本レポートは、2020年7月10日発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月のアジア株式市場は反発した。世界各国での経済活動再開や緩和的な金融環境をめぐる楽観ムードが、幾つかの国で発生している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第2波への懸念を上回った。アジア株式(日本を除く)の月間市場リターンは米ドル・ベースで8.4%となった。
  • 最も好調なパフォーマンスを見せた市場は香港、台湾、中国であった。香港は、米国や中国の経済指標が市場予想を上回ったことを受けて持続的な景気回復への期待があらためて高まり、中国政府が香港に課した新たな国家安全維持法への対応として米国が同特別行政区への制裁措置を強化するとの根強い懸念が相殺されたため、株式市場が大きく上昇して米ドル・ベースの月間リターンが11.0%となった。
  • インド株式は、国内の新型コロナウイルス感染者数の増加や中印間の緊張の高まりが投資家のあいだで材料視されず、アジア地域の全般的な市場動向に追随して上昇し、月間リターンが米ドル・ベースで6.8%となった。
  • アセアン地域の株式市場は、当月すべてリターンがプラスとなったが、アジア域内の他国市場に対してアンダーパフォームした。フィリピンおよびインドネシアの中央銀行が自国経済を下支えするために利下げを実施するとともに、マレーシアとインドネシアはCOVID-19のパンデミック(世界的流行)からの景気回復を支えるべく追加の財政出動を発表した。
  • より長期的には、アジアの各国政府には改革の勢いを持続させる政治的な意志および能力があるとの確信を維持しており、したがって、より新しくより生産性の高い産業の銘柄を選好する。当社が引き続き有望視しているそのような構造的分野には、ソフトウェア、ヘルスケア、5G(第5世代移動通信システム)、産業オートメーション、再生可能エネルギーなどが挙げられる。

アジア株式

市場環境

アジア株式は経済活動再開を受けた楽観ムードから大幅上昇
当月のアジア株式市場は大幅に反発した。世界各国での経済活動再開や緩和的な金融環境をめぐる楽観ムードが、幾つかの国で発生しているCOVID-19感染第2波への懸念を上回った。また、米FRB(連邦準備制度理事会)が政策金利を2022年まで現行水準に維持する意向を示唆するハト派的な発言を行ったことも、市場センチメントを押し上げた。

当月のアジア株式(日本を除く)の市場リターンは、米ドル・ベースで8.4%と大幅なプラスとなった。国別のパフォーマンスでは、香港、台湾および中国が最も好調となる一方、タイ、マレーシアおよびシンガポールが最も劣後した。

香港および中国株式はアウトパフォーム
香港は、米国や中国の経済指標が市場予想を上回ったことを受けて同特別行政区の持続的な景気回復への期待があらためて高まり、中国政府が香港に課した新たな国家安全維持法への対応として米国が同行政区への制裁措置を強化するとの根強い懸念が相殺されたため、株式市場が大きく上昇して米ドル・ベースの月間リターンが11.0%となった。

6月中旬に北京でCOVID-19の新規感染者数の急増が認められたにもかかわらず、中国株式は同国の製造業および住宅関連指標の回復や政府による直近の資本市場改革を好感して上昇し、月間市場リターンが米ドル・ベースで9.0%となった。北アジアのその他の株式市場については、世界的なテクノロジー株の好パフォーマンスが押し上げ要因となった台湾および韓国も、米ドル・ベースでそれぞれ9.1%、8.1%と高い月間リターンをもたらした。

インド株式はアジア地域の全般的な上昇に追随
インド株式は、国内の新型コロナウイルス感染者数の増加や中印間の緊張の高まりが投資家のあいだで材料視されず、アジア地域の全般的な市場動向に追随して上昇し、月間リターンが米ドル・ベースで6.8%となった。格付機関フィッチ・レーティンングスは、COVID-19のパンデミックがインドの成長および財政の見通しに与える深刻な影響を理由として、同国のソブリン債格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ、またムーディーズは同国の信用格付けを「Baa2」から「Baa3」へと引き下げた。

アセアン市場はアジア域内の他国市場に対して劣後
アセアン地域の株式市場は、当月すべてリターンがプラスとなったが、アジア域内の他国市場に対してアンダーパフォームした。フィリピン、インドネシアおよびシンガポール市場は月間リターンが米ドル・ベースでそれぞれ8.1%、7.0%、4.4%と良好なパフォーマンスを示す一方、タイとマレーシアは市場リターンが米ドル・ベースでそれぞれ2.1%、2.7%と小幅なプラスにとどまった。

