当レポートは、英語による2020年10月4日発行の英語レポート「The new age of credit research」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
今は、新型コロナウイルスが金融の世界だけでなく社会生活にも打撃を及ぼすという厳しい環境下にある。当社の経験豊富なクレジットリサーチ・チームは現在、パンデミック下での投資先の信用力分析において、この新たな難問への考察を取り込んでいる。これはどんなに経験豊富なチームにとってもかつてない未知の要素であり、新たな取り組みが必要となる。現在の環境下において、クレジットリサーチの専門家たちは2つの対極的な信用力評価アプローチの精査を行っている。当社では、どちらのアプローチも、単独では新型コロナウイルスによる企業の信用力への影響を評価する上で十分に有用ではないと考えている。議論の一方では、決算報告においてEBITDAC(償却前営業利益を指すEBITDAに新型コロナウイルスによる影響を加味したもの)なる新指標を用いて、新型ウイルスの影響がなかった場合の平準化ベースの利益はどうであったかという見解を示す企業がある。他方、格付機関はより厳しく、過去15年間における他のどの危機局面よりも積極的に企業の格下げを行っている。今回の危機への反応として、格付対象全般にわたる大量格下げに動いているのだ。
出所:Shutterstock、日興アセットマネジメント
当社では、人生でよくあるように、真実はその中間あたりにあると考えている。EBITDACは、大半のアナリストがそもそも目にしたのはマグカップに書かれたフレーズとしてであったが、情報としてある程度の価値を持っている。しかし、これが見落としているのは、この先の数ヵ月ですべての逸失利益が回収されるとは期待できないという事実である。一部のビジネスモデル(クルーズ船運営会社など)は、新型コロナウイルス流行の余波を乗り切るために大きな方向転換を行わなければならないだろう。また、今回の危機がどれだけの期間続くか、また、政府の支援策がパンデミックの全期間にわたって流動性や企業のソルベンシー(債務弁済能力)を支え続けられるかどうかも分からない。
また、分析面で対極に位置する格付機関のアプローチにも利点はある。新型コロナウイルスはロックダウン措置の影響もあり大半のセクターや事業に打撃を及ぼしている、とする格付機関の指摘は正しい。しかし、市場からすれば、そうしたネガティブな格付アクションがあまりにも無差別的と感じられることが多く、結果として投資家は自らの結論を出し始めた。
出所:BofA Global Research
一時、AA格付けのエネルギー企業はBBB格付けのテクノロジー企業と同様のスプレッドで売買されていた。これを受けて、投資家の間では信用力を評価する手段としてスプレッドが格付けよりも有効なのではないかと考えるようになった。つまるところ、スプレッドとは、特定の発行体の信用力に関するアナリストたちの見解が1つに集約されたものである。しかし、格付機関による格下げの波からは別の懸念も徐々に出てきた。投資家は、過去10年間において過度に寛大な格付けが付与されるようになった可能性があり、格付機関が現在の機会に乗じてこうしたずれを是正しようとしていると考えたのである。覚えている方もいるだろうが、2008年当時、格付機関はその甘すぎる評価への批判に晒された。今回は、より迅速かつ果敢に対応するプレッシャーを感じたのかもしれない。しかし、投資家が格付機関に期待しているのは、足元で展開している危機だけに反応するのではなく、景気サイクルを見通して分析を行うことだ。
この先、こうした課題に投資家はどのように対応していくだろうか。また、どちらのアプローチに従うのが最も賢明だろうか。当社では、今回の危機の先を見通して、企業経営陣が示しているような平準化ベースのEBITDAを導出することが重要だと考える。ただし、企業の打ち出している「(新型コロナウイルスの影響を排除した場合の)加味」がすべて妥当というわけではなく、アナリストは企業が算出したEBITDACを調整し、自らが適切と考えるものへと修正しなければならないだろう。例えば、当社のアナリストが企業のある事業部門について現在の状況からより長期的な悪影響を受けるとみている場合、過去の売上げや利益を加味することは妥当ではない。
一方、格付機関が格下げを行っている無差別的なやり方については、当社では批判的な見方をしている。当然ながら一部の格下げはもっともなものであった。例えば、レジャー業界は今後数年間にわたってパンデミックの影響を痛感することになるとみられる。
しかし、当社では、現在の環境下にあっても、奮闘しており信用力の改善が期待できるセクターもあると考えている。全体像を正しく把握して魅力的なセクターや投資テーマを特定することは、アクティブ・ポートフォリオ運用の重要な利点の1つである。テクノロジー・セクターを例に挙げると、ストリーミング(動画・音楽などの配信)・サービス分野の企業など、現在の状況から利益を生み出している企業もある。また、銀行セクターが受けている打撃は、一部の格付アクションが示唆するほど深刻ではないかもしれない。中央銀行が民間セクターへ流動性を供給する戦略において、民間銀行の関与は極めて重要な部分を占めるようになっている。この役割を果たすことができるように、民間銀行は規制緩和や安いコストでの資金調達といった支援を受けてきている。これらの措置は、足元では格付機関に嫌われてしまっている銀行セクターの信用力にとって、プラスに働くと考えられる。
無差別的な格下げの波が投資機会をもたらしている現在の状況においてこそ、当社はアクティブ運用のクレジット戦略によってお客様により優れた資産運用サービスを提供できると考えている。当社では、格下げされた債券のなかでバリュエーションが割安ながら強固なファンダメンタルズを維持している銘柄に手堅く投資するなど、逆張りアプローチをとるのが妥当とみられる状況を見出しつつある。厳しい局面においても良好な投資アイデアは存在するものであり、当社のグローバル債券運用チームはお客様のためにそうした投資機会を引き続き特定していくことができると確信している。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。