本レポートは、2020年2月21日発行の「Market and economic impact of coronavirus-Nikko AM’s views」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

新型コロナウイルス感染症「Covid-19」の流行は、「ブラックスワン」イベント(市場において事前にほとんど予想できず、起きた場合の衝撃が大きい事象)の典型的事例となった。グローバル金融市場が米中貿易協定の余韻にたっぷり浸る機会を奪い、それさえなければ比較的明るかったであろう2020年の見通しに影を投じた。今回の流行の長期的な影響は様々な経路で幅広い地理的地域・資産クラスに波及し続けるものと思われる。

今回のウイルス流行とその経済および市場への潜在的影響に対する見方を幅広く捉えるべく、日興アセットマネジメントでは、主要資産クラスおよび世界の多くの地域を代表する以下の運用チームおよび運用プロフェッショナルの見解を集めた。

  • ジョン・ヴェイル/チーフ・グローバル・ストラテジスト
  • エリック・カウ/ポートフォリオ・マネージャー(アジア株式)
  • トゥルーマン・ドゥ/シニア・ポートフォリオ・マネージャー(中国株式)
  • ユーホワン・ライ/シニア・ポートフォリオ・マネージャー(シンガポール株式)
  • 青柳 茂/チーフ・ポートフォリオ・マネージャー、高田 慎也/シニア・ポートフォリオ・マネージャー(ともに日本株式)
  • ブラッド・ポター/オーストラリア株式ヘッド(オーストラリア株式)
  • マルチアセット・チーム(マルチアセット)
  • リアンチューン・コー/債券運用部ヘッド(アジア債券)
  • グローバル債券チーム(グローバル債券)

このような幅広い見解を提供することで、読者の方々がグローバル金融市場の荒波を乗り切っていく一助となれば幸いである。

はじめに

チーフ・グローバル・ストラテジスト ジョン・ヴェイル

まず、新型コロナウイルスに感染された方々に心から同情の意を表するとともに、中国や感染が広がっているその他の国々で医療などのサポートに携わっている方々に深い尊敬と感謝の気持ちをお伝えしたい。今回のような事態に完全に備えていた国はどこにもなく、感染者の治療と感染拡大の封じ込めには政府と民間の両方によってとてつもない努力が図られている。

中国が今や保健医療の拡大を強力に推し進めようとするのは明らかだ。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)危機以来、多くのことが成し遂げられてきたが、さらに多くの政府資産および取り組みが一般国民の生活向上、特に公害およびヘルスケアの問題に費やされるはずである。公害防止については、景気を押し上げたいという強い意向から実施が遅れてきたが、現在の中国はGDP成長率目標の達成に以前ほどは専心しないだろうと見られる。この生活水準を向上させようとする取り組みにおいて、世界が中国を支援できるのはまちがいない。

実際、日本は公害の面で長い間支援することができており、また一方で日本の医療技術も中国で急速に受け入れられている。米国も医療用品・サービスを中国に販売しており、両国間の関係が改善すれば最先端のものを販売するかもしれない。そのような取り組みでの中国の成功はアジアの主要な隣国であることにおいて重要であり、同国が国民の生活向上に成功するであろうことに疑いの余地はほとんどない。

要するに、ここ数十年の歴史的パターンと新たな改善を見せている中国のウイルス封じ込めのデータから考えて、世界経済は今回の危機から十分に回復するものと想定される。東京オリンピックについては、中止される可能性は低く、開催時期までには今回の危機が遠い記憶となっていることを願いたい。

アジア株式:Covid-19はアジア諸国の経済にとって構造的問題ではない

ポートフォリオ・マネージャー エリック・カウ

新型コロナウイルスに関する状況は依然進行中かつ流動的である。アジア諸国のGDP成長は短期的に打撃を受けると想定されるが、その原因はウイルスの流行によってアジア地域の事業や労働者の出張計画に大きな混乱が生じたことにある。これが特に当てはまるのが、多くの生産施設が休業となった中国だ。

