当レポートは、英語による2020年10月9日発行の英語レポート「Maintaining prosperity during turmoil」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

新型コロナウイルスの流行により大きな混乱が生じて地政学的リスクが高まっているが、市場は回復を期待している。急速に変化しているように見受けられる世界において、変わらないもの、そして実際には良い方向へと変化しつつあるかもしれないものも数多くある。

現在は極めて辛い局面であるものの、我々の先人が経験した戦争や革命の時に比べればはるかにましだと言える。新型コロナウイルスは非常に大きな危機をもたらしたが、世界では少なくとも実質的に戦争は起こっていない。多くの国は明らかに大幅な社会的変化を経験しており、この変化によって深刻な怨恨が生まれ、時には物理的な衝突が起きているが、経済に大きな損害をもたらすようなものではない。一方、中国の存在感の強まりが本格的な動乱につながりかねない多くの軋轢を引き起こしているのは明らかだが、これまでのところは冷静さを保っている。

これらの事実は些細な慰めのように思われるかもしれないが、それなりに平和な時には、継続的な技術の向上や人類のありようを世界的に改善しようとする競争を可能とする余裕が生まれる。道義的には正しいことのようには思われないかもしれないが、上場企業の企業収益は、そのような環境下、特に寡占が進み歳出が拡大するとともに資金流動性が中央銀行の非常時対応から長いあいだ高水準に保たれるような時に、非常に良好なパフォーマンスを見せることが多い。したがって、新型コロナウイルスによる打撃は甚大な障害であったものの、市場は回復、特に最も大きな恩恵を受ける企業や国の収益の回復を期待している。

このポジティブながらも一見微妙なバランスを、特に大企業にとって変える要因となり得るものは何だろうか。社会的なストレスの積み上がりが、今年11月に米国の政治に大きな激変を強いるのだろうか。米中間の緊張がついに動乱へとつながるのだろうか。

当社では、国のリーダーというのは大きな激変を招くよりも自国の経済や社会にとって最良となる選択を望むものだとの前提から、政治的リスクについては通常敢えて重視していない。実際、リスク資産市場は地政学的リスクに対してすぐに目をつぶったが、これは極めて適切だったと言える。利益という動機は非常に強い力であり、投資家は往々にしてメディアの報道に懐疑的である。しかし、米中関係が着実に誤った方向に向かっているとともに、米国の選挙で民主党が大勝すれば政局が大きく変わるのは確かだ。実際、穏健派の民主党議員というのはもはやほとんどおらず、予備選挙の後も中道寄りにシフトすることなく左派の影響が強いままで無視できなくなっている。

非常に稀なケースとして、特に生活や社会が脅かされており将来への希望もほとんどない場合にはアグレッシブな行動を取るのがベストとなるが、そのような事態でなければ、冷静さを保って熟慮した決断を下すことが個人やその家族の状況にとって最良なのは明白である。投資についてもこれと同じことが言え、すべての見通しが暗いわけではないのは明らかで、リスク資産市場は上昇基調となっている。

市場の荒れぶりが論議を呼んでいるが、セクター別の動きの方向性は理に適っている。問題はむしろその度合いで、特に新しい環境(それがワクチンが現実のものとして受け入れられるようになった後も多くの人が考えているように実際長く続くとして)から最も恩恵を受けているセクターのバリュエーションは悩ましい。実際、よく言われている「ニュー・ノーマル」は、それほどノーマルとして定着しないかもしれない。ポジティブな面として、金融政策と一部のセクター(特に医薬品や病院診療)への財政支援による企業収益押し上げ効果は予想を大幅に上回っており、株式のバリュエーションは、それが将来長年にわたる利益成長を示しているのだとすれば、見かけほど極端ではないのかもしれない。

興味深いことに、急速に変化しつつある要素がある一方で、他の多くの要素は変わっていないか長期的なトレンドを辿り続けている。例えば、昨年のFOREWORDのレポートではサプライチェーンの世界的な分岐と「日本化」のテーマを論じたが、これらは今日も有効である。当社では依然として、サプライチェーンの分岐が、効率性を幾分落としながらも頑健性を増す形で世界経済の成長を加速させるとみている。アセアン諸国は引き続き当該分岐の恩恵を受け、中国企業は母国による独自の大規模インターネット・システムの構築継続が追い風となり続けるだろう。「日本化」については、特に文化の違いがあること、そしてリフレ性の高い政策や所得分配政策につながる重要な政治的変化が(おそらくはまもなく)起こる可能性があることから、西側諸国が長期にわたって日本のトレンドを辿る見込みは低いと引き続き強調しておきたい。米国株式市場はむろん「日本化」しておらず、多くのコモディティ価格も同様であり、米国の不動産価格が急落しない限り、米国のインフレがゼロへと落ち込むことは長いあいだないとみられる。

もう1つポジティブな材料として、近年は市場がESG(環境・社会・ガバナンス)要素の考慮への同調を非常に強めており、したがって世界のためになるような投資対象へと流入する資金が増えていることに留意する必要がある。ESG関連ファンドの総資産額は過去最高水準を更新し続けており、このような投資選好先のシフトは向こう数十年にわたる投資展望を方向付けることになるだろう。技術の進歩と規制当局による注目の高まりを追い風に、ESGは新しい形の有益な経済成長を数多く促進すると思われ、当社ではそれをはっきりと認識し、事実上当社のすべての投資においてESGファクターを非常に重視している。

このように、世界が大きく変わってしまったように見える一方で、変わらないもの、あるいは将来に明るい側面が窺えるものも数多くあり、したがって当社では冷静に順応してお客様の資金を賢く投資する姿勢を貫いている。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。