当レポートは、英語による2020年6月16日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

世界中の大半の国々は、Covid-19(新型コロナウイルス感染症)の封じ込めにある程度の成果がみられていることから、流行拡大を防ぐために実施した規制を様々異なる段階ながらも緩和しつつある。感染者数の増加抑制が続いていることを受けて規制緩和後の「第二波」に対する不安は後退しており、多くの地域における感染検査数の増加と陽性者数の減少は、おそらく中南米の大部分などを除き世界の一部地域でCovid-19が封じ込められたことを示している。また、ワクチン開発が先を競って進められており1,000件を超える臨床試験が実施されていることも明るい材料で、開発期間は「少なくとも18ヵ月」かかるとの当初の予想から加速する見込みである。

一方で、需要はサービス業界も含めて持ち直しつつある。オーストラリアやドイツといった国々ではレストランの予約が急回復している。米国では、5月の雇用統計が大きく上振れするとともに、極めて重要な住宅市場が予想を大幅に上回る販売でV字回復の様相を示しており、自動車販売も上向いてきている。経済面での危険が去ったと言うには時期尚早だが、需要パターンが当初懸念されていたほど長い修復期間を必要としないかもしれないというのは明るい兆しである。

このような幸先良い展開がみられているなかにあっても、地政学的リスクは繰り返し高まるのが通常となったようで、直近では(またもや)米中間で緊張が高まっている。ワシントンと北京の間で丁々発止のやりとりがあったものの、当社では貿易協定の「第1段階」が履行されると依然みている。人種間の緊張激化を受けた暴動の発生において大統領らしい姿勢を見せる機会をまたしても台無しにしてしまったドナルド・トランプ米大統領が、来たる選挙のために当該協定を必要としているのは明白だ。

クロス・アセット

今月から、クロス・アセット(資産クラス間比較)での選好順位を導入し、当チームのクロス・アセット見解を(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方という3つの異なるレベルで論じる。(3)はこれまでも行ってきたが、今回の変更により総合スコアが中立化されることになる。選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながる。

当社では、若干ながらディフェンシブ資産よりもグロース資産を選好している。その主な理由は経済の再開が順調に進んでいることだが、今のところ、経済活動が回復し始めるなかにあって、Covid-19の第2波は回避されている。一方で、各国の中央銀行は引き続き、世界の金融システムと市場を支えるために前例のない規模の政策支援を提供している。行く手には多数のリスクが存在するものの、各国政府が大規模な財政出動を打ち出すとともにその規模をさらに拡大しており、これを受けてより明るいニュースが出てきていることもグロース資産の回復基調継続を一段と支えている。

グロース資産サイドでは、経済再開によって需要が下支えされ始めている一部の株式市場を選好している。ハイイールド債については、バランスシートやキャッシュフローの被った打撃に伴うリスクが依然高いことから、慎重な見方を維持している。ディフェンシブ資産サイドでは、経済成長を取り巻く環境の改善が逆風となるソブリン債よりも、相対的に高い利回り水準が下支え要因となっているクレジットを選好する。リスク要因には政策ミスや(主に米中間の)地政学的緊張の高まりが含まれるが、その両方において金(インフレ)はより効果的なヘッジ手段となる。

資産クラスの選好順位(2020年5月末時点)

資産クラスの選好順位(2020年5月末時点)

上記のアセットクラスおよびセクターの選好順位とスコアは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。リサーチ・フレームワークは3つのレベルの分析に分かれています。スコアは、各資産に対する同チームの相対的見方(各資産が属する資産クラスの他の資産対比)を表しています。各資産クラス内のスコアは、コモディティを除き、平均すると中立となります。これらは投資リサーチまたは投資推奨助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