しかし、当社は基本シナリオとして、コロナウイルスによって引き起こされた景気鈍化はすべて短期的なもので終わるだろうと見ている。手短に言うと、今回のウイルス流行はアジア諸国の経済にとって構造的な問題ではない。当社が2020年前半に予想していたアジアの緩やかな景気循環的回復はウイルスの流行によって遅れるだろうが、当社ではそれが2020年後半にアジア諸国において起きると予想している。

政策当局や中央銀行はみなコロナウイルスの影響を強く認識・懸念しており、当社では、いかなる短期的な影響をも相殺すべくより多くの政策アクションが取られるものと予想している。概して言えば、市場の反落は、構造的長期見通しが良好なクオリティの高い企業を妥当な株価で購入できる好機と見ている。

コロナウイルスの状況は、おそらくクラウドコンピューティングおよびSaaS(サービスとしてのソフトウェア)へのシフトを加速させるだろう。在宅勤務しなければならない従業員が増えている今、企業はリモートアクセスの重要性を認識しつつある。これによって、クラウド・サービスへとシフトする企業の数は増えると予想される。

中国株式:中国A株市場は年後半にも回復

シニア・ポートフォリオ・マネージャー トゥルーマン・ドゥ

新型コロナウイルスをめぐる状況はまだしばらく続く可能性があることから、当面のところ当社では株式市場に対して比較的慎重な見方をしている。しかし、ひとたびウイルスが制御されれば、中国A株市場は年後半にも回復し新高値を更新すると考える。とは言っても、中国経済に対するコロナウイルスの影響は、2003年のSARS流行の影響よりも大きなものになる可能性がある。コロナウイルスは感染力が強いことから、春節(旧正月)休暇中は多くの中国本土国民の旅行予定が中止され、消費支出に悪影響を及ぼした。しかし、当社では、願わくは年央までにウイルスの流行が完全に封じ込められさえすれば、中国経済は回復すると確信している。中国政府は景気への下方圧力に抗する適切な措置を実施するものと考える。したがって、ウイルス流行による中国の景気鈍化は一時的なものにとどまり、中国のGDPは2021年に5.5~6%の成長ペースを回復するだろう。

当面は、景気鈍化の可能性に対する懸念の高まりや中国上場企業の2020年第1四半期の収益において想定される影響を反映し、A株市場は下方圧力に晒される可能性がある。しかし、長い目で見れば、収益成長とバリュエーションの見直しを原動力とするA株市場の長期的上昇トレンドは、新型コロナウイルスによって変わることはないだろう。

2ヵ月すると決算発表時期を迎えるが、当社では収益成長のモメンタムが強いセクターおよび企業に注目していく。全体としては、テクノロジー株とクオリティの高い消費関連株を引き続き選好している。

シンガポール株:航空および接客サービス・セクターに対する見方が後退

シニア・ポートフォリオ・マネージャー ユーホワン・ライ

中国でコロナウイルスの流行が起こり、シンガポールでも感染者が出たことによって、2020年に経済成長が緩やかに加速するという当社のシナリオを再検討する必要が生じた。相違点はあるものの、2003年のSARS流行時の経験が最も妥当な参考事例と言える。2003年には、ほとんどの主要経済指標が1、2四半期にわたって急落し、流行ピーク後の1、2四半期で通常の水準へと回復した。経済成長への影響は1四半期のみにとどまった。当社では、今回のウイルス流行についても同様のパターンになるとの期待を持っているが、2つの疾患間に違いがあるのに加え、2020年は2003年に比べて中国とのつながりや中国経済の重要性の水準が相対的に高まっていることから、注視を続けていく。特に、2020年には前回よりも大幅にアグレッシブな対策が講じられたことから、短期的には景気悪化の度合いがより急激になるかもしれないものの、ウイルスの封じ込めにはより奏功すると期待される。

