当レポートは、英語による2020年9月14日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

世界の経済指標は、改善と悲観的な市場予想からの上振れを見せ続けている。これが良い知らせであるのは間違いないが、経済活動が依然としてCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック(世界的流行)前の水準を大きく下回っていることは否めない。株式市場のパフォーマンスが(少なくとも米国では)好調で、絶え間なく過去最高値更新を試す展開となっていることは、経済の実態からはますますかけ離れているように見受けられる。しかし、経済以外では、投資家が拠り所にできる良い知らせがいくつかある。米国で発表された第2四半期の企業収益は、テクノロジーおよびeコマース・セクターを中心に非常に好調であった。これに、年内にCOVID-19のワクチンが開発される可能性をめぐる楽観ムードや、米FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策戦略の変更を考え合わせると、市場の強さは(正当化はされないとしても)より理解しやすい。過去においては、FRBはこのような「浮かれ相場」を、結局「宴たけなわなタイミングで酒を下げる」、つまり金融引き締めを行うことで抑制するケースが多かった。しかし、今回はFRBがインフレ加速を是認している模様であることから、投資家の純粋な買い増し衝動を抑制する材料はほとんどないようだ。

しかし、最終的には、今年前半に市場が大幅に売られすぎとなった時と同様、バリュエーションが重要となる。金融・財政政策による大規模な景気刺激策から世界中で生まれているかすかな希望の光が悲惨な悲観ムードを貫き、コイルばねのように株式市場を反発させた。足元の米国市場は2000年のITバブル時に見られた成層圏並みのバリュエーションからはかけ離れているものの、世界にわたって成長機会を評価するにはバリュエーションに対して慎重な視点を保つことが重要である。財政・金融政策による景気刺激策が世界的な規模で同時に実施されていることは、リフレを伴う経済成長にとって良い前兆であり、当社では、投資家に最終的にリターンをもたらすであろうバリュー機会の追求は報われると考える。

リフレ環境は歴史的にグロース資産にとって大きな追い風となってきており、今後の局面においても再びそうなるだろうとみている。とは言え、その道のりは平たんなものではないと想定され、政策当局による財政出動の規模縮小のタイミングが早すぎれば頓挫する可能性もある。政策当局が世界金融危機後に学んだ経験からそのようなミスを繰り返さないことを願うばかりだ。世界がワクチンの広範な提供を待つあいだ、世界的な協調リフレ政策によって待ち望まれた需要の高まりが達成される可能性は十分にある。現段階では、インフレを市場が従来馴染んできた以上の水準へと過熱するのを許容する用意が中央銀行にあることから、需給ギャップはすぐに埋まる可能性がある。このような環境では、FRBが景気拡大に水を差す当面の可能性よりも新たなインフレ均衡が長期的に達成される可能性に投資家の注目が集まるとみられるため、グロース資産が有利になると予想している。

クロス・アセット

世界がCOVID-19とともに生きる術を習得するなかで、新たな流行が起きても死者数や入院者数は相対的に減少しつつある。保健医療当局は感染者の治療態勢を向上させており、新規感染者はより若い世代の割合が高まっている。結果として、政府は経済活動の再開と国民の健康保護とのバランスをよりうまく管理できるようになり、これが景気回復が根付くのを可能としている。今回の回復は当初の期待に比べるとより控え目なものかもしれないが、損なわれているわけではない。金融・財政政策は非常に緩和的で、グロース資産に引き続き追い風をもたらしている。リフレ効果が広がるにつれ、特に来年の初めにはワクチンが使用可能になる可能性があるとの期待が高まるなか、一段の上値追いが米国以外でもますます広がるだろう。

当社ではグロース資産のなかでグローバル株式を引き続き選好しており、同資産クラスほどではないものの新興国債券とインフラ投資も有望視している。その一方で、依然苦戦しているリート・セクターと、より程度は小さいもののハイイールド債に対し、相対的に弱気のスタンスをとっている。後者については、多くの業種でデフォルト・リスクが高まっているのに対して利回りが低下しているため、慎重な見方をしている。

ディフェンシブ資産のなかでは依然、ソブリン債に対し、より高い利回りが享受できる投資適格クレジットとリフレ・ヘッジとなる金を選好している。

* マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産の相場上昇は著しいが、範囲としては比較的狭く末端まで波及していない。7月には米国がCOVID-19の第2波に見舞われたが、それが後退した一方で、今度は欧州とアジアの一部に焦点が当たっている。在宅勤務にうんざりする時があるように、ウイルス感染拡大の話も飽きてくるものだ。経済への影響を比較的軽度にとどめながらソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)の政策調整を行うことで、より広範なウイルス感染拡大を有効に抑制できるとわかった今、「第2波」のニュースの衝撃度は薄れてきている。


