本レポートは英語による2020年8月18日発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 7月の米国債市場は非常に小幅なレンジで推移し、イールドカーブがよりフラット化して月を終えた。月初に発表された米国や中国の経済指標は良好な内容となった。しかし、米国は国内のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染拡大を受けて景気回復が失速したとの懸念が強まった。米中間の緊張が高まったことや、米連邦議会で新たな景気刺激策パッケージをめぐる対立が続いたこともあり、米国債利回りは低水準での推移が続いた。最終的に、月末の米国債利回りは 2年物が前月末比0.043%低下の0.107%、10年物が同0.128%低下の0.529%となった。
  • 7月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.26%縮小したことを主な要因として、月間リターンが2.20%となった。格付け別では、リスク・センチメントの改善を受けてハイイールド債がアウトパフォームし、スプレッドが0.50%縮小してトータルリターンが2.42%となった。投資適格債はスプレッドが0.20%縮小し、トータルリターンが2.13%となった。
  • 当月の発行市場では、計77件(総額322.5億米ドル)の新規発行があった。投資適格債分野の新発債は計38件(総額195.6億米ドル)に上った。一方、ハイイールド債分野の新発債は計39件(総額126.9億米ドル)となった。
  • アジア諸国の6月のインフレは、低水準にとどまったものの5月の水準からは加速した。インドネシアやマレーシアの金融当局は政策金利を引き下げた。一方、シンガポールと韓国は第2四半期に景気後退入りした。中国については、COVID-19関連の制限緩和や政府による景気刺激策の導入を受けて、第2四半期の経済成長率が第1四半期のマイナス成長から回復に転じ前年同期比3.2%に達した。
  • 良好な流動性環境が原動力となって当面アウトパフォームするとみられるインドネシアとマレーシアの債券を選好している。通貨については、シンガポールドル、中国人民元、韓国ウォンがアウトパフォームすると予想している。
  • アジアの信用スプレッドは緩やかな縮小基調が続くと予想する。一方、当社では、こうしたややポジティブな見通しを維持しながら、COVID-19流行の第2波が訪れ社会経済活動の制限が再び導入されるリスクなど、これに対する下方リスクを引き続き注視していく。また、米中間の地政学的緊張が高まり、貿易協定の「第1段階」合意が頓挫するなど悪影響が強まるリスクも根強く残っている。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

月末の米国債利回りは前月末比で低下
7月の米国債市場は非常に小幅なレンジで推移し、イールドカーブがよりフラット化して月を終えた。月初に発表された米国や中国の経済指標が良好な内容となったことを受けて、世界の2大経済大国はCOVID-19流行がもたらしたダメージから回復に向かっているとの期待が高まった。とりわけ米国の6月の就業者数が大幅に増加したほか、同月の総合CPI(消費者物価指数)伸び率も着実に加速した。一方、中国の第2四半期GDP(国内総生産)成長率は、同国がV字回復を辿っていることを示唆した。しかし、月末にかけて発表された高頻度の米国経済データの一部が市場予想を下回り始めるなか、米国は国内のCOVID-19感染拡大を受けて景気回復が失速したとの懸念が強まった。その他、米中間の緊張が高まったことや、米連邦議会で新たな景気刺激策パッケージをめぐる対立が続いたこともあり、米国債利回りは低水準での推移が続いた。月の終盤には米FRB(連邦準備制度理事会)が低金利維持を確約するとともに、緊急融資プログラムを年末まで延長すると発表した。最終的に、月末の米国債利回りは2年物が前月末比0.043%低下の0.107%、10年物が同0.128%低下の0.529%となった。

アジア現地通貨建て債券のリターン

6月はインフレ圧力が強まる
アジア諸国の6月の総合CPIは、低水準にとどまったものの5月の水準からは加速した。韓国のインフレ率は前年同月比でマイナスとなった前月から横ばいとなった。中国では、野菜価格の上昇を主因に6月のCPIインフレが小幅に加速した。また、中国のPPI(生産者物価指数)は、原油やコモディティの価格が上昇したことや前年同月が低水準だったことを反映して加速に転じた。フィリピンの6月のCPIインフレは、食品価格の上昇や原油価格の回復に伴う輸送費の正常化を受けて小幅に加速した。その他、マレーシアとタイの6月のCPIインフレはそれぞれ前年同月比-1.9%、同-1.6%となり、ともに4ヵ月連続でマイナス圏となったが、5月の水準からは大幅に回復した。

