本レポートは、2020年6月16日発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 5月のアジア株式市場は、米中2国間の緊張激化という悪材料が世界中での経済活動の段階的再開をめぐる楽観ムードを上回り、小幅下落となった。最近中国が香港に新たな国家安全法を導入する動きを見せたことも、センチメントの重石となった。アジア株式(日本を除く)の月間市場リターンは米ドル・ベースで-1.2%となった。
  • アセアン地域の株式市場は、シンガポールを除きすべて月間リターンがプラスとなった。マレーシアとタイは利下げが追い風となる一方、シンガポールは2020年のGDP成長率予想がさらに引き下げられたことを受けて下落し、米ドル・ベースの市場リターンが-3.2%とアセアン地域で当月最も低調なパフォーマンスとなった。
  • インドは、中央銀行がレポ金利を0.40%引き下げたものの、同国の経済見通しが悲観的であることを背景に米ドル・ベースの月間市場リターンが-2.8%となった。
  • 香港は、中国が同行政区に対して新たな国家安全法を導入する動きを見せたことで、香港の今後の安定性や世界貿易の見通しに対する懸念が強まったため、株価が大幅に下落して米ドル・ベースの月間市場リターンが-8.4%と当月のアジア地域で最も大きな打撃を受けた市場となった。
  • 米国の大統領選挙を控えた地政学的対立や中国のタイミングを狙った領土主張の継続によってリスク要因が増えてはいるものの、最近のレポートで特定したトレンドは十分に継続している。バリュエーションは、最も大きな打撃を受けた「オールド・エコノミー」セクターを中心に、アジアの多くの市場にわたって依然危機の時の低水準近くにとどまっており、現在当社ではこうした分野で魅力的な長期投資機会を幾つか見出している。

アジア株式

市場環境

米中間の緊張激化によりアジア株式は小幅下落
5月のアジア株式市場は、米中2国間の緊張激化という悪材料が世界中での経済活動の段階的再開をめぐる楽観ムードを上回り、小幅下落となった。中国が香港に新たな国家安全法を導入する動きを見せたことも、アジアの市場センチメントの重石となった。トランプ政権は、同法の施行によって香港が結果的に米国との貿易における優遇を一部失う可能性があるとしているが、同法の施行が強化されて中国との融合が進めば、約1年前に抗議デモが始まって以降落ち込んでいる香港への観光客の流れは、かえって回復するかもしれない。

アジア株式(日本を除く)の月間市場リターンは、米ドル・ベースで-1.2%となった。国別では、マレーシアとタイが最も好調なパフォーマンスを見せる一方、香港とシンガポールが最も劣後した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2019年5月末~2020年5月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2019年5月末を100として指数化(すべて米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2010年5月末~2020年5月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

マレーシアとタイは相対的に堅調、シンガポールは下落
5月のアセアン地域の株式市場は、シンガポールを除きすべてプラス・リターンとなり、米ドル・ベースでマレーシアが4.8%、タイが4.4%、インドネシアが3.3%、フィリピンが1.6%と、各国とも良好なパフォーマンスを示した。

マレーシアでは、政府が短期経済回復計画を近く発表する意向を示したこと、中央銀行が0.50%の利下げを実施したこと、2020年第1四半期の経済成長率が前年同期比0.7%と市場予想を上回ったことなど、複数の要因が重なって株式の追い風となった。

タイでは、中央銀行による0.25%の利下げに加えて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)からの回復期待が、当月の株式市場を押し上げた。対照的に、アセアン地域で当月最も低調なパフォーマンスとなったシンガポール市場は、同国が2020年のGDP成長率予想を「-1~-4%」から、「-4~-7%」へとさらに引き下げたことを嫌気して下落し、米ドル・ベースのリターンが-3.2%となった。

インド株式は下落
インドでは、中央銀行がレポ金利を0.40%引き下げたものの、株式市場の月間リターンが米ドル・ベースで-2.8%となった。その要因として挙げられるのは同国の悲観的な経済見通しで、例えば格付け機関フィッチ・レーティンングスは、今年度のインド経済の成長率について、以前の+0.8%との予想を下方修正して現在は-5%と予想している。

