本稿は、2020年5月22日発行の英語レポート「LONG-TERM INVESTORS SHOULDN’T LOSE FAITH IN EQUITIES」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

概要

最近のグローバル株式市場は、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)のパンデミック(世界的な流行)によりボラティリティが高まるなかで大幅な下落に見舞われたが、これに動揺して株式投資が正しい判断だったのか考え込んだ投資家も多いだろう。なかには、分散投資ポートフォリオの一部として株式を保有するメリットに疑問を持つ向きすらあるかもしれない。実際、相場の大幅下落局面でアンダーパフォームした資産クラスに不信感を抱くのは無理もない。損失を被る痛みは、利益を獲得する喜びをはるかに上回るからだ。

とは言え、株式の投資家は、短期的な市場ボラティリティがどれほど高まっても、それによって長期投資の目標が損なわれることがあってはならない。これまで株式市場は、深刻な下落相場から時間とともに必ず何とか回復して後に最高値を更新し、長期的に多くの他の資産クラスをアウトパフォームしてきた。さらに、株式は引き続き、長期的にインフレに対するヘッジ効果をもたらす適切な資産クラスである。したがって、最近のグローバル株式市場はCovid-19のパンデミックによって大幅に下落したものの、長期スタンスの投資家は、株式への信頼をこれまで通り維持し、分散投資ポートフォリオの重要な一部として株式保有を継続すべきであると、当社では考える。

長期的には株式がアウトパフォーム

長期的には、株式は国債や社債を大幅にアウトパフォームできることが明らかとなっている。1927年から2019年のデータによると、株式市場の年率名目リターンは米ドル・ベースで9.7%であり、一方で米国債やBaa格社債の市場リターンはそれぞれ4.9%、7%であった(チャート1参照)。長期で見ると、株式市場と債券市場の累積リターンの差は明らかに大きい。

リスクフリー・レートに対する株式の超過リターンを株式のリスク・プレミアムと呼ぶが、現在のところ、米国株式のリスク・プレミアムは依然として高水準にある(チャート2参照)。株式はキャピタル・ゲインをもたらし続けるとともにリスクフリー・レートを上回る魅力的な配当利回りの提供を継続していることから、当社では、株式のリスク・プレミアムは今後も投資リターンの源泉として収益化し得ると引き続き見ている。当社の楽観的な見方の根底にあるのは、株式を買うというのは単に金融資産を購入するということではなく、生産性のある企業の一部を分割所有することに似ているという考えだ。

下落から回復して後に最高値を更新するという傾向

しかし、株式は市場の不透明感が強い局面では大幅な下落に晒されることから、株式の保有にはリスクが伴う。とは言え、歴史的に示されているように、株式市場はどの危機からも回復を見せ、後に最高値を更新すらしてきた。1927年以降に起きた株式市場のドローダウンのワースト5を見てみると、株式市場が見舞われたドローダウンは高値から底値までの下落幅が40%~85%程度であった。それでも、下落相場に耐えきれず保有株式を全売却しない限り、投資家の損失が恒久的に続くことはなかった。その後の上昇相場で、株式はそれまでの下落分をすべて取り戻し、後に追加のリターンを創出してきた(チャート3参照)。つまり、大幅な下落局面の最中に保有株式を全売却すると、特に投資ホライズンの長い投資家にとっては、百害あって一利なしということになりかねない。

長期的なインフレ・ヘッジ

Covid-19のパンデミックにより引き起こされた最近の経済ショックのなか、投資家にとっての差し迫った不安は、世界中で物価が下落し始める可能性がありデフレ・スパイラルが世界経済を深刻な景気後退に陥れてしまうかもしれないというものだ。

今年はこれまでのところ、Covid-19から生じる経済への悪影響を食い止めるべく、世界中の政府および中央銀行によってかつてない規模の財政出動や金融緩和策が展開されているため、足元の世界経済と金融市場には潤沢な資金流動性がある。この莫大な資金注入は、パンデミックの壊滅的な悪影響を和らげるためには必要なものだ。パンデミックの状況が1年以内に封じ込められたとしても、景気刺激策を撤回するのは困難となり得ることから、当社では後にインフレおよびインフレ期待が急加速する可能性は否めないと考える。実際にインフレが加速した場合、インフレ率を上回るリターンをもたらすことができる株式は投資しておくのに適切な資産クラスであるというのが当社の見方だ。

1927年以降のデータに基づくと、インフレ率が4~10%のレンジにあったインフレ局面では、株式は国債や社債をアウトパフォームしてきた。また株式は、インフレ率が-1~4%の局面でもアウトパフォームした。インフレ率が10%という極端な水準を超えた時には、米短期国債が最も高いパフォーマンスを示し、株式は2番手となった(表1参照)。

