サマリー

新型コロナウイルスの世界的流行を受けた足元でのアジア・リート市場の急落により、長期投資家にとって、アジア最大級の「不動産経営者」へのエクスポージャーを得るための良好なエントリーポイントがもたらされている。魅力的なバリュエーションや持続的なインカム・フロー、目立って高い分配金利回りを提供しているアジアのリートは、中長期的な見通しが引き続き良好であり、とりわけ「低金利の長期化」が見込まれる現在の金利環境にあって魅力度が増しているように見受けられる。

魅力が増しているアジア・リート

現在世界中の金融市場を襲っている悲惨で激しい嵐のなかにあって、安全な避難先はあまり存在しない。新型コロナウイルス流行を受けた投資家のパニック売りが招いた最近の市場混乱局面では、ディフェンシブな特性を持つアジアの不動産投資信託(リート)も苦境を免れなかった。

世界の多くの株式市場は直近の底値から反発しているものの、精神的に疲弊した多くの投資家にとっては、依然としてキャッシュなどの安全資産への逃避がお題目となっているようだ。しかし、最近の市場の暴落を受けてバリュエーションに魅力が出るとともに分配金利回りが目立って高くなっているアジア・リートは、安定的なインカムと長期にわたる構造的な潜在成長性を提供する資産クラスとして、その固有の魅力が見過ごし難くなりつつある。

長期のリース契約が裏付けとなっているアジアのリートは、新型ウイルスの影響で世界経済の悪化リスクが高まるなかでも、引き続き順調な賃料収入を生み出していく見通しである。確かに、リートのすべてのセクターが新型ウイルスによる混乱を受けて差し迫る景気後退から悪影響を受けるわけではなく、ヘルスケア、データセンター、eコマース物流施設など景気変動耐性の強い分野は相対的に影響を受けにくいとみられる。より大きな打撃を受けている小売リート分野のなかでも、生活必需品関連の店舗が中心となっている物件を保有するリートは、景気後退期でも底堅い客足が続く可能性がある。

同時に、世界各国の中央銀行が新型ウイルスの影響による景気後退入りを阻止するために、大幅な利下げによって経済活動の下支えに本格的に取り組むなか、金利が世界的に低下しており、これがリートなどの債券代替資産のバリュエーションにとって追い風となる見込みだ。また世界各国政府による大規模な財政出動もリートの押し上げ要因になる可能性がある。さらに、魅力的な利回りを追求する動きは、リートにとっての強力な構造的ドライバーとなり得る。

アジア地域で時価総額が最も急速に拡大している資産クラスの1つであるアジア・リートは、他地域のリートに比べて分配金利回りが魅力的な水準にありシャープレシオが高いだけでなく、グローバル・リートやグローバル株式、米国債との相関性が比較的低いことから、投資家の全体的な資産配分に継続して分散効果をもたらすともみられる。

金利低下による恩恵

新型コロナウイルスの世界的流行による経済や金融への影響を抑制するための予防的措置として、米連邦準備制度理事会(FRB)は3月3日に0.50%、同月15日に1.00%の緊急利下げを実施し、フェデラルファンド金利の誘導目標を0~0.25%へと引き下げた。香港やインドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国、台湾、タイなどアジア域内の中央銀行も、市場に流動性を供給して新型ウイルスから打撃を受けた経済を下支えするべく、過去数週間で大幅な利下げを実施した。シンガポールでも、3月下旬にシンガポール金融通貨庁(MAS)が、マクロ経済環境の悪化や経済成長低迷の見通しを受けて、シンガポールドルの上昇率誘導目標をゼロへと引き下げる金融政策緩和を実施した。

金利の低下は通常、リートにとって借入コストの低下という大きな恩恵をもたらすため、バリュエーションの向上に繋がる。金利低下は、リートの金融費用を低下させ支払利息の減少によって利益や収益を向上させるだけでなく、資金調達コストや資本コストの低下をもたらしてリートによる物件の増加性取得を促す[増加性取得とは、取得を行うリートの1口当たり分配金の増加につながる資産の購入をいう]。

さらに、金利が低下すると債券の利回りが低下することから、リートの分配金利回りの相対的な魅力が高まる傾向にある。2020年3月31日現在、米国債および香港政府債の10年物利回りは1%を割り込んでおり、また、シンガポール国債の10年物利回りは1.4%を下回っている。一方、FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REITインデックス(源泉税控除後トータルリターン・ベース)によると、同時期におけるアジア・リートの平均分配金利回りは7%を上回っている。

すべてのリートが景気後退リスクの高まりから悪影響を受けやすいわけではない

新型コロナウイルスの世界的流行を受けて世界的な景気低迷が深刻化・長期化するとの懸念が広がったことで、アジア域内の不動産およびリート市場の良好なファンダメンタルズや力強い成長が続くとの投資家の希望は打ち砕かれた。こうした懸念がアジアの多数のリートにとって価格の重石となり、2020年3月31日現在、FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REITインデックス(源泉税控除後トータルリターン・ベース)でみたアジア・リートの価格の年初来下落率は平均で18%を超えている。

