最も低調な部類となった。月中、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシアの政府から数々の財政出動パッケージが発表されたものの、これらの措置は総じてアセアン株式に対する投資意欲を回復させるには至らなかった。東南アジアのなかでは、マレーシア株式が米ドル・ベースの月間市場リターンで-10.2%と、相対的に最も下方抵抗性を見せた。580億米ドル規模(同国のGDPの17%に相当)とアセアン地域最大となる財政出動を実施したことがサポート材料となった。

インド株式も、当月全体的に総崩れした市場の煽りをまともに受けて大幅に下落し、米ドル・ベースの月間市場リターンが-25.1%となった。エネルギー依存度が高く人口が多いインドの株式市場は、従来は原油価格の急落が好材料となる傾向にあるものの、当月は大幅な下落が生じた。インドが新型コロナウイルスの感染者数の急増を受けて月末近くに21日間の全土封鎖に踏み切ると、インド株式の下落幅は拡大した。

中国株式はアウトパフォーム
他では、北アジアの株式も地域全体の下落に追随し、台湾、香港および韓国市場の月間リターンは米ドル・ベースでそれぞれ-13.4%、-12.2%、-11.6%となった。中国は、米ドル・ベースの月間市場リターンのマイナス幅が6.6%にとどまり、アジアで相対的に最も良好なパフォーマンスを見せた。新型コロナウイルスの流行の効果的な封じ込めや政策による景気支援の公約が下支えとなり、中国株式は域内の他国市場をアウトパフォームした。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2020年2月29日~2020年3月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2020年2月29日~2020年3月31日)

過去1年間(2019年3月31日~2020年3月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2019年3月31日~2020年3月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

COVID-19の流行によってデジタル化、脱グローバル化、ローカル化が一段と加速
COVID-19の流行がアジアにとどまらず世界の他の地域にまで拡大したことを受けて、世界経済の見通しはこの1ヵ月で大きく変化した。世界的な景気後退が迫り金融環境がタイト化する現在、世界経済の見通しは各国の政府および中央銀行がこの前例のない危機にどう対処するかにかかっている。当社では、その点について、北アジアおよび域内のより発展した国が、必要な対策を実施するための財政力があるばかりでなく、対象を絞った財政出動アプローチにおいて正しい判断を行う能力を備えた官僚組織を有すると見ている。アジアの主な強みの1つは、域内の大部分の国々における機能的で優れた行政サービス体制であり、それを明らかに示す証左として、これまでのところウイルス流行の封じ込めにある程度成功している。これらが、アジア株式市場(日本を除く)が年初来でグローバル株式市場をアウトパフォームしている理由だ。世界の痛手が癒えるにつれて、COVID-19の流行以前からすでに明らかであった構造的なトレンド、つまりデジタル化、ローカル化、そして再生可能エネルギーや5Gの設備投資、オートメーションといった分野での対象を絞った促進策の強化が加速するものと予想する。これらの構造的シフトは、当社のボトムアップの銘柄選択に引き続き反映されている。

構造的成長や技術革新の期待できる分野を選好
特に中国は、COVID-19による経済への影響の軽減に努めるなか、新たなインフラ支出を推し進めるという戦略的目的を市場に示唆している。これは「量よりも質」を重視する同国の新たな政策方針に沿うものであり、かつて大きく依存してきた全く旧来型のインフラ型財政出動からの脱却と言える。当社では、この新たなインフラ支出が、5Gの基地局やデータセンター、超高圧送電網、電気自動車の充電スタンドなど、テクノロジー、ネットワーク、再生エネルギーの関連分野に向けられると予想する。こうした新たなインフラの大規模な開発は、ソフトウェア企業やオンライン・サービス企業の構造的成長の追い風になると見られ、当社ではこれらをいずれも有望視している。また、保険やヘルスケア、産業オートメーションといった国内の構造的成長分野も引き続き選好している。

中期的には、中国の新たなインフラ支出は、世界的なテクノロジー設備投資の増加とともに、台湾や韓国を拠点とするテクノロジー・サプライチェーンにとって継続的な好材料となるだろう。世界のサプライチェーンが混乱し世界各国がCOVID-19危機によって必要となった拡張的財政出動に乗り出すなか、台湾、韓国、中国は、とりわけ世界で需要の高い製品を生産しているとともにバランスシートが強固であることから、その魅力度が増していくものと見ている。したがって、当社では、これらの国に対して強気な見方を継続しており、テクノロジー・セクターにおいては5GやIoT(モノのインターネット)、再生可能エネルギー、クラウド開発から長期的に恩恵を受ける企業に注目している。

インドおよびアセアン地域についてはより慎重な見方
インドについては、支持率の高いモディ政権によって長期にわたる改革が実施されていることから、長期的にはポジティブな見通しを持っているものの、改革による副作用の結果として、同国はノンバンク系金融セクターの痛手を伴う一時的な景気減速に見舞われている。あいにく、この短期的な低迷によって、特に医療体制が未発達である同国は、COVID-19の流行に真っ向から立ち向かうのに不利な状況となっている。当社では、マクロ・リスクが短期的に高まっていることを考慮してリスク管理を積極的に行っているが、インフォーマル経済のフォーマル化や国内普及率の低さ、長期的な成長からの恩恵が見込まれる構造的成長分野、具体的には民間銀行、不動産、物流などへの投資は継続している。

アセアン地域もまた、インドと同様、継続しているCOVID-19危機を乗り切るにあたって有利な状況にはない。政情が悪化していることやウイルスの封じ込めにそれほど積極的でないことから、当社ではアセアン全般に対して慎重な見方を強め選別的なスタンスを取っている。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所) 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) PER、PBRともにMSCI AC ASIAインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。