アクティブ株式運用

市場に対して超過収益を獲得するには、下落相場では特に、株式のアクティブ運用が鍵となる。当社では、アクティブ株式運用は変化の絶えない試みであると考える。実際、市場の構造的な変化を受けて、過去にパフォーマンスが良好であった株式運用戦略が将来も同等の超過収益をもたらすとは限らない。バリュー型運用はその一例で、過去には超過収益を創出してきたが、近年は大幅にアンダーパフォームしている。

当社が投資環境の変化に積極的に対応した例として、2009年以降、熟考の上でバリューに代わりクオリティおよびグロース・ファクターを重視すると決定したことが挙げられる。これは、ここ数年の超過収益において最も重要なプラス寄与となった。また、2017年からは、業界の多くの運用会社がバリューを重視し始めるなかで、クオリティの重視を継続した。

しかし、2018年終盤以降は、バリュー・ファクターに対してポジティブな見方を強めている。ただし、企業ライフサイクルの成熟・転換期にある企業への投資を主眼とする伝統的なバリュー戦略とは異なり、当社では企業ライフサイクルのあらゆる段階にある企業を対象としている。これには、まだ歴史が浅く成長が加速している企業から、自社の競争優位性を築く過程にある企業、あるいは鈍化・成熟および転換ステージにある企業まで含まれる。

すべてを考え合わせると、運用会社は、企業ライフサイクルの異なるステージにある企業を分析するにあたって、臨機応変になる必要がある。ステージによってビジネス・リスクや競合環境が大きく異なるからだ。アクティブ運用とクオリティ企業への特化は、今年の株式下落相場において下方プロテクションをもたらしてくれている。

株式の中長期リスクの管理

Covid-19のパンデミックを受けて足元は先行き不透明感が強いものの、株式市場のリスクとボラティリティは、機敏性と市場を継続的に評価する構造的枠組みを有することによって管理できる。機敏性を保つ良い方法の例としては、しっかり管理されたダイナミック・アセットアロケーション・オーバーレイ、またはヘッジ・プログラムの導入が挙げられる。

今のところ、株式がさらに下落し得る幅や市場が再び回復するまでにかかる期間については見通しが非常に不透明で、株式の短期的な下方リスクは尽きることがない。最近では、市場動向は、パンデミックの状況や世界の政府および中央銀行によるCovid-19の影響への対応、パンデミックによる実体経済への影響など、同時進行する複数の要因に左右されている。今後の道のりは控え目に言っても平坦ではないと予想できる。

そのような環境下、当社では以下の3つの幅広い手掛かりを注視している。

  • 世界の政策当局の対応
    世界中の政策当局、政府および中央銀行は、Covid-19による経済への悪影響を軽減しパンデミックの拡大を食い止めるためなら今や「必要なことは何でもやる」態勢である。これには、ロックダウン(都市封鎖)やその他のソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)措置に加えて、財政・金融政策による大規模な介入の実施が含まれる。

  • 一部の地域におけるCovid-19の世界的な拡大の頭打ち
    世界中の多くの国における全国的ロックダウンや厳しいソーシャル・ディスタンシング措置の実施を経て、一部の地域では当資料作成日現在、Covid-19の世界的流行が頭打ちとなりつつあるように見受けられる。しかし、世界はまだ危機を脱したわけではなく、国々がロックダウンの緩和を慎重に行わなければ、あるいはより効果的な治療法やワクチンが提供可能となるまでは、Covid-19の感染率が再び高まるリスクは十分にある。

  • 世界経済への影響
    今のところ、パンデミックを受けた世界経済の見通しは依然として非常に暗く、主要経済国の2020年前半のGDPが5~10%のマイナス成長になったとしても不思議ではない。発表頻度の高い経済活動データを見ていると、国々がロックダウンを緩和し始めた後ですら、景気回復の度合いはCovid-19前の経済成長水準の40~80%と差が大きい。また、伝統的なサービスや個人消費は、鉱工業生産に比べて回復が遅く浅いものになると見られている。

上記の手掛かりを解読することによって、パンデミックのもたらした市場の先行き不透明感を切り抜けやすくなるだろう。これらの手掛かりはまた、株式が持続的な回復を遂げるタイミングを示唆してくれるものと思われる。

まとめ

結局のところ、最近の株式市場はパンデミックの影響によって乱高下しているものの、長期スタンスの投資家は株式不信に陥るべきではないだろう。株式は、時とともに下落市場から回復してその後に新高値をつけられることを常に示してきた。だからこそ、株式は、分散度の高い長期スタンス重視の投資ポートフォリオの一部として、重要な位置付けを維持するべきである。経験豊かなアクティブ型の株式運用会社は、投資家に代わって中長期リスクを管理するとともに、市場トレンドや短期的なボラティリティを利用して超過収益を獲得することが可能であると期待されている。したがって、長期的な投資目標を持つ株式投資家は、株式への信頼をこれまで通り維持し、分散投資ポートフォリオの重要な一部として株式保有を継続すべきである。

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当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。