本稿は2021年6月18日発行の英語レポート「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

経済指標はインフレ率を中心に浮き沈みが激しいものの、金利は低下して大半の「サプライズ」がすでに織り込まれたことを示唆している。これはグロース資産にとってポジティブな材料と言える。イールドカーブが第1四半期に見られたように急にスティープ化するよりも安定する環境の方が、グロース資産のパフォーマンスは良くなるからだ。市場は新しい経済指標が発表されるたび、まるでそれが新たな転換点を決定づける要因となり得るかのように執着する様相を呈しているが、現実的に考えて、米FRB(連邦準備制度理事会)が政策変更に動く覚悟を決めるような経済成長およびインフレ率の水準を把握するには、数ヵ月単位の時間を要するだろう。この観点からすると、日々発表される経済指標は、投資の意思決定に役立つ情報というよりも、相反するシナリオ間の議論や派手なニュース見出しへの材料を提供していると言えるかもしれない。

当社では、金利の安定が少なくとも当面のあいだは続くとみている。景気見通しは依然として明らかにポジティブで、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大の散発的な波や新変異株をめぐる懸念はあるものの、的を絞ったロックダウン(都市封鎖)が増えたことにより2020年に比べると実体経済へのダメージははるかに少ない。需要の正常化においては引き続き米国がリードしているが、欧州など他の地域も追いつきつつある。まだCOVID-19の波の最中にあったりワクチン接種の実施ペースが遅かったりしている地域ですら、世界的な需要回復の恩恵を受けている。

過去10年の市場は、景気刺激策の実施や終了がどれだけゆっくり行われても、それに伴ってもたらされる結果は二者択一だと信じ込むよう慣らされたも同然の様子であった。これは、世界金融危機のもたらしたシステミックな打撃がより長期にわたる景気対策プログラムを必要とするほど深刻であったことを考えると、ある程度妥当だと言える。今回については、金融システムは健全であり、景気拡大がより自律的なものとなる可能性がある。もちろん、そのような結末への道のりは平坦なものではなく、ボラティリティが急上昇する局面があるのはまず間違いないが、当社では、その点での慎重さを保ちながらも、景気見通しはかなり明るいとの見方を維持している。

クロス・アセット

当社では、グロース資産を選好するスタンスを継続する一方、インフレの上振れが続く可能性はあるもののFRBはしばらく緩和的な政策を維持すると市場に確信させているとの前提から、ディフェンシブ資産に対する慎重な見方を後退させた。これはより短期的な判断で、第4四半期に近づくにつれてボラティリティは再び高まると考えている。第4四半期には、FRBが2022年序盤に開始の予想される資産購入(量的緩和)の漸進的な縮小を発表するとみられるからだ。

当面の金利の落ち着きを受けて、グロース株からバリュー株への資金シフトは勢いを失っているが、金利が少しでも上昇に転じるとバリュー株のモメンタムが再び高まることからも明らかなように、市場の金利への敏感度は依然として高い。あらゆる投資家の頭にある主要な疑問は、インフレがFRBの振る舞っている通り「一時的」なものなのか、それともより長期的に続いてインフレ期待を浮上させFRBがより積極的な引き締めを行わなければならない状況をもたらす可能性があるのか、ということだ。インフレは一時的なものとなるだろうというのが当社の基本シナリオだが、ファットテール・リスク(確率はかなり低いものの発生すると非常に巨大な損失をもたらすリスク)については非常に気をつけて熟考する必要がある。一方、投資適格債と先進国ソブリン債もスコアを若干引き上げ、その分インフレヘッジ資産のスコアを引き下げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース株とバリュー株の綱引きは続いているが、今のところは金利の低下を受けてグロース資産にやや分があるかもしれない。最後にグロース株からバリュー株への大規模な資金シフトが起きたのは20年前の2001年で、この時は、ITバブルの崩壊を経て、コモディティなどのバリュー・セクターが、中国のインフラや米国の不動産への旺盛な投資に加え好調な世界経済を受けた消費を追い風に、10年にわたって好調なパフォーマンスを見せた。

今回の場合、大規模なシフトが起きるとの論拠は前回ほど明確ではない。テクノロジーが人々の心を捉えたほどには収益を生み出せなかった1990年代終盤とは違って、今日のテクノロジーはまさに収益成長と潤沢なキャッシュフローを生み出しており、あらゆる産業セクターにおいてその体系に世界規模の破壊的変化をもたらしている。テクノロジー株が足元で割高となっているのは確かだが、バリュー株が魅力ある景気循環的投資機会を提供している一方でテクノロジー・セクターの提供する長期的成長も依然有望であり、対グロース株でバリュー株を選好する戦略は勝つのがそれほど容易なわけではない。

