KAMIYAMA Reports vol. 185

  •  ここがポイント!
  • ✔ コロナ禍対応に違和感は少ない
  • ✔ 成長戦略も常に新しい案を思いつくわけではない
  • ✔ 経済以外(社会政策)と長期的な成長への施策

コロナ禍対応に違和感は少ない

筆者は先日、「もし大臣になったら何をするか」と質問をいただいたので、考えてみた。まずコロナ・ショックに対する安倍→菅政権の対応に違和感は少ない。そもそも新型コロナウイルスの影響を予想することが難しい中、行動制限と補助金の組み合わせは当然の対応だったと思う。中央政府や地方自治体がそれぞれどこまで対応すべきか、どの程度の強制力とどの範囲まで補助金を給付するのか、といった点については、政治的で判断が難しく、外部者としての強い意見を持ちにくい。経済合理性から言えば、すべての国民に10万円配るよりも、困っている人に50万円配る方が経済効率は高くなるが、現実的には緊急事態に間に合わないケースが増える可能性を考慮して、一律に配らざるを得なかったのだろう。実際、飲食など事業者への雇用助成金といった補助金の給付までに多くの時間を費やしたことを考えれば、(欧米主要国と比べて遅すぎたが)消費者への給付だけでも速やかに進めた方が良かっただろう。首相であれ経済担当大臣であれ、情報・分析の不足と感染者・重篤者増加という危機的な状況で、後から完ぺきだったと思われるような政策を打ち出して実行することは難しい。いわゆるGoTo政策については、ワクチン開発が進まず接種も行われていない中で、新規感染者の増減に左右されて「行きつ戻りつ」になってしまい、批判が高まっている。これについては、製造業が米国消費や中国生産の回復で想定以上に回復する中で、行動制限などの影響を大きく受けたサービス消費への政策が重要になったとみるべきだろう。

日本の実質輸出(為替の影響を除く輸出金額、おおむね輸出数量と考えられる)は、11月までにコロナ・ショック前の水準に戻っている旅行などのサービス業の回復は遅いが、財については最終需要が十分強い

これは、世界最大の消費国である米国で、小売売上高がすでにコロナ・ショック前の水準を上回り、輸入もショック前の水準に近づいていることが背景にある。さらに、米国の最終需要が増えたことで、日本から部品や生産財(機械など)を多く輸出している中国が早期に生産を正常化させたことなども、日本の輸出の回復が早かった要因だ。

輸出にリードされて日本の製造業がおおむね復活すれば、政府としては、国内旅行などサービス業のテコ入れが重要性を増す。本来は、ワクチン接種などが進んでからサービス業をテコ入れすれば効果的だが、政府が経済を止めておくと膨大な補助金が必要となるばかりでなく、関連事業者が将来を見通せず、投資や人材確保などの戦略を立てられなくなる恐れがある。政府としては新規感染者数の増加が落ち着いた時期に正常化を進めなければ、後になってから、もっと早く正常化すべきだったと批判されるリスクもある。最近の新規感染者数の増加で、結果としてうまくいかない可能性もあるが、もっと良い案があったとはいいにくい。

筆者が「もし大臣だったら」、医療機関などへ早い段階で大量集中的な資金提供を追加したい。いまとなっては少しずつ議論され始めたが、当初医療機関への金銭的補償は限定的だった。一般患者が来院を控えることの補填に加え、医療従事者の危険手当や交代要員を確保する資金など、早い段階で医療機関などに少しでも補助金を増やしていれば、経済を回復させる底力にもなったとみる。もちろん、どの病院にいくら資金提供するかを決めることは、営業時間短縮に協力する飲食店への補償以上に困難であるが、早く議論しておきたかったと思う。カネでカタをつけると言いたいのではなく、政治でできることがあると言いたい。

成長戦略も常に新しい案を思いつくわけではない

菅政権が提示した成長戦略のうち、政府が積極的に関与して効果がありそうな政策は、CO2排出量の削減目標を含む環境関連の政策だ。これは、環境対策で売り上げが伸びる企業への期待に加え、企業が未来に生き延びていけるよう促す効果がある。日本企業は、昭和の公害と対策の時代に環境対応に先行したとの自負があったが、早くから環境変動にセンシティブになっていた欧州、小康社会の最重要課題として環境改善を掲げた中国、さらにバイデン次期政権で環境政策に取り組む予定の米国に比べて、CO2排出量の削減という近年の課題に取り組む姿勢が相対的に弱まりかねない状況だった。菅政権は、例えば原子力への回帰に時間を要するため、石炭・石油利用に傾斜していた電力や、ハイブリッド車で先行したことで電気自動車にメリットが少なくなった自動車関連の企業に、国際社会の要請に沿うよう変化を促すことになろう。これは政治の仕事として適切に見える。

政府のデジタル化戦略は、コロナ対応の失敗への対応策と考えるべきで、民間企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)への影響は間接的(政府への届出に押印が不要となれば、企業活動も多少効率化することなど)とみている。政府・省庁や地方自治体が独自にシステム構築していたためデータに互換性がないことなどが解消されれば、政府の作業効率や危機対応の迅速化が期待できるが、民間企業から見れば、押印や書類送付などの補助的な業務の人員を別の業務に配置転換することで効率改善される程度としか見えないだろう。

経済以外(社会政策)と長期的な成長への施策

女性や高齢者の労働参加率の向上は経済規模の成長に役立つし、社会保障システムを守る働きもする。日本は先進国では珍しい(一種の年齢差別である)「定年」を制度として確立させている。終身雇用と年功序列の慣習が、退職金税制など経済システムの隅々に行き渡っており、解雇をめぐる判例などに影響している。筆者が「もし大臣だったら」、健康年齢の高まりに対応した高齢者雇用のみならず、労働慣習に基づく規制を価値観の変化を提示しながらリードしていきたい個々人を重視することは、年齢をものさしにした画一的な雇用終了を排除する一方で、引退を望む人への金融資産運用のあり方を提示したり、資産が不足する人へのセーフティーネットを充実させる政策を提言したい。

一方、女性の労働参加率は先進国の中で高い部類に入ってきたが、非正規雇用が多く、「103万円」、「106万円」などの税制に関わる収入の「壁」に反応してしまい、働く日数を増やさない人も多い。これは極めて政治的な問題で、保守的価値観が有権者に強く残っていて、家庭で子育てなど家事を主に行う人(性別を規定してないが)を想定した税制を支援していることにあると思われる。論理的には女性が家庭の主な働き手となり、男性が主に家事を担うことができるなど、価値観の変化として提示していくことは政治家ならばありうる行動だが、多数派を形成できる自信は筆者にはない。また、女性や高齢者の労働参加率が上昇することは、生産性を上げずに労働投入量を増やすことを主張しているのであって、生活の豊かさの実感や幸せの増加に繋がるとは限らない。労働生産性を上げるには、IT利用などイノベーションが必要だが、さらに労働分配率を上げる分配政策も必要になるので、今のところ妙案を持っていない

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