当レポートは、英語による2020年10月15日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

経済指標は最近やや軟化を示しており、米国の財政政策による景気対策第4弾が行き詰っていることから、今後も悪化が見込まれる。景気対策は最終的(おそらく2021年序盤)に実現するであろうが、足元での支援がないなか、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック(世界的流行)による失業増加が恒久化し、景気回復をさらに遅らせるとみられる。COVID-19の第2・第3波も回復を鈍化させるだろう。しかし、重要な点として、死亡率が低下しており、世界は引き続き広範なロックダウン(都市封鎖)を行わずとも新型コロナウイルスと共存できるようになっていくことが示唆されている。

9月はリスク資産にとって困難な月であったものの、前月の極端な急騰相場の後であり同様の上昇は持続不可能であったことは指摘しておきたい。これまでのところ、市場の下落は健全な調整の様相を呈しているが、経済指標のさらなる悪化が見込まれるとともに選挙に伴うリスクが控えていることから、調整はまだ終わっていない可能性がある。バリュエーションは、現在の水準では1ヵ月前に比べると相対的に好材料だが、まだ割安という段階ではない。

より長期的には、これまでに実施された景気対策や2021年序盤に実施される可能性が高い財政政策による新たな景気対策を受けて、当社では比較的明るい見方を維持している。最終的にワクチンが開発されれば、来年を通じて需要も概ね正常化するだろう。このような結果となる可能性の相対指標として、当社では米ドルの動きを注視している。景気対策第4弾の実施確率の低下に伴ってドル高が復活したが、その後はまたドル安に戻っており、今後リフレ環境となる可能性が依然高いことを示している。この見通しにおけるリスクは、景気対策がより早急に実施されなかったことによる需要への打撃の度合いであり、したがって今後数ヵ月の経済指標が引き続き重要になるだろう。

クロス・アセット

景気対策第4弾の行き詰まりや来たる米国選挙といった当面の逆風要因を受けて市場のボラティリティが高まるとみられることから、資産クラスの選好順位において、グロース資産のスコアを中立に引き下げてディフェンシブ資産のスコアをやはり中立へと引き上げた。2021年序盤には大型の景気対策が実施される可能性が高いこともあり、上述の逆風が景気回復を頓挫させるとは考えていないが、見通しがよりはっきりとするまでは中立スタンスが妥当と判断している。

各国の中央銀行は金融環境を緩和するためにできることは基本的にすべてやってきたが、それは必要とされる財政出動に取って代われるものではない。財政政策による景気対策は需要の大幅な落ち込みを防ぐのにかなり有効であったが、それも米国では7月末に終了してしまった。グロース資産では、先進国および新興国の両株式のスコアを中立へと引き下げる一方、リートやインフラ投資、ハイイールド債といったディフェンシブなグロース資産のスコアを引き上げた。ディフェンシブ資産においては、インフレヘッジ資産のスコアを中立へと引き下げる一方、ソブリン債のスコアを引き上げて相対的弱気の度合いを縮小した。通貨においても、グロース通貨のスコアを引き下げる一方でディフェンシブ通貨のスコアを引き上げ、ともに中立とした。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築ににつながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産の相場上昇は著しいが、範囲としては比較的狭く末端まで波及していない。7月には米国がCOVID-19の第2波に見舞われたが、それが後退した一方で、今度は欧州とアジアの一部に焦点が当たっている。在宅勤務にうんざりする時があるように、ウイルス感染拡大の話も飽きてくるものだ。経済への影響を比較的軽度にとどめながらソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)の政策調整を行うことで、より広範なウイルス感染拡大を有効に抑制できるとわかった今、「第2波」のニュースの衝撃度は薄れてきている。


グロースとバリューは共存可能か

グロース資産の見通しは、景気対策第4弾をめぐる不透明感や米国の選挙リスクから、当面は障害が多いように見受けられる。また、COVID-19の流行が世界的にしつこく勢いを増していることにも言及しておきたい。ただし、当社では依然、世界は新型コロナウイルスと共存できる術を学びつつあり、さらなるロックダウンは回避され需要はペースを落としながらも回復基調が続くとみている。

