当レポートは、英語による2020年3月17日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳であり、3月中旬時点の情報に基づく内容です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

1月に世界的な重要性を持つようになった新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は明らかに金融市場を揺るがし、公衆衛生上の甚大な難題をもたらした。投資家は日々大量放出されるニュースをふるいにかけながら先を争って疫学について学ぼうとしているが、当社では、急速な展開を見せている今回の健康危機において、3つの主要な要素に焦点を当てる。

第1の要素は、当然のことだが、ウイルス自体である。Covid-19はどのようにしてヒトからヒトへと感染するのか。そのようにして広がる市中感染はどれくらいのスピードで起こるのか。ウイルスが感染者に及ぼす影響はどのようなものか。これらはすべて重要な検討因子だ。

注視していくべき第2の要素は、ウイルス流行に対する政府や中央銀行のアクションとそれが経済にもたらす潜在的影響である。医療の専門家がこの特定のウイルスについて知るところが増えるにつれ、その発見は様々な国々の流行対策に反映されていくものと想定される。例えば、中国は初期の数週間において、非常に厳しい隔離措置を講じ人々の移動を制限した。経済の混乱は中国が最も著しくなるかもしれないが、他の国々においてはおそらく中国ほどとはならないだろう。これが示唆しているのは、中国では厳しい封じ込め策が講じられたことから経済への影響がよりV字に近い形になるであろうが、バランスに配慮した封じ込め・軽減戦略をとった他の国々ではよりU字に近い(そして底がより浅い)形になるであろうということだ。

残りの要素は、上述の2つの要素に対する金融市場の反応である。これまでのところ、市場の反応はかなり厳しい。市場は不透明材料の不意打ちに弱く、ボラティリティが急上昇している。短期的には、ウイルス関連の不穏なニュース・フローが続く可能性が高く、リスク資産の底なしの下落を防ぐサーキット・ブレーカー的対策を提供する重荷は中央銀行にかかると予想される。「金融環境」のタイト化(つまりは株価の下落)という名目の下に、米FRB(連邦準備制度理事会)は政策金利の引き下げプロセスを開始し、他の中央銀行もそれに続いている。リスク資産は金利の低下と世界的な流動性緩和を好感すると思われるが、実体経済については政府による財政面での対策が求められるだろう。当社では、この金融および財政政策の強力な組み合わせにより、今回のウイルスのパンデミック(世界的流行)が収束した際の世界的な経済回復が促されるものと見ている。

資産クラスの選好順位(2020年2月末時点)

資産クラスの選好順位(2020年2月末時点)

* 株式、ソブリン債およびクレジットのスコア平均は時価総額ベースで加重平均して算出。
上記のアセットクラスおよびセクターの選好順位とスコアは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

1ヵ月前の米国株式は、ウイルス流行の影響がまだ見られていない一方でFRBが予防的利下げを行うとの期待を上昇材料にするという、矛盾する2つの想定の「いいとこ取り」をしているように見受けられた。しかし、そのシナリオは、次の数週間で韓国やイタリアなどの国々でCovid-19の新規感染者数が急増し、中国だけでなく世界的な問題であることが急速に明白となると、突然覆された。

多くにとって予想外だったのは、米国株式が急落する一方で、ウイルス封じ込めのために大規模な社会的封鎖を余儀なくされ春節(旧正月)をとうに過ぎるまで実質的に経済停止状態となった中国の株式が、なんとか年初来で若干のプラスとなる水準にとどまったことだ。

チャート1:米国株式と中国株式の推移比較

チャート1:米国株式と中国株式の推移比較

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
2019年9月10日=100として指数化
期間: 2019年9月10日~2020年3月9日

中国の工場がすぐには回復しないと思われたことから、当初同国が直面していたこの問題が公表されているよりもはるかに深刻なものになると見ていた向きも一部にはあるのかもしれないが、同国は正常な状態へと徐々に戻りつつあるようだ。中国の新規感染者数は減少してきており、リアルタイムのデータでは同国の工場が生産能力を回復しつつあることが示されている。

