当レポートは、英語による2020年4月17日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

市場の下落は速さと深さの両面でかつてない規模となり、2月後半に最高値を更新したS&P500 指数は、その後約1ヵ月で34%下落することとなった。月末にかけては、市場は下落分の3分の1程度をなんとか回復したが、異例の市場ボラティリティに伴う混乱が落ち着き始めた今、問題はこの先どうなるのかということだ。

世界の見通しは依然として不透明感が強いが、希望の光は市場がそのような強い不透明感を急速に織り込んだことかもしれない。かつてないスピードでの下落を経た市場は、バリュエーションが1ヵ月前に比べてはるかに魅力的な水準にあり、売らざるを得ない売りの大半は済んだように思われる。

一方で、金融・財政政策による大規模な支援策が早急かつ強力に講じられ、突然の停止に見舞われた世界経済に少なくとも部分的なセーフティーネットを提供した。しかし、重要な問題は依然、公共の安全を十分に確保しながら経済活動を再開させられるようになるには、今の経済の一時停止をいつまで続ける必要があるのかということだ。

中国を一つの目安とすれば、ウイルス流行の発生から封じ込め策の経済への深刻な打撃を経て最終的にビジネス活動を再開するまで、影響は2ヵ月程度続くということになる。しかし、西側諸国は準備・態勢がはるかに劣っており、その典型例となったイタリアでは感染者数と死者数が爆発的に増えた。しかし、そのイタリアですら、新規感染者数はピークを過ぎたように見受けられ、続いて米国でも向こう数週間で新規感染者数が減少に向かう様相となっている。

当社の基本シナリオとしては、当初期待していたV字型よりもU字型に近い回復になると見ている。新規感染者数は減少する可能性が高いが、経済の安全と人類の安全の間で適切なバランスを見出すのには時間がかかるだろう。正しいバランスの模索は第2四半期を通じて長引くものと見られるが、最終的に目処が立てば繰延需要の一部が解放され、経済は立ち直ることができるだろう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がより性質の悪いものとなり、流行の波の繰り返しによって一層の経済縮小を余儀なくされれば、見通しはより暗いものとなるが、そのような評価をするには時期尚早である。

資産クラスの選好順位(2020年3月末時点)

資産クラスの選好順位(2020年3月末時点)

* 株式、ソブリン債およびクレジットのスコア平均は時価総額ベースで加重平均して算出。
上記のアセットクラスおよびセクターの選好順位とスコアは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

世界的な活動停止は経済の見地からは途方もない難局であり、急速に広がるパンデミック(世界的流行)を封じ込める取り組みにおいて自ら招いた突然の活動停止の深さからして、過去に起きた事例と比較するのは不可能だ。歴史を振り返ると、活動の大幅な落ち込みの大半はバブル崩壊の後に起きており、不適切に配分されていた資本が一部消失を余儀なくされ残りがより生産性の高い使途へと再配置された。需要はその変遷過程で急減するが、最終的には資本と労働が再配置されるにしたがって回復する。

最近の息を呑むような株価の下落は、予想される経済活動の落ち込みをまさに反映している。下のチャート1に見られる通り、経済活動は企業収益を左右する要因である。市場にとっての現在最大の問題は、経済活動の低迷がどれくらい続くのかということだ。チャートでは、(1)6月に活動が回復するV字型(緑)と、(2)底打ちが8月後半となる、世界金融危機の時と概ね同じくらいの長さのより深い景気悪化(赤)の、2タイプのシナリオを示している。

チャート1:ISM(米サプライマネジメント協会)景況感指数の新規受注指数とS&P500指数の予想利益の変化(3ヵ月ローリング・ベース)

チャート1:ISM(米サプライマネジメント協会)景況感指数の新規受注指数とS&P500指数の予想利益の変化(3ヵ月ローリング・ベース)

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2004年12月31日~2020年4月7日

経済活動がいつ回復し始められるかという疑問への答えは、米国のロックダウン(都市封鎖)の長さによるが、暫定的に4月末に設定されたこの期限は、現在見直しが行われている。中国をベンチマークとすれば、経済活動の回復は上に示した緑のラインのようになるが、封じ込めへの取り組みが遅れたことと感染が大幅に拡大していることを考えると、このシナリオは楽観的すぎると見られる。それでも、米国が夏季中に抑制策を緩和して経済活動を再開できると考えるのは妥当に思われ、そうなれば活動が底打ちして企業収益や資産価格も底入れするだろう。

世界金融危機の時と比べると、COVID-19のパンデミックに対する財政・金融の政策対応ははるかに迅速かつ大規模であり、実際、失われた収入や信用のセーフティーネットとして難局を乗り切る一助となっている。米国議会は、経済の痛手に歯止めをかけるべく、当資料作成日現在、すでに財政出動第3弾の準備に取り掛かっている。また、当社では、失われた職がより生産性の高い業種に徐々に取って代わられたにとどまった世界金融危機の時と異なり、現在失われている仕事は元と同じ業種で早期に回復すると見ている。