アジアの複数の国々が新型ウイルスの感染拡大を抑えるべくロックダウン(都市封鎖)による行動制限や外出制限を実施中で、ショッピング・外食・旅行・観光関連の活動が抑制されているなか、小売およびホスピタリティ分野のリートは足元の市場急落局面で特に大きな打撃を受けている。例えば、小売リートは通常、ショッピングモールを運営して賃料を得ており、店舗のリースによってキャッシュフローを創出している。新型ウイルスの影響によって資金難や資金繰り問題に直面する小売店が増えているなか、モール運営会社が空室率の上昇や賃料支払い中断の長期化に直面する可能性があるとの懸念が、投資家のあいだで強まっている。また、新型ウイルス感染拡大によってビジネスが悪影響を受け厳しい状況にあるテナントに対して小売リートが実施している賃料の割引や免除も、1口当たり分配金の減少につながる可能性がある。しかし、生活必需品を提供する店舗が中心となっている物件を保有するリートは、景気後退期でも底堅い客足が続く可能性がある。

その他、オフィス・リート分野では、新型ウイルスの世界的流行を受けて事業継続計画や在宅勤務措置が発動され多数の企業が出勤する人員を最小限に抑えて事業を運営している現在、オフィスビルの所有者も苦境に直面している。確かに、企業の間で在宅勤務措置をとる傾向が長期化するとともに失業率が上昇すれば、オフィススペース需要の低下を招き長期的にオフィス・リートの収益成長を損なう可能性がある。幸いにも、アジアのオフィス・セクターは、空室率が非常に低いことや今後数年間で見込まれる供給が限定的であることが、影響の緩衝材となる。シンガポールを例に挙げると、都市再開発庁の新基本計画の一環として老朽化の進んだオフィスビルが複合用途ビルへと再開発されており、同国のオフィススペース供給量が減少する見込みが強まっている。

さらに近年では、データセンターやeコマース物流拠点など、「ニュー・エコノミー」がもたらす特徴的な不動産セグメントが台頭してきており、リートにとって、ビッグデータ、eコマースの台頭、5G(第5世代移動通信システム)無線ネットワークの提供開始といった長期的テーマを原動力とする、非従来型の差別化された不動産分野へのアクセスが拡大している。こうした動きを受けて、リート市場は景気敏感性が低下してきている。

実際、ヘルスケアやデータセンター、eコマース物流施設などの景気サイクルの影響を受けにくいリート・セクターは、景気後退による影響が相対的に小さくとどまる可能性があり、新型ウイルス流行が追い風にさえなるかもしれない。例えば、病院や医療用ビル、診療所、ライフサイエンス研究施設などヘルスケアセクターの医療用不動産を運用するアジアのリートは、新型ウイルス流行を受けてウイルス検査、治療および医療ニーズが高まるなか、底堅いパフォーマンスが続く可能性がある。また、ヘルスケア・リートは、下方プロテクションが十分に担保された仕組みのマスターリース契約によっても守られている。データセンターについても、新型ウイルスの世界的流行を受けて世界各国でソーシャル・ディスタンス(他人との一定の距離)を保つ措置が導入され自宅で過ごす人や在宅で勤務する人が増加し、インターネットショッピングやeコマース、ビデオ会議、オンラインエンターテイメントの利用が急増しているため、需要が増加する可能性がある。

あらゆる点を考慮すると、日本を除くアジア地域のリートの見通しは、必ずしもセクター全体にとって暗いわけではない。当社の考えでは、経験豊富なアクティブ運用のファンドマネージャーであれば、経済の先行き不透明感が強まってもリート市場において価値のある投資先とそうでないものを選別できるはずだ。新型ウイルス懸念が続くなかで深刻な打撃を受けているホスピタリティおよび小売分野のリートは足元で不人気となっているが、一方で、データセンターおよびヘルスケア・リートなど構造的成長が期待される銘柄は魅力的に映る状況が続くだろう。新型コロナウイルス危機の悪影響を受けているリートについては、その影響が永続的なものであるか一時的なものであるかを見分けることが長期スタンスの投資家にとって重要となる。影響が一時的に過ぎず危機前の水準への活動回復が見込まれるクオリティの高いリートであれば、今回の市場の調整は投資ホライズンが長く忍耐強い投資家にとって、長期的な観点から良好なエントリーポイントを提供している。

リスク調整後リターンが魅力的な急成長中の資産クラス

投資ホライズンがより長期である投資家にとって、アジア・リートの魅力は損なわれていない。アジア・リートは引き続き、同域内で最も急速に成長している資産クラスの1つであり、市場の厚みや幅が増してきている。また、過去10年間で上場銘柄数や市場全体の時価総額が著しく増加しており、市場の流動性も向上している。例えば、日本を除くアジア地域で上場されているリート全体の時価総額は、2002年に同地域初のリートが上場されて以来の増加額が1,000億米ドルを超えている(チャート1参照)。