シンガポールの2020年のGDP成長率は1.5%と予想していたが、今となっては、第1・第2四半期の成長がより大幅に減速する見込みであるため、明らかに下方修正する必要がある。しかし、ウイルス流行の初期段階では、新たな予想を正確に行うのはまだ難しい。SARS流行時、シンガポールのGDP成長率は2003年第2四半期に-4,5%へと落ち込んだが、翌第3四半期には+5.6%へと回復した。打撃をある程度和らげるであろう支援策として、シンガポール政府がすでに的を絞った財政出動を発表しており、4月にはMAS(シンガポール金融通貨庁)が再び金融緩和を実施する可能性もある。バリュエーションについては、シンガポール市場のPBR(株価純資産倍率)が2003年のSARS流行時に見られた低水準近くにあるなど、足元の水準は魅力的であるとの一定の確信を持っている。

感染が拡大しているなか、より大きな影響が見込まれる航空および接客サービス・セクターに対しては、当社の見方は楽観度が後退している。一方で、将来のシンガポール経済の代表的存在となるであろう「ニュー・シンガポール」銘柄を引き続き選好している。そのような銘柄が多く見出されるのは、テクノロジーやデータセンター、ヘルスケア、物流、観光業、消費者サービスといったセクターだ。また、将来の経済における自社の重要性を高めるべくビジネスモデルの再編・刷新に取り組んでいる「コーポレート・リストラクチャリング候補」銘柄も引き続き選好している。企業再編や大規模な資産再開発の機会から恩恵を受ける一部の不動産開発企業に対し、強気な見方を維持している。

高配当株への投資は、特に配当が好調で構造的な利益成長に裏打ちされている場合、引き続き有効であると考える。シンガポール株式は予想配当利回りが依然としてアジア地域で最も魅力的な市場の1つであり、シンガポール株式投資のトータルリターンの一部として配当が重要であることを示している。ただし、シンガポールのリートについては、バリュエーションが一段と割高になっているため、コロナウイルスの流行を受けた長期金利の低下期待がさらなる追い風とならない限り、相対的に中立寄りのスタンスを維持していく。

日本株式:コロナウイルスを消費行動に影響を及ぼすリスク・ファクターとして評価

チーフ・ポートフォリオ・マネージャー 青柳 茂、シニア・ポートフォリオ・マネージャー 高田 慎也

コロナウイルスの流行が日本に与える直接の影響は、インバウンド観光客の減少である。さらに、日本人自身も京都など代表的な旅行先を避けているため、国内の観光客も減少している。日本のハイテク企業や自動車企業は、中国の特にウイルス感染者数が多い地域にはあまり進出しておらず、これまでのところはウイルスの流行は製造活動に大きな影響を及ぼしていない。一方で、航空便の減少からすると、人およびモノの動きはともにやや落ち込み始めている。その結果として生産と民間消費は減少し、1月‐3月期の企業収益に影響してくると考える。ただし、そのような要因による影響は短期的だと予想している。

また、特筆しておきたい点として、ウイルスの流行が中国で収拾成功の兆候を見せ始めれば、同国の生産活動は景気支援策の追い風を受けて急激に回復する可能性がある。その場合、日本の製造業は、自動車および電子部品セクターを中心に、大きな恩恵を受けると想定される。

今の時点でウイルス流行の規模やその影響全体を正確に測ることは困難だが、確実に言えることは、人の移動の制限が消費に痛手を与えているということだ。民間消費の減少は最終的に生産活動の上流に影響を及ぼすだろう。したがって、展開を注視し状況に対応していくことが重要となる。ウイルスの流行がこの夏の東京オリンピックに与える影響も正確に測ることは難しいが、流行が長引けば、民間消費に影響を及ぼす可能性がある。したがって、個人消費が冷え込んだ場合に影響を受けやすいセクターに対しては慎重な見方をしている。

