KAMIYAMA Reports vol. 197

  •  ここがポイント!
  • ✔ 世界的な良いインフレの可能性が高まる:銘柄(企業)間格差拡大か
  • ✔ インフレ、金利高、株安とはならない、債券ファンドも健全
  • ✔ 投資目的が明確であれば、投資戦略を変更する必要はない

世界的な良いインフレの可能性が高まる:銘柄(企業)間格差拡大か

リーマン・ショックを経て、2010年ごろから世界は長らくデフレ懸念に見舞われていたが、コロナ・ショックをきっかけに主要国で多額の財政出動が行われ、大部分のお金がいまだに消費者の預貯金として蓄えられていることから、インフレ期待が醸成されつつある。簡単に言えば、巣ごもり消費では使い切れないほどのお金が、今後数年にわたり供給が追いつかなくなるほどの需要を生み出す、ということだ。

もちろん、インフレが一時的な補助金だけで起こるわけではないし、半導体不足に伴う自動車生産の遅れや、住宅の新規着工の急増による木材高騰などがインフレをもたらすとも限らない。なぜなら、人々が価格が上昇した商品を買わなくなる、あるいは我慢すれば、経済全体の物価は上がりにくくなるからだ。しかし、米国などで多額のお金を獲得した消費者は、ワクチン接種の順調な進展を背景にモノやサービスを買うことを我慢しないだろう、との期待が高まっている。米国などの投資家がインフレを投資シナリオに含める理由は、雇用が回復するまではFRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を引き上げないとみていることにもある。インフレは当面容認され、FRBが景気やインフレが過熱したとみて早期に政策金利を引き上げる可能性は低い

ほかの条件が一定ならば、金利が低いほどお金が余り、ひとつのモノに対するお金の量が増えるので物価は上がりやすい。日本は、デフレ下で日銀がマイナス金利導入を含む大規模緩和を行ったが、インフレへの効果は限定的だった。お金の量が増えても、企業などの貯蓄増でお金の回転が止まる場合は期待通りにならない。ただし、今回の米国では、消費者は一時的に貯蓄しただけで、今後は消費することによる需要増でインフレになる可能性が相対的に高い。長期金利を過去40年ほどの期間で見れば、低下傾向を続けている。これは、FRBのインフレ対策の成功や財政規律の強化、中国の供給力などの理由で、インフレ期待が低下し続けてきたからだ。しかし、コロナ・ショック対応の財政拡大をきっかけに傾向が変わり、インフレ率が安定して2%を超え、長期金利が3~5%などに戻る可能性が高まっている。インフレを怖がる心理状態がなくなれば、今後10年程度でインフレや金利の水準がさらに高くなるかもしれない。

良いインフレとは、需要が供給よりも早く増えて、価格で数量を調整する機能が働く(価格が高くなることで売上数量は減るが、売上金額はそれほど減らないことが多い)ことで起こる。今回の需要増の原因は、財政の世界的な拡大による。他方、オイル・ショックが悪いインフレの例で、石油の供給量が減少して価格が上昇したので、本来必要な量が届かないことで工業生産が不必要に小さくなってしまい、経済成長も制限されてしまった。いずれにせよ、インフレでは名目金利が上昇するが、需要増がインフレの原因である場合、企業は設備を増やすなどして供給を増やそうとする。設備投資が拡大すれば新しい需要が増え、経済が拡大して資金が必要になるので、金利が上昇することになる。しかし、設備投資した結果、商品が増えて価格も上昇するので、インフレと支払利息の増加は相殺されるはずだ。

一般に金利変動は株価に中立と考えられる。ただし、インフレに応じて価格を上げる力(価格支配力)があるかどうかで、銘柄(企業)間の利益に格差が出るため、リターンの格差も拡大しやすくなると想定される。

インフレ、金利高、株安とはならない、債券ファンドも健全

インフレの経験に乏しい投資家が世界的に多くなっており、漠然としたインフレと金利高への恐怖心が広がっている。しかし、インフレと金利高が株安につながるとの理論はない(インフレに伴う企業の名目利益成長を忘れている)し、金融緩和が株高の主な理由ではない。特にコロナ・ショック後の株高は、世界各国の財政出動の結果を背景とした強い成長期待に依存していると考えるべきだ。

現状の米国のインフレ率は、コロナ・ショックの一時的な上下動で分かりにくくなっており、いわゆるヘッドライン・リスク(新聞の見出しなどに載るインフレ率の高さなどに市場参加者が驚いてボラティリティが上昇するリスク)が高まっている。しかし、米国のインフレ率を長期で見ると、90年台の2~3%が1~1.5%程度に低下してきたことが分かる。これが、リーマン・ショック後の米国のデフレ懸念につながっていた。

FRBが長期的視野で想定する2%のインフレ率の定着は、かなり高いレベルの目標である。FRBは、インフレ率が2%で定着するまで、政策金利を引き上げる可能性は低くく、FRBが自信を持つまで、簡単に金利は(大幅)上昇しないだろう。

では、時間とともにインフレが進み、金利が上昇すると、資産価値はどうなるのか。株式は、インフレの原因が需要増にあるので、理論的にはインフレに中立だとしても、設備投資が進むなどの「良いインフレ」下では、経済成長に伴う利益成長と株高が見込まれる。一方、金利が上がると債券価格が下がるという感覚から、債券投資に懸念の声も聞かれる。しかし、金利が上昇すれば、債券ポートフォリオが受け取る利息(クーポン)収入も増える。なぜなら、ファンドは短期債の償還に伴いクーポンの高い長期債を購入するため、金利上昇が緩やかであれば、投資家への分配原資も緩やかに増えるからだ。金利上昇が急激であれば、一時的に評価損が目立つ時期もあり得るが、時間が経てば新たな水準で金利が落ち着き、債券の入れ替えで同じ効果が出てくる。また、債券で一時的に評価損が出ても、償還まで持てば実際の損失が限定される。つまり、金利上昇時でも、債券の元本保全的な性格(保証ではない)は変わらない、といえる。

投資目的が明確であれば、投資戦略を変更する必要はない

インフレ時代の到来に備えて投資戦略をまとめておこう。結論は、これまで(インフレではない状況)と異なる投資戦略を採る必要はないと考える。理論上、厳密にインフレをヘッジするには、短期金利で運用することになる。インフレに応じて短期金利は上昇するので、それに合わせて資金を動かすということだ。金などのコモディティ、仮想通貨などは、長期的にインフレ率との相関が低い。長期で投資目的を明確にした(例えば、孫の教育資金や旅行などの追加的消費など)運用ならば、インフレに中立な株式への投資、リスクを抑制して元本を保全したい部分は債券への投資が良いだろう。バランスのある投資で未来を待つ限り、インフレだからといって投資戦略を変更する必要はないと考えている。

■当資料は、日興アセットマネジメントが情報提供を目的として作成したものであり、特定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている見解および図表等は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。■投資信託は、値動きのある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。