当レポートは、英語による2020年12月16日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

経済指標は欧米におけるより最近のロックダウン(都市封鎖)を受けて軟調さが続く可能性が高いが、一方で市場は、近く実用化されるワクチンがこの悪夢のようなトンネルの先にいわゆる光をもたらしていることから、賢明にも当面の暗闇の先を見通している。当社では、2021年にかけて、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック(世界的流行)がバックミラーのなかでゆっくり遠ざかっていくのに従い、世界はある程度「常態」と言える状況に徐々に戻っていくとみている。それに伴う需要の加速は、非常に緩和的な金融政策と財政政策による依然比較的気前の良い支援からシステムにじゃぶじゃぶと流れ込み続ける潤沢な流動性によって、一段と拍車がかかるだろう。

市場ではいわゆる「リフレ・トレード」が進行中で、多くの株式市場が過去最高ではないとしてもそれに近い月間リターンをもたらしている。そのように大幅な市場センチメントの変化により、市場のあちこちで沸々とバブル一歩手前の状況が窺われるが、それでも、新興国などCOVID-19の打撃が特に大きかった市場では投資機会が見出される。

しかし、状況を悪化させ得る材料は、政策面を中心に依然としてかなりある。リスク資産への追い風を強めてきたのは並外れた低金利だが、これは予想された通り上昇し始めている。今のところ、各国中央銀行が同時に実施したマネー創出とバランスシート拡大の努力は奏功しているが、需給ギャップが埋まり需要圧力が高まったらどうなるのか。市場が中銀による資産購入プログラムの最終的な巻き戻しを織り込もうとするにつれ、金利のボラティリティが高まりリスク環境はより困難なものとなるだろう。これは当面の懸念材料というわけではないが、当社では2021年にかけてしっかり注視していく。

クロス・アセット

当月は、米国大統領選挙が終わって不透明感が後退するとともに有効なCOVID-19ワクチンについて近い将来の見通しがより有望となってきたことから、ディフェンシブ資産のスコアを若干引き下げ、グロース資産に対してよりポジティブな見方に転じた。欧米がCOVID-19の新たな波に見舞われあらためてロックダウンを余儀なくされているなか、見通しはまったく明瞭というわけにはいかないが、パンデミックの終盤が視野に入ってきており、2021年には社会が名目上ある程度の「常態」に戻れるものと思われる。一方、新たなCOVID-19封じ込め策により移動が減少しているものの、製造業で依然在庫補充の必要があることを主な理由として、経済活動は妥当な水準にあるように見受けられる。中国の需要は堅調さを維持しており、米国の需要もワクチンが全国に行き渡るに従い2021年前半を通じて加速するだろう。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

ロックダウンが想像されたほどの痛手を経済に負わせなかった一方で製造業の好調が続いていることから、グロース資産に対しては安心感が増している。COVID-19のワクチン接種が本格的に実施されればより通常の需要源の回復が近づくことから、まもなく見込まれるワクチンの到来が市場センチメントを押し上げ、設備投資や雇用計画の後退を相殺している。

新しい懸念材料は唯一バリュー株へのスタイル・ローテーションのスピードかもしれないが、これまでのところ長期金利の上昇は小幅にとどまっていることから、グロース株へのダメージはほとんど起きていない。楽観ムードは妥当なように思われるが、失望要因となり得るものは何であろうか。1つ挙げると、ワクチンを世界中に配給するのは簡単ではなく、集団免疫への道は現在市場が織り込んでいるよりも険しいものとなる可能性がある。

また、一部の需要要素は恒久的に変化してしまったと想定されるなか、経済が負った痛手の度合いも明確ではない。経済は需要の新しいパターンに再適応できるが、労働力や設備投資がそれに続くには時間がかかるため、調整期間中の需要は一部が予想しているよりも低調となり得る。

最後に、リフレが引き起こす金利の上昇は、通常であれば市場が吸収できるものだが、金利は史上最低水準にあり、そこからの調整はかなりの道のりとなるかもしれない。各国の中央銀行がそのように極端な政策をいかにして巻き戻していくのかは、足元では需要ギャップが大きいことから懸念材料となっていないが、いずれはこの問題に注目が集まるようになり、グロース資産にとって一段の重石となるかもしれない。これらはすべて、市場は著しい楽観ムードにあるものの、今後数ヵ月にわたって考慮すべき重要なリスクがあることを示している。


