本レポートは、2020年9月28日発行の英語レポート「ASEAN equities: Uncovering opportunities in uncertain times」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

パンデミックによって生まれた投資機会

アセアン株式市場は、今年の初めにCOVID-19による危機の影響を大きく受け、1月から3月にかけて大幅に下落したが、3月末から急速に回復したことも大半の投資家にとって同じくらい予想外であった。当社では、この回復は前例のない水準の政府の財政支援が生計を守り、最終的にアセアン地域の経済はコロナ後に持ち直すだろうとの期待を反映しているとみている。

アセアン株式市場のパフォーマンスは今年V字回復を遂げているが、市場、セクター、銘柄においてパフォーマンスを左右する要因に大きな違いが見受けられた。クオリティーおよびグロース株がバリュー株をアウトパフォームする傾向が続くとともに、事業運営や財務面の堅固さも株式のパフォーマンスを決定する重要な要因となった。

実際、足元の株価の二極化によって、アセアン株式市場には多くの銘柄選択機会が生まれている。当レポートでは、こうした潜在的に高いリターンが見込まれる投資機会の一部を発掘し、掘り下げていく。長期スタンスの投資家は、パンデミックによってもたらされた足元の不確実性の高い時期にこれを活かすことができるかもしれない。

構造的なトレンドがアセアン株式を下支え

まず重要な点として、多くのアセアン諸国が依然としてCOVID-19のパンデミックによる影響に見舞われており、困難に直面しているものの、アセアン株式の長期見通しは引き続き明るいとみている。短期的には不確実性があるにもかかわらず、多くの東南アジア市場を引き続き下支えしているのは多数の構造的且つ持続可能な長期トレンドで、これには次の要因が含まれる。中国以外へのサプライチェーンのシフト、中間所得層の台頭、着実なペースで進む都市化およびインフラ整備、域内で継続している経済の変容が追い風となって成長が見込まれるセクターの浮上などである。

アジアの工場としての復権
貿易のリバランスがグローバルで進んでおり、アセアンは中国以外へのサプライチェーンのシフトから大きな恩恵を受けられる立場にある。COVID-19によって足元で景気が低迷するなかでも、アセアンの工場のサプライチェーンは競争力を高めつつあり、資本財の製造企業は設備投資の今後の伸びの回復から十分な追い風を受けられる。アセアンのテクノロジーおよび工業セクターの企業も、消費者、医療技術、自動車サプライチェーンの分野で主要なイノベーションのトレンドに十分に活かされている。

中間所得層の台頭
アセアンは、中間所得層がアジアで最も急速に拡大している地域の1つであり、若くて、活力に満ちた労働力が急速に増加している。当社では、アセアンの消費者の伸びが食品小売りや家の改築といったサービス分野の力強い需要をけん引していくとみている。また、アセアンのヘルスケア企業についても構造的にポジティブな見方をしている。ヘルスケア企業は、ウェルビーイングへの関心の高まり、医療保険の加入拡大、コロナ後のアセアン地域における医療ツーリズムの回復による需要の高まりが追い風となっている。

対内直接投資(FDI)の再来
アセアンのインフラ分野は、過少投資となっていることや都市化による長期的なポテンシャルがあることから、今後の成長機会に魅力がある。建設、素材、資本財・サービス企業は、構造的に今後の投資の持ち直しや中国の供給サイドの改革から十分に恩恵を受けられる立場にある。アセアンの金融および不動産企業も、潜在的な投資資金の流れやFDIの再来からの十分な追い風が見込まれる。

新たな成長分野の浮上
アセアンで最も優れた成長およびクオリティーのある投資機会をけん引するのは、国内消費に加えてアセアンの経済の変容に伴う消費やヘルスケア、インフラ、テクノロジー分野におけるサービスの旺盛な需要である。これらのセクターが、アセアン株式のベンチマークに占める比率は依然として低いが、今後のアセアンの成長はこのような新興の成長セクターからもたらされるだろう。これらについて以下に詳述する。

