本稿は、2020年8月12日発行の英語レポート「FUTURE QUALITY INSIGHTS:INVESTMENT INSIGHTS」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
グローバルからローカルへ - ロックダウンについての考察と投資家への示唆
イアン・フルトン
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によって個人の生活にどのような影響が及んでいるかは人それぞれ異なるが、共通する体験は数多くあり、それらはきっと読者諸氏にとっても馴染みがあることだろう。端的に言えば、我々が社会全体として新しい状況に適応するなかで、生活や仕事の仕方が変わってきている。こうした新しい行動様式から、今後どのような業界や企業が繁栄していくかという手掛かりは得られるのだろうか。その答えはイエスと(おそらく)ノーの両方だろうが、少なくとも先般の状況を観察することは、現在の状況を理解する手助けとなるとともに、この先の展開を見通す手掛かりとなるかもしれない。当レポートでは、ロックダウン期間中に我々が行った考察のなかから、投資家の今後のリターンに影響を及ぼす可能性があると考えるものをいくつか紹介してみる。
新型コロナウイルスが猛威を振るうこの厳しい状況下において、愛する人を失った方々や仕事を失った方々、治療を受けることが難しくなっているなか他の疾患で闘病中の方々のご心労はいかばかりかとお察し申し上げる。
最前線で奮闘されている医療従事者の方々に感謝の意を表したい。また、生活に不可欠なサプライチェーンに携わる方々は、需要の急激な増加に対応しながら食品、電気および通信ネットワークの滞りない運営を支えてくれている。こうした人々には敬服するばかりであり、社会生活を維持するために彼等がこれまで行ってきた、そしてこれからも続くであろう大きな貢献に対し、多くの感謝の気持ちが寄せられるように願っている。
これらの職業の多くは社会に対して生み出す価値と比べると給与水準が大幅に低く、所得格差解消への長期的なシフトが強く求められている。当社は投資家として、このような問題や他の社会的課題の解決に寄与する企業を見つけ出す責任を負っている。この点については後で触れることにする。
コロナ禍における状況は個人によって大きく異なる一方、ロックダウン期間中の体験や政策当局による対応は世界中で大きな類似点がある。多くの人々は生活や仕事の仕方ががらりと変わった。多数の国々は経済の苦境に対して同様に大胆な財政・金融政策による景気刺激策に打って出ている。こうした生活様式の変化や政策的取り組みが今後の経済や産業、市場を形作っていくだろうということについては、確信を持つことができる。
残念ながら、厳しい現実として、本当に確信を持つことができるのはこの点だけであるように思える。社会、政治、経済および環境に及び得る影響は実に多岐にわたる様相を呈しており、故に先行きを予測しようと試みることすら躊躇を感じてしまう。

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投資家として、こうした先行き不透明感にどのように対処すべきか。人々や企業が現在の環境にどのように適応しつつあるかを突き止めることができるか。そうすることによって、先行きに関する手掛かりを得られるだろうか。目にしてきた共通の体験の一部を取り上げ、それが我々の投資にとって何を意味すると考えているかを紹介する。
共通する体験その1:在宅勤務
投資家である我々は、幸運なことに引き続き自宅で安全かつ効果的に仕事を行うことができている。こうして在宅勤務を行うにあたり、我々はテクノロジーに大きく依存している。物理的に離れていても、仕事やそれ以外でも動画リンクやメッセージング・プラットフォーム、ソーシャルメディア、その他のソフトウェアにより同僚や家族、友人とつながり続けている。我々はリモートでの働き方やコミュニケーションの仕方を学び、人々の蓄えを運用するという複雑な業務を引き続き滞りなく行っている。