チャート1:アジア・リート市場の時価総額の推移
チャート1:アジア・リート市場の時価総額の推移

注:FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REITインデックスに基づく。
出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成(2019年9月30日現在)

現在、アジアのリートの大部分はシンガポールおよび香港で上場されている。遡ること2002年にシンガポール初のリート(CapitaLand Mall Trust)が上場されて以来、同国ではさらに40銘柄のリートが新規上場され(その内7銘柄は外貨建て)、上場銘柄総数は41銘柄となっている(チャート2参照)。一方、香港では、2002年以来のリートの新規上場件数が11件となっている。アジアのなかでも経済が発展しているこれら2ヵ国の市場に上場されているリートは、日本を除くアジア地域における当該資産クラスの時価総額の80%超を占める。しかし、アジア・リートの上場トレンドは、シンガポールや香港以外にも、マレーシア、タイ、韓国、そして2019年に国内初のリートを上場したインドなど、様々な市場へと広がっている。当社では、アジアでリート商品を提供する国が次第に増えていくものと予想している。

チャート2:日本を除くアジア・リート市場の成長
チャート2:日本を除くアジア・リート市場の成長

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成(2019年12月31日現在)

過去5年間において、アジア・リートはリスク単位当たりのリターンが相対的に高く(チャート3参照)、シャープレシオが他地域のリートに比べて高くなっている。加えて、アジア地域のリートは、他資産との相関性がグローバル・リートやグローバル上場インフラに比べて相対的に低い(表1参照)ことから、投資家の全体的な資産配分に継続して分散効果をもたらすとみられる。

チャート3:アジア・リートの優れたリスク調整後リターン
チャート3:アジア・リートの優れたリスク調整後リターン

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成(2019年12月31日現在)

表1:アジア・リートは他の資産クラスと低相関
表1:アジア・リートは他の資産クラスと低相関

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成(2019年12月31日現在)

アジア・リートの展望

新型コロナウイルスの世界的流行がアジアを含む世界中の経済や金融市場に深い打撃を与えていることは間違いなく、世界が深刻かつ長期的な景気後退に陥るとの懸念が強まっている。リスク回避姿勢の広がりや信用収縮、不動産市場のファンダメンタルズ悪化見通しを受けて、アジア・リートはこのところ売り圧力に晒されている。このように短期的には逆風に見舞われているものの、とりわけ「低金利の長期化」が見込まれる現在の金利環境下では、アジア・リートの中長期的な見通しは引き続きポジティブであると考える。

当社では、アジア域内における前向きな構造改革、世界経済成長の牽引役が米国からアジアへと交代する可能性、データセンターやeコマース物流施設といった構造的成長が見込まれる新たな不動産分野の台頭を長期的なドライバーとして、アジア・リート市場は引き続き収益成長が支えられファンダメンタルズが改善していくと考えている。

アジアのなかでは、向こう3年間ベースで、シンガポールとインドのリートを概ね有望視している。シンガポールでは、供給不足やテクノロジーおよび医薬品セクターの企業からの需要が追い風となり、ビジネスパーク(複数のオフィス・ビルが集まるエリアの総称)のファンダメンタルズの改善が続いている。また、物流セクターは、供給の鈍化に加えてeコマース・セクターからの旺盛な需要が追い風になるとみられる。オフィスおよびホテル市場は、新型ウイルスの世界的流行を受けて当面の見通しに不透明感があるものの、供給が頭打ちしていることから、中長期的には持ち直しと順調な利益成長が見込まれる。さらに、シンガポールがアジアの玄関口であるとともにビジネスに有利な環境が整備されたウェルスマネジメントの中心拠点であることも、域内でも特に優良なオフィス資産を保有するオフィス・リートの追い風となり続ける見通しである。

インドでは、主要都市において優良オフィス物件への需要が供給を大幅に上回っていることから、そのような物件を保有するリートを有望視している。香港については、政治危機に対する即座の解決策がないため、社会不安がしばらく続く可能性があると考えている。一方、中国政府は香港の社会・政治的問題に対処するための施策として、グレーターベイエリア(粤港澳大湾区)の開発を加速させている。広州・香港・マカオを結ぶ約56,000平方キロメートルに及ぶ当該プロジェクトは、香港の不動産にとって長期的なプラス要因になるとみられる。金融センターおよび中国への玄関口としてのポジションは、引き続き香港のオフィス・リートの優位性となっている。セントラル地区のオフィス市場は、長期にわたって供給が低水準にとどまっていることが今後も追い風になるとみられ、また、グレーターベイエリア開発の加速を受けて、中国本土企業からの需要が引き続き同地区のオフィス需要の中期的な牽引役となっている。

総合的に考えて、当社の見方では、 新型ウイルスの世界的流行を受けた足元でのアジア・リート市場の急落は、長期スタンスの投資家にとって、アジア最大級の「不動産経営者」へのエクスポージャーを得る好機であり、妥当な利回りと持続的なインカム・フローをもたらす魅力的な資産クラスを取り込む、良好なエントリーポイントを提示している。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。