オーストラリア株式:ウイルス流行は需要、供給へのダブルショック

オーストラリア株式ヘッド ブラッド・ポター

ウイルスがいずれ十分に制御されるとの想定で、現状でのベスト・シナリオは、中国のGDPに対する影響が2020年第1四半期のみにとどまるというものだ。当四半期の成長率が-2%になると予想する向きもあるが、今回のウイルス流行は通常と異なり需要と供給の両方にショックを与えているため、景気の落ち込みはより深いものになる可能性がある。

世界経済への影響は相対的に幾分小幅となるだろうが、中国が主要貿易相手国となっている国々はより大きな影響を受けると見られる。オーストラリアはそのような国の1つであるため、より重大な影響を受けるかもしれない。現段階で明らかな影響は、同国コモディティ・セクターにおいて見られる限定的なものにとどまっている。しかし、中国からの航空便がすべてストップしていることから観光業も大きな打撃を受けつつあり、多くの外国人留学生がオーストラリアに入国できないため教育セクターにも影響が及ぶだろう。また、生活必需品を除いた消費にも影響が表れてきており、足元の決算発表シーズンでは多くの企業がそのような動向について言及している。

中国はひとたびウイルスを制御できれば景気刺激策を講じる可能性が高く、そのような措置が年内の景気を下支えしていくだろう。今回のようなショックの過去の事例は、潜在需要が消えてなくなるのではなく後ずれすることを示しており、したがって需要の巻き返しが特徴となる。

マルチアセット:経済への影響は引き続き中国が焦点

マルチアセット・チーム

概観
過去1ヵ月のニュースは、新たに特定されたコロナウイルスで持ち切りとなった。最初の数週間は、1日経つごとに新規感染者数や死亡者数、様々な国への感染拡大が驚くほど増加し、懸念がエスカレートする様相となった。新規感染者数が依然増加しているのに加えて利食い売りのリスクも高まっていることから、リスクヘッジを行うのが妥当であろう。

経済および市場への影響
経済への影響は引き続き中国が焦点になると想定され、消費への打撃が主だが、サプライチェーンの混乱など波及的影響も生じている。旅行が打撃を受けアジア中で観光客数が減少することは明らかだ。アジア以外でもある程度の派生的影響はあるかもしれないが、サプライチェーンへのショックが長期化しないとすれば、そのような影響は限定的なものにとどまる可能性が高い。重要なのは、新規感染者数の増加はSARSの場合と同様、様々な度合いで様々な地域にわたり経済に影響を及ぼすであろうが、そのように阻害された成長はその後の数四半期で取り戻される可能性が高いということだ。2003年には中国株式は15ヵ月にわたって14%下落したが、その後は中国が新たな景気刺激策を実施したことも追い風となって55%上昇した。中国は今回の危機に対して2003年の時よりもかなり積極的な措置を講じている。

SARSの時は、米国の総合PMI(購買担当者景気指数)が上昇を続け、米国株式市場もそれに追随した。それを促したのは米FRB(連邦準備制度理事会)の慎重なスタンスだったが、同中銀は過度に慎重となる過ちを犯し金融緩和政策を維持した。とりわけ、SARS流行の中心期間である2003年3月中旬から6月下旬までの3か月間に、米国債10年物の利回りは不安ばかりでなくFRBの緩和スタンスを反映したこともあっておよそ1%低下し、したがって米国債は依然妥当なヘッジとなった。世界のサプライチェーンの機能における中国の重要性は2003年に比べて大きく増しているが、今日の状況は当時と非常に似ている。

当面のヘッジ
ウイルス自体をめぐる不透明感の水準や経済への影響の度合いを考えると、ヘッジを行うことは妥当である。リスク資産は現在、2003年SARS流行後のケースと同様のV字回復を織り込んでいるが、世界のサプライチェーンの混乱は広範囲にわたっていて長引く可能性もあり、そうなればV字ではなくU字回復となって企業収益の鈍化はより長期化するだろう。リスク資産は昨年第4四半期以降並外れて良好なパフォーマンスを見せており、投資家の株式ポジションが膨らんでいることから、企業収益が下振れした場合に利益確定売りが起こるリスクは高まっている。