今回の景気鈍化の一時的な性質と政策対応の強さから、夏季中にある程度の経済の復旧が見られ経済活動と企業収益が世界的に底入れする可能性があると考えるのは、妥当なように思われる。

グローバル債券

COVID-19のパンデミックがアジアを越えて米国とEU(欧州連合)という西側の2大経済圏に拡大するなか、国債の投資家は世界金融危機以来となる極度のボラティリティを経験した。チャート2は、ICE Bank of America MOVEインデックスの過去14年間の推移を示したものだ。このインデックスは、複数の満期ゾーンにわたる米国債オプションのインプライド・ボラティリティ(予想ボラティリティ)の加重平均を表すもので、株式市場でVIX指数が用いられているように、債券市場におけるボラティリティの状況を測る基準として用いられている。

チャート2:米国債ボラティリティ・インデックスの推移

チャート2:米国債ボラティリティ・インデックスの推移

出所:ICE BofA Indicesなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2006年8月10日~2020年4月7日

このチャートから自明の通り、2020年3月にボラティリティは世界金融危機の時に次ぐ水準へと急上昇した。ボラティリティがピークを付けたのは、10年米国債利回りが0.4%超低下して過去最低の0.31%となった3月9日だった。COVID-19拡大の厳しい現実を突きつけるニュースを受けて、「安全な避難先」資産に投資資金が殺到するなか、取引状況は大荒れとなった。同月中に付けた利回りの最高値が1.27%であったことから、3月は10年米国債利回りの月間取引レンジが2008年11月以来で最も大きい月となった。

しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)が他のいくつかの中央銀行とともに、国債市場に一定の秩序を回復すべく介入を行ったことから、ボラティリティの急上昇は比較的短命となった。FRBはフェデラルファンド金利の誘導目標を2段階で1.5%引き下げ、これにより同金利は実効下限へと低下した。またFRBは、市場が「円滑に機能する」ことを担保すべく、資産購入プログラムを刷新して上限額を表明せず(つまり実質的に上限なく)米国債を購入すると発表した。これらの措置は、ボラティリティをより正常な水準へと低下させ投資家を落ち着かせるのに奏功した。今後の先行きとしては、先進国の金融政策がその実効下限へと収斂するとともに量的緩和による買いサポートが継続することにより、世界の債券利回りは低水準にとどまるものと見られる。

グローバル・クレジット

投資適格クレジット市場は、2月にグローバル株式市場が崩れ始めた時も十分持ち堪えていた。3月に入り、信用スプレッドは第1週を通じて概ね安定的に推移していたが、その後はCOVID-19をめぐる懸念の高まりとリスク資産価格の急落に屈する格好となった。年初来で+5%であったクレジット市場のリターンはあっという間に-10%へと落ち込み、わずか2週間で衝撃的な変化を見せた。ETF(上場投信)の投資家はさらに大きな損失に見舞われた(チャート3参照)。クレジット市場が流動性不足に陥ったため、投資適格債ETFのマーケットメーカーにとってETFの価格とそのベンチマーク・インデックスの価値との間でパリティ(等価性)を維持するのが困難になった。例えば、iSharesが運用する代表的な投資適格債ETFの1つは、チャート3が示す通り、価格が5%を超えるディスカウントとなるケースが幾度となくあった。

このストレスに対してFRBはまたもや真っ向から取り組み、救済策を講じた。2つの新プログラムの導入により、同中銀は初めて発行・流通両市場での社債購入を通じ投資適格債市場に介入できることになる。これらのアクションは狙い通りの効果をもたらし、ほぼすぐに買い手が市場に戻り始め新規発行も再開された。投資適格債ETFで見られた心配なマイナスのバリュエーション・ギャップは、多くにとって市場の機能不全リスクを再認識させたが、これもFRBの発表から数時間以内に解消された。

チャート3;米国投資適格債ETFとベンチマーク・インデックスの相対パフォーマンス

チャート3;米国投資適格債ETFとベンチマーク・インデックスの相対パフォーマンス

出所:ICE BofA Indicesなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
2019年12月31日=100として指数化
期間: 2019年12月31日~2020年4月8日

通貨

COVID-19がアジア以外にも広がるなか、急に起きたリスクのプライシングの調整によって、米ドルなど伝統的な「安全な避難先」資産への需要が当然ながら増大した。売り圧力が強まるにつれ、米国債を含むあらゆる資産クラスにわたって流動性が枯渇したことにより、売り相場は秩序を失っていった。FRBはそのような混乱を鎮めるべく迅速かつ大規模な介入に乗り出し、対象をクレジット物へも拡大した上限なしの量的緩和をはじめ、資金調達圧力を緩和させるためのその他多くの措置を発表した。今のところ、これらの策は奏功しているように見受けられ、ボラティリティは低下し市場間の相関性も正常な水準に戻っている。

