当レポートは、英語による2020年5月20日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック(世界的流行)が公衆衛生、経済活動および金融市場に破壊的な打撃を与えたことは間違いない。市場は将来を見据える性質があることから、未知の致死性ウイルスのニュースが中国から世界の他の国々へと伝わると、資産価格はまず下落し始めた。この警告信号に続いて、ウイルスの流行が地域的流行からパンデミックへと転じるにつれ、当該公衆衛生危機の潜在的規模が明らかになり始めた。世界中の国々の政府当局がウイルスの拡大を抑制すべく封じ込め・軽減戦略を実施したことから、経済活動は急速に鈍化し始めた。周知の通り、金融市場の警告から公衆衛生危機へ、そして世界的な景気後退へという今回の変転は、3ヵ月という異常なスピードで起こった。

COVID-19からの回復にはより長い時間がかかるとみているが、今後数ヵ月は基本的に同様の流れを辿るものと考える。金融市場はすでにかなり反発しており、リスク資産は3月に付けた安値から大幅に回復している。例えば、S&P500指数は2月の高値から3月の安値まで被った下落分の3分の2近くを回復している。成長資産の価格急落という警報を受けて、中央銀行と政府による金融・財政政策アクションの強力な組み合わせが実施され、これまでのところはこれらのアクションが金融市場へのサポート提供に概ね奏功している。

これらの金融面でのアクションに加え、世界中の政府は(西側諸国を中心に)本格的なウイルス拡大対策に乗り出し、一連の封じ込め・軽減措置を講じた。結果として当社では引き続き、ウイルスの拡大を抑制するための閉鎖措置の相対的な有効性に注目してきた。この評価基準でいくと、強制的な閉鎖やソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)措置がウイルス拡大の抑制に奏功しているように見受けられる。少なくとも良い知らせとして、多数の国では第1波において医療システムが崩壊状態に陥らずに済んでいるようだが、悪い知らせは、それを達成するために世界経済がほぼ停止状態に追いやられたことだ。

経済指標は世界中で大きく悪化している。これは、経済閉鎖がほぼ全業種的に実施されたことを考えれば十分に予想されたことだが、経済指標の発表でダメージが明らかになり始めると、やはり戸惑わざるを得ない。それでも、一方では大規模な財政・金融対策が実施されたという好材料があることを思い起こし、当該対策が新型コロナウイルスの影響を覆すに足るかを熟考している。十分だろうと楽観的にみている向きは多く、ウイルス流行の第2波が回避され世界的な経済閉鎖を繰り返す必要が生じないとの前提で、当社も慎重ながらその見方に同意する。

重要な問題は、経済が難局を乗り切りある程度「正常」な需要パターンに戻ることができるとして、それにどれくらい時間がかかるか、そしてどの程度回復できるかということだ。多くの企業が倒産するとともに一部の産業は永久に変貌してしまうであろうが、経済には、単に一時休業しているだけで通常の状態に戻れば最近失業した人々を吸収することができる部分もかなりある。しかし、消費行動・パターンの変化や倒産が経済のより広い分野へと連鎖的に拡大する可能性など、まだわからないことも数多くある。

資産クラスの選好順位(2020年4月末時点)

資産クラスの選好順位(2020年4月末時点)

* 株式、ソブリン債およびクレジットのスコア平均は時価総額ベースで加重平均して算出。
上記のアセットクラスおよびセクターの選好順位とスコアは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

国々が規制を緩和するためにウイルス封じ込め策の相対的効果を検証するなか、根本的に独自のアプローチをとった日本が注目を浴びている。日本は、全国的なロックダウン(都市閉鎖)を命じる代わりに、「準ロックダウン」にとどまる緊急事態宣言を発出し、感染拡大阻止に対してより的を絞ったアプローチをとった。早くから、日本は、感染経路を追うのは手間がかかりすぎウイルス検査は不十分であると判断し、いわゆる「スーパー・スプレッダー」(多数の人々に二次感染を引き起こす感染者)を特定し封じ込める戦略を策定した。そのような人々を特定する方法は明らかではないが、この戦略は効果を上げているようで、新規感染者数が4月11日のピークから93%減少しており、日本は一部地域で規制の緩和を始めている。