「ニュー・アセアン」セクターを選好

簡潔に言えば、現在当社が主要セクターのなかで高い確信を持っているのは、生活必需品、ヘルスケア、素材、テクノロジーである。当社ではこれらの成長分野を「ニュー・アセアン」セクターと称しており、アセアン地域の将来の経済を代表するセクターであることを意味している。

生活必需品
生活必需品分野で当社が探し出しているのは、近い将来または将来のアセアンの「台所」となる最も優れた食品会社だ。これらの企業は、食肉や加工食品の消費者フランチャイズの分野において、ROE(自己資本利益率)が拡大しポジティブな変化を遂げつつある。業界再編やサプライチェーンの混乱は、こうした生活必需品企業のリターンの持続可能性を高める方向に働くと当社ではみている。加えて、アセアンの食品業界はESG(環境・社会・ガバナンス)問題をより重視しており、また食品安全保障や食の安全への注力を高めていることから、これらが域内の食品会社の効率性やイノベーションを推し進めるだろう。これらはみな、サプライチェーンの統合が十分に進んだアセアンの食品会社にとって良い兆候である。COVID-19が食品需要やサプライチェーンの混乱に与える影響はより小さいとみられるなか、パンデミックとなるなかでも需給の逼迫によってこれらの企業の株価には耐性やディフェンシブ性があることが引き続き見受けられる。

ヘルスケア
極めて力強いポジティブな変化が起こっているのがアセアンのヘルスケア・セクターで、COVID-19による需要の急激な高まりを背景に成長している。生産能力の拡大には時間がかかることから供給は後ずれするとみられ、例えば、アセアンの医療用手袋を製造する企業の収益は2020年から2021年に何倍にも増加する見込みである。COVID-19の感染第2波や、ワクチンの世界的な利用により時間がかかる場合には、需要は今後もより長期にわたって高まる可能性がある。

テクノロジー
アセアン地域のテクノロジー企業は、サプライチェーンの回復見込み、消費者のテクノロジーに対する力強い需要、アジアでの5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの導入、そして海外直接投資の中国以外へのシフトがより長期的に継続している点が引き続き追い風となっている。加えて、アセアンの多くのテクノロジー企業のバリュエーションは、より割高な北アジアや米国のテクノロジー企業と比べて足元で魅力的な水準にある。ライフサイエンスの医療テクノロジーやセンサー部品の分野におけるアセアンのテクノロジー企業のバリュエーションは、これらの企業の長期的な成長見通しを考慮すると、より魅力的とみられる。

素材
素材セクターでは、インドネシアのニッケル生産企業を足元で選好している。電気自動車技術での採用が長期的なトレンドとなっていることから力強い成長を遂げつつあり、今後も高い成長が見込まれる。

国別の見通しとセクター・ポジショニング

アセアン域内の市場について当社が総じてポジティブな見方を持っているのはシンガポールである。シンガポールでは、外国人労働者のあいだでCOVID-19 の感染者が急増したものの、最近はパンデミックにより上手く対処している。当社では、シンガポールは国際的な往来が一部認められるなど、今後数ヵ月のうちに経済がさらに再開されると予想している。最も強気な見方をしているのは、ディフェンシブ性のあるテクノロジー、ヘルスケア、生活必需品の銘柄に加えて経済の段階的な再開が追い風となる一部の銘柄である。

また、ベトナムについてもポジティブな見方を維持している。パンデミックの拡大による中国の生産活動の混乱によって、世界のサプライチェーンの分散と冗長性の重要さが明確になった。このことがベトナムに直接的な追い風となるのは、同国がアジアの製造業のハブとして引き続き中国の代替となる代表的な国となっているからだ。加えて、ベトナムのCOVID-19のパンミックへのしっかりとした対処は、同国の信用を高めるだろう。ベトナム経済は、輸出型産業への投資が原動力となりコロナ後に力強い成長軌道に回帰するとみている。

インドネシアは、COVID-19の日次新規感染者数が依然として高水準であるが、当社ではボトムアップ分析による魅力的な銘柄選択機会を引き続き多く見出している。当社の主な投資アイデアには、金を扱う鉱業会社や経済の段階的な再開から恩恵が見込まれる一部の消費関連企業などがある。さらに、インドネシアの中央銀行は非常に緩和的な財政・金融政策を推し進めているとみており、株式などのリスク資産の下支えとなるだろう。

