当レポートは、英語による2019年12月発行「EMERGING MARKET OUTLOOK 2020」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

新興国債券市場のパフォーマンスは2年にわたって良好に推移した後、2018年に低迷したが、これは多くの投資家にとって想定外であった。米国連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが新興国資産クラス全体に悪影響を与えるとともに、トルコやアルゼンチンといった国から生じた固有のリスクもパフォーマンスの足かせとなった。こうしたことを受けて、2019年の見通しは総じて悲観的な内容となった一方、当社では2019年について慎重ながらも楽観的な見方を持っており、状況の改善を予想していた。

2019年の新興国債券市場は様々なニュース報道を受けて時折混乱を見せたものの、結局懸念されていたよりもかなり良好なパフォーマンスとなった。本レポートの執筆時点において、新興国債券ユニバースのなかで最もパフォーマンスが好調となったのはハードカレンシー建て債券で、リターンは14%(JPMorgan EMBI Global Diversifiedインデックス)となった。次いで良好だったのは社債で、リターンは約12.5%(JPMorgan CEMBI BD CEMBI Broad Diversifiedインデックス)、そして現地通貨建て債券が続き、リターンは約12%(JPMorgan GBI-EM Global Diversifiedインデックス)となった1

新興国債券市場は、ネガティブな報道や投資家の見通しに対する懸念をどのように払拭し、2019年に好調なリターンを記録したのだろうか。

2019年の振り返り

2019年の主なテーマはやはり継続中の米中貿易戦争だった。米国が1,600億米ドル相当の中国製品に対して追加関税の賦課を予定通り12月15日に実施するかについて、ごく最近まで不透明であったなど、2019年を通じて米中貿易戦争は続いた。その後、米中両国は歩み寄りの姿勢を見せたが、貿易摩擦は米国と中国に限ったことではない。トランプ米大統領はこれまでブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領と友好的な関係だったにもかかわらず、米国は12月にアルゼンチンおよびブラジルに対して鉄鋼とアルミニウムの関税を復活させるとの予想外の表明を行った。

新興国市場は個別の問題も抱えており、こうした資産クラスへの投資には選別的なアプローチを用いることが重要だという点を改めて実感させられた。個別問題の例として、アルゼンチンは債務が膨れ上がるとともに政情不安が続いており、依然として経済が危機的な状態にある。トルコは、多額の資金を国外から調達する必要があることや政府による失策が続いたことによって経済が苦境に陥った状態が続き、2018年にトルコリラが大幅に下落したが、2019年は一段安となった。

投資家は多くの新興諸国における社会不安への対処を余儀なくされた。チリ、ボリビア、エクアドルなどの国では大規模な反政府抗議が起こるなど、中南米では混乱が見受けられる。レバノンでも社会不安が広がったほか、特に顕著だったのは香港で、6月以降続いている抗議活動は最終的に中国経済に打撃を与える可能性がある。

こうした懸念がある一方で、世界の中央銀行の政策は2019年の新興国市場を大きく後押しする要因となった。2019年以前までは、先進国の金融政策は引き締めが続くというのがコンセンサスとなっており、新興国市場の資産にとって逆風となっていたと考えられる。実際に2019年の序盤は、FRBが年内に数回の追加利上げを実施することが予想されていた。こうした見方が完全に変化したのは3月で、FRBは政策の方向を転換し、年内は利上げを実施しないとの意向を示唆した。その後、FRBは3回の利下げを行い、これによって新興国債券市場が大きく押し上げられて、投資家は直ちに構造的な投資機会に着目して利回りを求める動きに出た。また、新興国の中央銀行はFRBの動向に即座に追随した。金融緩和の障害となるインフレ圧力がなかったことから、新興諸国の中央銀行は、世界の経済成長が鈍化するなかで自国の経済を下支えすべく、年を通じて合計で22%の利下げを実施した。