グロース資産

グロース資産は、株式、オルタナティブ資産(リートおよびインフラ投資)、ハイイールド資産(ハイイールド債および新興国債券)を含み、一般的概念で言う「リスク選好度」に左右されるという点では相関性があるが、内在するリスク・ドライバーはそれぞれ異なる。株式は循環的および長期的な需要の見通しと連動する一方、オルタナティブ資産は経済の定期収入部分からより安定したリターンを生み出す。ハイイールド債は循環的な投資資金フローの見通しに左右される一方、新興国債券は概して世界経済の成長、そして派生的にドルの方向性と連動する。

循環的需要の回復は株式の追い風に

ロックダウン(都市封鎖)は解除されつつあるが、経済活動の停止が広範囲にわたり失業率がかつてないほど上昇していることから、需要がいつ戻るかは誰にもわからない。収入への大打撃や根強いCovid-19不安が、サービス業を中心として需要を阻害するとみられる。

収入については、先進諸国では財政出動によってほぼ十分な所得補償が提供された。経済が稼働再開するにつれて雇用も戻りつつあり、その多くは冬眠状態から抜け出した企業による純粋な再雇用である。需要も回復の初期兆候を見せつつある。依然として着実な回復を頓挫させかねない多数のリスクが存在するものの、各国の政策当局はほぼ一様に「足らないよりはやりすぎる方がよい」と規格外の規模の景気刺激策を打ち出しており、これがグロース資産にとって非常に説得力のある支援材料になっていると引き続きみている。

チャート1:米国の非農業部門雇用者数は上振れ

デフレからリフレへ?

2014年中頃には、米FRB(連邦準備制度理事会)による資産購入プログラムが終了に近づくなか、米ドルが大きく上昇する一方で期待インフレ率は大幅に低下した。根強いドル高を受けて期待インフレ率は過去6年間にわたり概して低迷し続け、今年3月下旬に市場が底値を付けた際には過去最低水準を記録した。それ以降、FRBは金額とスピードにおいて世界金融危機の時を上回る大規模な資産購入プログラムを実施しており、これを受けて小幅ながらドルが下落しインフレ期待が上昇している。

チャート2:ドル高圧力は和らぎつつある可能性があり、インフレ期待の上昇を促している

ドルおよびインフレ期待の方向付けにおいてFRBの政策は一要因にすぎないが、需要が当初懸念されていたよりも早く回復する可能性を考えるのであれば、「じゃぶじゃぶ」状態の過剰流動性と大規模な財政出動の組み合わせは明らかにリフレの炎を扇ぐことになり得る。

グロース資産に対する確信度の高い見方

  • グロース資産のなかでは株式を選好:当社では、グロース資産における他の選択肢、特にリートに対し、伝統的な株式資産をやや選好している。リートは金利上昇の影響を受けやすく、また様々な不動産資産がCovid-19の深刻な悪影響を受ける可能性が高いからだ。インフラ資産は、安定的なキャッシュフローが維持されていることから、引き続き相対的に堅調な推移を見せるだろう。
  • 新興国市場を再び選好:新興国資産は過去10年近く苦戦してきた。世界金融危機後の経済不均衡もあるが、ドル高が逆風となって資金流動性のタイトな状況が続いたことも要因となった。大規模な景気刺激策(および過去10年にわたる改革)を受け、ついに新興国市場にとって有利な流れに変わり、株式、債券、通貨が追い風を受ける可能性があると考える。
  • 長期的な(質の高い)成長は依然として投資魅力が高い:リフレ環境は米国株式から他の国々への資金ローテーションを促す場合がある。しかし、テクノロジーの重要性と当該セクターにおける米国の優位性から、Covid-19後の世界における米国企業の収益見通しについて引き続き楽観視しており、むしろ、サプライチェーンの混乱による痛手が続くとみられる欧州に対してより慎重な見方をしている。
  • 日本のバリュエーションは魅力的、もはや「バリュー・トラップ」ではない:日本株式は非常に割安だが、日本株式の買い好機を示しているのはバリュエーションだけではなく、非常に重要な円もついに下落し始めて企業収益へのさらなる追い風となっている。
  • ハイイールド債に対して慎重:ハイイールド債は、バリュエーションの観点からは魅力的だが、キャッシュフローが大きな打撃を被っており倒産の増加が予想されるため、困難な状況が続くとみられる。需要が正常化し始めれば見通しが改善するのは明らかだが、他のグロース資産の方がリスク調整後の潜在リターンがより高いとみている。

