本稿は、2022年2月21日発行の英語レポート「Future Quality Insights」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

イアン・フルトン、ウィル・ロー


歴史は似たようなことを繰り返す

世界各国の中央銀行が10年で25兆米ドルもの流動性を経済に注入(うち6割超が創出されたのはここ2年)したらどうなるか、立ち止まって想像してみたことはあるだろうか?圧倒的多数の人が「いいえ」と回答するのは、間違いないだろう。幸いなことに、これはまさに現在我々が置かれている状況であり、想像の必要はない。一歩下がって周りを見渡せば、どうなったかは一目瞭然である。本稿では、これまでの経緯を評価し、史上最大の金融実験における次の段階をどう切り抜けていくべきかを考察したい。

25 兆米ドルというのは想像を絶するような金額だが、この流動性は一体どうなったのか。必然的と言っていいだろうが、その多くは資産市場に流れ込み、ほとんどの資産価格が大幅に上昇した。ワインやウィスキー、グロース株からデジタル・ゴールドに至るまで、2009年の金融危機のどん底以来、アセット・オーナーには桁外れのリターンがもたらされた。かつてウォール街を占拠していた若い世代は、まるでビデオゲームをやるように、トレーディング・プラットフォームでビットコインの信用取引を行ったりミーム株(ソーシャルメディアなどインターネットで拡散される情報に基づいて取引される「はやり銘柄」)を買ったりしている。年配の人々は「理解できない」といったところで、そのリターンがどれほど莫大なものになるかを見抜く想像力に欠けている。

これにバブルの様相を呈している面が多々あるのは間違いないが、バブルは今回が初めてというわけではない。1636年終盤のオランダでは、希少品種のチューリップ「バイスロイ」の球根を買うのに、肥育された牛4頭、豚8頭、肥育された羊12頭が必要であった。1637年に多くの球根が開花する頃には価格は暴落し、1638年初めには、政府が元の価格の3.5%を支払う代わりにチューリップの契約を無効とするよう命じた。


歴史上では金融投機の実例がいくつもあるが、興味深いことに、そのうちのいくつかは技術革新にもつながっている。19世紀の鉄道債への投資は、欧州や米国における広大な鉄道網の建設を可能とし、これが生産性を高めて人々の生活や仕事のやり方に大きな影響を与えた。しかし、鉄道債の投資家は利益をほとんど得られなかったのが通常で、長期的な利益の大半は、鉄道で新たにつながれたことにより成長した都市部の企業や人々によってもたらされたと言っていいだろう。

1990年代後半のドットコム・インターネット・バブルも、本質的によく似た事象であった。インターネット・ネットワークを構築・運営した企業への投資家は、その投資においてすべてを失うか、あるいは獲得したとしても長期リターンは非常に低いものにとどまった。このバブルで構築されたネットワークの恩恵を真に享受したのは、そのネットワークを利用して消費者が最大限に活用できる製品やサービスを販売したAppleやGoogle、Facebook、Netflix、Amazon※などの企業*で、実質的に、新設された鉄道網を利用する乗客から最も大きな恩恵を受ける鉄道路線終点のホテルのような存在であった。

現在バブルは起きているのか、起きているとすればどこでなのか、そしてこれからどうなっていくのか。まず印象的なのは、投資家のタイム・ホライズン(想定している投資回収期間)が非常に長いこと、そして、しばらくは大きな損失を出すと予測される企業が非常に多いことだ。これは危険である。 未来は非常に予測しにくいものであり、起こり得ることの数は実際に起こることをはるかに上回る。例えば、1969年に「今後40年における最大の技術革新は何か」と尋ねられたら、(当時はニール・アームストロングが月に降り立ったばかりであったことを考えると)「人類は宇宙を植民地化し、休暇で火星に行っているだろう」と答えてもおかしくはなかっただろう。しかし、その40年後の2009年に実際に起きたのは、人類のあらゆる知識をすべてポケットに入れて持ち歩くことを実質的に可能にしたAppleのiPhoneの発売である。実用的かつ適用可能な事実ではなくSFまがいの未来像を売り込むような人々には、注意しなければならない。