米国では、景気対策が7月末で終了したことを受けて最近の経済指標が軟化している。しかし、市場は常に先を見るものであり、誰が大統領になるかにかかわらず景気対策の実施が見込まれることから、2021年の見通しは若干明るさを増している。それでも、選挙は激戦となる可能性が高く不安を招いており、それ自体が不透明感を強める要因となっている。

大統領選の討論会がバイデン候補の勝率を高め、ゆえに同氏が大差で勝利した場合に共和党が法廷係争への持ち込みを支持する可能性が低下する結果となったことを受けて、市場は今のところ選挙リスクをあまり重視していないようだ。それでも、政治による分断の溝がここまで大きくなったことはかつてなく、どちらが勝つにしても選挙日の夜の後に市場が示す反応を評価・判断するのは難しい。したがって、当社では慎重なスタンスを維持する。

新興国市場は依然選好されず

新興国がCOVID-19に最も苦しめられた国に入るのは間違いない。医療体制がより脆弱で、ロックダウンのもたらした必然的な景気悪化を埋め合わせるのに使える財源が限られているからだ。特に打撃が大きかったインドと中南米諸国は、ともにウイルスの感染拡大ペースが鈍化して景気の先行き見通しが改善するなど展望が明るくなってきているにもかかわらず、資産クラスとしては概して避けられたままだ。

新興国資産に対して、当社では当面は慎重なスタンスで臨むものの、より長期的には、これまで世界で実施された景気対策や着実に続いているドル安(新興国資産にとっては通常追い風)から、依然としてポジティブな見方を維持している。中国の景気対策は今回異なっており、古いインフラよりも新しいインフラに重点が置かれているが、全体的な需要は引き続き追い風であるとともに、財政出動が再び投機的バブルに投じられるのではなく実体経済に注がれているためより持続可能である。

しかし、今回、需要を押し上げるために財政出動を実施しているのは中国だけではない。米国や欧州もインフラ支出を増やそうとしており、これが需要を下支えするとみられる。さらに、米FRB(連邦準備制度理事会)は金融政策を緩和的に維持することにコミットしており、同中銀による潤沢な資金流動性の提供がドル安を継続させ新興国資産の重要なサポート要因になると想定される。

これまでのところ、新興国通貨はCOVID-19の影響による下落分の大半を回復しているが、FRBが断固として緩和姿勢を維持していることや財政出動が近く強化され2021年に加速が見込まれることを考慮すると、現在の水準は依然割安に見受けられる。

チャート1

とは言っても、当該資産クラスにおいては国によってクオリティが大きく異なるため、新興国のなかで選別的であることは引き続き重要である。トルコのような国は依然、財政や対外収支の不均衡が極めて大きい。しかし、中南米など他の地域については、パンデミックが引き起こした市場の下落がそれらの国の見通しに比べて過度であると当社ではみている。したがって、当社ではクオリティの重視を継続する。


グロース資産に対する確信度の強い見方

  • 米国株式は選好順位を引き下げ:景気対策の遅れと迫る選挙のリスクに伴う当面の逆風から、選好順位を引き下げた。
  • 欧州株式は選好順位を引き上げ:欧州は現在COVID-19の第2波に見舞われているが、2021年にリフレの流れが加速すると見込まれるため、相対的な投資機会は依然大きい。
  • EMEA(欧州・中東・アフリカ)の選好順位を引き下げる一方で中南米の選好順位を引き上げ:直近ではアゼルバイジャンとアルメニアのあいだで軍事衝突が起きるなど、EMEAでは地政学的リスクが高まっている。一方、中南米は、コモディティの需要拡大やブラジルの依然断固とした改革政策にもかかわらず、引き続き過小評価されている。
  • インフラ投資の選好順位を引き上げ:当面予想されるような景気低迷時において株式市場全般に比べキャッシュフローおよび収益の耐性が強いことから、クオリティの高いインフラ資産を選好する。ガスおよび水のパイプラインや通信塔など大半のインフラ資産は、パンデミックの引き起こすロックダウンによって影響を受けることがほとんどない。
  • リートの相対的弱気度を縮小:見通しは依然として厳しいが、現在のバリュエーション水準は好材料である。
  • ハイイールド債の選好順位を引き上げ:当面の見通しは依然として厳しいが、株式に比べるとリスク・リターン特性が魅力的に見受けられる。