日本が規制を緩和していることを考えると、同国株式が上昇するという考えには論拠があるが、悲しいかな、依然続く円高と継続中の貿易ショックはほぼ条件反射的に日本株売りを誘発する。売り圧力は理に適っているだろうか。日本は輸出依存度が高く円高が同国企業の収益や競争優位性にとって重石となるため、ある程度は理に適っていると言えるが、バリュエーションが非常に魅力的な水準となっていることから、売り圧力は行き過ぎであるのかもしれない。

日本の場合、株式を表現するのに「割安」では不十分である。1990年代以降、株式市場の一部において、具体的に言うと信用バブルの崩壊後の金融銘柄において、価値が減少しているからだ。しかし、チャート1が示す通り、株式市場全体のPBR(株価純資産倍率)は、アベノミクス改革が初めて導入された2013年頃以降、金融セクターを除いた部分のPBRから乖離を見せている。金融銘柄はマイナス金利となっていることもありPBRが1.0倍を割り込んでいるが、一方で金融以外のセクターの平均PBRは1.3倍と直近のピークである2017年末の1.7倍から約23%低下した水準にある。

チャート1:日本株式全体と金融セクターを除いた日本株式のPBR比較

日本株式全体と金融セクターを除いた日本株式のPBR比較

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 1995年1月31日~2020年4月30日

金融セクターを除いた日本株式のバリュエーションが乖離したのには十分な理由がある。リターン(利益)がより高いからだ。改革がコーポレート・ガバナンスの改善をもたらし、これが収益性を向上させて増配につながっている。日本企業の多くは業界のリーダーであり、世界のサプライチェーンで主要な役割を果たしている。サプライチェーンの再編が進むなか、米中両国とバランスの取れた関係を維持している日本は、相対的に勝ち組となる可能性が高い。ただし、そこに試練がないわけではない。

そのような貿易上の試練は、日本株式が自らも逆風要因を抱える米国株式に対して60%のディスカウントで取引されていることを、妥当とする根拠となるだろうか。おそらくはそうならないだろうし、バリュエーションの乖離が長期にわたって続く可能性があるものの、当社では、高いクオリティと魅力的なバリュエーションから日本の(金融セクター以外の)株式を依然選好している。

グローバル債券

世界の主要中央銀行が進める政策は、金利動向を把握する上で常に非常に重要な材料となってきた。おそらく現在はこれがかつてないほど当てはまり、各国の政策金利がそれぞれの実効下限(景気後退時に政策金利を引き下げることができる事実上の下限)に近づくとともに大規模な資産購入が続けられているなか、中央銀行が国債市場を取り仕切っている。債券のボラティリティはCOVID-19前の水準に戻っており、その結果、利回りは低位にとどまっている。

今後の見通しについては、向こう数ヵ月は状況があまり変わらないだろうと予想しており、中央銀行も今後のアクション(あるいはその欠如)に関してそのようなガイダンスを示している。米FRB(連邦準備制度理事会)は、経済がパンデミック局面を過ぎ同中銀の目標である雇用の最大化と物価の安定が達成できる軌道に戻るまでは、政策金利を実効下限にとどめる見込みであることを示唆している。4月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合の後にジャーナリストに詰め寄られた際、ジェローム・パウエルFRB議長は2020年から2021年にかけて金利に変化なしと市場が織り込んでいるのは妥当に思われると示唆した。同様の文言がECB(欧州中央銀行)のフォワード・ガイダンスで用いられており、他の主要中央銀行も緩和政策がしばらく続くことを保証している。

