当レポートは、英語による2020年8月17日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

世界経済は回復を続けている。そのペースはやや落ちているが、これは米国のサンベルト(南部の温暖地帯)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)第2波の影響を考えれば予想されたことだ。良い知らせとしては、米国のCOVID-19の新規感染者数は再び鈍化の兆しを見せている。しかし、スペインやアジアの一部など、他の国・地域では新たな感染拡大が起きており、これには100日間新規感染者が報告されていなかったベトナムも含まれる。そのようなニュースは不安にさせられるが、それでも世界は大規模な経済活動停止に訴えることなく対処していく方法を編み出している。今後について、当社では同様の展開が続くとみている。ウイルスが引き続き世界中に蔓延し、国内での流行に見舞われる恐れが全くないと言える国はない状況下、景気回復は続きながらも断続的なペースとなるだろう。

米国では、主要な政策イニシアチブをめぐりお決まりとなってきた政治劇の渦中で政府が次の景気刺激策を議論しているが、当社ではそのような策が封印されると考えている。米国で追加の財政出動が必要なのは明らかだが、パンデミック(世界的流行)がますます長引く様相を呈していることから、財政タカ派は非常にまれで、支出にほぼ制限を設けない「輪転機効果」派が多いように見受けられる。リカードの等価定理に基づくと、民間セクターは、向こう数年内に実施される可能性の高い増税を見越して支出を控え貯蓄や手元資金を増やすだろう。しかし、MMT(現代貨幣理論)の表面的な世界秩序においては、どんなことでも起こり得るように思われる。

需給ギャップの解消を促すには景気刺激策が必要だが、インフレ期待の急上昇は興味深い展開である。ワクチンに目処がついてきた様子である一方で十分な流動性がシステムに依然あふれていることから、リフレが可能性の高いシナリオとなり得る。当面の追い風は米ドル安で、これが世界中でリフレを、延いては成長を促す。しかし、そのような動向は金価格にとっても追い風となっている。2000年代にそうであったように、金価格の上昇は強気相場と矛盾するものではないが、他のシステミック・リスクのバロメーターとして注視していく価値はある。

今のところ、十分な流動性、継続的な景気刺激策、明らかなドル安に加えて経済活動回復の兆しが、リスク選好ムードの主な原動力となっているようだ。景気回復のペースと迫る米国の選挙シーズンについては、慎重な見方を維持する。後者は、最終的な結果、そして再選運動の一部としてドナルド・トランプ大統領がかつてないほど強めている中国への圧力の両方をめぐり、明らかに不透明感を増幅させている。

クロス・アセット

米国がCOVID-19の第2波を受けて経済成長リスクに直面している一方、世界の他の国々では成長が上向いて世界の総需要を支えている。当社ではグロース資産を選好し、なかでも米国からその他の国々への一定のローテーションから恩恵を受ける立場にある地域をより有望視している。COVID-19下の世界ではテクノロジー・セクターのアウトパフォームが続き、米国は依然として同セクターの最も優れた企業を有していることから、本格的なローテーションを見込むのは時期尚早だが、アジアから欧州、新興国にわたるリフレ的成長によって局面が変わり始めるかもしれない。

グロース資産のなかでは、需要の回復とドル安を受けて新興国の株式および債券に対するポジティブな見方を強める一方、リートに対する慎重な見方を強めた。金利の低下はリートの追い風となり得るが、商業用不動産への悪影響はますます深まり長引く様相を見せている。

ディフェンシブ資産に対しては中立のスタンスで、依然として金を(大幅に上昇したにもかかわらず)選好している。また、リフレ環境では良好なパフォーマンスとなりやすい投資適格クレジットを、ソブリン債に対して選好する。中国の債券は、特に先進国債券対比で引き続き魅力的な利回りを提供している。

* マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産は続伸し、当月は第2四半期の企業利益および売上げの伸びが市場予想を大幅に上回ったことがサポート要因となった。景気刺激策が重要であることに変わりはなく、当社では米国連邦議会が同国の救済策をさらに延長すると見ているものの、共和党と民主党のあいだでは依然隔たりが大きく、給付金は7月末でそのまま期限切れとなった。明るい材料としては、米国のCOVID-19第2波が拡大鈍化の兆しを見せているとともにドル安が続いており、世界の需要の下支えに貢献している。しかし、当社では潜在的ストレス分野も注視している。1つの例はトルコで、同国は対外収支が大幅な赤字となっており、自国通貨を支えるための外貨準備もない。そのようなストレスが、南アフリカやブラジルなど他の脆弱な新興国に広がっている兆候が一部見られている。当社では、トルコが通貨を支えるにあたって伝統的な政策に戻るのではないかと考えるが、しばらくはより脆弱な新興国はボラティリティの高い市況が続くと予想する


欧州では今後経済活動や企業収益が回復するか

第2四半期は、テクノロジー・セクターの割合がより大きいことが主な要因となって、米国の企業収益が依然欧州を上回った。これは、テクノロジーが、ハードウェアの需要増ばかりではなく明らかな理由によるソフトウェアおよびオンライン小売りの需要増の両面で、今回の危機の恩恵を受けている主なセクターであることを考えると、妥当だと言える。しかし、欧州の経済活動は回復のペースを増しており、これを受けて企業収益の回復も今後数ヵ月に加速が見込まれる。

欧州では、COVID-19の封じ込めと第2波の回避に成功したことで、米国よりも大幅に早く経済活動が正常化している。加えて、大規模な景気刺激策と中国からの需要の回復加速も追い風となり、欧州経済のパフォーマンスは当面米国経済を上回るものとみている。

チャート1

そのような見方のリスクはテクノロジー・セクターの圧倒的優位が続くことで、これは同セクターの相対的に明るい見通しを考えれば難しい議論ではないだろう。しかし、当社では規制リスクの上昇を懸念している。最大手クラスのテクノロジー企業はそれぞれの業界で圧倒的なシェアを誇っており、競争の脅威はほぼなく、それに注目した米国政府は重要な規制面の逆風をもたらす結果となり得る多くの調査を実施しているが、現在の市場はこれを織り込んでいない。選挙リスクが高まっていることもあり、米国以外に幅広く成長の源泉のリバランスを行うのは妥当であると当社ではみている。


シンガポール市場は依然としてパフォーマンスが劣後

シンガポール市場に対しては慎重なスタンスを維持しているが、最近では、新たな成長見込みというよりは魅力度の高いバリュエーションを主な理由として、よりポジティブな見方に転じている。

チャート2

シンガポール株式は、インデックスでの構成比率が高い銀行セクターの株価動向に概ね左右される。同セクターは、世界中のイールドカーブの大幅な低下・フラット化を受けて収益見通しが悪化している一方、COVID-19に関連した不良債権の増加も引き続き逆風となっている。

シンガポールの銀行にとってさらなる悪材料となったのは、MAS(シンガポール金融通貨庁)が銀行に対し配当の上限を設けたことだ。これは、不透明感が強いなかで銀行の財務健全性を保つ策として実施されたものだが、市場は銀行株の魅力度を当該策実施前よりも一層低下させるものとみなした。それでも、シンガポールの銀行はバランスシートが強固であり、バリュエーションも先行き見通しを過度に織り込んでいる可能性があることから、当社では見方の慎重度をやや後退させた。