株式リスクのヘッジを行うことは妥当であり、アジアはもちろんのこと、中国のサプライチェーンとのつながりが強い欧州や、天然資源に対するアジアの需要への依存度が大きい中南米などの市場についても、同様のことが言える。米国は、直接のエクスポージャーは最も小さいかもしれないが、バリュエーションが特に割高であり、極めて重要なテクノロジー・セクターはサプライチェーンの断絶に晒されている。

アジア債券、クレジット:アジアの中銀は成長率予想を引き下げる見通し、アジア債券は好調なパフォーマンスを継続

債券運用部ヘッド リアンチューン・コー

アジア債券は好調
新型コロナウイルスは2003年に世界の関心を集めたSARSに比べて致死率が低いが、感染率はより高い。したがって、当社では引き続き状況を注視していく。短期的には、アジアの大部分の人々が買い物や旅行を控えると見られることから、当該地域への主な影響は消費の伸びの鈍化となるだろう。しかし、アジア諸国の大半は今では危機への備えや対応力が向上しており、状況はやがて改善すると予想される。一方、アジアの中央銀行は、経済成長率予想をやや引下げるとともに概ね緩和的な金融政策をとるものと見られる。このような環境下、アジア債券は好調なパフォーマンスが続くと見込まれ、当面は株式をアウトパフォームする可能性がある。アジア債券市場のなかでは、当面の景気鈍化見通しから、利回り水準の低い国の債券に対する見方を「ネガティブ」から「中立」に変更した。当社では、インドネシアやマレーシアのように利回りが中~高水準にある国の債券を引き続き選好していく。

シンガポールドルおよびタイバーツに対して相対的に弱気、フィリピンペソに対して相対的に強気
通貨については、シンガポールドルおよびタイバーツに対して相対的に弱気な見方、フィリピンペソに対しては相対的に強気な見方をしている。シンガポールは経済の開放度が高いこと、タイは観光業、特に中国からの旅行客への依存度が高いことが逆風となっている。さらに、シンガポールとタイは、中国以外で新型コロナウイルスの感染事例が特に多い国である。フィリピンペソについては、ディフェンシブ性の強い通貨であることから選好している。同国は観光業への依存度が相対的に低いことや、海外出稼ぎ労働者からの送金による資金流入が好調であることが、フィリピンペソ高を支えると見られる。

信用スプレッドは当面拡大圧力が続くが、ウイルスをめぐる懸念が後退すれば急回復の可能性も
年明けは信用スプレッドのパフォーマンスにとって追い風となる環境にあったが、新型コロナウイルスの流行によって事態は一変した。目下の情報に基づき、当社では、中国、そしてアジア全体のクレジット市場への影響は比較的小規模なものにとどまってSARSの事例の範囲内に収まると依然予想しており、スプレッドは短期的な拡大を経て急速に縮小回復する可能性があると見ている。とは言え、先行きは、状況の最終的な深刻化・長期化の度合い、そしてそれによる企業や消費者の景況感への波及的影響に大きく左右されるだろう。SARS流行時に比べると、中国政府はより先手の姿勢をとって強力な感染拡大防止措置を迅速に講じている。状況は依然流動的であるものの、中国政府は比較的短期間のうちに事態を収拾させ、経済やクレジット市場のファンダメンタルズへの悪影響を和らげることができるものと期待される。

今後の主要中央銀行の金融政策決定会合では下方リスクが強調され、それぞれの緩和的な政策スタンスが繰り返し言及されるものと見られる。中国当局はすでに的を絞った金融・財政緩和策を実施している。当社では、これが継続され、おそらくやや強化されるとともに、当面の金融市場を安定化させるための追加措置も講じられると予想している。このような対策が、信用スプレッドへの拡大圧力を和らげ、ひとたびウイルス感染拡大が封じ込められれば信用スプレッドの縮小回復を支えるものと見られる。

アジア債券チームによるその他の見方:

