本稿は、2020年4 月15日発行の英語レポート「CAN RMBS REALLY WEATHER A DEPRESSION-LIKE EVENT?」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

オーストラリア全国で住宅ローンの救済措置や返済遅延容認などのニュースが報道されるなか、これがRMBS(住宅ローン担保証券)市場に与える影響をめぐり懸念が強まっている。しかし、RMBSは、事実が示唆する以上にリスクが高いとの悪評を受けることが多い。本レポートでは、AAA格のシニア・トランシェを対象にRMBSが高ボラティリティ局面でも引き続き魅力的な投資対象である理由を分析、解説する。

流動性:オーストラリラに於ける大半のRMBSは構造として平常時に超過インカムを蓄積しており、市場低迷時などにこの流動性準備がバッファーとしての役割を果たす。スタンダード&プアーズ(S&P)によると、一般的なプライムRMBSは9~12ヶ月の流動性バッファーを所持しており、たとえ一時的にキャッシュフローが枯渇しても(RMBSの特徴にもよるが)ある程度の耐久力はある。万が一RMBSが流動性危機に陥った場合、ウォーターフォール(優先順位)の規則に従い利払いが行われる。通常、同国RMBSに付随するウォーターフォールでは、AAA格のシニア・トランシェの利払いが他のトランシェより優先的に行われるのが慣行である。RMBSに何かしらのキャッシュフローが入ってくる限り、投資家は支払われるインカムによって報われることになる(オーストラリア住宅ローン・プール内の借り手が全てデフォルト(債務不履行)に陥ることは想定し難い)。

デフォルトの頻度:通常AAA格債券トランシェのサボーディネーションを設定する際に標準として各モーゲージプールの10%がデフォルトすることを仮定する。このモデルの仮定は、オーストラリアが過去30年に経験したどの局面におけるデフォルト率よりも高く、世界金融危機の時に米国が経験したデフォルト頻度である約5%の2倍の水準に設定されている。

住宅市場低迷から受ける影響:通常AAA格トランシェのサボーディネーションを設定する際に通常各モーゲージプールの対象となる住宅価格が45%下落するシナリオを仮定する。世界金融危機における米国の住宅価格の下落率は、30%を若干下回る水準であった。当該想定をわかりやすく説明すると、オーストラリアの住宅価格が2005年の水準まで下落する必要があるということだが、当時はキャッシュレートが5%を上回っているとともに平均賃金が(現在の1,600豪ドルに対して)1,000豪ドルであった。

格付機関はRMBSの評価を行う際、各RMBSが耐え得る損失の度合いを検証する。各機関によって様々な調整が行われるが、その分析の大部分は以下の2点に関するものだ。

  1. デフォルトするであろう借り手の数
  2. デフォルトした際の損失額

これらの疑問を深掘りする前に、まずは流動性に目を向けることが重要である。現在の環境では、「どのくらい持ち堪えられるのか」という問題が浮上しているからだ。これを考慮して、S&Pの想定が目指しているところを整理する必要があるが、それは、AAA格のRMBS で損失が生じるのは大恐慌のような状況のみというものである。したがって、想定の一部は思っているより広範となる可能性が高いが、それが肝心なところだ。

「基準の設定は典型的なローン・プールの『AAA格』の信用補完を盤石にすることから始まり、そのためには大恐慌のような経済ストレスの下で予想される損失を反映する必要がある。」
— S&Pグローバル・レーティングスによる2011年9月1日発行のレポート「Australian RMBS Rating Methodology and Assumptions」より

: この格付手法は一般的に適用されているものであり、各RMBS によってこれから乖離する微妙な差異を伴うことがある。したがって、当社のコメントおよび分析はセクター・レベルにとどめ、当社の運用ポートフォリオの投資対象であるAAA格の銘柄に焦点を絞ることとする。