一方、中国は、2015年に行ったような信用の大盤振る舞いに打って出ることは引き続き控えており、減税や利下げ、引き締められている銀行貸出を開放させるための潤沢な流動性供給など、主に民間セクターに向けた比較的強力な一連の景気刺激策を推進している。まだ述べるには時期尚早ではあるが、景気回復の兆候が見え始めるのは比較的早いかもしれない。

一方で、中国以外の国々は、まったく新たな問題に取り組み始めたばかりだ。国境通過がたやすく旅行者が複数の場所からウイルスを持ち込むことを可能としてしまったことを考えると、封じ込めは選択肢ですらないかもしれない。検査キットが不足しているとともに他の様々な政府対応が不十分であったことも相まって、ウイルス流行の先行き不透明感の度合いは当然ながら強い。

そのような不透明感によって警戒感が否応なく広がっている。食料品店は、「念のため」の買いだめによって棚が空になるなか、一時的に売上げが伸びているかもしれないが、人々は中期的に習慣を変えていくと予想され、自宅外での消費は抑制されるだろう。サプライチェーンと需要サイドの両方へのショックは評価するのが困難だ。

今後注視していくべき重要な点は、疾患の理解が進むこと、またはおそらく問題がいずれ自然に終息することを通じて、不透明感が後退する可能性である。

それまでの間は、株式に対して慎重なスタンスをとるのが得策だろう。しかし、すでに多くの景気刺激策が講じられており経済活動が幾分改善し始めている様相の中国のような市場を選好するのは、理に適っていると見る。米国をはじめ世界の他の国々はまだ有効なウイルス対策を模索している最中だが、一方、バリュエーションから見た投資機会は浮上しつつある。

グローバル債券

新型コロナウイルスの感染拡大に対する懸念が投資家の間で強まるにつれ、世界の債券市場では利回りが急低下した。新型コロナウイルスの流行が1月の第3週頃に突出した市場テーマとなり始めると、「安全な避難先」と見なされる資産の価格は上昇した。この期間に米国債利回りは10年物で1.8%から0.32%へと低下し、その後0.50%近辺で落ち着いた。1月および2月の投資資金フローのデータによると、日本の投資家が米国債を大量に購入しており、これが安全資産への駆け込みを実質的に先導したのかもしれない。

一方、フェデラルファンド金利の市場予想は著しく変わった。年初は、市場は2020年中にFRBが利下げを1回行う確率をおよそ5分5分と織り込んでいた。しかし、3月半ばまでに、FRBは主要政策金利をゼロ近辺まで引き下げるとともに、量的緩和を再開した。ウイルス流行の最初の数週間は、FOMC(連邦公開市場委員会)のメンバーの中に金融政策での対応の必要性を疑問視する向きも一部あったが、FRBは経済を支援すべくすぐにスタンスを変更した。

チャート2:フェデラルファンド金利と米国債10年物の利回り

チャート2:フェデラルファンド金利と米国債10年物の利回り

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2019年3月11日~2020年3月9日

ウイルスに関するニュースが市場を左右する状況が続き、投資家が世界経済にとって最悪の結果となる可能性を不安視するなか、「安全な避難先」へは強い需要の継続が見込まれる。このサイクルが打ち破られるには、おそらくいくつかの事象が始まる必要がある。1つ目はたぶん明白だが、中国以外での感染拡大に関するニュースがそれほど警戒を要さない内容となり、新規感染者数が世界的にピークを打てば、もちろん投資家を安堵させる材料となるだろう。2つ目は、米国および世界の第1四半期の経済指標において、大幅に下方修正され始めた予想を上回るケースが出てくることだ。ウイルスに対する不安から、投資家は今後発表される経済指標について最悪ケースを予想するようになっており、したがって経済が予想されたよりも持ち堪えていることが示唆されれば、やはり不安を落ち着かせるのに一役買うだろう。最後に、FRBの金融政策アクションが十分な決定打としてリスク資産市場の最終的な回復に必要なサポートと流動性を提供できると投資家が確信し始めれば、「安全な避難先」への需要は後退するものと思われる。