インドネシアとマレーシアの金融当局が利下げを実施
マレーシアとインドネシアの中央銀行はともに、COVID-19流行下で引き続き経済成長を下支えする必要があるとし、政策金利を0.25%引き下げた。両中銀は現在、政府が実施した大規模な社会活動制限を主因として、それぞれの第2四半期GDPがマイナス成長になったとみている。注目すべき点として、インドネシア中央銀行の政策声明は、同じく0.25%の利下げが実施された前回会合時に比べてハト派的なトーンが弱まっている。とりわけ7月会合の声明では追加利下げ余地があるとの文言が削除された。対照的に、マレーシア中央銀行はハト派的な姿勢を維持し、追加金融緩和の可能性を残した。加えて、COVID-19感染の第2波が訪れる場合や世界経済成長の回復が予想を下回る場合には成長の下振れリスクがあるとも述べた。

中国の第2四半期経済成長率は3.2%、シンガポールと韓国は景気後退入り
中国は、COVID-19関連の制限緩和や政府による景気刺激策の導入を受けて、第2四半期の経済成長率が第1四半期のマイナス成長から回復に転じ前年同期比3.2%に達した。成長率が市場予想の2.4%を上回った点は注目に値する。対照的に、シンガポールと韓国はともに第2四半期に景気後退に陥った。シンガポールの経済成長率(速報値)は、サーキットブレーカー(職場や学校を閉鎖する措置)が延長され大部分の企業が休業するとともに外需が鈍化したことを受けて、前期比-41.2%となった。同様に、韓国の経済成長率は第1四半期の前期比-1.3%に続いて同-3.3%となった。第2四半期のマイナス成長の主因は、輸出の急減、政府支出や設備投資の減速であった。

今後の見通し

インドネシアおよびマレーシアの債券を選好
今後発表される2020年第2四半期の経済指標は、記録的な悪化を見せる可能性が高く、この兆しは僅かながら2020年第1四半期の数字にすでに表れている。GDP成長率は第2四半期に底を付けたのち、年の後半には回復するとみられるが、回復のペースにはばらつきが出ると予想される。一方、流動性注入と資金調達市場改善という主要中央銀行の断固としたアクションにより、リスク・センチメントが安定化するにしたがってキャリーを追い求める動きが引き続き後押しされるとみている。また、米FRBは金利がより長期にわたってより低い水準に維持されるだろうと繰り返し述べており、そうなればアジアへの資金フローが促されるものと想定される。

アジア域内では、流動性環境が良好なインドネシアとマレーシアの債券が当面アウトパフォームするとみている。インドネシアの中央銀行と政府間で財政負担を分担する取り決めによって、債券の純発行額が減少し供給面の懸念が幾分軽減されている。また、政府関係者は同取り決めが緊急事態下での一時的な政策であると断言している。一方、マレーシア中央銀行には追加金融緩和余地があり、実施されれば同国債券にとって好材料になるとみられる。なお、両市場とも海外投資家の保有比率が依然として比較的低く、海外からの投資資金が戻ってくれば両国の債券にとって良好な兆しとなるであろう。

とは言え、当社では下方リスクについても継続的にモニターしている。特に注視しているのは、世界的にCOVID-19感染者数が再度増加する第2波リスク、そして米中間における地政学的緊張の再燃で、これらは当面再び投資家心理を悪化させる要因となり得る。しかし、リスク回避ムードが広がったとしても、政府と中央銀行(特にFRB)のアクションによって市場の急落は回避されるものと見込まれる。

シンガポールドル、中国人民元、韓国ウォンがアウトパフォームすると予想
域内の他の中央銀行とは異なり、シンガポール金融通貨庁は以前の会合でシンガポールドル名目実効為替レートの政策バンドの中央値を変更したのち、足元では需給ギャップのマイナス幅がさらに拡大する可能性があるとの見方にもかかわらず、安定的な金融政策運営が強く好まれると繰り返し発言している。当社では、このことがサポート材料となってシンガポールドルは当面アウトパフォームすると考えている。また、中国人民元と韓国ウォンについてもポジティブな見方をしている。当社では中国証券市場への海外投資家の資金流入が拡大すると見込んでおり、それに加えて中国のマクロ経済指標が改善するなかで米ドル安環境にある。これらの要因は引き続き中国人民元高を後押しするだろう。同様に、好調なテクノロジーサイクルを受けて韓国の輸出品に対する需要が高まり、韓国ウォンの上昇を支えるとみられる。