北アジア市場は大半が下落、香港株式は急落
韓国の株式市場は、テクノロジー株の力強いパフォーマンスや中央銀行による0.25%の利下げを追い風として、米ドル・ベースの月間市場リターンが2.2%となった。しかし、その他の北アジア市場はアジア地域の全般的な下落に追随し、台湾および中国は月間リターンが米ドル・ベースでそれぞれ-2.5%、-0.5%となった。

香港は、中国が同行政区に対して新たな国家安全法を導入する動きを見せたことで、香港の今後の安定性や世界貿易の見通しに対する懸念が強まったため、株価が大幅に下落して米ドル・ベースの月間市場リターンが-8.4%と当月のアジア地域で最も大きな打撃を受けた市場となった。米国はもはや香港が中国からの自治を維持しているとは見ておらず、トランプ政権は香港に対する特別貿易待遇を撤廃して香港の輸出品に中国からの輸出品と同等の関税を課すと警告した。さらに、香港でデモ活動が再び活発化したことも、香港株式へのリスク選好意欲を後退させた。

アジア株式(日本を除く)のリターン

過去1ヵ月間(2020年4月30日~2020年5月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン

過去1年間(2019年5月31日~2020年5月31日)

過去1年間(2019年5月31日~2020年5月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジア市場のバリュエーションは引き続き魅力的
米国の大統領選挙を控えた地政学的対立や中国のタイミングを狙った領土主張の継続によってリスク要因が増えてはいるものの、最近のレポートで特定したトレンドは十分に継続している。中国をはじめ大半のアジア諸国は、COVID-19による打撃を受けた最初の一群だが、総じてパンデミックに上手く対処してきており、流行が抑制されている様子であるなか、通常の状態へと戻りつつあるか、またはロックダウン(都市封鎖)の出口戦略を議論している。バリュエーションは、最も大きな打撃を受けた「オールド・エコノミー」セクターを中心に、アジアの多くの市場にわたって依然危機の時の低水準近くにとどまっており、現在当社ではこうした分野で魅力的な長期投資機会を幾つか見出している。

割安で構造的成長が見込まれる分野への投資を継続
中国では、全国人民代表大会(「全人代」、国会に相当)が、習近平国家主席の政権下でお馴染みとなってきた「量よりも質を重視」という政策とほぼ同様の方針を示して閉幕した。今年の経済成長率目標は示されなかったが、当社では、これは賢明な対応でありおそらくこれを機に今後も年間成長目標の公表を止める可能性があると見ている。

国内経済への支援は、地方債の発行増額や5G(第5世代移動通信システム)・デジタル・自動化・環境など戦略的な産業開発分野を中心とする対象を絞った財政出動を通じて進められている。当社では割安で構造的成長が見込まれる分野、具体的にはソフトウェア、ヘルスケア、保険および一部の消費関連サブセクターを引き続き選好している。

台湾と韓国はウイルス封じ込め措置による悪影響が最も小さい部類であり、両国のテクノロジーおよびデジタル・サービスのサブセクターは今回の難局において非常に好調なパフォーマンスを示している。当社では現在、これらの市場のバリュエーションはやや割高だと見ている。これらの市場の評価にあたっては、激化が見込まれる米中間のテクノロジー覇権争いによって混乱が深まる可能性をある程度考慮する必要があるだろう。

インドおよびアセアン地域については選別的な姿勢
インドは、他国の大半と比べてより長くより場当たり的なロックダウン期間に耐えてきたが、都市部の感染多発地域以外では制限の緩和が始まりつつある。財政出動の余地がより小さいことから、景気刺激策は主に社会の最貧困層に向けられており、国全体として通常の状態に戻るにはしばらく時間がかかるだろう。しかし、過去数年にわたって着手されてきた改革が長期的な効果をもたらしていることは明白であり、また、今回の危機によって大半のサブセクターにわたり再編およびフォーマル化が一層進んでいる。当社では引き続き民間銀行、デジタル・サービス、物流などの銘柄を選好しており、また特定の消費関連のサブセクターについて有望視の度合いを強めている。

アセアン地域もインドと同様にCOVID-19の打撃を大きく受けたが、景気支援策の内容は各国の財政バランスシートの強さによって様々となっている。サプライチェーンの再編が一部のアセアン市場に恩恵をもたらしている証しが一段と示されているものの、投資機会は依然として限定的である。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。