1. 流動性

最初の出発点は流動性である。大恐慌のような状況を乗り切ることを考えるには、いかなる予見不可能な理由であれ1ヵ月間キャッシュフローがなかった場合に損失が生じないようにしなければならないからだ。よって、大半のRMBSでは経時的に流動性準備が積み上げられるよう設定されている。

RMBSの仕組みを考えてみると、銀行が住宅ローンをパッケージして機関投資家がそれを購入し、住宅ローンの借り手が利息を払う事でRMBSが投資家に利回りとしてそのキャッシュフローを還元することになる。目下リスクとしては国内人口の失業率が高まっている為、RMBS が投資家に還元するのに十分なだけの支払いを受けられない可能性がある事だ。

流動性準備に話を戻すと、オーストラリアのRMBSには通常、経時的にキャッシュを積み上げ、これがストレス時に利用可能となるメカニズムが備わっている。以下はそのような仕組みの一例である。

例えば一定の条件が満たされれば、利用可能な超過スプレッドを確保する未償却貸倒引当準備ファシリティがあるとする。貸倒引当準備ファシリティの残高は当初はゼロである。RMBS内モーゲージプールのクロージング日以降、条件を満たす獲得可能な超過スプレッドはすべて、500万豪ドルを上限として確保される事となる。貸倒引当準備ファシリティは、RMBSがその支払日に行う必要のある支払いの不足分に充当することができ、RMBSのトランシェにおいて当該期の損失と未回収貸倒償却が発生するのはその後となる。

このRMBSの用例では500万豪ドルの超過スプレッドが流動性準備として今日見られているような難局で利用可能になる。超過スプレッドとは、住宅ローン金利(例えば3.5%)とRMBSの投資家に支払われるクーポン(例えばRMBSの支払い可能クーポンの平均で3%)の差を指す。流動性準備が500万豪ドルに満たないあいだは、RMBSのクーポン利率を超えるスプレッドはすべて流動性準備に追加される。流動性準備が500万豪ドルを超えると、超過スプレッドは、RMBSの証券保有者への分配を含め、そのRMBS のウォーターフォールの仕組みに従って支払われ始める。その後、この流動性準備は

RMBS が償還を迎えるまでそのまま維持され、償還時にはRMBSの証券保有者に還元される。

以下は、このような条項に関するS&Pの見解である:

オーストラリアのRMBSにはキャッシュ準備枠、または流動性ファシリティが備わっており、これが構造として流動性ストレスに対するプロテクションの役割を果たし、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)局面における住宅ローンの支払い停止分の埋め合わせに寄与することになる。

当社が格付けを行っているオーストラリアのプライムRMBSの大半への流入キャッシュフローがゼロに落ち込むという依然考えにくいシナリオが現実化したとしても、RMBS へのシニア・トランシェの経費および現行金利でのクーポン支払いを平均で9ヵ月程度カバーできる流動性準備枠またはファシリティを備えていると当社は計算している。当社で格付けを行っているオーストラリアRMBSのノン・コンファーミングローン物については、流入キャッシュフローがゼロへと落ち込んだ場合に持ち堪えられる期間を、平均で11ヵ月と推定している。

予測するのは難しいが、結果としてRMBS にかかるストレスの度合いは、住宅ローン救済措置の利用率によって決まるだろう。

— S&Pグローバル・レーティングスによる2020年3月25日発行のレポート「How Will COVID-19 Affect Australian Structured Finance?」より

S&Pは基本的に、オーストラリアのRMBS の大半について、キャッシュフローがゼロになったとしても、ストレスに晒される前に9~12ヵ月間のクーポン支払いを行える流動性バッファーがあるということを述べている。上述のメカニズムの形式は各RMBS によって異なるが、「万が一」に備えるために何かしらの水準のスプレッドが確保されていると見込まれる。発行されてからの経過年数が長い(コールされた経年プール)RMBS は十分なバッファーを積み上げているとみられるため、経年数のより長いRMBS の方が時の経過とともにより堅固になると言える。

