本レポートは、2020年6月発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

中国では、多くの工場や製造施設、生産ラインがロックダウン(都市封鎖)期間中の数ヵ月に及ぶ操業停止を経て現在稼働中であり、世界第2の経済大国がCovid-19(新型コロナウイルス感染症)の影響から徐々に回復するなか、最近では同国の主要経済指標が上昇傾向を示し始めている。中国は、感染第二波の脅威にもかかわらず、新型コロナウイルスのもたらした憂鬱な景気後退から回復する世界で最初の経済大国となるのだろうか。そして、「世界の工場」が再開するにあたり、その恩恵を最も享受し得る中国のセクターや銘柄はどれになるのか。読み進めて解明していただきたい。

感染拡大が早期であった分、回復のタイミングも早い

中国は、壊滅的なCovid-19の流行の矢面に立たされた世界で最初の国であり、2019年12月下旬に流行が始まった。また同国は、感染拡大を抑制するために、湖北省など流行に見舞われた都市の多くで厳しいロックダウン措置を実施した最初の国でもあり、国内の流行が対処可能な状況となってきたことを受けて、経済活動を最も早期に再開した国の1つでもある。

「世界の工場」と呼ばれることも多い中国は、感染第二波の脅威にもかかわらず、新型コロナウイルスのもたらした憂鬱な景気後退から回復する世界で最初の経済大国となるのだろうか。それは時が経たなければわからないが、最近発表された中国の経済指標の一部から判断すると、見込みは十分にありそうだ。

これまでの経緯をまとめると、中国は、国内のCovid-19の新規感染者数が5日連続でゼロとなったことを受けて、2020年3月に大半の都市のロックダウン措置を解除した。4月上旬、中国政府は、Covid-19の流行が最初に始まって1,100万人の人々が2020年1月23日から厳重なロックダウン下に置かれてきた武漢について、数ヵ月にわたって続いたロックダウンを終わらせた。多くの工場や製造施設、生産ラインがロックダウン(都市封鎖)期間中の数ヵ月に及ぶ操業停止を経て現在稼働中であり、世界第2の経済大国がCovid-19(新型コロナウイルス感染症)の影響から徐々に回復するなか、最近では同国の主要経済指標が上昇傾向を示し始めている。

例えば、中国国家統計局の発表によると、中国の5月の鉱工業生産は機器製造やハイテク製造の加速が牽引役となって前年同月比4.4%増となった。これは4月の鉱工業生産の伸び(同3.9%増)から加速しており、マイナスであった年初3ヵ月の数字と比べて大幅な改善である。中国の鉱工業生産は、同国におけるCovid-19の流行の最悪期であった1月および2月が前年同期比ともに13.5%減となり、その後の3月は同1.1%減となっていた(チャート1参照)。

チャート1

加えて、同国の5月のサービス業生産指数は前年同月比1%の上昇と、プラスに転じるとともに4月の-4.5%から大幅に改善した。中国国家統計局の発表によると、5月は情報伝送やソフトウェア、情報技術サービスといった分野が同国のサービス業生産を押し上げた。

その他では、財新発表の中国の製造業PMI(購買担当者景気指数)が4月の49.4から5月に50.7へと上昇し、景気加速を示す領域に入った(PMIは50を上回ると前月比での景気改善、50を下回ると景気悪化を示す)。同国の5月のPMIは、同国経済の再開に伴って新規受注や製造業関連の購買が増加したことから、2020年1月以来で最も高い水準となった。

注視すべきデータ

最近の中国で経済・ビジネス活動が加速しているなか、エコノミスト達は現在、世界第2の経済大国で始まったばかりの景気回復が持続可能なものかを判断するのに、同国の小売売上高や輸出統計、固定資産投資(いずれも5月の段階では依然減少している)を注視している。

国内の消費財の小売売上高(一般家庭、政府および企業による支出を含む)は、5月も減少を続けて前年同期比2,8%減となった。しかし、5月の数字は4月の4.7%減から改善を示している。また、中国の5月の輸出が他国の需要低迷を受けて前年同月比3.3%減となる一方、同月の固定資産投資は前月に比べて減少のペースが鈍化した。

政府主導のインフラ支出を含め内需の主要なドライバーである固定資産投資は、今年の1月~5月で前年同期比6.3%減となった。同指標について発表されるのは累積投資額のみだが、中国国家統計局によると、2020年は1月~2月が前年同期比24.5%減と過去最大の減少、第1四半期が同16.1%減、1月~4月が同10,3%減であり、これから見ると1月~5月は減少率が鈍化している。