ディフェンシブ資産

グロース資産に対する見方は比較的楽観度を増しているが、一方でディフェンシブ資産は、予想外の下方リスクに対するプロテクションとしてポートフォリオの分散にとって引き続き重要である。まず、当社がグロース資産に有利と考えるシナリオはまだ初期段階にあり、Covid-19の第二波が生じたり需要の回復がより鈍いものになったりした場合には後退しやすい。中央銀行はフルスピードで流動性供給を行っているが、そのような政策は需要の低迷に対しては無力だ。

それでも、金利は先進諸国にわたって大幅に低下しており、このため債券は利回り水準が投資魅力に欠けるばかりでなく、金利がさらに低下した場合の上昇余地も限定的となっている。ディフェンシブ資産のなかでは、リフレ環境下ではソブリン債をアウトパフォームすると見込まれる投資適格社債や金を選好する。

最初に感染の拡大した中国が最初に危機から脱却

Covid-19を切り抜けるにあたり西洋諸国にどのような展開が予想されるかについて、ロックダウンから感染の封じ込め、そして封じ込めるための規制の緩和に伴う成長の回復に至るまで、市場が中国からヒントを得たのは正解だった。中国はその道程を比較的うまく乗り切り、実際に成長が戻ってきているように見受けられる。ただし、同国の輸出品に対する需要が急減していることから、顕著な例外はある。

需要の回復を受けて中国の債券利回りが上昇したことを考えると、足元の兆候が示している通り世界の需要が同様に回復した場合、グローバル債券の見通しは困難なものとなるかもしれない。ここ数週間は、先進諸国の債券利回りも需要の回復見通しから上昇し始めている。チャート3は米国10年国債の利回りを30日前倒して中国10年国債の利回りと比べたものだが、危機に入ってから回復の初期まで驚くほど高い相関性を示している。

チャート3:米国10年国債の利回りは30日遅れで中国10年国債の利回りの動きに追随

重要な点として、先進諸国のソブリン債は、形態は様々異なりながらも、かつては日本銀行のみが採用していた明示的・暗黙的なイールドカーブ・コントロールによって、厳密なサポートを受けている。しかし、日本と異なるのは、米国などの国々の経済は依然インフレ期待の変化に影響を受けやすいということだ。日本では何年にもわたってインフレ期待の横這いが続いている。

ディフェンシブ資産に対する確信度の高い見方

  • ソブリン債よりもクレジットものを選好:当社では長い間ソブリン債よりも、同様のディフェンシブ特性を有する一方でより高い利回りを提供している投資適格のクレジットものを選好してきている。足元では、クレジットものはスプレッドの拡大によって投資魅力がさらに増しており、景気が回復するにつれてスプレッドが縮小する可能性もある。
  • 金はより高いコンベクシティを提供:金利の上昇は金にとってマイナス材料である。債券利回りが上昇すれば、金のネガティブ・キャリーに対する魅力度が増すからだ。しかし、ドル安はコモディティにとってサポート材料となる。債券は利回りがゼロ近くまで低下するにつれコンベクシティが横這いになり始めるが、金価格は上昇を続けられる。最後に、金は政策ミスや米中間の緊張激化のような地政学的リスクの上昇に対して有効なヘッジとなる。
  • ディフェンシブ通貨に対して慎重な見方:大規模な景気支援策と経済成長の回復は「安全な避難先」通貨にとって逆風となることから、米ドルおよび日本円に対する見方をより慎重とし、新興国のようなグロース通貨を選好する。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。