KAMIYAMA Reports vol. 175

  •  ここがポイント!
  • ✔ どちらが大統領になっても成長率予想は変わらない
  • ✔ 大統領によってセクターや銘柄の選別が変わる
  • ✔ ボラティリティは大統領選挙前に高まろう

どちらが大統領になっても成長率予想は変わらない

共和党のトランプ氏(現大統領)と民主党のバイデン氏のどちらが大統領になっても、米国経済の成長率予想の差はほとんどないとみている。そもそもコロナ・ショックからの脱却において、政府や中央銀行のとるべき(とることが出来る)政策に大きな違いはない。また長期的に政策の差はあるが、経済成長全体に与える影響は小さいと見ている。

まずトランプ大統領が再選されたと仮定しよう。トランプ政権は、いまのところ、香港への国家安全維持法の適用に対して、中国本土への関税を引き上げる、香港での米ドル取引を大幅に制約する、といった米国経済にも悪影響を及ぼしそうな政策を避けている。コロナ・ショック前であれば、順調に成長する米国経済にとって中国への関税率引き上げはそれほど大きなショックをもたらさなかった。しかし、人々の行動を制限するロックダウンの影響で消費が蒸発した状態で、日用品を含む中国製品の関税引き上げは避けたいはずだ。

また、民主党が下院を押さえたままのねじれ議会が続く可能性が高いので、議会の合意が必要な予算の変更なども簡単ではないだろう。通常、現職の続投は政策の予測可能性が高いことで市場に好まれるが、トランプ大統領は「予測されることで米国は損をしてきた」と考えているので、常に短文投稿サイトなどで不規則な発言をしてきた。発言の混乱が今後も続くことが予測可能というのは皮肉な結果といえる。いずれにせよ、トランプ大統領再選は、これまでと同じという意味で混乱が小さく、コロナ・ショックから経済を回復させることに集中するという意味で、成長率予想などが変化することはないだろう。

一方、民主党のバイデン氏が大統領となった場合、同氏の政策セットの中にある「法人増税」が株式市場での懸念となっている。短期的にはコロナ・ショックからの回復に集中するので、いきなり増税からスタートする可能性は低い。長期的には、仮に法人増税を実現したとしても、増税分を負債圧縮に使うのではなく、社会保障や健康保険、学費補助などに使うのであれば、GDPの観点からは「分配が変わる」だけなので、消費者が貯蓄を増やさず安心して消費するならば、成長率が低下すると心配しすぎる必要はない。このことは、最終的に米国企業にとって売上げが増加することになり、日独などの輸出企業にとってチャンスが増える。“誰が成長するか”の違いがあっても、そもそも長期的に成長率予想が大きく変わるというほどには、共和党のトランプ氏と民主党のバイデン氏で違いはないと考える。

大統領によってセクターや銘柄の選別が変わる

民主党と共和党の政策の違いは、ほとんど「分配が変わる」だけである。そうであれば、選ばれる大統領によって選別されるセクターや銘柄が変わる可能性はあるが、狭い範囲のセクターや銘柄に投資する場合は、次の大統領の任期である4年あるいは8年程度の間、選ばれる大統領によってパフォーマンスに差が出る可能性はある。幅広く分散投資する投資信託に投資する場合には、セクターや銘柄の選別はファンドマネジャーに任せればよい。

例えば、バイデン氏は政策として環境保護のためにパリ協定に復帰したいと主張する。これは、米国のシェール関連を中心とした石油業界にとって効率化・増産投資を踏みとどまらせる要因となり得る。また、健康保険制度の強化が実行されれば、健康保険でカバーされる医薬品を製造する企業が市場の期待を集めるかもしれない。トランプ氏であれば、インフラ投資の強化策に石油業のパイプラインなどを含むだろうが、今以上の健康保険制度強化の可能性は低い。

ボラティリティは大統領選挙前に高まろう

2019年10月3日付 KAMIYAMA Reports「米大統領弾劾問題」で述べたが、当時からトランプ大統領が再選される確率は低下していた。

当時の世論調査では、トランプ氏支持について農業が盛んな州(以下、農業州)と「スイング・ステート」で陰りが見られるといわれた。スイング・ステートとは、大統領選のたびに共和党か民主党か勝敗が揺れ動く州のことだ。

まず、農業州は米中貿易摩擦で従来から中国が輸入していた大豆などについて、中国から報復にあったことで現政権への不満が根強い。次にスイング・ステートには、ミシガンやペンシルベニアなど不調な産業の集積地が含まれる。トランプ氏が前回の大統領選で、中国などの不公正な生産が原因だとして、関税などで対抗すると主張したことが勝利の一因となった。ところが、2018年以来の貿易摩擦の後に、このような産業が好調になったとは言えず、スイング・ステートの雇用が改善したとも言いにくい。このような理由から、トランプ氏の再選の確率が下がってきたと考えられるようになっていた

ビュー・リサーチ・センターの世論調査(2020年6月下旬の調査)では、新型コロナ死者数が人口比で多い地域で、トランプ氏の支持率が大幅に低下していることが示された。スイング・ステートのひとつであるフロリダ州は、前回トランプ氏を選んだが、今回は大幅な支持率の低下に見舞われる恐れがある。保守的とされる高齢者層でも、トランプ離れが見られるとも報告されている。トランプ氏の経済優先の対応が、結果としてうまくいっていないという評価のようだ。

投資の観点からみると、現職大統領であるトランプ氏の支持率低下は、短期的な市場のボラティリティを高めるとの想定につながる。また、トランプ氏は不規則発言を増やす恐れがある。選挙戦の際、学校などで候補者が演説する場合、有権者に耳当たりの良い言葉を無責任に並べる傾向にあるのだが、例えば対中国の関税を引き上げるかのように発言したり、軍事力を行使するような発言をすれば、市場では悪材料となる。トランプ氏は、現職であるからこそ有言実行すると恐れられるので、市場が神経質になりやすい。これまでのトランプ政権の運営を見る限り、コロナ・ショックからの回復を重視すべき時に、経済を壊す政策を打つとは考えにくい。一方で、バイデン氏が企業にとって敵対的な副大統領候補を選ぶことで、市場がさらに心配を強める恐れはある。ただ、消費者の行動の変化などを想定しない限り、どちらが大統領に選ばれても「分配が変わる」だけなので、投資するセクターはともかく、投資態度を変える必要はないと考える。

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