グローバル・クレジット

ハイイールド債は、今年1月に新型コロナウイルスのニュースが中国から出始めたなかにあっても、2月に入ってかなり経つまでプラスのリターンを維持していた。他にも幾分意外だったのは、アジアのハイイールド債が米国のハイイールド債をややアウトパフォームしたことだ(チャート3参照)。中国当局による積極的なウイルス封じ込め策と中国人民銀行による流動性注入が奏功し、市場の急落は回避されたように見受けられた。アジア以外の国々で新型コロナウイルスの感染者が出始めたことを受け、グローバル株式市場は下落し始めるとともにハイイールド債のパフォーマンスの足も引っ張った。しかし、アジアと米国のハイイールド債の間では、パフォーマンス格差が持続したばかりでなく実は大きく拡大し始めた。Covid-19の感染者数が米国で増えるにつれ、当社ではこの米国ハイイールド債のパフォーマンス劣後が続くと見ている。しかし、新規感染者数がピークを打てば、米国ハイイールド債はバリュエーションの観点から投資魅力を呈するだろう。

チャート3;米国およびアジアのハイイールド債のパフォーマンス

チャート3;米国およびアジアのハイイールド債のパフォーマンス

出所:Bloomberg Barclays Indicesなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
2019年12月31日=100として指数化
期間: 2019年12月31日~2020年3月9日

通貨

為替市場は、Covid-19の流行の深刻度および期間、そして世界経済の成長見通しに対するその影響に対して、調整・対処を続けている。先月はディフェンシブな資産への強い需要から米ドル高となったが、最近ではそれに反して米ドルが大きな下方圧力に晒されている。米国金利の急低下に伴う金利格差の縮小を受けて、米ドル買い持ちのキャリー・トレードの巻き戻しが殺到したことから、米ドルの下落が進んだ。このドル安は、ユーロや日本円といったマイナス金利通貨に対してもっとも激しく、それぞれに対する年初から3月中旬現在までの米ドルの下落率は対ユーロで1.2%、対日本円で3.8%となった。

米ドル安が続く期間の長さについては、当社では、FRBがさらなる大幅利下げを実施し米国債利回りに下方圧力をかけ続けるかどうかにかかっていると見ている。長期的には、景気悪化を抑制すべく講じる金融・財政協調政策の有効性、Covid-19の封じ込め、そしてウイルスのワクチンの開発が、米ドルを押し上げる主な要因になると考える。米国の経済成長が他の先進国を上回れば、あるいは伝統的「安全な避難先」資産への需要が強まれば、米ドルはその恩恵を受けやすいと言えるかもしれない。

チャート4:米国債10年物の利回りと米ドルの推移

チャート4:米国債10年物の利回りと米ドルの推移

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2019年7月31日~2020年3月10日

コモディティ

「最良の時代でもあったし、最悪の時代でもあった」(チャールズ・ディケンズの著作「二都物語」の一節)というのが、おそらくはコモディティの状況を最も正確に表しているだろう。Covid-19の流行が中国で概ね封じ込められたと思った途端、それからの世界でのウイルス感染拡大スピードには誰もが不意を突かれ、市場はすぐに大混乱に陥った。状況は依然として非常に流動的だが、当社では、需給バランスの変化から原油に対する見方を弱気に変更し、金を選好順位の最上位とした。

