本レポートは2020年2月28日発行「FUTURE QUALITY INSIGHTS:INVESTMENT INSIGHTS FROM THE GLOBAL EQUITY TEAM」英語)の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

エディーから得たインスピレーション

イアン・フルトン

エドウィナ・ブロックルズビーという名前や彼女の刺激的なストーリーについては数日前に初めて耳にした。「エディー」は(このように呼ばれることを彼女自身は好む)、イギリスを拠点に50年間ソーシャルワーカーとして働き、引退後はCEO、作家、トライアスロン選手に転じた。50歳のときにランニングを始め、過去25年間は世界中のマラソン、トライアスロン、アイアンマン1の競技会に出場している。2018年には74歳という年齢でアイアンマン・トライアスロンを完走した最年長のイギリス人となり、更に2020年夏には別のアイアンマン競技会に出場し「若干76歳」で完走することを計画している。彼女の著書『鉄のお婆ちゃん:健康を維持してわかった、歳を重ねてものんびりする必要はないということ(Iron Gran:How Keeping Fit Taught Me that Growing Older Needn't Mean Slowing Down)』は、何を始めるにも遅過ぎることはないということを証明するものだが、この言葉は、新年の抱負を維持し続けるのに苦労しているような私たちの大多数にこそ当てはまる言葉だろう。

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人々に感動を与えるようなアスリートであることとは別に、エディー・ブロックルズビーには2007年に博士号を取得し、2013年にはSilverfit という名前の慈善事業を立ち上げた実績もある。Silverfitは、高齢者が率いる高齢者のための事業で、身体を動かすことを通じて、より幸福で健康的な歳の重ね方を推し進め、同時に、高齢者の社会からの孤立という問題にも取り組む組織である。この組織による「サンドイッチ」方式と名付けられた集まりは、ソーシャライジング(参加者同士の交流・社交)、簡単なエクササイズ、そして再びソーシャライジングという流れで行われる。

このプログラムによって健康が改善され社会参加が促されることから、参加メンバーは薬の量を減らし、病院を訪問し医師に会う頻度を減らすことができる。健康的に歳を重ねるための活動を推進してきた功績が認められ、エディーは大英帝国勲章を授与されたが、それでもなおSilverfitの慈善事業をイギリス中に拡大する計画(それに加えてエネルギー)を持っている。

人生後半に差し掛かって達成した功績に関するこうした心に訴えるようなストーリーや、コミュニティーのメンバーが一丸となって社会問題に取り組む様子は、現代社会では極めて簡単に見過ごされてしまう。周知の事実だが私たちが目を背けてはならない事実は、日常生活の平穏を脅かすような最新のニュースは常時、のべつ幕なしに配信されてきており、投資家はつい数週間前に起きたニュースについても最新の状況となると全く把握できていないことが多く、これは仕方がないということだ。この短期間に、米国とイランは戦争寸前の状況に至り、米国大統領の弾劾手続きが進められ、イギリスはEU(欧州連合)を離脱し、オーストラリアでは森林火災による環境破壊が続き、日本では大変有名な企業経営者が、報じられたところによると、箱のようなものに身を潜めて国外へと逃亡した。そしてコロナウイルスの問題が発生し、決算発表シーズンが始まった。不確実性の高い時期に、投資家はノイズの中から意味のある情報をどうやって峻別すべきだろうか?

高齢化社会に必要なソリューション

エディー・ブロックルズビーの慈善事業Silverfitと似ているが、投資を生業とする私たちの職務は、人々がより健康的で幸せな引退生活を送ることの手助けである。長期的な視点から見た投資先企業の「質」に着目することで、顧客の経済的な目標達成を手助けすることを当戦略は目指しており、これは多くの場合、人生後半における経済的安定を手助けすることと言える。不確実性の時期にこそ重要なのは、この長期的視点である。

高齢化が進むなか、Silverfitにまつわるストーリーは私たちが直面する社会的な問題を改めて思い出させてくれる。現代社会における医療費の総額は持続不可能な水準にまで膨らんでおり、経済的・金銭的な負担を軽減しながら同時に、医療サービスの効果を改善する必要があることは明らかだ。Silverfitの取り組みは、コミュニティーがどうしたら誰の目にも明らかな問題に対処できるかを示す完璧な例である。当戦略では、医療費膨張や年金積立不足、気候変動のように簡単には解決できない問題に解決策をもたらす事業は、素晴らしい投資先となる可能性が高いと考えている。企業は社会問題の一因ではなく、ソリューション(解決策)の一助となることがますます求められている。

ソリューションは様々な形態で提供される

投資先企業の選別に際し当戦略では、求められるソリューションを提供しながら十分な利益を達成できる企業の発掘を目指している。当戦略にとって、投下資本利益率の将来の水準は重要な指標であるが、これは高い投下資本利益率が企業による企業自身への再投資を促すからであり、企業による継続的な再投資は、医療サービスの効率化や退職後貯蓄の不足といった時間をかけて取り組まざるを得ない根深い問題に対処するための必要条件だからである。

米国における在宅看護サービスの最大手であるLHC Groupは、医療費問題に取り組む企業の好例である。住み慣れた環境で提供される看護サービスは、サービスの受け手である患者から好まれると同時にコスト効率も高い。そして、企業が競争力と質に優れたすでに実績のあるビジネスモデルを実現している場合、その企業の市場シェアが拡大することが期待できる。