: 格付けリスクに関するS&Pのコメントでも明らかなように、流動性バッファーはRMBS によって異なる場合がある。

流動性補完の水準がより低いRMBS のトランシェの方が、短期的な格付けリスクがより高くなる。これは、新型コロナウイルスのピークやRMBS のキャッシュフローに対する流動性ストレスの予想期間をめぐって、不透明感が強いからだ。住宅ローンの支払い救済措置が借り手の大部分に適用され得るRMBS は、流入キャッシュフローが減少するためリスクが高くなる。

— S&Pグローバル・レーティングスによる2020年3月25日発行のレポート「How Will COVID-19 Affect Australian Structured Finance?」より

流動性準備が底を突いたらどうなるのか

流動性準備が底を突いた場合は、そのRMBS は契約で合意されている支払い条件に戻ることになる。RMBSのキャッシュフロー・ウォーターフォール(支払いが行われる順番)では、AAA格のシニア・トランシェが最初に利息全額の支払いを受け、次に優先度が最も高いトランシェへと続き、その後すべての債券保有者への支払いが済むまで続く。すべての債券保有者に支払うのに十分なキャッシュフローがない場合は、まずシニア・トランシェが入ってくるキャッシュフローから支払いを受ける。担保プールの一定割合が支払いを行える限り、AAA格トランシェは依然キャッシュフローを受け取ることができる。

元本の支払いにも同じプロセスが適用される。好況下では、ほぼすべてのRMBS が、一定の基準を満たせば、パリパス条項(つまり、すべての既存トランシェにわたる)での元本返済支払いにシフトする。この基準は個別RMBS によって異なるが、基本的な条件としては60日の延滞率が4%を超えてはならない、どのトランシェにも貸倒償却があってはならない、サボーディネーション全体が一定割合を上回っていなければならないといった事が含まれる。これが意味するのは、流動性準備が底を突いた場合、そのような条件の1つに引っかかることになる可能性が高いということだ。したがって、RMBS は償還が優先順位に沿って行われる状況に戻り、AAA格トランシェが元本返済を最初に受けることになる。現在、ローンの支払い繰り延べが延滞としては扱われていないことは留意すべきだが、だからこそRMBS 特有のトリガーが重要となるだろう。

今ではストレス下環境について論じることになるため、AAA格トランシェが元本を回収できるかを判断するのに、当該RMBS での想定に目を向ける必要がある。いかなる返済もまずはAAA格トランシェに向かうが、これによって冒頭で掲げた2つの最重要点が浮上する。

住宅ローンの借り手のどの位の割合がデフォルトし、その際の損失がどの程度になるか

AAA格レベルの想定は下表の通りで、各特徴について個別に検証する。

表1:格付け別典型的担保プールの主要信用補完要素
表1:格付け別典型的担保プールの主要信用補完要素s

* 例示目的として、損失の度合いは変動売却コストを5%、固定売却コストを5,000豪ドル、主要都市圏の物件価格を10万豪ドル、経過期間の金利を12.76%と想定して算出。

出所:S&Pグローバル・レーティングス発行「Australian RMBS Rating Methodology and Assumptions」(2011年9月1日)

2. デフォルトの頻度

表1を見ると分かる通り、オーストラリアの平均的プライムRMBSプールの想定デフォルト率(差し押さえ率)は、AAA格トランシェで10%となっている。つまり、S&Pは、どのRMBS でも借り手の10%がデフォルトしローン返済不能になると想定していることになる。この10%という数字は、過去の水準に照らして見る必要がある。オーストラリアのデフォルト率は大半の期間において非常に低く、ストレス時の具体的なデータはなかなかないが、RBA(オーストラリア準備銀行)が作成した複数の資料のおかげで、1990年代初めの景気後退期や2008年の世界金融危機を振り返り、デフォルトし返済不能となったローン数の感触を得ることはできる。