欧州は堅調なローテーションから恩恵を受けているが、これは長く続き得るのか

欧州株式は、COVID-19の第2波に見舞われた夏季に弱含んだが、11月の初旬以降はパフォーマンス最上位市場へとランクアップしている。COVID-19ワクチンの開発におけるポジティブ・サプライズによって景気見通しが改善したことから、欧州市場を支えているのは主にバリュー株だ。当社では欧州株式に対してポジティブな見方をしてきたが、これは同市場が全体的にバリュー特性に偏重しており景気回復への感応度が高いからである。しかし、欧州経済は過去10年の大半において不振に苦しんできており、したがって今後の市場動向を左右するファンダメンタルズにはより深く掘り下げて調べる価値がある。

米国株式は過去10年にわたって世界の他国市場を大幅にアウトパフォームしてきたが、これは主に同市場のグロース特性、具体的にはテクノロジー・セクターへの偏重によるものだと言える。一方、欧州市場は、金融や資本財・サービス、旅客航空輸送など、バリュー特性のより強いセクターの比重が大きい。バリュー・セクターはCOVID-19の流行が後退するに従ってアウトパフォームする可能性があるが、歴史を振り返ってみると、2006年以降はほとんどの期間においてグロース株が概ねバリュー株をアウトパフォームしている。

チャート1

今回は異なる相場上昇となるのだろうか。当社では確信を持つに至っていないが、COVID-19危機によって多くが変わったのは確かだ。欧州の「失われた10年」の主因は2つある。極度の緊縮財政、そして世界金融危機後における銀行の資本増強の失敗である。1点目については、欧州が緊縮財政から方向転換しているのは明確だ。欧州共同債の発行は、財政統合に向けての重要な突破口となった。銀行については、ECB(欧州中央銀行)が「裏口」資本増強策としてのプログラムをいくつか実施してきたが、銀行は依然、フラットなイールドカーブと再借入れをより難しくする世界金融危機後の規制に悩まされている。

それでも、欧州はその輸出への外需に依存する開放経済であり、需要はおそらく世界金融危機以来で最も大きく加速している。まず、中国が成長の質に焦点を当てていることにより、断続的な過剰信用の結果として過剰な引き締めが行われるという過去のパターンに比べ、より持続可能な需要につながっている。次に、世界中で財政および金融政策が緩和されており、これによって最終的に世界の需要が持ち上げられるだろう。欧州はそのような需要拡大からも恩恵を受ける。

欧州株式の上昇は、特に需要が正常化した場合、持続可能であると当社ではみている。実際、今回のマクロ動向から、欧州株式の上昇は過去10年に見られた水準を超えるものになる可能性すらある。しかし、上昇が進むなかで、銀行セクターの継続的な低迷が一時的な阻害要因となるかもしれない。高成長が銀行セクターを復活させる可能性はあるが、今回のマクロ動向がどのような展開を見せるかを注視していくことが重要である。


グロース資産に対する確信度の強い見方

  • 先進国よりも新興国を選好:両カテゴリーともスコアを引き上げたが、新興国の引き上げ幅の方が若干大きい。これは、新興国の方が、世界的な需要の回復(特にコモディティ)とCOVID-19ワクチンがもたらす内需環境の改善から受ける恩恵がより大きいからだ。
  • 新興国のバリュー株へのローテーション:新興国のなかでは、 中国の消費関連セクターに加え、中国と北アジアのテクノロジー・ハードウェアおよびソフトウェア・セクターにおける有望な投資機会を長らく選好してきた。当月は、中国およびアジアのスコアを引き下げて、外需の回復から最も恩恵が見込まれる中南米およびEMEA(欧州・中東・アフリカ)のスコアを引き上げた。

ディフェンシブ資産

ソブリン債に対する当社の慎重な見方は前月から変わっていない。COVID-19ワクチン実現の可能性というポジティブなニュースが出てきたことで、市場はCOVID-19感染者数の懸念すべき世界的急増と追加財政出動策における米国議会の行き詰まりは材料視されなかった。米国大統領選挙も終わり、これで世界経済の見通しに対する政治的リスクとパンデミック・リスクがともに低下する。結果として、当社では、各国の中央銀行および政府が世界経済のリフレ化を引き続き推し進めるなか、米国の債券利回りが先導役となって世界の金利が上昇すると予想している。

