当レポートは、英語による2020年7月15日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

過去数ヵ月にわたるリスク資産の着実な回復を経て、市場は次第に熱狂度を増す状態に入りつつあるようだ。マクロ経済指標は悲観的な市場予想をたやすく上回り強気ムードを後押ししているが、米国やその他の国々でウイルス感染の再拡大が加速するなか、結局は懐疑的な見方も生まれている。優勢なセンチメントは週によって変わるが、それに関係なく多くの経済指標に表れているノイズを見極めようとすると、世界経済の回復は軌道に乗っているように見受けられる。これまでのところの明るい材料は、雇用と小売り活動の堅調な回復だ。より長期の需要見通しは依然としてCovid-19(新型コロナウイルス感染症)の展開次第だが、景気回復の初期兆候が見られていることは心強いと言える。

当局がウイルスとの闘いについてより多くを学ぶにつれ、各国は経済活動の再開と公衆衛生の保護のバランス調整という待ち望まれた議論を行うことができる。検査体制が不十分でイタリアやニューヨークなどで医療崩壊が生じたCovid-19第一波とは異なり、現在では多くの国の政府がより準備を整えている。大半の国々は、検査および接触者追跡調査の能力を大幅に増強し、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)やマスク着用の公的指針を発するとともに、最も罹患しやすい層を守る戦略を導入した。これらの措置が、救命とウイルス流行鈍化を促進しながら同時に比較的安全な経済再開を可能とするものと予想される。

そのような進展から、多くの国の政府は全国的なロックダウン(都市封鎖)をフルに復活させずに済むかもしれない。一定の活動は制限が続くとみられ、したがって経済活動がパンデミック(世界的流行)前の水準まで回復するにはある程度時間がかかると想定される。それでも、3月や4月に見られた深刻な状態に比べれば、より落ち着いた状況となる可能性はある。とは言え、有効で広く利用可能なCovid-19用ワクチンは未だ開発されていない。この点については、ワクチンを特定し必要な臨床試験を進める競争において、複数の企業から前進が報告されている。

これまでのところ、当局によって大規模な財政・金融政策対応が実施されており、政策当局は追加の対策を実施する用意があるように見受けられる。これは経済がCovid-19の影響に対処するにあたって支援となるが、他のリスクも迫ってきている。来たる11月の米国選挙については、世論調査が急速に振れており、秋が近づくにつれ間違いなく不透明感が増すだろう。中国とそれ以外の国々との関係も重要な潜在的ストレスポイントであり、市場の注目が集まるものと思われる。見通しは依然として経済成長が回復に向かう可能性を示しているが、不透明感も強まっていることから、下方リスクをヘッジしておくのが賢明と言える。

クロス・アセット

先月、市場がボラティリティの急上昇に良好な反応を見せたことを受けて、当社では引き続きディフェンシブ資産よりもグロース資産を選好する。見方はグロース資産寄りであるものの、米国でCovid-19の新規感染者数の増加が再加速していることからもわかるように、ウイルスについては概して予測不可能であることも依然尊重しており、したがって十分な分散投資を行うアプローチの選好を継続する。

グロース資産内では、需要の正常化が続くなか、一部の株式市場にさらなる上昇余地があると依然みている。テクノロジー株やクオリティ株は、急速で革新的なソリューションを必要とする「混乱」の世界においても、概して優位性を保つ可能性が高い。ハイイールド債に対しては、景気の循環的好転が加速していること、エネルギー価格があらためて下支えされていることから、慎重な見方を後退させた。その代わりに、依然苦戦の続いているリート・セクターおよび上場インフラ・ファンドなど、よりディフェンシブなインカム収入源に対する見方において慎重度を引き上げた。

ディフェンシブ資産内では、利回りプレミアムが得られることと景気見通しの改善が企業クレジットを下支えするとみられることから、ソブリン債よりも投資適格のクレジットものを選好する。また、巨額の景気刺激策を背景に需要が回復するにつれインフレが主要なリスクになると考えているため、インフレ・ヘッジとなる資産も選好する。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産の上昇相場は、米国ではCovid-19第二波の拡大を受けて勢いを幾分失ったかもしれないが、政策による大規模な支援と経済指標の上振れが相まって、株式市場の大幅下落を抑制しているようだ。当社では依然として米国株式を選好しており、特にCovid-19の影響を比較的受けにくいとみられるテクノロジー・セクターを有望視している。しかし、需要の正常化に伴って米国以外にも投資機会の広がりが見られており、特に景気刺激策がより最近加速している中国ではそれが顕著である。


悪材料が最も少ない市場から資金を移すローテーション?