ディフェンシブ資産

世界の中央銀行はここ数ヵ月、そのハト派政策を積極的に推進している。金利はCOVID-19のパンデミックにより痛手を受けた経済を支えるために過去最低水準に維持されており、フォワード・ガイダンス(中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明すること)は向こう数年にわたって、あるいはインフレが持続可能な上昇を見せるまで、緩和的な金融政策が続くことを示唆している。このインフレに対する寛容な姿勢はやがて、世界中でイールドカーブのスティープ化をもたらすだろう。しかし当面は、リスクの上昇と投資家の懸念がディフェンシブ資産を下支えするとみられる。

適例として、上昇基調を辿り始めていた期待インフレ指標は、最近になって食品価格の下落と米国の追加財政出動に対する懐疑的な見方の台頭を受け失速している。それでも、インフレヘッジ投資の中期的な有効性は変わらない。世界中の中央銀行が金融緩和政策にコミットしFRBが平均インフレ目標に移行するといった展開はともに、将来のインフレに対する許容度の高まりを示唆しているからだ。

投資適格クレジット市場は、9月にリスク・センチメントの悪化を受けてスプレッドが若干拡大したものの、良好なパフォーマンスが続いている。中央銀行が様々な貸出し・資産購入プログラムを通じて同セクターに対するサポートを継続しているなか、高格付けクレジット物の利回りプレミアムは依然魅力的である。したがって、当社では引き続き同市場をソブリン債に対して選好する。

マイナス金利政策をちらつかせるイングランド銀行

世界の他の中央銀行と同様、BOE(イングランド銀行)は、3月に残りの金利余力を使って政策金利を実効下限である0.10%へと引き下げた。以降、同金利はその水準にとどまっており、BOEのフォワード・ガイダンスによると、「金融政策委員会は、余剰生産能力の除去と2%インフレ目標の持続的な達成において大幅な進展が見られている明らかな証左が確認されるまで、金融政策の引き締めを行わない方針である」ことが示唆されている。利上げはかなり先の話である一方、市場参加者は、近い将来に金融政策による一段の景気対策が必要となった場合、マイナス金利政策を試す意向がBOEにあるかについて憶測をめぐらせている。チャート2は、BOEの政策金利が2021年半ば頃にマイナスになると市場が織り込んでいることを示している。

チャート2

BOEの高官は、同中銀の職員がマイナス金利の有効性の調査を続けており関連する運営上の考慮点を積極的に検証していることを示唆した。それでも、同中銀のアンドリュー・ベイリー総裁およびアンドリュー・ハルデーン主席エコノミストが市場の期待を抑えようとする一方で、金融政策委員会の他のメンバーはより支持する姿勢を示すなど、メッセージはまちまちだ。当社では、BOEはマイナス金利政策を利用したくないものの、英国がCOVID-19の再流行に苦しむなかで最終的には試さざるを得なくなるだろうとみている。第2波は本格的な流行となっており、1日の平均患者数は今や今年前半に記録した患者数のピークの3倍となっている。夜間外出禁止や地域的なロックダウンなど新たな措置が実施されており、英国の第1波からの景気回復にとって障害となるだろう。