当月は、フィリピンおよびインドネシアの中央銀行が自国経済を下支えするために利下げを実施するとともに、マレーシアとインドネシアはCOVID-19のパンデミックからの景気回復を支えるべく追加の財政支出を発表した。シンガポールでは、政府がCOVID-19関連の規制を段階的に緩和して経済活動を部分的に再開し、また2020年7月10日に総選挙を実施すると表明した。

今後の見通し

リスク資産は引き続き十分に下支えされる見込み
世界の大部分でCOVID-19の不安や感染の後続波が続くなか、世界の金融環境は各国の異例の財政・金融政策アクションを受けて極めて緩和的な状態が続くだろう。

リスク資産は、マネーサプライの増加が継続中のパンデミックをめぐる不安を圧倒するなか、引き続き十分に下支えされるとみられる。しかし、実際の景気回復の度合いは、政府の対応、企業および消費者の心理への影響、そして最終的にはワクチン開発にかかる時間の長さ次第だろう。

アジアの大部分の国は、政府の行政運営能力の点で引き続き相対的に優れている。より長期的には、アジアの各国政府には改革の勢いを持続させる政治的な意志および能力があるとの確信を維持しており、したがって、より新しくより生産性の高い産業の銘柄を選好する。当社が引き続き有望視しているそのような構造的な分野には、ソフトウェア、ヘルスケア、5G、産業オートメーション、再生可能エネルギーなどが挙げられる。

バリュエーションが割安で構造的成長が見込まれる分野を引き続き選好
中国では、「量よりも質」を重視する政策方針が、政府のあらゆるレベルで高い一貫性と予見性をもって維持されている。地政学的な不透明感が依然として残るなか、中央政府が今後の不測の事態への備えとして政策余力を残しているとの見方も強い。

しかし、中国政府は今のところ、改革を実施して消費および新たなインフラ(5G、デジタル、自動化、ヘルスケア、環境インフラなど)へのシフトを加速させるという優先目標に、引き続き大きく注力している。こうしたなか、当社では、そのような構造的成長が見込まれる分野において事業を営む、株価が割安でクオリティーの高い企業を引き続き選好する。

北朝鮮の予測不可能な芝居がかった行動にもかかわらず、中国と韓国が中国の対韓制裁の解除を真剣に協議するなど、両国の外交関係が改善しつつある様相であることは良い兆候である。関係の修復が実際の政策変更によって補完されれば、コンテンツ消費を手掛ける会社など韓国の輸出型企業にとって、今後の見通しが改善する可能性がある。韓国や台湾のハードウェアテクノロジー・セクターについては、この分野で革新的でクオリティーの高い企業を引き続き見出しているものの、米中間のテクノロジー覇権争いによって混乱が深まるリスクが高まっていることや一部でバリュエーションが割高となっていることを認識している。

インドの長期見通しについてはポジティブ
当社が過去数ヵ月強調してきたように、COVID-19のパンデミックはインドにとって特に厳しい問題となっており、他国と比べて、より長くより場当たり的なロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされているとともに財政出動の余地もより小さい。しかし、明るい兆候として、政府は製造業振興策「メイク・イン・インディア」プログラムをかなり積極的に推進しており、製造業や石炭業などの産業で幾つかの改革や政策を加速させている。

加えて、インド政府はさらなる電力・労働改革を実施する計画も発表しており、これらの改革によって生産要素の改善が見込まれる。短期的には経済への痛手が大きいものの、当社ではインドのより長期の見通しについてポジティブな見方を維持しており、引き続き民間銀行、デジタル・サービス、物流などの銘柄を選好している。また、特定の消費関連のサブセクターについて有望視の度合いを強めている。

アセアン市場もインドと同様にCOVID-19の打撃を大きく受けたが、厳しい崩壊的状況から徐々に回復しつつある。ベトナムなど一部の国は難局を切り抜けて耐性への評価を新たに獲得しており、アセアン地域へのサプライチェーンの分散を検討している潜在的な海外投資家からの信頼は間違いなく高まるだろうとみている。

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