本稿は2023年12月20日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

ファンダメンタルズが引き続きアジア・クレジットの追い風に


サマリー

  • 11月の米国債市場は、様々な指標が景気減速を示唆する内容となったことや、タカ派とされる米FRB(連邦準備制度理事会)の理事が金融政策引き締めへの積極的な姿勢を後退させる可能性を示唆したことを受けて上昇した。月末の利回り水準は2年物の指標銘柄で前月末比0.407%低下の4.68%、10年物の指標銘柄で同0.604%低下の4.33%となった。
  • 米国債利回りが安定し、低下し始めるとみられるなか、2024年はアジア現地通貨建て国債にとってリターンが上昇し、ボラティリティが低下する年になるとみられる。当社では、アジアの債券市場に対するセンチメントはポジティブさを増し、資金が流入して、2023年に概して欠如していた需給要因の追い風がもたらされるとみている。一方、FRBの利上げサイクルが終結するなか、当社では米ドルの需要が後退するとみており、2024年はアジア通貨の対ドルでの上昇が全体的なテーマとして広がりをみせるだろう。
  • 11月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが約0.09%縮小するとともに米国債利回りが大きく低下したことを受けて力強く上昇した。格付け別では、投資適格債はスプレッドが約0.12%縮小して月間市場リターンが3.53%となり、ハイイールド債はスプレッドが0.03%拡大するなかでも月間市場リターンが4.71%となった。
  • 経済成長は今後減速が見込まれるものの、中国を除くアジア地域のマクロ経済や企業の信用状況に関するファンダメンタルズは財政・財務面で余裕があることから底堅さを維持するだろう。アジアの銀行システムは引き続き強固で、安定した預金基盤や堅固な株式資本、貸倒引当金繰入れ前の収益性の好調さが、今後信用コストが若干上昇したとしても耐え得るバッファーをもたらしている。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

11月の米国債市場は上昇
11月の米国債市場は、様々な指標が景気減速を示唆する内容となったことや、タカ派とされるFRBの理事が金融政策引き締めへの積極的な姿勢を後退させる可能性を示唆したことを受けて上昇した。米国の中央銀行は、11月に2会合連続でFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を5.25~5.50%に据え置いた。一方、米国の10月の非農業部門雇用者数は15万人増と、下方修正された9月の29.7万人増から大幅に減少し、市場予想の17万人増を下回るとともに失業率は3.9%へと上昇した。これに加えて、発表された米国債の借り換えに伴う増発が市場予想を下回ると、11月前半にリスク資産や米国債は上昇した。その後は、10月のCPI(消費者物価指数)とPPI(生産者物価指数)がともに市場予想を下回り、利回りの低下が促された。月を通して、FRB高官のコメントはハト派色が強まったが、トーンの変化は最もタカ派的な政策当局者とされるクリストファー・ウォラーおよびミシェル・ボウマン理事によるものであったことから、これが米国債利回りのさらなる低下を促進し、米ドルは全面安となった。月末の利回り水準は、2年物の指標銘柄で前月末比0.407%低下の4.68%、10年物の指標銘柄で同0.604%低下の4.33%となった。

チャート1

アジアの各中央銀行は政策金利を据え置き
当月は、韓国やマレーシア、インドネシア、タイ、フィリピンの中央銀行が金融政策を維持した。マレーシアの中央銀行は、政策金利の据え置きを延長する可能性があることを示唆した。また同中銀は、2024年の経済活動は底堅い内需に支えられるとみており、インフレは抑制された状態が続くと予想している。タイの中央銀行は政策金利を据え置くとともに、経済成長予想について2023年は2.8%から2.4%へ、2024年は4.4%から3.2%へと下方修正したが、デジタルウォレット政策が実施されれば、2024年の経済成長率は3.8%に引き上がる可能性が高いとの見方を示した。一方、インドネシアの中央銀行の政策声明ではタカ派的な姿勢が維持され、輸入インフレのリスクを低減するために同国の通貨ルピアを安定させる取り組みを引き続き強化していることが示された。韓国の中央銀行は、今年最後の政策会合で金融政策を据え置く一方、2023年と2024年のインフレ予想を引き上げた。同中銀は、インフレが高止まりしていることを指摘し、当面は政策を緩和する用意はないとの見方を示した。その他、フィリピンの中央銀行は、主要政策金利を6.50%に据え置いた。同中銀は、「インフレ見通しは政策領域において鈍化している」との見方を示しながらも、リスクは引き続き「上振れ方向にある」と述べた。