  • 中国国債:ウイルス流行による一時的な景気減速が債券市場の追い風になると予想される。
  • 人々が混雑する場所を避けるなか、消費者心理が急速に落ち込んでおり、経済への影響はサービス・セクターに集中する見込みである。主に影響を受けるのは昔ながらの小売商品・サービスとなるだろう。2003年を振り返ると、感染者数の多い国でのGDPへの影響は2.5%~0.5%のマイナスと想定される。
  • コロナウイルスは公衆衛生の問題として扱われているため、ヘルスケア・セクター全体にとっては中期的な上昇材料とはならないかもしれない。主に直接的な恩恵を受けるのは、使用・備蓄用PPE(個人防護具)および医薬品を製造する特定の企業だろう。そのような医薬品の例としては、まずオフパテント(特許切れ)となったRocheのタミフル(新型コロナウイルスに対する効果はテストされていないが)が挙げられ、MERS(中東呼吸器症候群)の治療に用いられてきたGileadのレムデシビルも臨床試験が行われている。
  • 検疫・隔離は従来型の実店舗小売業にとって制約となることから、Eコマースはその恩恵を受ける可能性があるが、効果は良くても断片的といったところだろう。

グローバル債券:強まっていた世界的な利回り上昇の見通しはウイルス流行によって後退

グローバル債券チーム

長引いた貿易関連の不透明局面を経て、世界経済の成長見通しがついに好転の初期兆候を見せ始めた矢先、新しい10年の最初の数週間に市場の注目を圧倒的に集めた話題は新型コロナウイルスの突然の発生となった。年初に強まっていた世界的な債券利回り上昇の見通しは、ウイルスの流行によって急速に後退した。ウイルスのニュースが広がるにつれて、金融市場では世界経済の成長鈍化とリスクオフ・センチメントの復活に対する不安が膨れ上がった。

ウイルス流行の人類への影響は重大で痛ましく、それを見過ごすものではないが、市場の観点だけで見れば、中国は、人の移動を制限し複数の都市で検疫・隔離を実施するなど、国内流行の封じ込めに思い切った措置を講じてきている。その結果、中国からのコモディティ需要はすでにかなり劇的に落ち込んでおり、ブレント原油価格は需要鈍化予想から大きく下落した。ウイルス流行がどれくらい続くのかをめぐる不透明感の強まり、中国の積極的な感染拡大防止措置とそれによる内需への影響を受けて、このブラックスワン・イベントが少なくとも第1四半期における世界の経済成長の重石となるだろうとの懸念を当社が持つに至っているのは確かだ。さらに、当社では、ウイルス流行の影響が第1四半期の後も世界の経済成長への足枷となり続ける可能性が高いと予想している。

当社がコモディティ価格の下落という直接観測できる材料以外に注目した点は、Alibaba Groupが最近のガイダンスで、Covid-19の流行が中国の消費者や販売業者に根源的な影響を及ぼしており、そのため同社の売上成長が痛手を被るだろうと警告したことだ。コモディティ価格の下落と世界経済の成長鈍化はデフレ効果をもたらすと想定され、したがって、そのような強い逆風下で中央銀行が近い将来にインフレ目標を達成できるような材料は見当たらない。加えて、アジア以外でウイルスの影響が大きいと予想しているのは欧州、特にドイツで、同国の輸出の伸びや鉱工業生産がすでに低迷しているなか、同国経済は一層不安定さを増す可能性がある。当初は、ドナルド・トランプ米大統領弾劾の騒ぎが過ぎれば、それが債券利回り上昇の材料になり得ると考えていたが、経済への逆風は単に世界的な不透明感の新しい源泉へとシフトしただけだった。

第1四半期内は、ウイルスの感染拡大をめぐる憶測が金融市場のパフォーマンスと投資家心理を左右し続けるものと見ている。

個別銘柄への言及は例示目的のみであり、当社の運用戦略に基づいて運用するポートフォリオにおける保有継続を保証するものではなく、また売買推奨を示すものでもありません。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。