原油については、Covid-19の流行がパンデミックとなり感染の広がっている国々に対する渡航制限措置が増えるにつれ、需要の壊滅的減少が明らかに深刻度を増している。サウジアラビアは、原油価格を支えるべく、世界的な供給管理を行うため2016年に構築された協調体制に参加してきたロシアとともに、一段の減産を実施する意向を示していた。当社では以前、ロシアも交渉の席に着くことを検討する可能性があると述べた。しかし、3月6日にロシアが減産を断り今後の減産負担は米国のシェールオイル生産企業が担うべきだと主張したことによって、地政学的な覇権争いが急転した。ロシアは、財政収支の赤字・黒字分岐点となる原油価格水準がかなり低くなっており財政・経常収支がともに黒字であることから、相対的に痛手をはるかに受けにくい状態にあるようだ。産油国会合の後、サウジアラビアの国有石油会社アラムコがただちにアジア・北米の顧客向けの価格を引き下げたことにより、価格戦争が勃発した。当社では、原油市場が底打ちするまで先行き不透明感が広がるものと見ている。

チャート5:2020年の財政収支の赤字・黒字分岐点と想定される原油価格

チャート5:2020年の財政収支の赤字・黒字分岐点と想定される原油価格

出所:IMF(国際通貨基金)、ロシア財務省など、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
2020年3月9日時点

金は原油の対極にある。中央銀行がウイルス流行の経済への悪影響を和らげようと先を争って利下げしているからだ。FRBは3月3日、主要7ヵ国(G7)の財務相・中央銀行総裁が行った電話会議の後にフェデラルファンドの誘導目標金利を0.5%引き下げ、2008年の世界金融危機以来となる緊急利下げを実施した。その段階で、市場はさらなる利下げの織り込みに走って米国債10年物の利回りが史上最低水準へと低下し、他の中央銀行もFRBに続いた。したがって、当社では、金価格がそのような中央銀行の動きを追い風として上昇を続けるものと考える。

リートおよびインフラ投資

最近のリートおよびインフラ資産は、深刻な景気悪化を織り込んで、株式市場全体とともに大きく下落した。新型コロナウイルスは世界中で急速に広がっており、経済成長にとってかなりの逆風をもたらしている。複数の国が感染の広がっている地域からの渡航に制限を課したため、旅行や娯楽活動が大幅に減少している。例えば、シンガポール政府は2月上旬に中国からの渡航者の入国を停止し、3月にはイラン、韓国、イタリア北部からの渡航者についても入国停止とした。これらの厳しい措置により、新型コロナウイルスの感染拡大は抑制されたが、その裏で観光業や購買活動が犠牲となっている。観光活動の後退は、小売施設における空き店舗の増加や賃貸料収入の減少を通じて小売型リートに打撃を及ぼす可能性がある。シンガポールや香港の代表的リートのなかには、すでにテナントがこの困難な時期を乗り切るのをサポートすべく、賃貸料の払い戻しなどの支援策を発表しているものもいくつかある。同様に、アジアの産業型リートも、サプライチェーンの混乱を受けて苦戦するかもしれない。

一方、国債利回りは世界中で史上最低水準へと大幅に低下している。以前にも指摘した通り、金利の低下は通常、リートのバリュエーションにとってプラス材料になるとともに資金調達コストも低下させる。リートが投資している不動産の所有者にとっては、リファイナンスを行うのにより良い時期かもしれない。株式市場において債券代替としての特性を有するリートは、最近の総崩れ相場において下落度合いが株式市場全体に比べ小幅にとどまっている。

以下のチャートが示す通り、米国リートの配当利回りは現在3.31%と、米国債利回り(0.76%)に比べて非常に魅力的な水準にある。利回り格差は2.55%と過去10年での最大値近くとなっており、他の国のリート市場でも同様の展開が起きている。追い風となる低金利環境であることや足元のバリュエーションが割安な水準となっていることから、リートはポートフォリオの一部として選別的に保有する価値があると考える。

チャート6:米国リートの配当利回りと米国債(10年物)利回りの比較

チャート6:米国リートの配当利回りと米国債(10年物)利回りの比較

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2010年1月1日~2020年3月6日

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当レポートは、英語による2020年3月17日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳であり、3月中旬時点の情報に基づく内容です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在(3月17日)の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。