米国株式は10年近くのあいだ、グロース資産のなかで最も良好なパフォーマンスを示してきた。この一因はかつてないほど優勢となっているテクノロジー・セクターにあるが、新興国経済が危機の連続で暗礁に乗り上げたり、その他の国々の経済成長が失望的な水準にとどまったりしたことも要因となった。しかし、米国以外の市場がアウトパフォームするチャンスに恵まれる状況が整ってきているかもしれない。

中国を襲ったデフレ・ショックの影響が世界中に波及した2014年以降、資本が米国に流れて米国株式と米ドルを押し上げてきた。通貨のパフォーマンスには数多くのドライバーがあるが、資本の流れはもちろん重要なドライバーであり、「安全な避難先」を求める資本が米国に流入した結果として起きたドル高は、負のフィードバック・ループとなって米国以外の市場のパフォーマンスを一段と低迷させた。

しかし、潮の流れはついに変わりつつあるのかもしれない。世界中で行われている巨額の景気刺激策は、その結果としてリフレが近い兆候をもたらし始めているが、リフレは通常ドル安を伴い、米国以外の株式市場がアウトパフォームする展開につながることが多い。現在が資本の流れがシフトする転換点にあるのかを断定するには時期尚早だが、そのような現象を市場が織り込み始めている初期兆候は窺える。

チャート1

中国A株が突出

当社では中国に対する見方を上方修正した。これは、Covid-19の比較的順調な制御による需要の回復、景気刺激策の拡大、5月に株式市場の重石となっていた米国との対立の沈静化など、ファンダメンタルズが良好なことを受けたものだ。株式のファンダメンタルズに対してポジティブな見方をしている一方、A株市場が国内個人投資家からの資金フローに左右されやすいことも認識しており、ここ数週間は、当局が株式市場へのサポートを示唆したことで多額の投機的資金が新たに流入している。

当社では、流動性を原動力とする上昇相場を追いかける気はないが、テクノロジー・インフラへの広範な投資など民間セクターに向けられた政府の景気刺激策や依然拡大が続いている消費需要を牽引役とするA株式のファンダメンタルズの改善を、長いあいだ評価してきた。とは言っても、流動性は明らかに好材料であり、現在のように株式が他国市場に対して依然大幅なディスカウントで取り引きされ、バリュエーションによって下支えされている場合はなおさらである。

チャート2

グロース資産に対する確信度の高い見方

  • 欧州株式を「中立」に引き上げ:欧州は、Covid-19第二波の回避において米国よりも健闘しており、中国からの需要の回復が追い風となって需要が改善している。財政政策による支援も十分で、最近発表されたEU(欧州連合)復興基金が承認されれば、より脆弱な周辺国向けに7,500億ユーロの追加資金が注入される可能性がある。ユーロの上昇幅は、今のところ企業収益の重石となるほどではない。
  • 新興国ではアジアに投資配分を戻す:中国に対する見方を上方修正すると同時に、中南米に対しては慎重な見方を強めており、中南米ほどではないもののEMEA(新興欧州・中東・アフリカ)に対しても同様である。中南米市場は、バリュエーションの割安さと域内諸国が輸出するコモディティへの最近の需要および価格サポートを背景に上昇した。しかし、バリュエーションは今では割安度が後退しており、一方で同地域はCovid-19と不安定な政局が依然深刻な問題となっている。
  • ハイイールド債を「中立」近くに引き上げ:スプレッドは中央銀行および財政からの支援策を主な背景として3月下旬以来大幅に縮小しているが、米国ハイイールド債市場に大きな割合を占めるエネルギー・セクターを含めファンダメンタルズが改善していることから、当社ではスプレッドにさらなる縮小余地があるとみている。
  • ディフェンシブ・グロースよりも循環的グロースを選好:引き続き株式をよりディフェンシブな他の資産に対して選好する。リートについてはCovid-19に関連して見通しが厳しいことから慎重な見方を維持している。インフラ投資は資産クラスとして依然有望視しているが、グロース資産内の他の資産クラスに対して見方を引き上げたため、見通しの慎重度が相対的に強まった。

ディフェンシブ資産

各中央銀行による大規模な量的緩和プログラムは、グロース資産の追い風となる一方でグローバル国債市場からボラティリティを取り去った。経済指標が回復を示すとの予想に立つと債券を大幅にアンダーウェイトしたい誘惑に駆られるが、各中央銀行が景気支援から退くまでは金利は上昇しないかもしれない。中央銀行高官からのフォワード・ガイダンス(政策金利の先行き指針)は、緩和環境を2021年およびその先まで継続することへのコミットメントを示そうと苦心している。米FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長が先月語ったように、FRBは「利上げについて考えることを考えすらしていない」。