グロースとバリューは共存可能か

当社は可能であると考える。株式の世界において重要なのは企業収益であり、この点についてここ10年の株式市場を牽引してきたのは明らかにグロース株だが、グロース株だけが有効な選択肢だったわけではない。いわゆる「バリュー株」は、市場のなかで収益を大幅に伸ばすことができず投資家の興味を惹かないままとなっている不人気分野を反映している。

不人気な業種のなかには、特に負債が過剰な水準にあるなど、不人気なままであるのが当然の企業も存在するが、世界金融危機以来長引く成長の「日照り続き」に苦しんできた優良企業で、リフレ効果が再び回復する局面では投資を検討する価値のあるものも存在する。当社のリフレ見解は必ずしもグロース株からバリュー株への投資資金ローテーションを支持するものではないが、より多様な投資機会を含むようエクスポージャーの幅を拡大することは有効であると考える。

歴史は繰り返さないものの少なくとも似た展開になるとの認識から、人間の性として将来の手引きを過去に求めたくなるものだ。将来(そして最終的な収益)を当てにしたITバブルを経験した我々は、時に道理よりも先例を重視して、20年前との比較でテクノロジーを評価してしまうことがある。今日に比べると、20年前には収益はほとんど存在しなかったからだ。

株のパフォーマンスは派手で、額面通りに受け取ってしまうと収益ドライバーの根本的な基盤から乖離することがある。長期的には株価は対収益で標準の倍率に収斂するが、短期的には将来の収益予想に基づく株価倍率の変化が不安や欲によって増幅される。

下のチャートは、テクノロジー株(ナスダック総合指数)の市場全体(S&P500指数)に対する超過リターンを、配当利回り、利益成長、将来の利益成長見込みに対して払われたPER(株価収益率)プレミアムという寄与要因に分解したものだ。PERの上昇は投機的な動きを示唆するが、重要なのは、ナスダック指数の構成企業の利益がS&P指数の構成企業を上回ったことが一貫して超過パフォーマンスの主要ドライバーであったという点だ。

チャート1

また、特筆すべき点として、テクノロジー・セクターのPERの市場全体に対する上昇は、2016年以来並外れて大幅となっている。テクノロジー・セクター以外では利益成長率は比較的横這いだが、当社ではこれがリフレ環境の下で加速に転じるものと予想している。また、リフレは債券利回りの上昇につながり、長期の利益成長予想に帰するプレミアムにとって逆風となり得るが、これがグロース株式にとってマイナス材料となる可能性がある。リスク・プレミアムは変化し得るが、当社としては、ローテーションというよりも、グロース株からバリュー株への投資機会の広がりという感じでみている。


グロース資産に対する確信度の強い見方

  • 米国株式の選好度を引き上げ:企業収益が市場予想から上振れしていることを主な理由として、またCOVID-19の第2波が早期に抑制され新規感染者数が再び減少していることもあり、米国株式の選好順位を引き上げた。
  • 欧州株式の選好度を引き下げ:欧州は依然リフレ見通しが大きな追い風になるとみられるが、COVID-19の再拡大やロックダウン(都市封鎖)の増加、ブレグジット(英国のEU離脱)交渉をめぐる明らかな未知数など、当面は逆風も多い。
  • 北アジア:テクノロジー・セクターの比重が大きい北アジア株式の選好度を引き上げた。米中間のテクノロジー戦争を考慮した上でも、需要拡大の勢いは強く持続する可能性が高い。反対に、中南米株式の選好度は引き下げたが、リフレ効果が同地域の株式を押し上げる可能性もあるため、選好度引き上げの好機を探っていく。
  • リートは依然苦戦:リートは予想された通り、ホテル・リゾート・セクターを中心に収益が低調となった。残念ながら、少なくともCOVID-19のワクチンが開発されるまでは、当面同様の逆風が続き好転の見通しがほとんど立たないものとみている。

ディフェンシブ資産

世界の債券利回りは、8月初めの低水準から緩やかに上昇したものの、過去6ヵ月の狭いレンジ内にとどまっている。中央銀行のフォワード・ガイダンス(将来の金融政策の方針を前もって表明すること)があからさまにハト派的なのは事実だが、ソブリン債の供給増加とFRBの金融政策戦略変更が金利上昇の要因となった。とは言え、中央銀行は、明示的あるいは黙示的にイールドカーブ・コントロールを行うことにより、緩和的な金融政策スタンスの維持にコミットしている。これがもたらすと想定されるのは、低い債券利回りと魅力に乏しいソブリン債リターンだ。