アジアのクレジット市場

市場環境

7月のアジアのクレジット市場は上昇
7月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.26%縮小したことを主な要因として、月間リターンが2.20%となった。格付け別では、リスク・センチメントの改善を受けてハイイールド債がアウトパフォームし、スプレッドが0.50%縮小してトータルリターンが2.42%となった。投資適格債はスプレッドが0.20%縮小し、トータルリターンが2.13%となった。

月初に発表された米国や中国の経済指標が良好な内容となったことを受けて、世界の2大経済大国はCOVID-19流行がもたらしたダメージから回復に向かっているとの期待が高まった。中国の第2四半期GDP成長率が良好な結果となり、こうした回復トレンドが大いに確認される形となった。財政政策面では、EU(欧州連合)首脳が重要な意義を持つ7,500億ユーロ規模のEU復興基金の設立について合意に達し、その総額や補助金と融資の割合などの点において市場の期待に沿う結果となった。こうした良好な市場環境下、アジアのクレジット市場では、悪化が続く米中関係、そして米国や経済規模の大きい一部の新興国におけるCOVID-19感染者数の急増が概ね材料視されず、信用スプレッドが縮小した。月の半ばにかけては、COVID-19のワクチン候補に関するポジティブなニュースに加え、米FRBがすべての緊急融資プログラムを年末まで延長すると発表したことで、リスク・センチメントが一段と強まった。また、需給面も月を通して良好な状況が続き、ハードカレンシー建て新興国債券ファンドへ投資資金が流入した。国別では、インドネシアのクレジットものがアウトパフォームする一方、香港のクレジットものはパフォーマンスが劣後した。月の初めに新たな国家安全維持法が正式に導入され、香港のクレジットものに対する投資家センチメントが冷え込んだ。その後、香港でCOVID-19感染者数が再び増加したことも香港のクレジットものへの需要に悪影響を及ぼした。とは言え、スプレッドは前月末比で縮小して月を終えた。

7月も活発な起債活動が継続
当月の発行市場では、計77件(総額322.5億米ドル)の新規発行があった。投資適格債分野の新発債は、中国の国家電網海外投資(State Grid Overseas Investment)の準ソブリン債ディール(2トランシェで総額14.5憶米ドル)、ICBC Hong Kongのディール(2トランシェで総額16億米ドル)、中国建設銀行のディール(2トランシェで総額12億米ドル)を含め、計38件(総額195.6億米ドル)に上った。一方、ハイイールド債分野の新発債は計39件(総額126.9億米ドル)となった。

アジア・クレジット市場の推移

今後の見通し

アジアの信用スプレッドは引き続き緩やかに縮小する見通しも、下方リスクは残る
アジアの信用スプレッドは緩やかな縮小基調が続くと予想される。大半のアジア諸国は第2四半期中に景気減速の最悪期が訪れた可能性が高く、発表頻度が高い経済指標は景気回復が進んでいることを示唆している。アジアの銀行や事業会社の上期および第2四半期決算発表シーズンが間もなく始まるが、コロナ関連のロックダウンによる深刻な影響を映し出す内容になる見通しである。しかし、経済全般の回復に伴い、年後半の業績は前期比ベースで改善するとみられ、格下げやハイイールド債のデフォルトが増加するものの総じて問題のない範囲にとどまるであろう。

それと同時に、先進国と新興国の両方の中央銀行は、クレジット市場に的を絞った支援策を含め、緩和的な金融政策を維持すると予想される。多数の国で積極的な財政政策が講じられていることも、経済全般やクレジット・ファンダメンタルズへの追い風を強めている。しかし、ここ数ヵ月間で信用スプレッドが急速な縮小回復を見せた後であり、投資家心理が過去に類を見ない経済ショックを受けて依然不安定な状況にあることから、スプレッドは縮小ペースが鈍化するとともにありがちなあや押しに見舞われる局面も増えるだろう。

当社では、こうしたややポジティブな見通しを維持しながら、COVID-19流行の第2波が訪れ香港やオーストラリア、米国の一部の州などで社会経済活動の制限が再び導入されるリスクなど、これに対する下方リスクを引き続き注視していく。5月や6月に経済活動が再開されると当初は景気が大幅に回復したが、その後はCOVID-19新規感染者数が再び増加しており、年後半に見込まれる景気回復に対する下方リスクをもたらしている。米中間の地政学的緊張が高まり、貿易協定の「第1段階」合意が頓挫するなど悪影響が強まるリスクも根強く残っている。

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