10月の総合CPIはまちまち
10月の総合インフレ率は、インドネシアやシンガポール、韓国で加速する一方、インドやマレーシア、タイ、フィリピンで鈍化した。シンガポールの総合インフレ率は、主に輸送費やサービス価格、小売品・その他製品価格の上昇加速に加えて、電気・ガス料金が上昇したことにより加速した。インドネシアの10月のインフレ率は前年同期比2.56%となり、9月の同2.28%を上回った。一方、変動の大きい項目を除いたコアCPIは、前月の前年同月比2.00%から同1.91%へと減速した。マレーシアでは物価上昇圧力が和らぎ、10月の総合CPIは、比較対象となる前年の水準が高かったことや食品価格の伸びが鈍化したことが一因となり、前月の前年同月比1.9%から同1.8%へと減速した。タイでは、食品価格の上昇ペース鈍化や政府の支援策によるエネルギー価格の下落が主因となり、2021年8月以来初めて消費者物価が減速した。その他、フィリピンの10月の総合インフレ率は、食品価格の上昇鈍化が主因となって前年同月比4.9%と市場予想を大幅に下回り、前月の同6.1%から減速した。

2023年第3四半期のアジアの経済成長は安定的
マレーシアの2023年第3四半期のGDP成長率は、好調な内需によって輸出の低迷が打ち消された結果、前年同期比3.3%増と市場予想を上回る伸びとなり、前四半期の同2.9%増から加速した。タイの第3四半期の経済成長率は、製造業の縮小が一段と進んだことが主因となり前年同期比1.5%増と、前四半期の同1.8%増から減速した。また、インドネシアの第3四半期の経済成長率は前年同期比4.94%増と、市場予想の同5.0%増を若干下回るとともに前四半期の同5.17%増を下回った。GDPの発表を受けて、インドネシアのスリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相は、2023年通年の経済成長率予想を従来の5.1%から5.04%へ下方修正すると述べた。一方、2024年の経済成長率は5.24%と予想している。他では、フィリピンの2023年第3四半期のGDP成長率は前年同期比5.9%増となり、前四半期の同4.3%増から加速した。政策当局によると、成長に主にプラス寄与したのは、卸売・小売貿易、車両修理、金融・保険活動、建設だった。

今後の見通し

2024年はアジア現地通貨建て国債にとってリターンが上昇し、ボラティリティが低下する年となる見通し
米国債利回りが安定し、低下し始めるとみられるなか、2024年はアジア現地通貨建て国債にとってリターンが上昇して、ボラティリティが低下する年になるとみられる。当社では、アジアの債券市場に対するセンチメントはポジティブさを増し、資金が流入して、2023年に概して欠如していた需給要因の追い風が(ポートフォリオへの資金流入を通じて)もたらされるとみている。当社ではインドの長期国債について、キャリーが魅力的で、需給要因が良好であることから、明るい見方をしている。2024年6月からインド国債がJPモルガンのガバメント・ボンド・インデックス‐エマージング・マーケッツ(GBI-EM)に組み入れられることから、これが当該債券の追い風になるだろう。また、韓国の国債がFTSEラッセル世界国債インデックスに採用される可能性があり、このことが韓国国債をさらに押し上げる要因となるかもしれない。

FRBの利上げサイクルが終結するなか、当社では米ドルの需要が後退するとみており、2024年はアジア通貨の対ドルでの上昇が全体的なテーマとして広がりをみせると予想する。当社の投資テーマに対する主な下方リスクとしては、中国のGDP成長率が予想を下回ること、エネルギー価格が予想を上回って上昇すること、地政学的不透明感が強まることなどが挙げられる。

アジアのクレジット市場

市場環境

11月のアジア・クレジット市場は上昇
11月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが約0.09%縮小するとともに米国債利回りが大きく低下したことを受けて、力強く上昇した。格付け別では、投資適格債はスプレッドが約0.12%縮小して月間市場リターンが3.53%となり、ハイイールド債はスプレッドが0.03%拡大したものの月間市場リターンが4.71%となった。

アジアの信用スプレッドは、米国のマクロ経済指標が世界最大の経済大国である同国の景気モメンタムの鈍化を示唆する内容となったことを受けて、リスクセンチメントが全般的に改善したことから、11月の初めに縮小した。中国では、10月の経済指標はまちまちとなり、個人消費が持ち直す一方、不動産投資は減少が加速した。また、中国政府による国債発行の大幅増加が主因ではあるものの、信用の伸びが回復し、企業および家計の借り入れの低迷を補った。中国のCPIは、9月に前年同月比で横ばいとなったのち、10月は同-0.2%となった。また、その他のアジアにわたって、発表された第3四半期のGDP成長率では経済成長が総じて安定していることが示された。月の半ばに、米国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席が会談を実施し、とりわけ軍間対話を再開するとともにAI(人工知能)の発展で協力することなどで合意した。米中間の緊張が緩和されたことを受けて、アジアのクレジット市場を含むリスク資産は上昇した。その後は、米国の10月のCPI上昇率が市場予想を下回り、ポジティブなリスクセンチメントが下支えされた。月末にかけては、中国の政策当局が苦境にある同国の不動産業界を支援するために新たな措置を準備中であるとの報道を受けて、アジアの信用スプレッドは大幅に縮小した。その報道によると、当局は融資支援の対象となる不動産デベロッパー50社の一覧を準備しており、銀行が要件を満たす不動産デベロッパーに短期の無担保融資を提供することを容認する可能性がある。最終的に、当月は中国と韓国を除くアジアの主要国でスプレッドが縮小した。マカオのクレジットものは、資金が流入したことに加えて一部のマカオのゲーム会社で格付けに関するポジティブな変更があったことによって押し上げられ、アウトパフォームした。