国債に対して投資適格債を選好するスタンスも変わらない。世界の信用スプレッドは年前半から漸進的な縮小基調を維持しており、パンデミック前の水準に迫っている。スプレッドが現在の水準から大きく変動することは考えにくい一方、クレジット物の基準となる国債利回りに対して世界的に上昇圧力がかかることで、一段のスプレッド縮小がもたらすリターンは打ち消されるものとみられる。とは言え、世界のクレジット市場の利回りプレミアムは依然、同資産クラスの対ソブリン債での投資魅力を高めている。

インフレヘッジ資産、なかでも金は、ディフェンシブ・セクターのなかで当社が引き続き選好している資産クラスである。金は従来リフレ環境において良好なパフォーマンスを見せており、各国中央銀行がかなり先の将来まで緩和的政策にコミットしている現在の環境においても、同様のパフォーマンスを予想している。しかし、世界の見通しの改善が今後の数ヵ月において名目および実質利回り両方に上昇リスクをもたらすことも認識しており、また今年の大幅な価格上昇を経て金のバリュエーションの魅力度は後退している。これを受けて当面は金の「輝き」が幾分鈍るものの、当社では金がインフレヘッジ資産として有効な役割を果たすとみている。

嫌われ者状態からの脱却

日本銀行は、経済成長を支えリフレを促すとの名目で、数十年にわたり非伝統的な金融政策の活用において世界の主要中銀をリードしてきた。直近のバージョンは2013年4月に開始された量的・質的緩和で、その後2016年9月にはイールドカーブ・コントロールが加えられた。日本国債利回りのボラティリティは、これ以前にすでに他の先進国市場に比べて低くなっていたが、イールドカーブ・コントロールによって一段と大幅に低下した。チャート2は、日銀によるイールドカーブ・コントロールの開始以降における主要国の国債利回りの推移を示したものだ。日銀は債券利回りを0%近くにキープするのに概ね成功しており、日本国債10年物の利回りが狭いレンジで推移しボラティリティを欠いているのは明白である。

チャート2

ボラティリティの欠如によって、当然ながら日本国債トレーダーの仕事が困難なものとなったが、一方で日本国債市場がそのリターンにおいて世界の主要国の国債市場からかけ離れることにもなった。チャート3は、2016年にイールドカーブ・コントロールが始まって以降、日本国債7~10年物のリターンが0%に近い最終利回りに準じて基本的にゼロであったことを示している。米国債、ドイツ国債、英国債といった他の主要国債券市場のリターンは、日本国債に比べて大きく変動してきた。

チャート3

2016年から2018年にかけては、2016年の米国大統領選挙の余波により米国債先導で世界の国債利回りが上昇するなか、日本国債が当然ながら他のソブリン債市場をアウトパフォームした。しかし、2018年に米国のGDP成長がピークを打って債券利回りが低下すると、この良好な相対パフォーマンスはまもなく反転し、その後世界の債券利回りの低下はパンデミックを受けて加速した。日本国債がイールドカーブ・コントロールの影響を受けていることが主な理由となり、かなりの期間にわたって他の国々の市場がより高いリターンを提供してきた。

今後について、当社では世界の債券利回りが再び上昇基調を辿ると予想しており、そうなれば日本国債を保有することの相対的な魅力度は著しく改善する。日銀は当分のあいだ政策処方を現行のまま維持するとみられることから、日本国債のパフォーマンスは低位安定が続くだろう。しかしこれは、過去数年とは異なり、日本国債の他国市場に対する相対リターンにとって不利ではなく有利に働くようになると想定される。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見方

  • イールドカーブはスティープ化の見通し:当社では、金融・財政の政策協調とCOVID-19ワクチンの開発成功を追い風とする2021年の世界経済の力強い回復を投資家が次第に見越すようになるにつれ、イールドカーブがスティープ化すると予想している。
  • 投資適格クレジットのスプレッドを享受:信用スプレッドが提供する対ソブリン債での利回りプレミアムは引き続き魅力的であり、これによってクレジット市場はソブリン債をアウトパフォームするとみられる。
  • 金の保有は依然有効:世界の見通しの改善が実質利回りの上昇リスクをもたらす一方で、各国中央銀行は緩和的な金融環境が広く行き渡った状態を担保すると想定される。金は、ある程度の値固めが予想されるものの、従来リフレ環境において良好なパフォーマンスを見せてきている。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

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