BOEは、交渉期間があと2ヵ月半しか残っていない英国のEU(欧州連合)離脱(いわゆるブレグジット)が最終的に「ノーディール・ブレグジット(合意なき離脱)」となった場合に備えて、マイナス金利政策の準備をしている、との見方もできるかもしれない。最近では英国の政策当局の念頭にまずあるのはパンデミックの健康および経済への影響だが、英国・EUの貿易協定交渉は残り時間が迫っている。覚えておく必要があるのは、英国は2020年もEUとの貿易を現行の条件の下で続けているため、足元の困難は主にCOVID-19のパンデミックによるものだという点だ。したがって、英国経済における困難は貿易協定が合意されたとしても続くとみられる。

COVID-19の再流行に「ノーディール・ブレグジット」という結果が重なった場合、英国経済の見舞われる打撃は深刻どころでは済まないだろう。とは言え、これはBOEが直面し得るシナリオであり、同中銀は断固としたアクションをとる用意ができている。当社では英国でマイナス金利となる確率の市場への織り込みが過小評価であるとみており、したがって英国債の選好順位を引き上げた。

金に対しては依然ポジティブな見方

金は8月初旬、米国債10年物の実質利回りが-1.1%で底を打ったのと同じ頃に過去最高値である1トロイオンス=2,063.54米ドルを付けた後、調整相場が続いていている。この動きはいくつかの要因で説明できるだろう。1つは、FRBが直近のFOMC(連邦公開市場委員会)会合で、さらなるフォワード・ガイダンスを提供する代わりにマイナス金利への期待を牽制し、投資家を失望させたことだ。主に原油価格の変動に左右されるブレークイーブン・インフレ率(市場に織り込まれた期待インフレ率)も、過度な上昇を見せた後に調整している。さらに、米国の選挙でバイデン候補が勝利し民主党優勢の上院が生まれる確率が高まってきたことを受けて、追加の財政出動が名目利回りの上昇につながる見込みが強まった。

チャート3

現段階では、当社は足元の動きを健全な調整とみており、中期的には金価格は十分に下支えされると予想している。金融政策については、世界中の中央銀行が、経済指標が持続可能な回復を示すまで緩和的な政策姿勢を維持することにコミットしており、必要となれば追加緩和を行う用意を整えている。さらに、FRBは新たに対称的なインフレ目標を導入し、これまでとは違ってインフレの過熱を容認する覚悟だ。また、金は、ドナルド・トランプ米大統領が選挙の投票結果に異議を唱えたり、米中間の緊張が深刻な激化を見せるなどの地政学的イベントに対し、より有効なヘッジとなる。債券利回りが下限近くにあるなか、金価格は地政学リスクが高まった場合の上昇余地がより大きく、当社では現在の調整局面がより有利な買い好機を提供しているとみている。

一方、来たる選挙でバイデン候補が明白な勝利を収めた場合のリスクもある。同前副大統領のインフラ案により、米国債の新規発行による市場供給量が大幅に増えるとともに米国がより強い経済成長軌道に戻ると見込まれるが、これが結果として債券利回りを急上昇させ金価格の重石となる可能性がある。さらに、このような場合は安全な避難先となる資産への需要も後退するため、米国債への需要が減少する。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見方

  • 投資適格クレジットのスプレッドを享受:信用スプレッドの縮小ペースはここ数ヵ月鈍化しているが、より長期的なモメンタムは依然プラスであり、投資適格クレジットのソブリン債に対する利回りプレミアムは魅力的である。したがって、投資適格クレジットがソブリン債をアウトパフォームすると引き続き予想する。
  • ソブリン債のなかでは利回りがより高い国を選好:ソブリン債は、利回りが依然低水準にあり狭いレンジ内にとどまっていることから、より利回りの高い国を引き続き選好する。中国国債に加え、米国債、イタリア国債、オーストラリア国債を選好している。
  • インフレヘッジには依然として金を選好:金価格は最近調整しているが、マイナス実質利回りと中央銀行のインフレ加速許容度の高まりが下支えとなって、金への需要は持続するとみている。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

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