グロース資産に対する確信度の高い見方

  • 欧州株式を選好順位の最上位に引き上げ:当社では、欧州について、他地域よりも早い経済活動正常化が今後数ヵ月の経済成長および企業収益の相対的な強さとして表れるとみている。引き続き十分な景気刺激策が実施されているとともに中国からの需要が回復のペースを増しており、一方でユーロ高は企業収益や需要の重石とはなっていない
  • 中国の選好度をさらに引き上げ:中国はポジティブな見方をさらに強め、その一方でアジアの他国およびEMEA(新興欧州・中東・アジア)に対しては慎重なスタンスを強めた。中国は新型コロナウイルス第2波の脅威をなんとか封じ込めており、景気刺激策を加速させているとともに経済成長が世界のどの国よりも通常の水準に近い。不安材料としては、米国との急速な緊張激化などが挙げられる。
  • 質の高い新興国の通貨を引き続き選好するが、トルコは慎重に注視:国際収支の問題がトルコリラに下方圧力を加えている。南アフリカやブラジルなど他のより脆弱な新興国も、ネガティブなセンチメントの波及を受けて為替圧力に晒されている。当社では、最終的にトルコが自国通貨への圧力を軽減すべく利上げを行うとみているが、今のところは依然当面のリスクである。
  • リートは依然低迷:リートはホテルおよびリゾート・セクターを中心に収益が軟調となったが、これは予想されたことだ。残念ながら、当社では同様の逆風が続くとみており、少なくともワクチンが開発されるまでは、好転の兆しが見えてくることは当面ほぼないだろう。

ディフェンシブ資産

世界中の中央銀行による鎮静化策の下、ソブリン債市場はぎこちない静けさが訪れている。経済活動の回復が続くなかにあっても、債券利回りは大半の地域で非常に低い水準で安定している。パンデミックや来たる米国の選挙、その他の地政学的懸念材料をめぐってリスクが残るなか、中央銀行からのフォワード・ガイダンスは緩和的な金融政策の継続を呪文のように繰り返している。このような状況はすべて、ディフェンシブな資産クラスを引き続き下支えしていくと想定される。

グローバル投資適格債の信用スプレッドは、パンデミック前の2019年によく見られた水準へと縮小を続けている。高格付けクレジットものには依然として投資魅力があるが、今後はスプレッド縮小のペースが徐々に鈍化するとみられる。それでも、中央銀行の資産購入プログラムが信用スプレッドの持続的な拡大を防ぐセーフティネットとなっていることから、クオリティの高い社債の利回りプレミアムに対しては強い需要が継続するだろう。

経済指標が持続的な回復を見せるまでは緩和的な金融政策と惜しみない流動性環境が維持されることにより、名目債券利回りは安定的に推移し実質利回りは低下するだろう。実質利回りの低下は通常、金にとってプラス材料であるが、金はテクニカル面での重要な指標として、主要なレジスタンス・レベルである1トロイオンス1,800米ドルを突破している。大規模な量的緩和プログラムも、不換通貨にリスクをもたらし、価値保蔵手段としての金にとって追い風となる。結果として、当社では金が好調なパフォーマンスを続けると予想しており、ディフェンシブ資産のなかでコモディティを投資適格クレジットとともにソブリン債よりも有望な配分先とみている。


中国には緩和の余地

中国人民銀行は、伝統的な金融政策による追加緩和余地が大きい唯一の主要中央銀行である。同中銀は、COVID-19危機に見舞われた最初の国として、2月・3月の両月に利下げを行うとともに年序盤に緊急流動性の供給を行った。他の主要中央銀行が経済と金融環境に対するパンデミックの影響を和らげようと積極的に利下げを行うなか、中国人民銀行はより大幅に金利を引き下げるとの期待が高まり、それがマネー・マーケットにも織り込まれていた。しかし、中国で無事に経済活動が再開されその後の経済指標が改善を示したことを受けて、中国人民銀行は緊急態勢を後退させ、資金調達コストの急低下に促されたかもしれない過剰債務に伴うリスクを抑制すべく迅速に行動した。