チャート2:世界の国債利回り

チャート2:世界の国債利回り

出所:ICE BofA Indicesなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
2020年5月現在

結果として、当社の国債に対する相対的見方は、チャート2で示した現在の10年債利回りとイールドカーブの傾斜度合いに集約することができる。当社では、10年債利回りが相対的に高く、かつイールドカーブがよりスティープなオーストラリア、米国、カナダがアウトパフォームするとみている。一方、英国とフランスについてはより中立的なスタンスとし、日本およびドイツは他国市場に劣後すると予想する。

グローバル・クレジット

中央銀行による債券市場への介入は、国のCOVID-19パンデミック対策においてかなり強力なツールとなっている。資産購入プログラムは一様に国債を対象としてきたが、多くの中央銀行が国債以外の社債なども購入対象資産に含めている。表1は、中央銀行のプログラムで対象となっている様々なクレジット証券をまとめたものだ。

表1:中央銀行の資産購入プログラムの対象資産

表1:中央銀行の資産購入プログラムの対象資産

出所:中央銀行の発表
2020年5月現在

世界の中央銀行がCOVID-19によってもたらされた金融市場の混乱に対応するなかで、FRBはその先頭に立っている。FRBのプログラムでは、投資適格債の購入が発行市場と流通市場の両方で認められており、一定の状況下では対象がハイイールド債へも広げられる。これまでのところ、他の中央銀行はハイイールド債の購入についてFRBに追随しておらず、自行プログラムでの購入を投資適格債にとどめている。FRBはまた、債券ETF(上場投信)の台頭も認識しておりこれを購入対象資産に含めているが、他の中央銀行はそうしていない。しかし、他の中央銀行も、格付けの高いコマーシャルペーパーや社債の購入を通じて、同様に企業の資金調達を支援している。ただし、オーストラリア準備銀行は例外である。オーストラリアの中央銀行は従来から介入主義色がかなり薄く、クレジット市場が同行の介入なしで十分順調に機能できると確信しているようだ。それでも、クレジット市場に対するサポートは大規模であり、これを受けて当社では、現在は割安さの増したバリュエーション(米国が最も有利)を捉える好機との確信を深めている。

通貨

政策当局による迅速で大規模な財政・金融プログラムの実施を受けて、世界的な資金逼迫とリスク・センチメントが顕著に改善し始めたことから、米ドルはレンジ内で推移している。しかし、米ドルは依然として比較的高い水準にとどまっている。ウイルス封じ込め戦略による経済への打撃の度合いが経済指標の発表によってついに明らかとなるなか、世界中の政府が追加の支援策を講じて積極的に影響の軽減に努めている。ドル・インデックスの構成通貨の多くが下落したのは国内要因からだが、政策をめぐる世界的な先行き不透明感がドル・インデックスを現在の水準に高止まりさせている。

米国の経済成長が他の国に比べて優位であることは先月の本レポートで述べたが、それ以外に、FRBのバランスシート規模の変化を他の国々の中央銀行と比べてみる(チャート3参照)と、同中銀の措置のアグレッシブさがわかる。これは、米ドルの現在の水準が、中期的な時間軸では持続可能ではないかもしれないことを示唆している。近年は、通貨の方向性が、中銀バランスシートの相対的な変化の方向性から影響を受けやすくなっている。米国がパンデミックの抑制に努めながら経済活動を徐々に再開させようとしているため、景気支援策は長期にわたって続く可能性が高い。パンデミック後の世界への取り組みが進みつつあるなか、米ドル高へのリスクには、米国の世界経済におけるリーダーシップがついに崩れることになるのか、また量的緩和や大規模な財政出動といった米国の政策措置が同国通貨へのサポートを弱めることになるのかといった点が含まれる。