当社ではリフレ見通しを維持しており、それにはグロース株からバリュー株への資金シフト(特に今年後半に金利の上昇が再開した時)の要素も含まれるが、テクノロジー・セクターに対しては、同セクターの提供している長期的な成長へのエクスポージャーが米中間の「テクノロジー開発競争」を受けて加速するとみられることから、依然ポジティブな見方をしている。数日前には、米国上院がテクノロジーの研究・開発を促進する2,500億米ドル規模の法案を可決した。Haliburtonが軍事補給において通常の戦争から恩恵を受けるように、新たなインフラ供給において新テクノロジー戦争から恩恵を受ける企業は数多くあるだろう。


欧州株式:バリュー特性と景気循環的な成長に加えて長期的成長の側面も

当社ではここしばらくのあいだ、欧州株をそのバリュー特性から選好しており、最近では足元の順調なワクチン接種実施を背景とする経済活動の加速を受けてスコアを引き上げた。しかし、欧州企業には様々なセクターや国が混在していることから、当社のポジティブな見方をここでさらに掘り下げてみたい。

欧州株式にはなぜバリュー特性があるのか。かれこれ10年にわたって資産価格を落ち込ませた世界金融危機以来、同地域の経済成長が停滞していることが一因と言えるかもしれないが、主な要因はセクター構成にある。米国株式の相対的なグロース特性の強さがインデックスにおけるテクノロジー・セクターの構成比率の高さから来ているように、欧州株式のバリュー特性が相対的に強いのはバリュー・セクターの構成比率が高いからだ。

下のチャートが示す通り、構成比率上位4セクター(インデックス全体の約60%)には、バリュー・セクターの代表格で年初来のパフォーマンスが最も高い金融、そして循環的な景気悪化局面でバリュー・セクターとなりもちろん循環的な景気拡大局面で恩恵を受ける(かつ株価バリュエーションが見直される)一般消費財・サービスと資本財・サービスが含まれる。興味深い点として、明らかにバリュー・セクターではないテクノロジーもパフォーマンス上位セクターの一角を成している。

チャート1

異なる観点から見ると、欧州インデックスの構成比率の上位3ヵ国はフランス、ドイツ、オランダで、合わせてインデックス全体の約75%を占める。ドイツとフランスはともに一般消費財・サービスと資本財・サービスの占める割合が高いが、ドイツは外需(中国)へのエクスポージャーがより高く、フランスは内需へのエクスポージャーがより高い。フランスは4月下旬以降ドイツをアウトパフォームしているが、この要因は経済活動の再開からより直接的な恩恵を受ける内需へのエクスポージャーにあると当社では考えている。一方、オランダはかなり異なっていてテクノロジー・セクター(具体的には半導体)の比率が高く、テクノロジー・ハードウェアの長期的な成長が米中間のテクノロジー戦争によって加速していることが追い風となっている。

チャート2

欧州は様々なレベルで興味深い投資機会を提供している。欧州株式の魅力はバリュー特性と景気循環性のストーリーで説明されることが多いが、それほど言及されていないのは長期的な成長ストーリーだ。グローバル株式の地域別ポジションを調整するにあたっては、あらゆる特性に加えて、最終的に売上を生み出しパフォーマンスをもたらす地理的な需要源(内需か外需か)の適切なバランスを見出すことが重要である。


グロース資産に対する確信度の強い見解

  • インフラ投資のスコアを引き上げ:当社では最近、リサーチ対象とするインフラ資産にMLP(「マスター・リミテッド・パートナーシップ」、米国における共同投資事業の形態の1つで総収入の90%以上をエネルギー・天然資源関連・不動産などの特定の事業から得るもの)を加えた。MLPは概ねエネルギー関連の事業で構成されており、そのようなエネルギー・インフラへの需要はエネルギーの需要拡大と価格上昇を背景に加速しているが、一方でMLPのバリュエーションは依然かなり割安に抑えられており配当利回りが魅力的な水準にある。本質的に、MLPがインフラ投資にもたらすのは、当社が引き続き予想しているリフレ環境からの恩恵が見込まれる景気循環的なエクスポージャーだ。
  • グロース通貨のスコアを引き上げ:当社では、米国金利が少なくとも当面は低水準にとどまると予想していることから、第1四半期に米国債のイールドカーブが急速にスティープ化した時のような大幅な米ドル高のリスクは低下したと考える。米国では財政・金融政策がともに引き続き緩和的で、これがリフレ環境の追い風となっており、延いてはグロース通貨をディフェンシブ通貨である米ドルに対してサポートしている。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産に対しては、中期的には依然慎重なスタンスを維持しながらも、短期的には見方をやや上方修正した。世界の債券利回りは、当初の急上昇が収まってここ2、3ヵ月は概ねレンジ内で推移している。市場ではテーパリング(中央銀行が量的緩和策における資産購入額を徐々に減らしていくこと)の話が一部取り沙汰されているものの、大半の中央銀行についてはそれを実行に移すことは当面考えにくい。景気見通しも上方修正されて経済指標の好調さに追いついてきていることから、大幅な上振れの見込みは低下してきている。これらの要因を受けて、当社では北半球の夏季にかけての国債市場に対する見方を若干ポジティブな方向に変更した。