当社ではこれを多くの理由からかなりの好材料とみており、Covid-19をめぐって継続的な不透明感に直面しているマルチアセットの投資家にとってはなおさらであると考えている。債券資産は、グロース資産が回復する一方で中央銀行が債券利回りの長期的な大幅上昇を防ごうとするなか、分散と安全をもたらすことができる。さらに、金利の安定と金融・財政政策による継続的支援の組み合わせは、投資適格のクレジットものがアウトパフォームする環境をもたらす。結果として当社では、ソブリン債よりも投資適格のクレジットものを選好するとともに、金について重要なディフェンシブ資産との見方を維持する。貴金属はインフレ環境、特に通貨価値が中央銀行の金融緩和政策を受けて損なわれる可能性がある場合には、良好なパフォーマンスを見せる。

投資適格債市場内でのローテーション

ディフェンシブ資産は、ソブリン債や金といった伝統的な「安全な避難先」資産を中心に、年前半は良好なパフォーマンスとなった。リターンの水準はより低かったものの、投資適格のクレジットものも大半の地域で堅調なパフォーマンスを見せた。チャート3は、いくつかの投資適格クレジット市場について、OAS(オプション調整後スプレッド)の推移を示したものだ。明らかなスプレッドの急拡大は、今年の前半にグロース資産が見舞われたボラティリティ上昇を反映している。しかし、どの市場においてもOASはピーク水準から縮小回復し、パンデミック以前のスプレッド・レンジに戻っている ― ただし、1つの市場を除いては。

チャート3

アジアのクレジットのスプレッドは、他市場のスプレッドの縮小回復に劣後し、依然としてパンデミック以前よりも拡大した水準にある。アジアのスプレッドは米国や欧州の同格付け銘柄に比べて大きい場合が多いが、現在のスプレッド・プレミアムは特に大きい。このスプレッド格差の理由としてよく挙げられるのが、米国や欧州の社債発行体の方が信用クオリティが高いとの認識と相対的な流動性の高さの2つだ。しかし、アジアのCovid-19対策が流行の封じ込めに概ね成功しており、欧州と米国のいずれと比べてもそう言えるであろう現在の状況下では、アジアのスプレッドと他地域市場のスプレッドとの格差は縮小が続くものと予想する。結果として、当社では利回りが相対的に高いアジアの社債に対するポジティブな見方を強め、その一方で米国およびオーストラリアの投資適格クレジットに対する見方を引き下げた。

ディフェンシブ資産に対する確信度の高い見方

  • ソブリン債よりも投資適格のクレジットものを選好:信用スプレッドはここ1ヵ月縮小を続けているが、バリュエーションは依然ある程度魅力的な水準にある。財政・金融政策面で大規模なCovid-19対策が世界中で実施されていることは、多くの社債発行体にとって引き続き追い風だ。結果として、投資家のリスク選好度の継続的な回復を受け、投資適格のインカムものに対しては強い需要が続くものとみられる。
  • マイナス利回りの債券は回避:これはおそらく言うまでもないことだろうが、最終利回りは依然として重要だ。債券利回りが当社の予想通り概ねレンジ内の推移にとどまるとすれば、マイナス利回りの債券はアンダーパフォームすると想定される。
  • インフレ連動債よりも金を選好:ブレークイーブン・インフレ率(インフレ連動国債の相場に織り込まれた年平均物価上昇率予想)は、極めて当然ながら原油価格の反発と時を同じくして回復したが、それでも2019年に見られた1.5~2%のレンジを依然下回る水準にある。新型コロナウイルスの経済への影響は深刻であり、インフレはかなりのあいだ政策当局の懸念材料とはならないだろう。しかし、金は、世界中の中央銀行によるリフレ政策や拡張的な財政支出プログラムに対して、引き続き魅力的なヘッジとなる。そのような政策は、必要である一方で通貨価値に対する潜在的な脅威でもあり、したがって実物資産への需要を下支えするとみられる。
  • ディフェンシブ通貨に対して慎重な見方:ディフェンシブ通貨、すなわち米ドルと日本円に対しては、慎重な見方を維持する。米国以外の国における経済成長の回復や中央銀行の政策を受けた世界規模の緩やかなリフレは、米ドル需要にとって下方圧力となりやすい。また、このように世界の状況が改善しつつあることは、日本円のように伝統的な「安全な避難先」通貨への需要も弱めるとみられる。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。