チャート3:他の国々と比較した米国中央銀行のバランスシートの3ヵ月変化

チャート3:他の国々と比較した米国中央銀行のバランスシートの3ヵ月変化

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2007年11月30日~2020年4月30日

コモディティ

市場センチメントは依然低調だが、当社では、世界の状況がかつてない規模の景気刺激策に支えられて好転・回復しつつある一方、人々がソーシャル・ディスタンシングという新しい「規範」に慣れつつあると感じている。コモディティ分野のなかでは、工業用金属が比較的安定した推移を見せてきた(チャート4参照)。

チャート4:コモディティの年初来パフォーマンス

チャート4:コモディティの年初来パフォーマンス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2019年12月31日~2020年5月13日

世界経済のエンジンが再始動するにつれ、需要の回復がコモディティ全般にとって追い風になると見込まれる。供給過剰から抜け出せない原油とは異なり、工業用金属の需給ははるかにバランスがとれている。銅が良い例だ。2020年の初めには、中国の春節(旧正月)を控えて、上海の取引用倉庫に在庫が幾分積み上がっていた。中国でのCOVID-19の流行により休暇明けの工場再稼働が遅れたが、3月についに再開されると在庫はすぐに減少した。

チャート5:銅の在庫

チャート5:銅の在庫

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2017年5月5日~2020年5月8日

需要の回復についても、エネルギーより工業用金属を楽観視している。エネルギーの最大の消費者は輸送セクターだからだ。大規模な社会閉鎖は最終的に緩和されるだろうが、これは段階的にしか行われないと考える。ウイルスが世界中で完全には封じ込められておらず、ワクチンが依然提供されない限り、外国との間の移動はおそらく政府が最も望まないことだろう。

リートおよびインフラ投資

リートの総合スコアを前月に比べて若干引き下げた。日本政府が4月初旬に緊急事態宣言を発出し、シンガポールは「サーキットブレーカー」(職場や学校を閉鎖する措置)を6月初めまで延長した。これらの厳しい政策は、リートの収益とキャッシュフローにマイナスの影響を与えるとみられる。政府は徐々に規制を緩和すると予想されるが、ショッピングや観光といった消費活動は回復にかなり長い時間がかかる見通しだ。したがって、ホテル・リートや小売リートはキャッシュフローが下方圧力に晒されるだろう。当社では、リートの収益や当面のパフォーマンスに対して慎重なスタンスを維持する。

資産クラスとしてのインフラは、3月初旬までは対株式で相対的に底堅いパフォーマンスを続けていた。COVID-19が健康危機から世界的な金融・流動性危機へと変わると、上場インフラ銘柄は株式とともに大きく下落した。3月下旬以降は、金融・財政当局による大規模な景気刺激策を受けて、当該資産クラスは株式とともに回復してきている。今後の見通しとしては、当社ではインフラ投資に対してポジティブな見方を維持している。まず、バリュエーションの魅力度が依然として高い。英国で上場されているインフラ・ファンドは3つともPBRが約1倍となっているが、バリュエーションがこれほど割安な水準となったのは2008年の世界金融危機の時以来だ。資産クラスとしてのインフラは、平均で4.5%と、国債利回りや株式の配当利回りを大きく上回る非常に魅力的な分配金利回りを提供している。次に、インフラ資産は一般市民に必要不可欠なサービスを提供しており、大半の資産において外出禁止令によるキャッシュフローへの影響が相対的に小さい。たとえば、水道やエネルギー配給などの公共事業は外出禁止令の影響をほとんど受けず、したがって安定的な収益およびキャッシュフローが見込まれる。とは言え、空港や港湾など一部の高ベータ・インフラ資産は、旅行活動や世界の貿易量が落ち込んでいることから、かつてない逆風に見舞われている。

チャート6:インフラ資産と株式の年初来パフォーマンス比較

チャート6:インフラ資産と株式の年初来パフォーマンス比較

「インフラ資産バスケット」は4つの上場インフラ・ファンドから成るカスタマイズド・ポートフォリオ
2019年12月31日=100として指数化
出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2019年12月31日~2020年5月13日

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在(4月17日)の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。