先進国がワクチン接種率を上昇させ経済活動を再開すべく取り組むなか、信用スプレッドも世界的に安定している。インフレ圧力は米国をはじめとして高まりつつあるものの、中央銀行はそれに対して概ね一時的なものとの見方を維持している。結果として、金融政策は当面企業にとって強い追い風になり続けると当社では考える。世界の金利に対する当面の見方をよりポジティブに変更したことから、投資適格クレジットの提供するキャリーの魅力度も増すことになるだろう。

インフレ加速に対してヘッジ機能を提供する類のディフェンシブ資産は、今後も重要な役割を果たし続けるとみられる。年間インフレ率が大きく加速しているなかにあっても世界の実質金利は大幅なマイナスにとどまっており、金とインフレリンク債の両方にとって追い風となっている。また金価格は、中央銀行や投機筋が再びポジションを増やしたこともあって、第1四半期の低迷から回復している。しかし、景気動向が継続的に回復するにつれ中央銀行が極めて緩和的な政策スタンスを見直す圧力を感じ始めると想定されることから、実質金利については引き続き用心深く注視していく。


ドル圏の債券に対してよりポジティブな見方

世界的な債券利回りの上昇は、今年最も重要な投資テーマの1つとなってきた。この動きは、国債の投資家にもたらされる投資リターンを悪化させたばかりでなく、株式市場でのグロース株からバリュー株への大規模な資金シフトを促す要因ともなった。債券利回りの大幅上昇が起きたのは第1四半期で、チャート3が示す通りドル圏の10年債利回りは3月下旬頃にピークを付けたが、そこで天井を打って以降はモメンタムが衰え、第2四半期には横這いから低下傾向で推移している。

チャート3

この主因として強調しておきたいいくつかの点は、当社がグローバル・ソブリン債に対する当面の見方をよりポジティブに変更した理由でもある。第1四半期には経済成長やインフレの指標が市場予想から上振れしたが、今ではアナリストの認識が進行中の景気回復の好調さに概ね追いついており、COVID-19のパンデミック(世界的流行)の影響が過去へと遠ざかっていくにしたがって、大幅な上振れがさらに起きる可能性は低くなってきている。当社では経済成長とインフレが強さを維持するとほぼ確信しているが、そうなったとしても投資家にとってサプライズになるとは考えにくい。

また、最近の指標にはっきり表れているインフレ圧力がインフレの先行きをめぐる活発な議論につながっているのも明らかだ。投資家はインフレ期待の高まりが定着するリスクを心配している。FRBとECB(欧州中央銀行)はともにそのような懸念を押し退け、今後何ヵ月にもわたって金融環境を緩和的に維持すると公約した。その結果、同中銀らの量的緩和プログラムはエンジン全開で続いており、当社ではこの状況が年内継続するとみている。注目すべきもう1つの点として、世界の債券利回りがさらなる高水準を更新していないことからも明らかなように、債券の投資家はインフレ指標の加速をあまり気にかけておらず中央銀行側に付いた模様である。

債券投資家がインフレ加速にあまり反応を見せていないのは、過度に弱気なポジションをとっていることを反映している可能性もある。投資家のあいだで広がっているインフレ懸念のストーリーと、米国債の最大海外投資家である日本からの売りは、ともに債券にとって弱気な見通しを示唆していると思われる。加えて、順張り型のトレーダーは、米国債の示した強いマイナスの価格モメンタムに沿ってポジションを構築してきたとみられることから、米国債を大幅にショート(売り越し)している可能性が高い。そのマイナス・モメンタムの減速を受けてショート・ポジションのさらなる積み上げは減ると想定され、いずれはある程度のポジション縮小につながるかもしれない。そのような弱気のポジショニングと、今はまだ政策の緩和度を弱める気のない中央銀行とを考え合わせ、ソブリン債に対する当面の見方をよりポジティブな方向に変更した。

ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 当面はソブリン債のデュレーション・ポジションを長期化:より長期的には金利は依然上昇トレンドにあるとみているが、ソブリン債市場の当面の環境は改善している。
  • 「安全な避難先」資産としては中国国債を選好:中国国債は、伝統的な先進国ソブリン債に比べて利回りが高くボラティリティが低いのに加え、同国における信用の伸びおよび経済成長の鈍化が追い風になるとみられる。
  • イタリア国債に対してより慎重な見方:量的緩和の縮小を議論する時が近づくにつれ、今後のECBの政策会合は注目が高まるだろう。いずれECBによる資産購入が縮小された場合、最も痛手を受けることになるのはイタリア国債とみられ、また当社では今年後半に同国の「挙国一致」政権において亀裂が表面化すると予想している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

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