— Credit Losses at Australian Banks: 1980 – 2013: https://www.rba.gov.au/publications/rdp/2015/pdf/rdp2015-06.pdf

— RBA Chart Pack – March 2020:-https://www.rba.gov.au/chart-pack/pdf/chart-pack.pdf?v=2020-04-01-12-04-06

「Credit Losses at Australian Banks: 1980 – 2013(オーストラリア国内銀行の貸倒動向:1980~2013年)」の13ページには、1990年代初めにおけるセクター別の不良資産動向が記されており、家計向け貸出しにおける不良資産の割合が2~3%に上昇したことが示されている。

チャート1:貸出ポートフォリオ別の不良資産の推移(当該資料の図表6、全銀行における貸出種類別での割合)
チャート1:貸出ポートフォリオ別の不良資産の推移(当該資料の図表6、全銀行における貸出種類別での割合)

出所:RBA

「RBA Chart Packs(RBAチャート集)」には、当該期間において不良債権比率(セクター別に分けられていない)が2%を上回らなかったことが示されている。これは、家計部門のデフォルト率が極めて低かったことを意味している。

チャート2:銀行の不良資産の推移(国内外事業連結ベース、オンバランス資産に占める割合)
チャート2:銀行の不良資産の推移(国内外事業連結ベース、オンバランス資産に占める割合)

出所:APRA(オーストラリア健全性規制庁)

オーストラリアで見られた過去2回の危機局面において、住宅所有者のデフォルト率は上昇したもののAAA格の想定水準である10%には近づくことすらなく、一桁台前半での推移となっている。

余談ではあるが、オーストラリア以外の事例にも目を向けると、世界金融危機下の米国や1990年代初めの英国では、ともにデフォルト率が5%程度まで上昇している(チャート3および4参照)。

チャート3:米国における差し押さえ率および支払延滞率の推移
チャート3:米国における差し押さえ率および支払延滞率の推移

出所: https://voxeu.org/article/mortgage-delinquency-and-foreclosure-uk

チャート4:英国における差し押さえ率および支払延滞率の推移
チャート4:英国における差し押さえ率および支払延滞率の推移

出所: https://voxeu.org/article/mortgage-delinquency-and-foreclosure-uk

チャート3および4を見ると、10%という想定デフォルト率は、オーストラリア国内だけでなく海外の過去の基準からしても、相当高い水準であると結論付けることができる。

しかし、もう少し実際に即した議論を行うために、簡単な計算をしてみたい。オーストラリアでは総世帯の約50%が住宅を所有している。そして、国内の失業率の上昇が住宅ローン利用者のデフォルトを引き起こすという至って単純な想定に立った場合、デフォルト率が10%に達するには失業率が足元の5%から20%まで上昇する必要があることになる。

このシナリオは起こり得るだろうか。足元の環境下ではその可能性を除外するものではないが、現実味があるとは現在は考えていない。より可能性が高いと見ているのは、失業率が10%程度に向かって上昇するというシナリオであり、これはオーストラリアの過去の危機局面や英国および米国の事例と同様の水準である。10%という失業率は、住宅ローン市場のデフォルト率を10%まで上昇させるほどの水準ではないと当社は考えている。

チャート5:オーストラリアの失業率
チャート5:オーストラリアの失業率

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

加えて、連邦政府が先日導入した措置も考慮する必要がある。オーストラリアの世帯向け措置としては、最近導入されたジョブキーパー(雇用調整)助成金(一時休職となった者に対し雇用主経由で2週間毎に最低1,500豪ドルの支給を確保することを目的とする)などが含まれる。デフォルト率の観点から見ると、これにはわかりやすい恩恵が2つある。