チャート3

中国はこれまでのところパンデミックを比較的上手く切り抜けているが、経済の回復は引き続きまだら模様だ。生産と公共投資は大きく回復して不動産市場も熱を帯びつつあるが、民間の投資および消費は回復ペースがより鈍い。結果として、当社では中央銀行が長期にわたり緩和的姿勢を維持すると予想している。対外的には、世界の需要はウイルス流行の第2波・第3波のなかで依然弱く、一方で米中間の緊張は米国大統領選を控えて激化が続くとみられる。加えて、人民元が安定しており対米国債の利回り格差が魅力的な水準にあることから、海外からの資金流入が促される。

チャート4


欧州の国債のなかではイタリアを選好

パンデミックは初期にイタリアに大きな打撃を与えたが、その後、当局はなんとか事態収拾に漕ぎ着けた。同国はパンデミック以前にすでに財政難に直面しており、COVID-19対策のコストは広く認められていた弱みにさらなるストレスを加えた。

EU(欧州連合)の安定・成長協定は、加盟国の財政政策の管理を目的とする一連の規定である。過去、イタリアは財政赤字と総政府債務の対GDP比の両方において上限超えの常習犯であった。これによってイタリアは長いあいだEUの財政面での「問題児」とされ、そのため政府債務において大幅な利回りプレミアムを支払うこととなった。しかし、イタリアだけでなく、他のEU諸国も当該規定の順守に苦労する局面があった。

パンデミックと闘うにあたって大半のEU加盟国の財政に大きな負担がかかっていることから、当該規定は中期にわたって実質的に二の次の扱いとなり、焦点はいかなるコストを払っても景気回復を支援することに移る。これまでのところ、欧州諸国の当局による対応は大規模なものとなっている。ECB(欧州中央銀行)は金融システムにかなりの流動性を提供しており、EU諸国のリーダー達は7,500億ユーロの次世代EU復興基金の設立を合意している。EUの債券発行によって資金調達が行われるこの基金は、欧州をより緊密な財政統合へと前進させる歴史的な一歩である。同基金はまた、EUがより脆弱な加盟国を支えるために全体として行動する意志をあらためて示しており、より通例となっている責任追及や健全な加盟国による脆弱な加盟国への説教からの変化と言える。

EUがあらためて一体化しているこの環境下、ユーロ圏のより脆弱な加盟国への支援はイタリアにとって特に重要であり、結果として欧州の債券利回りがドイツの利回りへと収斂すると見込まれる。イタリアの債券は、上述のECBおよびEUの政策からすでに大きな恩恵を受けており(チャート5参照)、ドイツとフランスが5月末に最初に欧州復興基金の計画を発表して以来アウトパフォームしている。当社ではこの傾向が続くとみており、イタリア債券の選好順位を欧州のなかで最上位へと引き上げた。

チャート5

ディフェンシブ資産に対する確信度の高い見方

  • 依然ソブリン債よりも投資適格クレジットを選好:投資適格社債は、一段のスプレッド縮小とともに利回りプレミアムが投資家に引き続き有利に働くとみている。同セクターのなかでは、アジアと米国に対してポジティブな見方を強める一方、オーストラリアに対して慎重な見方を強めた。オーストラリアの信用スプレッドはすでにパンデミック前の水準へと戻っており、新規発行もほとんどないため、新たな投資が難しくなっている。結果として、それ以外の地域の方がより有利な投資機会を見出すことができる。
  • ソブリン債のなかでは中国を選好:中国の国債利回りはソブリン債分野で他国を大きく上回っている。当社では、中国人民銀行が自国経済を支え債券利回りを低下させるために利下げ余地を一段と活用すると予想しているが、同様のアクションを実施する余裕がある中央銀行は他にほとんどない。
  • インフレヘッジとしては引き続き金を選好:金価格は今年大きく上昇しているが、大規模な資産購入と財政赤字の拡大が続くなか、マイナスの実質利回りと不換通貨に対する長期的懸念という2つのサポート材料が、引き続き貴金属の追い風になるものとみられる。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。