先行き不透明感が継続しているため米ドル高が続く可能性があり、そうなれば世界経済の成長に下方圧力が加わる。とは言え、資本は最終的には成長機会へと流れるものだ。チャート4が示す通り、米国の経済活動の他の国々に対する超過分は、2019年から2020年初めにかけて着実な増加基調を辿っていた。しかし、それ以降は急減しており、経済活動への相対的打撃は世界金融危機の時に比べてはるかに大きい。中国で生活が常態に戻りつつあるように見受けられる一方、西側諸国の経済は依然として停止状態にあり、経済活動再開とウイルス封じ込めの間の正しいバランスを検討し始めたばかりだ。アジア、より具体的には中国で経済活動が回復してきていることを考えると、米国以外の成長がより高くなるローテーションは、金利差の縮小(先月述べた通り)やドルの資金調達圧力緩和を図るFRBの政策とともに、ドル安材料となる可能性がある。

この見方における主要なリスクは、シンガポールのようにウイルス流行の第2波によって再び活動抑制を余儀なくされることだ。新規感染者の管理に対する中国のアプローチは、COVID-19からの回復の重要な手掛かりと言える。当社の見方におけるもう1つのリスクとして、世界の需要の大幅鈍化が長期化することが挙げられる。

チャート4:米国の他の国々に対する超過成長

チャート4:米国の他の国々に対する超過成長

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2006年3月9日~2020年3月31日

コモディティ

景気の悪化を和らげるべく世界中の中央銀行が拡大を続ける量的緩和によってかつてない流動性を解き放つなか、通貨安競争が金の追い風になると予想した向きもあったかもしれない。しかし、米国債など本来は「安全資産」と見なされている市場が、流動性の枯渇によって混乱し急に「安全ではない」状況となったことを受けて、金価格はむしろ1トロイオンス当たり1,471米ドルへと下落した。

チャート5:2020年3月9日~3月19日における各資産クラスのリターン

チャート5:2020年3月9日~3月19日における各資産クラスのリターン

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2020年3月9日~2020年3月19日

これらの価格下落は、世界金融危機の時の経験を彷彿させる。金価格は2008年10月9日~22日の間に22%下落したが、それに先んじる2008年10月3日にTARP(不良資産救済プログラム)が立法化され、FRBは同年の11月に量的緩和の第1弾を開始した。最終的に、金は大幅な上昇相場に入り、167%上昇して2011年8月に1オンス当たり1,900米ドルと過去最高値を更新した。

現在の政策は、金融・財政の両分野で、世界金融危機の時に実施されたものに比べより規模が大きく積極的な内容となっている。例えば、FRBは、企業への直接融資と発行・流通両市場での社債(より最近ではハイイールド債も含めて)の購入を通じて、実質的にあらゆる企業にセーフティーネットを提供した。また、同中銀は、購入対象とするアセットバック証券の範囲を学生ローン、自動車ローン、クレジットカード・ローンにまで拡大した。その他では、先進国の政府が、あらゆるローンを保証しながら、対GDP比10%を超える経済刺激策を進めている。状況が正常化すれば(当社ではいずれそうなると予想している)、これらの措置はインフレ効果をもたらすと想定される。金は引き続き、政策ミスに加えてインフレ・リスクをヘッジする最も有効な手段であると考える。

リートおよびインフラ投資

リートとインフラ投資については、前月に比べてスコアを若干引き上げた。2月後半に始まった相場下落を経て、リートのバリュエーションは魅力度が高まっている。当社では、世界でのCOVID-19の状況を引き続き注視していく一方、リートの高い配当利回りが長期スタンスの投資家にとって魅力的な投資機会であるのに加え安全面でのバッファーを提供していると考える。

米国のリート市場は当月急落したが、なかでも最も大きく崩れたのはサービスおよび消費関連のリート(小売リート、ホテル・リート)で、下落幅が40~50%に至った。それに比べて、専業リート(IT関連など)や産業リートはディフェンシブ・セクターとしての性質が際立った。米国では大半の州が厳しい「自宅待機」命令を発したため、当然ながらショッピングモールやアウトレットといったセクターが最も大きな打撃を受けている。3月の賃貸料は概ね払われたが、4月の支払いに窮する小売業者は多い。企業は信用枠の利用や従業員の一時解雇で今のところは概ねなんとか乗り切っているが、ロックダウンが長引くほど廃業する企業は増えるだろう。

一部の小売業者が4月の賃貸料を払わないと公言したことから、小売リートの予想収益および価格は即座に下方修正された。同様に、観光旅行や出張の停止を受けて、ホテル・リートの利益予想も大きく引き下げられた。小売およびホテル・リートの収入やパフォーマンスが今後大幅に回復できるかは、引き続きCOVID-19の感染カーブの順調なフラット化と経済活動の再開にかかっている。

米国の専業リートを主に占めるデータセンターと通信塔は、「自宅待機」命令による影響が相対的に小さい。人々が在宅で勤務したり外出の代わりにオンラインでの娯楽を求めたりするのに伴うインターネット通信需要の拡大によって、増収となったケースもある。データセンターは、その収入の経常的性質やリース期間の長さ、そして今では経済のデジタル化の加速から、ファンダメンタルズのディフェンシブ性が強いと言える。

チャート6:米国リートのサブセクター別年初来リターン

チャート6:米国リートのサブセクター別年初来リターン

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2019年12月31日~2020年4月7日

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在(4月17日)の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。