  1. 当該助成金がなければ収入がなくっていた従業員が定期的な助成金支給を受けることになるため、潜在的なデフォルト件数が低減すると見込まれる。この助成金を受け取る人全員が生活費需品よりも住宅ローンの返済を優先すると言うつもりはないが、助成金によって失業動向の痛みが一部軽減されるものと考えられる。
  2. 最終的にこうした経済問題を脱した際に、人々が通常の生活に戻るのが大幅に容易になると見られる。基本的に、政府の措置は、企業が従業員との雇用関係を維持し事業が再開できるようになった際に従業員を呼び戻すことを可能にする。これによって、企業側は新たに採用を行う必要がなくなり、従業員側は仕事を探す必要がなくなる。つまり、景気が再び上向いた時に混乱期間がより短くなると考えられ、したがってデフォルト率が低減する可能性がある。

1990年代初めのオーストラリアでの経験、そして英国および米国それぞれの危機局面での経験によると、オーストラリアの住宅ローンのデフォルト率は10%まで上昇しないものと示唆され、住宅ローン・プールの10%がデフォルトするとするAAA格付のストレス想定は現実化し難いものとなっている。また、注目に値する点として、世界金融危機下のオーストラリアのRMBS においては、劣後性が非常に強いもの(当時は今に比べると劣後トランシェの厚みがかなり小さく設定されていた)であっても、すべての証券が「マネー・グッド」(つまり期限通りに支払いが行われデフォルトが起こらない)となった。ただし、1つ注意すべきは、オーストラリアの家計債務が過去20年間で最も高い水準にあることで、これが現在の当社予想よりも好ましくない結果を招く一因となる可能性がある。

3. デフォルト時損失率

検討が必要な最後の想定事項は、デフォルト時損失率である。つまり、ローンの借り手がデフォルトした場合に、抵当権を有することになる資産からいくら回収できるかだ。AAA格レベルにおいては、これは2つの要素で構成されている。

  1. 住宅価格が45%下落
  2. 住宅売却に伴うコストが5%

この想定によると、デフォルト時の(資産における)損失率は50%となる。損失がどのようにRMBS に転嫁されるかを示す簡単な例を見てみよう。1億豪ドルの家を買うのに、その住宅価格の70%相当額を銀行から借り入れたとする。現時点の状況は以下の図のようになる。

図1:貸付シナリオ例
図1:貸付シナリオ例

借り手がデフォルトした場合、資産の損失率を50%と想定すると、デフォルト時においてこのシナリオの結果は次のようになる。

図2:ローンのデフォルトを受けた資産額例
図2:ローンのデフォルトを受けた資産額例

このシナリオでは、借り手が30万豪ドルのエクイティ(正味持分)を失い、銀行はローンのうち50万豪ドルを担保不動産の売却で回収できるが残りの20万豪ドルを損失として被ることになる。この20万豪ドルの損失はRMBS に転嫁される。つまり、想定される損失度合いが大きくなればなるほど、当該RMBS に転嫁される損失額も大きくなることになる。

オーストラリアの場合、このような度合いの損失が生じる可能性についても見極める必要がある。住宅価格下落率を45%とするストレス想定に焦点を当てると、これは未知の領域となる。過去30年間においては住宅価格の下落が極めて稀であったからだ。

チャート6:オーストラリアの住宅価格の前年比変化率
チャート6:オーストラリアの住宅価格の前年比変化率

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

また、海外に目を向け、米国や英国で危機の時に不動産価格がどのように推移してきたかを見てみると、米国ではサブプライム危機局面において不動産価格がピークから底打ちするまでに約30%下落した。