2020年に向けて

2019年の新興国債券は大半の投資家の予想を大幅に上回るリターンとなったが、2020年もこうした優れたリターンが再び実現する可能性は低いと見られる。米国債利回りの低下によって当該資産クラスが上昇する可能性は低く、またソブリン債のスプレッドがヒストリカルベースで見た場合にタイトな水準にあることから、現実的には1桁台前半から半ばのプラスリターンとなるかもしれない。しかし新興国通貨は2年にわたるアンダーパフォームを経て特に魅力度が高まっていることから、現地通貨建て債券のパフォーマンスを押し上げる可能性があるだろう。

とは言え、世界の経済成長が鈍化するなか、新興国の成長率は相対的に高く、今後も投資家の関心を集めるだろう。2020年の経済成長率予想では、経済協力開発機構(OECD)加盟国は1.8%にとどまっているのに対し、新興国は約4.6%の成長が見込まれている。

チャート1:GDP成長率 新興国vs 先進国

チャート1:GDP成長率 新興国vs 先進国

出所:日興アセットマネジメント、2019年12月17日時点

新興国の総合インフレ率は、中国で食品価格が上昇していることから2020年に上昇ペースがやや加速する可能性がある。とは言え、各国中央銀行は緩和的な姿勢を維持すると見られることから、このことが当該資産クラスをさらに押し上げるだろう。多くの先進国のソブリン債がマイナス利回りとなるなかで、新興国債券は利回りを求める投資家にとって引き続きふさわしい選択肢になると見られる。

チャート2:インフレ率 新興国vs先進国

チャート2:インフレ率 新興国vs先進国

出所:日興アセットマネジメント、2019年12月17日時点

2020年も、米中貿易戦争は引き続き大きな不透明要因である。トランプ大統領の次の動きを確実に予測することは不可能だが、トランプ大統領は大統領選挙の年に米国経済にとってさらなる打撃となるようなことは避けたいだろうと当社では考えている。また、中国は経済のモメンタムがさらに失われることを望んでいない。こうしたことから、2大経済大国の歩み寄りの姿勢は、2020年の大半において維持されると見ている。

米中間の貿易を巡る緊張から恩恵を受けている国があることも注目に値する。具体的には、ベトナムには多くのテクノロジー企業が製造拠点を移し、韓国では米国向け電化製品の輸出が拡大、メキシコでは米国向けの自動車輸出が増加し、ブラジルでは中国向けの大豆輸出が増加した。

いつものことながら、新興国市場では継続中の政治的リスクやそれに伴って生じる可能性のある不透明要因にも注意を払わなければならない。2020年は実施される選挙が比較的少ないが、南米の多くの国では混乱が続いている。加えて、香港の激しい抗議活動が中国に対する投資家心理の重石となる可能性がある。

最後に、債務水準を注視することは不可欠である。実質利回りが縮小した結果、新興国の債務水準は引き続き上昇している。全体として、米国が景気後退を回避し、各国中央銀行が緩和的なスタンスを維持する限り、債務水準の高まりがシステミックリスクを引き起こすことはないだろう。それでもやはり新興国市場にはディストレストレベルで取引されている高債務国が増加しており、これは脅威または投資機会のいずれかを意味するが、アクティブ運用の投資家にとっては重要なインプリケーションを持っている。

当社の見通し

貿易を巡る緊張の高まりから相対的に恩恵を受ける国および損害を受ける国が出てくることや、社会的な不安があり、リスクセンチメントに動揺が見られる環境下、2020年は新興国債券に対する選別的なアプローチがこれまで以上に重要となるだろう。原則として、当社では経済のコモディティ輸出依存度が過度に高い国、および/または国外から多額の資金調達を行う必要のある国で、特にこうしたリスクに見合うだけのリターンが期待できない国への投資を今後も回避する。新興国通貨は2年にわたってパフォーマンスが低迷していたが、特に金利水準やソブリン・クレジットからするとバリュエーションはかなり魅力的な水準にあると見られることから、ようやく投資家の注目を集めるようになるだろう。

脚注

12019年12月16日時点

当資料は、日興アセットマネジメント ヨーロッパ リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント ヨーロッパ リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。