このような予測不可能性が、今日の株式市場を実に危険なものにしている。もし企業が投資成果を実現するのに20年~30年先を考えるよう投資家に求めているなら、要注意である。しばらくは赤字が続きキャッシュフローがマイナスとなると予想される企業は、特にだ。市場で見られている劇的な巻き戻しは、多大な資金余剰を促してきた流動性を中央銀行が引き揚げるのに伴って投資家のタイム・ホライズンが短期化する第一段階と言える。Nikolaは、売上ゼロの状態で時価総額が350億米ドルに達している。

大幅な赤字により手持ち資金が減りつつある投機的事業の危険性を考えると、これからどうすればいいのか。当社にとっては、投資先企業のキャッシュフローおよび投下資本利益率を牽引する要素を理解することが、運用するポートフォリオを長期的に健全な状態に保つ上で非常に重要である。優れた競争優位性を持ち、規律のある資本配分を続けている企業への投資を通じて、今回の投機的な過剰流動性が生み出す新たな活動から恩恵を受ける次の「終着駅のホテル」群を見出すことを目指す。

第一の教訓が、市場シェアという夢物語を追い求めて手持ち資金を減らし続けている赤字企業を避け、持続可能な競争優位性を有する収益性の高い企業に注目することだとすれば、投資家は他に何に注意すべきだろうか。当社の考える第二の教訓は、「成長という羊の皮を被った景気循環の狼に気をつけろ」ということだ。市場でグロース株とみなされていた企業がバリュー株とみなされるようになれば、財務の健全性に深刻な打撃となる可能性がある。例えばデジタル広告のような業界を見てみると、投資家は需要が前倒しされただけの成熟した業界を、まだ大きな長期的成長を提供している業界と誤解している可能性がある。前述したように、コロナ禍を受けて経済システムに膨大な流動性が追加され、これがなければ得られなかったであろう資金や非常に高い株価バリュエーションを多くの投機的事業にもたらした。注目すべき点として、そのような新しい企業の多くでは、コストのかなりの部分(もちろん幹部用の手厚い自社株オプション・パッケージを控除した上での話だが)が、ITインフラおよびサービスに加えて市場シェアを獲得するためのデジタル広告に費やされている。多くの企業が見舞われているインフレ圧力により広告に充てる裁量予算が圧迫されるであろうことは言うまでもなく、コロナ禍で消費者が自宅/オンラインで過ごす時間を前倒ししたことも合わせて考えれば、あらゆる形態のデジタル広告が今後数年にわたってより困難な見通しに直面するとしても意外ではないだろう。

相場の荒波を乗り切る

避けるべき分野をいくつか挙げてみたが、残る明らかな疑問は、投資機会はどこにあるかということだ。当社の見るところ、事業が短期的にコロナ禍から悪影響を受けているため過去2年間の過剰流動性による投機から取り残されてきた企業が数多くある。在宅看護や患者のリハビリを提供するLHC GroupEncompass Healthなどの企業は、看護師が不足しているのに加えて、新型コロナウイルスに曝露した従業員やその可能性がある従業員を隔離対象としなければならないことから、コストの大幅な上昇に悩まされている。しかし、感染拡大の沈静化に伴い人手の状況が正常化すると予想されるのに加え、メディケア・プログラム(米国の高齢者・障害者向け公的医療保険制度)を管理する米連邦政府機関CMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)が上述の短期的な問題を考慮した還付率を承認したことを受けて、上記企業は価格決定力が改善するとみられる。デジタル広告業界の多くの企業が困難なシナリオに直面する可能性がある一方で、在宅医療関連企業は2022年に状況が好転すると想定される。