チャート7:米国のS&Pケース・シラー住宅価格指数の推移
チャート7:米国のS&Pケース・シラー住宅価格指数の推移

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

英国では、英国土地登記所のデータによると、世界金融危機の局面において不動産価格がピークから底打ちするまでに約20%下落した。

チャート8:英国の住宅価格の推移
チャート8:英国の住宅価格の推移

出所:英国土地登記所

このシナリオは起こり得るだろうか。この場合も、足元の環境下では可能性はあると言うのが妥当なように見受けられるが、確率としては低いだろう。チャート9は、住宅価格が現在の水準から45%下落するというのがどのような価値減少であるかを示したものだが、これを見るとわかる通り、2005年の価格水準に戻ることを意味する。2005年当時は、キャッシュレートが5%を超えていた(現在は0.25%)ほか、オーストラリアの平均賃金は1週間あたり1,000ドル程度であった(現在は約1,600ドル)。景気低迷が長引いた場合の結果として可能性がより高いと見られるのは、英国や米国で起きた事例と同等の20~30%の下落であろう。これらの数字も、前述のAAA格のストレス想定に達するほど高い水準ではない。

さらに、この分析は現在の住宅価格の下落に焦点を当てており、より古いRMBS (つまり発行からの経過年数が長いRMBS )では当初の分析が現在よりも低い住宅価格をベースとして行われていただろうという事実を考慮していない。例えば、2016年にAAA格を付与されたRMBS では、当該ストレス想定が2016年の住宅価格水準に対して適用されていたことになる。過去4年間において、住宅価格が上昇しただけでなく、住宅ローンの借り手のエクイティが返済を通じてさらに積み上げられてきたはずだ。したがって、経過年数がより長いRMBS の場合、AAA格トランシェのバッファーとなっている劣後部分にストレスが及ぶには住宅価格の下落幅の想定がより大きいものである必要があると考えられる。

チャート9:オーストラリア住宅価格指数の推移(1980年=100)
チャート9:オーストラリア住宅価格指数の推移(1980年=100)

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

その他の検討すべきファクター

留意すべき最後のポイントは、RMBS はそれぞれ異なるということである。前述の想定は「一般的」な住宅ローンの借り手についてのものであり、各個人の特性は考慮されていない。このため、S&Pでは、投資目的ローンであるか、担保物件所在地が地方か都市部か、借入れ書類審査基準などの要素に基づいた調整も行っている。S&Pの格付手法のなかで説明されているこれらすべての調整項目によって、ローンの特性に基づいたさらなる信用補完が加えられる。

これらの調整はリスクのより高いローンの信用補完を強めるが、潜在的損失分析の土台と考えられる前述の2つの評価基準に適用される。特筆すべき点として、RMBSのローン・ポートフォリオを分析する際にはLTV比率(担保評価額に対する借入金の割合)が極めて重要になるが、それには以下2つの理由がある。

第1に、資産評価額に対して100%借り入れる人は30%借り入れる人に比べてデフォルトする可能性がより高いことから、LTV比率は潜在的デフォルト率の指標として有効である。

第2に、資産評価額の100%を借り入れている人がデフォルトした場合は、生じる損失がすべて銀行に直接転嫁されることから、30%の人の場合に比べて銀行が被る損失額がより大きくなる。したがって、LTV比率はデフォルト時の損失を計算する上で最も重要な要素となる。

上記分析の想定で用いているのは平均的な借り手のプールと考えられる「典型的借り手」で、LTV比率を75%と想定している。LTV比率がこの水準を上回るか下回るかする場合は、RMBS で必要とされる信用補完の調整が行われる。

結論

世界金融危機以来、ストラクチャード・ファイナンス商品の格付手法は、AAA格が実際に大恐慌のようなストレスを考慮したものとなるように大幅に改定されてきた。目下の経済見通しでは景気が相当鈍化すると見られているが、当社では依然、これらの住宅ローン担保証券においてAAA格レベルの裏付けとなっている想定に影響が及ぶ事は予想していない。

以上から、当社では、RMBSセクターは失業率の上昇や住宅価格の低迷を受けて圧力に晒され、経済情勢の展開によっては高格付RMBS債券がダウングレードになる可能性はあるが、オーストラリアのRMBSは今後とも安定したリターンが出せる商品であると考えている。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。