その他では、フィリピンについて中立的な見方をしている。COVID-19のパンデミックの封じ込めで多くの困難に見舞われてきた同国は、例えば8月に感染者数が増加したことを受けて、最近一部のソーシャル・ディスタンシング(社会的距離を確保する)措置を再び課すことを余儀なくされた。当社がフィリピンで主に選好するのは、ディフェンシブ性のある生活必需品、国際港湾管理会社、家の改築関連製品を扱う優良企業、最終的に経済が再開された場合に恩恵を受ける一部の企業である。

タイについては、差し当たり慎重な見方をしている。同国の経済環境は、観光セクターの深刻な縮小が足かせとなり厳しい状況になっている。当社のタイにおける主な投資アイデアは、ベトナムでの堅調な価格動向が追い風となる食肉分野の企業、優れたビジネスモデルによってコロナ後の環境で市場シェアを拡大している小売企業、ゴム手袋や健康補助食品の需要が旺盛となっているヘルスケア分野の一部の企業などである。

マレーシアについては、COVID-19のパンデミックへの取り組みにかなり成功したことを受けて経済の再開が継続されているとは言え、銘柄選択の余地がないことから特に慎重な姿勢を維持している。当社では、ゴム手袋、テクノロジー、電子サービス、金融サービス・セクターの一部の銘柄を選好する。

耐性があり、ポジティブな変化が見られ、持続可能な成長が見込まれる企業に注目

今年はアセアン株式市場のボラティリティが高まったものの、当社では投資プロセスを維持しており、景気低迷への耐性があり、ファンダメンタルズのポジティブな変化が見られ、持続可能な成長が見込まれる企業に着目している。

事業運営および財務面で即応性があるとともにCOVID-19のパンデミックを切り抜けるための耐性のある企業を特定することに引き続き注力している。現在の不確実性の高い時期に、市場予想を下回る決算および収益見通しの下方修正を発表する企業が多いなかで、収益に安定性のある企業は市場予想を上回る決算を発表する可能性が高い。

アセアン域内では、企業のポジティブな変化にも注目している。ポジティブな変化がみられる企業は事業収益が回復傾向にあり、事業運営や負債の立て直し、自社の事業戦略の再考および優先度の見直し、より大きなイノベーションやデジタル・ソリューションに向けた再編を行っている場合が多い。

最終的に、資本を効率的に配分または再投資できる企業が、この環境で好調さを示すとみられる。多くの企業が収益の回復に苦戦するとみられるが、当社ではデジタル・イノベーションや事業再編に取り組む企業がこの混乱の時期において今後も成長していくと考える。

市場見通し

実際、アセアン域内のクオリティーが高く成長性のある企業は、この数ヵ月に好調なパフォーマンスをみせており、このことは生活必需品、テクノロジー、ヘルスケア・セクターが、金融、資本財・サービス、不動産セクターに対して大幅にアウトパフォームしている点に明らかに表れていた。最近は、投資家がワクチン開発やコロナ後の景気回復について楽観的な見方を強めているため、バリュー株がアウトパフォームする状況も時折みられる。当社ではこの動向を注視しながら、不動産や金融など打撃を受けたセクターの一部への投資機会を窺っている。成長機会に乏しく、企業収益が低迷する時期において、収益のポジティブな変化やモメンタムが確認できる企業を引き続き選好する。

今後については、アセアン域内の株式市場は向こう数ヵ月のあいだに底入れ局面を迎え、2021年に近づくにつれて緩やかな回復基調を辿ると予想する。しかし、アセアン地域のコロナ後の景気回復は、2009年や2004年のような過去の回復局面と比べてより長い期間がかかるとともにより緩慢なものになるとみている。したがって、当社では、耐性があり収益の持続可能性が高い銘柄は、2020年の大半において圧倒的に優位なパフォーマンスをみせてきており、年内およびその後2021年も引き続きパフォーマンスをけん引していくとみている。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。