KAMIYAMA Reports vol. 170

  •  ここがポイント!
  • ✔ 米国株式のストレスは高い
  • ✔ トルコやインドネシアの債券利回りの変化は安定
  • ✔ 新興国市場投資でも投資の目的に立ち返る

米国株式のストレスは高い

新型コロナウイルスの感染防止のための行動制限等により消費が蒸発したことなどから、世界の金融市場は大きなストレスを受けている。ただし、国・地域によりその度合いは異なり、先進国より新興国のストレスが高いとは限らない。


(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。

ここでは、ストレスの度合いをボラティリティで計り、2008年初から最近までの期間(以下、普段という)と最近20日間を比較してみる(上図)。見方は倍率(縦軸)が高いほどストレスがかかっている、と考える(最近20日間÷普段)。

グラフでは、横軸で右に進むほど普段からボラティリティが高い市場だ。原油や小麦、ブラジル株式などは普段からボラティリティが高い。縦軸は上にいくほど、通常より最近20日間のボラティリティが高くストレスが高いとみる。

まず株式と商品を比べてみる。株式でストレスが高い市場の代表が、米国株式(NYダウ工業株30種)だ。また、感染拡大防止策による需要減少とOPEC(石油輸出国機構)など産油国間での協調減産が容易ではないことから、普段から原油(WTI)は強いストレスにさらされ、かつボラティリティは高くなっている。原油とともに商品価格と連動しやすい先進国のオーストラリア株式(S&P/ASX200)や新興国のブラジル株式(ボベスパ)は、日本株式(日経平均株価)よりもストレスがかかっている。一方で、新興国とはいえ中国株式(上海A株)は、最近20日間と普段とのボラティリティの比が1倍に近く、普段とあまり変わらない。

対円の為替を比較すると、米国で働く労働者の送金に影響され、かつ産油国の通貨であるメキシコ・ペソや、同じく産油国のノルウェー・クローネはストレスが高いようだ。しかし、産油国でもあるブラジル・レアルは、株式(ボベスパ)と異なり、普段の状態とあまり変わらない。もともとボラティリティが高いトルコ・リラも、普段との比較で1倍に近く、ストレスのレベルは米ドルなどと大きく違わないようだ。為替は総じて株式や商品よりも安定している。米ドルが安定している間は、米ドルの負債が多いとされる新興国の金融システムも安定しているとみなされているようだ。もちろん、FRB(米連邦準備制度理事会)も米ドルの負債が多い新興国の安定にも配慮して、資金を潤沢に市場に提供している。

コロナ・ショックだけでなく、原油の供給過剰リスクが世界の資本市場にストレスを与えており、原油を含む商品市場に関連が深い国の株式市場のストレスがより高い。つまり、これまでのところ、市場のストレスは、感染者の急増で行動制限が強化されることによる需要の急減に見舞われ、原油価格の下落に脆弱であるとみなされるほど、高くなっているようだ。「新興国は脆弱だ」と、市場がひとまとめにみているのではないことに注意しておきたい。

トルコやインドネシアの債券利回りの変化は安定

債券については、利回り変化幅(%ポイント)の標準偏差をボラティリティとする(それゆえ株式や商品とは異なる)と、新興国でもメキシコのように大きなストレスを受けている国がある一方、もともとボラティリティが高いギリシャやトルコ、インドネシアなど、普段の水準との乖離はそれほど目立たない。メキシコは、株式市場でもっとも大きなストレスを受けている米国と経済的関係が深く、米国での労働者の環境悪化や米国への輸出停滞に加え、産油国間との減産合意にも関わるなど、ストレスを受けやすい。


(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。

米国も、普段との比較で利回り変動は2~3倍と高く、ストレスを受けていると考えられる。しかし、FRBは相次いで金融システムと市場を落ち着かせる政策を打ち出している。4月9日には2.3兆米ドル規模の銀行ローンやハイイールド市場に対する支援策を打ち出した。

債券利回りでみても、ストレスの度合いは、新興国か先進国かの区別よりも、その国の状況によって異なることがわかる。3月16日にニュージーランド準備銀行はFRBの利下げに追随して緊急利下げを行い、行動制限による需要減に懸念を示した。

ブラジルやロシアは、原油価格のストレスがかかりやすいようだ。インドネシアやトルコが普段とあまり変わっていないことと比較すると、国により異なることは明確だ。新興国という「ひとまとめ」では理解が難しいだろう。

新興国市場投資でも投資の目的に立ち返る

BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)などと投資対象をまとめて考えていた時期もあるが、今となっては、国ごとの違いが大変大きくなっていることに注意が必要だ。金融市場としては中国の比率が大きいので、中国と他の国とを区別するほうが良い。中国は、計画経済的であることから景気サイクルが他の国・地域と異なりやすい。また、資源国であるロシア・ブラジルと農業・加工貿易国であるインド・中国とでは、ストレスの原因が異なることが多い。特に、インドは農業の比率が高いため、モンスーンなどの気象状況によって景気サイクルが影響を受けやすい。

市場のストレスの観点からは、新興国市場をひとまとめにするのではなく、個々に事情が異なると考えるべきであることが分かる。では、新興国投資とはなんなのか。先進国とは異なり、まだ発展余地が大きい途上国の中から、特に経済の発展が顕著な国・地域を選んで投資し、通貨や株価の上昇を長期的に獲得しようとすることだろう。それゆえ、プロの目で投資対象を不断に見直すことが重要な意味を持つといえそうだ。リスクの高い新興国投資について、投資家は適切に運用される商品に資金を投入しているかをチェックするタイミングかもしれない。

■当資料は、日興アセットマネジメントが情報提供を目的として作成したものであり、特定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている見解および図表等は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。■投資信託は、値動きのある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。■指数に関する著作権・知的財産権その他一切の権利は、当該指数の算出元または公表元に帰属します。