中国の2020年第1四半期のGDP成長率は前年同期比-6.8%となり、1992年に同国が四半期ベースの発表を始めてから初めてのマイナス成長となった(チャート2参照)。第1四半期に失速した中国経済は、首都北京最大の農水産品卸売市場である「新発地」周辺で発生した新たな感染クラスターが制御されてCovid-19の流行が再び国内の他の都市に広がらない限り、第2四半期および年後半には回復する可能性が高い。

チャート2

Covid-19感染第二波のリスク

確かに、北京における直近のウイルス流行が中国での本格的なCovid-19感染第二波へとエスカレートし、流行に見舞われた都市で2回目の大規模ロックダウンが必要な事態となれば、世界第2の経済大国における持続可能な経済回復はすべて白紙に戻る。

これまで(2020年6月末時点)のところ、状況は制御されているように見受けられる。実際、6月中旬に北京で新規感染者が見つかり感染経路が新発地へと追跡されてから、中国当局は流行を封じ込めるためのアクションを直ちに起こし、汚染された農水産品市場の閉鎖や首都圏の全学校の休校、感染者が確認された複数の住居練に対する外出禁止令、感染クラスター発生場所近辺の住人に対するCovid-19の集団検査などの措置が講じられた。さらに、新たなクラスターの感染者と接触のあった市民は首都を離れることを禁じられ、北京から他の都市や省への交通ルートも一部止められた。

北京の新たな感染クラスターが中国の経済回復を頓挫させるかどうかはまだわからない。間違いないのは、今年の中国の経済成長が確実に鈍化することで、同国の中央政府は最近、Covid-19のパンデミック(世界的流行)によって多大な不透明感がもたらされていることを理由に、今年の年間経済成長率目標の設定を見送った。Covid-19感染第二波の脅威に加えて倒産の増加や失業率の上昇、米中間の緊張激化、中国のサプライチェーンに対する貿易相手国からの依存度の後退など他の経済面での難題があるなか、中国経済が2021年に回復できるかどうかについて、同国に全注目が集まるだろう。

より長期の投資環境見通し

今年、中国はGDP成長率目標を設定しなかったが、当社では、政策による支援が十分に強力であることから中国経済は2020年通年でプラス成長を達成できるとみている。結局のところ、中国経済は世界経済よりも大幅に早いペースで成長しているのだ。

繰り返しになるが、経済指標は中国経済が仕事の再開と国内消費の回復を受けて着実に回復しつつあることを示している。加えて、流動性環境は経済の回復段階において引き続き緩和的である。当社では、中国政府が高水準の財政赤字に耐えながら金融政策の緩和を通じて景気を刺激することにより、何とか国内の雇用水準の安定化を図るものとみている。

とは言え、中国企業の大半については2020年の利益成長がコンセンサス予想を下回り続ける可能性があり、2021年に回復できるかは、Covid-19のパンデミックに伴う不透明感や米中間の緊張悪化から、今のところ依然はっきりしない。

外的な不透明感は強いものの、中国A株のファンダメンタルズは月を追うごとに改善し続けており、中国の産業は内需を原動力として順調に回復している。当面は、当社では構造的な投資機会が見込まれる分野に引き続き注目し、外需関連よりも内需型のセクター・銘柄を選好していく。

中国における国内支援は、地方債の発行増額や5G(第5世代移動通信システム)・デジタル・自動化・環境など戦略的産業開発分野を中心とする対象を絞った財政出動を通じて進められている。当社では、割安で構造的成長が見込まれる当該分野、具体的にはソフトウェア、ヘルスケア、保険および一部の消費関連サブセクターに引き続き注目している。

より長期的には、中国のテクノロジー株、特に米国の新たな輸出制限への不安から最近パフォーマンスが劣後している5Gネットワークの構築やクラウド・コンピューティングといった分野の銘柄が、アウトパフォームすると予想される。これらのテクノロジー関連株については、新たなテクノロジー・サイクルとCovid-19後の世界における急速なデジタル化が追い風になり続けるものとみられる。Covid-19に大きな打撃を受けた最初の国である中国は、経済がパンデミックから回復する最初の国となる可能性もあり、同国のハイテクおよびデジタル経済関連産業の台頭を考えると、他国以上に強い回復をみせるかもしれない。古い諺にある通り、「どんな試練も乗り越えれば人をより強くする」ものだ。

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