本レポートは2020年4月6日発行「Opportunities in the European corporate bond market」(英語)の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

足元の市場環境

欧州社債市場は、2020年2月にスプレッドが直近の最低水準をつけて以来、大幅な下落に見舞われている。そうした2月の低水準からのスプレッド拡大幅は、非金融銘柄で120ベーシスポイント(bps)を超え、金融銘柄では約170bpsとなった(チャート1参照)。新型コロナウイルスの感染流行を受けた都市封鎖は、経済活動や社会活動に打撃を及ぼしている。それによる欧州の企業部門への影響をめぐって投資家の懸念が強まり、市場の急落を招いた。実体経済の変調に加え、市場の需給面の逆風を受けて社債スプレッドには一段の拡大圧力がかかり、ここ数週間で市場から多額の資金が流出した。規制要件の厳格化を背景に銀行のリスク選好姿勢がここ数年間で低下してきたことや、トレーダーたちが在宅勤務となっており他のトレーダーとのやり取りが限られている現在の状況なども、債券買いの意欲を低下させる要因となっている。

チャート1:欧州社債のスプレッドの推移(bps)

チャート1:欧州社債のスプレッドの推移(bps)

(出所) 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成

こうした状況は総じて、欧州社債市場と各セクターにとって何を意味しているのだろうか。当社では、いつ頃になれば欧州の労働者が工場やオフィスに戻ることができ、状況が正常化する可能性があるか、という点について憶測するようなことはしない。感染者数が頭打ちする時期や致死率の見通しについて憶測することも控えたい。現時点では、欧州中央銀行(ECB)が講じている市場の下支え措置や、それによるスプレッドのパフォーマンスへの影響など、既知の事実に焦点を当てることがより重要であると考えている。

こで、非金融セクターの下支え要因となっている社債購入プログラムと、銀行セクターの追い風となっている規制緩和の違いを認識しておく必要がある。まず、非金融セクターについてみていく。3月中旬時点における非金融セクターの社債市場規模は1.3兆ユーロで、そのうち7,000億ユーロがECBの社債購入プログラムの対象であった(iBoxxのインデックスに基づく)。現在、ECBは1,410億ユーロ相当の対象債券(iBoxxインデックスに採用されていない銘柄を加味すると2002億ユーロにものぼる)を保有しており、アナリストらの予想によると、ECBは年末まで毎月150億~300億ユーロの社債を追加購入していく見通しである。ECBは、債券市場全体で1.2兆ユーロの債券買い入れをコミットしており、最終的には社債市場の相当部分を保有することになるとみられる。以前であれば、ECBは、1発行体あたりの買い入れ上限など自ら課した制限に縛られていたが、現在ではこれらの制限の一部が解除されており、より積極的に動くことができる。ECBは、債券市場へのアクセス改善や全体的な目標の達成に向けて、各種債券購入プログラムの設計を引き続き見直していくと予想される。

現時点において、ECBは社債購入プログラムの重点を、インフレ目標達成のサポートやボラティリティの制御から、欧州企業にとっての最終的な安全装置となることへと移しつつある。そうした支援措置を講じることによって、ECBの行動が市場のスプレッドにますます影響を及ぼすようになり、したがって中期的にはスプレッドが縮小する可能性が極めて高いとみられる。

そうした展開を考慮し、当社では、欧州企業のクレジットへのエクスポージャーを取っておくことが得策であると考える。売られている債券の大部分はいずれECBに保有されることになり、このことが債券のバリュエーションに好影響を及ぼすだろう。需給バランスをみれば非金融セクターの買い材料と言えるが、一方で、ファンダメンタルズや規制の動向を考慮して銀行セクターについてポジティブな見方をしている。

銀行が救済役に

銀行は、2008年当時には世界金融危機を招いた原因となったが、今回は救済者としての役割を担うことになるかもしれない。各国の政府や中央銀行が大規模な景気対策を発表しているなか、銀行セクターは、必要とする人々や企業に資金を届ける上で重要な役割を果たすだろう。目下、銀行はECBから資金を借り入れて顧客に貸し出すことで、75bpsの利鞘を得られる状況にあり、それが貸出しを促す非常に大きなインセンティブとなっている。

3月中旬、ECBはユーロ圏の銀行に対する資本規制を緩和したことで、普通株式等で1,200億ユーロ相当の余裕ができた。それによって貸付余力が1.8兆ユーロ拡大するとみられる。発表された措置の1つとして、貸倒引当金ルールが緩和された。政府保証を裏付けとする貸出しの場合、銀行は貸倒引当金を計上する必要がなくなる。一方で、銀行は、配当支払いについての節度を維持し資本を保全するように規制当局から求められている。

規制面の変更の他に、銀行セクターの債券に対して当社が強気な見方をしているもう1つの理由は、ファンダメンタルズの改善である。過去10年間において、良好な経済環境や不良債権の順調な削減によって銀行の自己資本比率や資産内容は大幅に改善している。規制環境やファンダメンタルズが改善していることから、銀行セクターはデフォルト率が上昇する可能性が最も低いと予想される。当社では、銀行の資本構成の様々な階層のなかにおいて、投資家に最も魅力的なエントリーポイントを提示しているのは非優先シニア債であるとみている。

当レポートでは、最近のECBの動向に照らしながら、欧州社債市場の投資機会について主に議論したが、言うまでもなく、他の中央銀行も社債購入プログラムを導入しており、世界中の規制当局も銀行に対する規制を緩和している。しかし、現時点において、ECBによる債券購入額が対象市場全体の規模に比べて大きく、同プログラムの制約が相対的に少ないという点において、欧州は特徴的な市場になっている。他の中央銀行も社債の購入を進めていく意向であるが、例えば米国連邦準備制度理事会(FRB)は直接買い入れる対象を短期の債券のみとし、また、投資適格債に限定するとみられる(一方、ECBはクロスオーバー格付銘柄も購入可能)。加えて、米国の社債市場の規模は欧州の社債市場に比べて非常に大きい。したがって、当社では、スプレッド縮小への相対的な影響度は欧州が米国を上回ると予想しており、当社のグローバル・クレジット戦略においてはそれに応じて調整を行なっている。ただし、社債の直接購入や銀行による貸出しの推進によって中央銀行が下支えを提供していくなか、どの市場においても債券のバリュエーションは大幅に安定化していくとみられる。

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