もう一つの長期保有銘柄はPhilipsであるが、当ファンドが掲げる「フューチャー・クオリティー」2に該当する企業の好例である。Philipsは産業分野のコングロマリット(多数の事業を手掛ける複合企業)から転換し、様々なヘルスケア・ソリューション事業に注力する企業となっている。同社の特徴となるソリューションの1つはコネクテッド・ヘルスケアと呼ばれる分野の事業で、革新的なハードウェアとソフトウェアによって患者をモニタリングし、費用の高騰が進む病院ではなく自宅での療養を可能にしている。

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バイオテクノロジーや遺伝子配列解析技術、AI(人工知能)の発展により、様々な健康問題に対処できる新しい治療法の開発が急速に拡大している。直近四半期(2019年10-12月)に新たに投資を開始したBio-Techneは、ゲノミクス研究に必要不可欠なタンパク質やイムノアッセイ・キット(免疫学的測定法を実行するための試薬や器具)を提供する先進的企業である。この現代版ゴールドラッシュとでもいえるゲノミクス研究において、つるはしとショベルに該当するのは、長期に渡ってキャッシュフローを創出できるような強固な競争優位性を有する企業であり、足元の低コストの資金調達環境に支えられた単一製品・単一サービスの企業ではないし、そういった企業は創造的破壊による淘汰を避けられない可能性が高いと見ている。

歳を重ねることはコストのかかることであり、通常、個々人で貯蓄と保険を組み合わせて対処する必要がある。しかし、低金利環境下で複利効果を享受するのは非常に難しく、先進国および新興国の両方でコスト効率が高く、質の高い保険が求められている。 ポートフォリオの保有銘柄でそうしたソリューションを提供する企業に、多くの新興国で生命保険を提供する大手のAIAや米国の代表的な医療保険会社の1つAnthemがある。一方、ポートフォリオの上位保有銘柄であるProgressive Corporationは、必ずしも自動車保険や住宅保険を必要とする比較的年齢が高めの顧客層に必ずしも的を絞っているわけではないが、同社市場シェアの継続的な拡大は、コスト効率の高いソリューションを提供し余剰貯蓄を生産性の高い他分野に融通できる同社ビジネスモデルの優越性を示している。

当戦略では、これまで言及した企業やポートフォリオ内の他の投資先企業が、これから新たに「鉄のお婆ちゃんたち(Iron Grans)」世代に差し掛かる人々の退職後の目標達成に役立つような製品やサービスを提供できることを願っている。

火災と伝染病

今回の決算発表シーズンで私たちが勇気づけられたのは、クラウド・インフラ関連企業の力強い成長と高い利益率の持続である。AmazonのAWS事業やMicrosoftのAzure事業は高い利益率を維持しながら急成長を見せている。現在、クラウドに費やされているIT関連予算は全体のわずか3%に過ぎないことから、当戦略では、クラウド分野が成長を持続し高い投下資本利益を維持するという長期的な見通しへの確信を深めている。

消費セクターでは、アジアのリテール向け旅行市場から直接的な影響を受ける企業が、当然のことながら業績見通しを下方修正したが、これは旅行者数の減少や春節(旧正月)の混乱に起因するものである。2000年代序盤のSARS流行時のように、市場は今回の騒動を概して一時的な現象と受け止めている。これが正しい受け止め方なのかは時間が経って初めて判明することだろう。

さらに憂慮すべきは、ここ数週間でオーストラリアにおいて非常に多くの地域を荒廃させた森林火災の影響やその規模の大きさである。今回の森林火災において気候変動が果たした役割や世界中で起きているその他の異常気象の影響を軽視はできないだろう。また、これによって社会的、経済的、政治的な転換点が訪れており、これまで軽視され、将来に先延ばしにされてきた気候変動関連の問題が政策や具体的行動において中心的な位置を占めるようになると考える。

現在、投資家は社会問題の一因となってしまった事業ではなく、ソリューション(解決策)の一助となっている事業により積極的に資金を配分していると見られる。また、産業界では再編も進んでいる。資本財・サービスセクターでは、Woodward(産業用エンジンの効率性向上技術を提供する企業)がHexcel(軽量化のための航空宇宙産業向け先端素材を提供する企業)との合併を発表した。合併会社は、航空宇宙産業において環境汚染物質排出量およびCO2排出量を削減するための一連のソリューションを提供する事業に集約化される予定である。この目的を達成することができれば、同社が市場シェアをさらに拡大し利益率を向上させるという長期的な見通しは明るいと考えている。

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最後に、鋭い読者なら今月の著者が普段の通勤に電車を利用していることに気付くだろう。ファイフからエジンバラに至る絵画のように美しい19マイルのスコットランドの海岸線を、この「Mobility-as-a-Service(サービスとしての移動)」は約25分で結んでいる。数年前に当レポートの発行を始めたころに比べると、この路線は多少混雑しており、駅に駐車してある電気自動車の数も以前より増えている。このトレンドが今後も続くことは明らかだろう。自分の役割を果たすと同時に「鉄のお婆ちゃんたち(Iron Gran)」の精神に少し刺激を受けて、明日は電車をランニングシューズに取り替え、その19マイルをランニングして職場に向かおう。グローバル株式戦略運用チームのうち私を含む2名は、春のマラソンに向け最後の仕上げに取り掛かっており、おそらく明日のランニングは問題なく実行できるだろうから心配は無用だ。何かを始めるのに遅過ぎることはないということを実際に証明するつもりだ。

注記

1アイアンマンとは、水泳3.86km、自転車180.25km、マラソン42.20kmから構成される、距離の長いトライアスロンである。平均16時間程度の制限時間内に完走することが求められる。

2フューチャー・クオリティーとは当戦略が理想的な投資対象と考える企業を指しており、高水準のキャッシュフロー投資収益率を達成し維持することができる企業のこと。

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