つまり、我々は他の多くの人々と同様に適応している。子供たちはリモート学習のためにテクノロジーを使う機会が増え、我々はみなショッピングやエンターテイメントなど様々な形の消費行動においてオンライン・プラットフォームに強く依存するようになっている。同様に企業も、こうした前例のないテクノロジー需要に対して行動を起こしている。需要の急激な高まりを受けてクラウドインフラやソフトウェアの設備投資が加速しており、世界中の企業が長期的により柔軟な働き方を実現する必要性から新しいITインフラをこぞって導入している。
当社グローバル株式戦略のポートフォリオは、こうした在宅での勤務や消費、エンターテイメントをサポートする商品やサービスに対する需要急増の恩恵を明らかに享受している。クラウドインフラに対する需要増加の恩恵に浴しているMicrosoft、Amazon、Adobe、Accenture、宅配需要の増加が追い風となっているAmazon、Meituan Dianping、HelloFresh、そして、ゲーム事業を展開する任天堂、Tencent、Sonyなど、在宅トレンドの直接的な恩恵を受ける銘柄にポートフォリオの3分の1程度を投資している。1 これがみなただの「棚ぼた」であって需要の「前倒し」である可能性は否めない。しかし、インフラ導入が大規模に展開されていることやこうした新しい消費形態が習慣化していることから、これらのトレンドは大方の見方よりも長期にわたって持続するかもしれない。当社では、足元のバリュエーションについて慎重な見方を強めており、一部の銘柄において利益確定売りを行ったが、これらのトレンドには持続性があるとの見方を維持しており、特に収益性が改善している企業については引き続き有望視している。
1 7月31日現在
共通する体験その2:心身ともに健康であることの重要性
基礎疾患の存在によってウイルスによるリスク要因が高まることから、消費における健康志向のトレンドが加速していることは不思議ではない。グローバルから極端にローカルな生活へとシフトし、我々の多くは自宅の近所の様子や住人について以前よりも相当詳しくなっている。我々は半強制的な形で、歩みを緩めて自分にとって本当に大事なものは何かを考えさせられることとなった。

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困ったときにはコミュニティーが協力し合った。また、家族で夕食の食卓を囲んでいる様子は(これまで仮にあったとしても)もう何年もみられなかったものかもしれない。
もっともながら食事は誰にとっても優先順位が高くなっており、人々がお金を節約し、ごみを極力減らし、新しく何かを身に付けようとしているなかで自炊ブームが起きている。多くの人にとっては、エクササイズも重要なストレス対処法となっている。一方で、スナック菓子も世界的に販売が伸びており、多くの人々を強く惹き付けていることが窺われる。
今や健康な生活へとトレンドが向かうことは不可避であるように見受けられる。社会全体が優れた健康上の成果を手の届く価格で得られるようにする必要があり、この先は財政難が強まることからその重要性が一段と高まる。当社では、医療サービス提供コストの低下と患者の治療成果の向上を実現することができるヘルスケア関連企業に引き続き注目している。LHC(在宅看護サービス)やPhilips(医療IT)は、このトレンドの直接的な恩恵を受けており、また、Bio-Techne、Danaher、LabCorpは、研究者らによる待望の画期的治療法の発見を可能にする商品やサービスの提供に一役買っている。根本にある人口動態動向やコストパフォーマンスの高い治療法の発見に対するニーズを考慮すると、これらの企業の長期的な見通しは良好と思われる。当社グローバル株式戦略では引き続き、これらのヘルスケア関連企業に加え、健康志向のトレンドが長期的な追い風となっているKerry GroupやHelloFreshなどの革新的な食品関連企業に、ポートフォリオの20%強を投資している。2
2 7月31日現在
共通する体験その3:テクノロジーや科学の限界
良いものでも行き過ぎると害をもたらすことは多々ある。ロックダウン期間中においてテクノロジーは多数の人々のライフラインとなり、我々の生活にとってのそのような重要性はテクノロジー銘柄の株価にも反映されているが、一方でテクノロジーにも限界があることを覚えておかなければならない。ロックダウン措置は高齢者を守ることを目的としているが、生活のオンライン化の加速がその高齢者を孤立させている可能性はないだろうか。