過小評価が続いていると当社が感じるもう1つの分野は、受託ケータリングである。厳重なロックダウン(都市封鎖)やオフィスでの勤務の減少から打撃を受けたこれらの企業は、資本の調達に加えコロナ禍という非常に新しい現実への迅速な適応を余儀なくされた。蓋を開けてみれば、コスト上昇と人手不足に悩まされている医療機関や学校、大学が、記録的なペースでケータリング業務をアウトソースするようになり、Compassのような企業は新規ビジネスのパイプラインがかつてないほど拡大している。また、2年間参加することのできなかったスポーツや文化イベントのライブ観戦を楽しむ人が増えるに伴い、同社が売店を数多く出店しているスタジアムにおける消費も盛んになっている。このような企業は構造的な成長に向けて収益を再投資しているが、多くの投資家にはありふれた面白味のない事業と捉えられている。2022年も厳しい市場環境が続く可能性のあるなか、「ありふれた」ROC(資本利益率)の向上こそ、投資家がメニューから選ぶべきアイテムなのかもしれない。

バリュエーションの合理性と安全余裕率

本稿ですでに述べた通り、株式市場の一部では投機的な過剰流動性がしばらく散見されており、これには過去のバブルとの明確な類似点がある。当社の投資哲学では、市場の短期的な変動に翻弄されずに長期的にお客様の資産を増やしていくことに焦点を当てており、したがって以下の点に常に注力している。

  • 成長し高水準のROIC(投下資本利益率)を達成・維持することができる企業にのみ投資する。そのような企業は長期的に優れたリターンを得るための最良の源泉だが、ROICを維持する、あるいはさらに向上させる道筋は、個別企業の事業の独自性と経営陣の質が最も主要な決定要因となる傾向にある。したがって、フューチャー・クオリティの投資ケースは、ほとんどの場合、短期的な景気サイクルに左右されることはない。
  • バリュエーションは当社の運用における重要な柱の一つである。将来の成長に対して支払う価格(プライシング)は悲観的または楽観的な方向にとりわけ大きく振れることがあり、したがって組入比率の拡大やより有望な投資アイデアとの入れ替えを行う根拠となり得る。

後者の点は、過去12~18ヶ月のポートフォリオ運用においてより重要となってきた。非常に緩和的な金融政策を受けて、将来の成長に対して極めて気前の良いプライシングが行われてきた期間だからだ。この結果として、一部の保有銘柄ではバリュエーションを理由に一部または全額の売却を行い、その売却代金をより魅力的なバリュエーションで裏付けされたフューチャー・クオリティ銘柄に再投資してきた。当社では、より優れた成長を一貫して実現でき、高いROICを達成・維持できるとともに強固なバランスシートを有する企業に対して、プレミアムを支払うことに抵抗はないが、そのプレミアムは適切かつ妥当でなければならない。以下の過去のスタイル分析は、当社が実際その規律に忠実な運用を行ってきたことを示している。

今後の見通しとしては、我々は未知の流動性引き締め局面に入っており、供給面のインフレ要因の展開と中央銀行の対応が、資産クラスとしての株式からのリターンおよび株式市場内のリターンを左右する主要な材料であり続ける、というのが当社の最善の推測である。歴史的に見て、過剰流動性が巻き戻された後に以前の勝ち組が再び市場をリードすることは通常ないが、「コンセプト・ファイナンス」と称されることもある一群の企業の多くが収益性に欠けていることを考えると、これは理にかなっていると言える。長期的に株価の主要な決定要因となるのは、キャッシュフローと成長の実現であるからだ。

チャート2は、話題の中心となっているグロース株対バリュー株の議論が、成長期待が極めて高い企業を除く大半の企業にとって、あまり重要ではなくなってきていることを浮き彫りにしている。流動性の巻き戻しとローテーションという現在の局面が終われば、将来の成長および収益性の見通しが株価の主要なドライバーに再び返り咲く可能性が高い。そうなった時には、「フューチャー・クオリティ」として選別した銘柄で構成される当社のポートフォリオにとって有利になると考える。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。