KAMIYAMA Reports vol. 184

  •  ここがポイント!
  • ✔ 生産の回復に続き消費も回復の兆し
  • ✔ テック・ウォーの結果、中国の関連産業の自立期待へ
  • ✔ バイデン政権との摩擦があっても成長期待は続く

生産の回復に続き消費も回復の兆し

中国は、コロナ禍の影響から経済が大幅に落ち込んだものの、感染拡大の初期段階で行動制限等の措置を素早くとったことにより、現状、生産など経済活動は他国に先駆けて正常化しつつある。

製造業PMI(購買担当者のセンチメントを示す指数)は、コロナ・ショックで一時35.7まで落ち込んだが、すぐに回復して好不況の境目である50を超えて改善している。しかも、生産が過去の水準に回復したばかりでなく、例えばマスクや医療関連商品については急激に生産能力を増強したようで、将来の過剰生産への懸念が出ているほどだ。

一方、消費は飲食などサービス業の回復が遅れたことや、都心部への地方からの出稼ぎ労働者が動きにくかったことなどから、回復は遅れていた。しかし、製造業の回復や国内移動が再開したことなどから、失業率の低下や可処分所得の回復などがみられ、自動車販売が回復し、映画館では定員規制が徐々に緩和され、飲食店でも客足が戻っていることなどから、財だけではなくサービス業を含む消費の回復が明確になり始めている。

テック・ウォーの結果、中国の関連産業の自立期待へ

米国トランプ政権において顕著になった米中のテクノロジーに関わる「覇権争い」(テック・ウォー)には、主に米国による①米国や同盟国における通信分野の制限と②中国への戦略製品の輸出禁止がある。この政策は、民主党政権になっても続くと思われる。そもそも国防・安全保障の観点からの戦略なので、政権の考え方に依存することはなく、今後も続くだろう。

中国は、現時点で米国と覇権を争える力はない状態だが、国内で5Gネットワークの構築を進め、米国からの輸入に依存していた高度な半導体などの国内生産を一気に進める方針である。このところ中国の株価指数の推移をみると、少なくとも中国株式市場への参加者は、中国政府の政策実行力に期待しているようだ。トランプ政権による貿易摩擦が懸念されていたころは、銀行など従来型産業が多くを占める上海総合指数に対して、テクノロジー関連が多くを占める深圳総合指数がアンダーパフォームしていた。しかし、2020年初頭から、深圳総合指数がアウトパフォームし始めた。テック・ウォーが懸念される一方で、中国の関連産業が、国策でもある米国依存から脱却する可能性を市場が織り込み始めたと思われる。

一方、アント・グループの上場延期がインターネット関連を含むテクノロジー企業の発展を阻害することになるのか、という質問が多く寄せられる。真相は分からないが、今のところ、この件はテクノロジー全般というよりも、金融規制に関わる特殊事情と考えている。

中国国内の改革派は、アントのような民間企業が金融部門で成長することは良いと考え、上場を後押ししたかもしれない

しかし、国内金融の保守派からみれば、アントのビジネスモデルが政府の(監視カメラに代表される)個人情報管理のメカニズムを通じて作られた信用秩序にただ乗りしているようにも見える

この問題はテクノロジー企業の限界というよりも、金融システムの維持拡大と改革のはざまでうまくいかなかった例だと考えている。

バイデン政権との摩擦があっても成長期待は続く

米国と中国との摩擦について、バイデン政権になっても大枠は変わらないとみている。テック・ウォーについては、安全保障問題なので変わらないだろう。貿易摩擦については、アプローチが多国間協定に変わる可能性はあるが、トランプ政権の成果を打ち消すために関税率を引き下げることはないとみている。民主党もバイデン氏も国内産業保護に熱心で、もともと自由貿易を望んでいるとはいえない。中国からみれば、“トランプ政権とは異なる”とみることは楽観的だろう。

トランプ政権に比べ、バイデン政権は人権問題について敏感になるだろう。トランプ政権は、香港の民主化運動についてあまり発言しておらず、貿易交渉の中で大きく扱ったとはいえない。しかし、民主党は人権を重視する傾向が強いため、トランプ政権とは異なり人権問題で強硬な策を講じる可能性がある。また民主党は、共和党に比べて企業活動よりも人権を重視するため、米国企業が困るような政策(例えば香港ドルと米ドルの交換停止)を選ぶ恐れもある。

しかし、中国側からみれば、米中関係はおおむねこれまでと同じ環境が続くとみてよいだろう。国内の生産・消費は回復傾向にあり、今後テクノロジーを含む製造業の高度化の継続も期待できる。共産党が期待するような1 人当たりの所得を先進国並みに改善させるためには、生産性を劇的に改善させるという大きなハードルがある。このハードルを越えるためには、高等教育の拡充や設備改善、技術革新などが必要だ。技術革新はある程度キャッチアップできたとしても、真のイノベーションの連鎖が共産党政権の中央制御で行えるかは大きな挑戦であり、注目を続けていきたい。


本文記載の銘柄について、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンドにおける保有、非保有、および将来の個別銘柄の組み入れまたは売却を示唆するものでもありません。

■当資料は、日興アセットマネジメントが情報提供を目的として作成したものであり、特定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている見解および図表等は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。■投資信託は、値動きのある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。