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IT機器へのアクセスは、低所得世帯の子供たちにとって大きな難題となっている。このことによって、すでに存在する大きな教育格差が一段と拡大する可能性はないだろうか。人間は社会的動物であり、対面での触れ合いや現実世界の雰囲気に本当に代わるものはない。最近開催されたスポーツ試合でデジタル技術を用いて観客が多いようにみせる様子を目にした者なら誰しもがわかるだろう。そうした体験は空虚に感じられることがあり、実際には何が起こったのか疑問に思わされる場合もある。同様に、ソーシャルメディアや24時間ノンストップのニュース配信はあらゆることを白か黒かで単純化する。そうしたストーリーは、「英雄と悪者」に対する飽くなき需要を生み出す。英国では、このように判断を誤ることによって悪者にされてしまうという恐怖心から、政治家が行動科学に基づく複雑なモデルを重視し過ぎる結果につながったとも言われている。
少量のデータに基づいて作られたモデルはエラーの生じる余地が大きいことから、意思決定者が傾向を確認するためにデータの収集を待ち、その結果としての意思決定の遅れが新型コロナウイルスの感染拡大につながって、公衆衛生の悪化やロックダウンの長期化、経済的損害の拡大を招いたとも言える。
これらの早期のモデルの多くは残念ながら欠けている部分があった。問題はそれらのモデルを用いたことではなく、それらの前提や限界に十分に注意を払わなかったことと思われる。我々が政治の意思決定者に求めるのはまさにそれであり、入手可能な証拠に基づいて困難な決定を行うことである。それがどのような結果をもたらすかは非常に不透明で、間違いも起こるものだが、(ソーシャルメディアなどで)失敗について追求されることを恐れれば、意思決定が過度に遅れる可能性や英国の場合のように慎重性が不十分なものとなる可能性がある。
では、こうした考察は投資や当戦略のポートフォリオにとって何を意味しているだろうか。今回のパンデミックの政治への影響は相当大きいとみられる。拡大している所得格差への対処が強く求められており、また、我々は環境面の大きな課題に直面している。財政政策の左派ポピュリズム傾向や環境配慮傾向が強まる見込みが多いにあるとともに、税制によって所得格差問題への対処が行われていくとみられる。
このことがどのような結果をもたらすかは不透明であり、この分野についてはさらにリサーチを進めていく必要がある。現時点において当社グローバル株式戦略では、建設および電力インフラ分野で環境に配慮したソリューションを提供しているSolarEdge、Schneider、Kingspanなどの企業にポートフォリオの10%程度を投資しているとともに、大気浄化分野ではDaikin、Woodward、Johnson Mattheyを保有している。3 これら分野の企業の長期的見通しは現在過小評価されている感があり、この先、同分野においてクオリティの高い企業をさらに発見していけるものと期待している。
3 7月31日現在
結論
これらは、我々がロックダウン期間中に合理的範囲内で行うことができた考察のごく一部である。テクノロジーの急速な普及は続くと考えられるが、その限界を認識する必要もある。社会が直面している問題を解決するのはアルゴリズムではなく人である。企業部門は、問題の一部ではなくソリューションの一部にならなければならない。当社では投資によって、すべての人のためにより優れた医療成果をより手頃に実現していく上で重要な役割を果たすことができると考える人々および企業、また、電力インフラや大気環境分野においてよりクリーンなソリューションを提供している人々および企業などを後押ししている。我々は投資家として、社会的成果の改善をも推進するガバナンス体制が整備されている企業に投資するよう徹底し、その点においてより大きな責任を果たしてく必要がある。先行きは不透明だが、これらの根本的な要素に集中することなどによって、当社のお客様に最良な投資成果を提供することができると考えている。
個別銘柄への言及は例示目的のみであり、当社の運用戦略に基づいて運用するポートフォリオにおける保有継続を保証するものではなく、また売買推奨を示すものでもありません。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。