投資適格債の信用スプレッドの縮小ペースは、もはやバリュエーションが割安ではなくなったことから、最近世界的に鈍化している。しかし、長期的なモメンタムは依然としてプラスで、世界中の金融・財政政策が企業を支え続けるだろう。投資適格クレジットのソブリン債に対する利回りプレミアムは現在の環境で依然魅力的な水準にあり、今後の投資適格クレジットの対ソブリン債超過リターンでは、一段のスプレッド縮小よりも利回りプレミアムの占める割合が大きくなるものとみられる。したがって、当社では引き続き投資適格クレジットをソブリン債に対して選好する。


インフレを許容

2018年11月、FRBは「雇用の最大化と物価の安定という連邦議会から課された使命を追求するにあたって活用する戦略、ツールおよびコミュニケーション慣行の見直し」を実施する方針を発表した。この見直しは1年超続いたが、ジェローム・パウエル議長は8月に開かれた年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」の講演で、ついにFRBの「長期的目標と金融政策戦略に関する声明」への変更を公表した。同議長の講演の余波として、金融政策および雇用成果に対するFRBの今後の姿勢に影響を与える可能性が高い2つの重要な要素に、アナリストの注目が集まっている。

最初の要素は、物価安定の使命とコアPCE(個人消費支出)インフレの2%という目標に対するFRBの解釈への変更である。目標自体は変更されなかったが、今では「長期の平均で2%」のインフレと解釈されている。以前の戦略では2016年の修正によってすでに「対称的な」インフレ目標が言及されていたが、今回の変更はおそらく、インフレが目標を下回った局面の後には目標を上回るインフレが許容される局面が予想されることを、さらに明確に示すものだ。この変更は、今後のFRBの金融政策ルールに影響を与えるとみられるが、今日のインフレ動向に大きな変化をもたらすことはない。ご存知の通り、多くの国の中央銀行は、特に世界金融危機以降に政策アクションを通じてインフレを加速させようとしてきたが、その努力はほとんど報われていない。米国の年間消費者物価インフレは2007年以来平均で1.7%にすぎず、FRBがより好んで使うPCEのコアインフレは1.6%とさらに低い。FRBが最後にインフレ期待を押し上げようと試みたのは2016年に戦略に変更を加えた時だが、結果的にインフレはほとんど変化せず目標を下回り続けた。

チャート2

2つ目の重要な要素は、1つ目につながり、雇用の最大化を促進するというFRBの使命に関するものだ。この変更以前は、FRBは自身の完全雇用推定値を超える雇用成果に特に敏感であった。フィリップス・カーブが示すように雇用とインフレのあいだには逆相関関係があることから、失業率の低下ペースが早すぎる時は基本的に金融政策の引き締めにつながってきた。新たな戦略では、雇用についてより対称性の低い見解に重点が移っており、FRBは、雇用の不足に対しては積極的な政策運営を行うが、好調な雇用成果の結果として生じるインフレ加速の可能性に対しては予防的措置を講じる見込みはより低いとみられる。

チャート3

上記2つの要素の組み合わせは、米国のイールドカーブが、おそらくは以前の戦略下で想定されるケースよりも、今サイクルの平均としてスティープ化する可能性が高いことを示している。しかし、市場の反応はこれまでのところ限定的だ。米国債利回りは、3月以来上昇を続けているブレークイーブン・インフレ率に倣って、8月の初めから徐々に上昇している。世界中の中央銀行が経済指標の持続的な回復を見せるまでは非常に緩和的な金融政策を維持することにコミットしているなか、インフレ期待が上昇し続けても名目利回りは低水準にとどまり、その過程で実質利回りは低下するものとみられる。したがって、ディフェンシブ資産の配分においては、インフレ連動債や金などのインフレヘッジ資産を選好する。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見方

  • 投資適格クレジットのスプレッドを享受:スプレッドの縮小に伴ってバリュエーションは上昇しているが、より長期的なモメンタムは依然プラスであり、投資適格クレジットのソブリン債に対する利回りプレミアムはリフレ環境では魅力的である。したがって、引き続き投資適格クレジットがソブリン債をアウトパフォームすると予想する。
  • ソブリン債のなかでは中国の選好を継続:中国の好調な景気回復とデフレ圧力の低下を受け、中国人民銀行は金利と預金準備率の両方の引き下げについて追加緩和期待を牽制した。しかし、米中間の緊張を中心に不透明な国外見通しが影を落とすなか、国内の景気回復には偏りが見られるため、同中銀は緩和的な姿勢を維持するとみられる。また、中国の10年国債は対米国債での利回り格差が過去10年で最も大きい水準にあり、人民元の安定も手伝って、海外から多額の資金を惹きつけている。
  • インフレヘッジ資産への投資は最終的に成果をもたらす:当社では、世界中の中央銀行がインフレ加速に対する許容度を高め、インフレが加速し始めても世界的なリフレ政策を短絡的に終了させないだろうと予想している。したがって、金やインフレ連動債などのインフレヘッジ資産は、マルチアセット・ポートフォリオの重要な構成要素になると考える。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。