11月の米国債市場は、米国の景気減速見通しが強まるとともに、タカ派とされているFRBの理事が金融政策引き締めへの積極的な姿勢を後退させる可能性を示唆したことを受けて上昇した。米国の中央銀行は、11月に2会合連続でFF金利の誘導目標を据え置いた。一方、米国の10月の雇用統計では労働市場の軟化が示された。これに加えて、発表された米国債の借り換えに伴う増発が市場予想を下回ったことを受けて、米国債利回りは大幅に低下した。その後、米国の10月のCPIおよびPPI上昇率がともに市場予想を下回ると、利回りの低下が促進された。月を通して、FRB高官のコメントはハト派色が強まったが、トーンの変化は最もタカ派とされる政策当局者であるウォラーおよびボウマン理事によるものであったことから、これが米国債利回りの低下をさらに促し、米ドルは全面安となった。月末の利回り水準は、10年物の指標銘柄で前月末比0.604%低下の4.33%となった。

11月の発行市場の起債活動は引き続き低調
11月の発行市場は閑散状態となり、新規発行は約72億6,000万米ドルとなった。投資適格債分野ではインドネシアのソブリン債のディール(2トランシェで総額20億米ドル)を含め、計9件(総額64億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計3件(総額8億6,200万米ドル)となった。

チャート2

今後の見通し

アジアのマクロ環境は良好、安定したクレジットのファンダメンタルズによって利回りを確保する歴史的な機会
主要国の経済成長率見通しが低調なままであるとともに2024年に向けてインフレの高止まりがやや見受けられるなか、足元のマクロ・市場環境はほとんど変わらないか、わずかな変化にとどまる可能性がある。米国を中心とする主要国経済の底堅さを受けて、「高金利の長期化」観測が広がっており、これが年初来のトータル・リターンの重石となる一方、利回りが世界金融危機後の高水準にあるなか、金利の上昇は投資家にとって歴史的に高水準なオールイン利回りを確保する上で魅力を増している。

アジア・クレジット市場のファンダメンタルズ環境は、引き続き支援的となっている。中国では、最近の財政措置の強化を受けて、政策当局が厳しい状況を認識していることが示唆されており、政策当局が景気回復を拡大するための追加措置を打ち出し、2024年の経済成長を押し上げようとしているとの見方が一段と強まっている。2024年前半は経済成長の減速が見込まれるものの、中国を除くアジア地域のマクロ経済や企業の信用状況に関するファンダメンタルズは財政・財務面で余裕があることから底堅さを維持するだろう。企業収益の成長鈍化と資金調達コストの上昇から、金融以外の企業では負債比率やインタレスト・カバレッジ・レシオ(企業の債務返済余裕を測る指標)において若干の悪化が見られるかもしれないものの、投資適格債を中心として大半の社債には、格付けを維持できる十分な余裕があると考える。アジアの銀行システムは引き続き強固で、安定した預金基盤や堅固な株式資本、貸倒引当金繰入れ前の収益性の好調さが、今後信用コストが若干上昇したとしても耐え得るバッファーをもたらしている。

需給面では、発行体がコストのより割安な国内での資金調達を続けているのに伴い純供給量が減少していることから、アジアのクレジット市場は引き続き十分にサポートされるだろう。一方、投資適格債は、国内投資家からの買いに支えられているのに加え、年金基金や生命保険会社が魅力的な利回りの確保と長期の負債に対するイミュニゼーション(債券ポートフォリオのデュレーションを負債のデュレーションと一致させることにより金利変動に伴う収益の変動を低減させる手法)を求めていることから、旺盛な需要が継続している。さらに、アジア地域のマクロ環境が良好で、十分なファンダメンタルズのバッファーがあるなか、投資適格債がリスク調整後ベースでアウトパフォームを続けていることによって需要が押し上げられている可能性があり、アジアのクレジット市場は魅力を増しているとみられる。主なリスクは、インフレが根強く、米国経済の底堅さが続いているなかで、FRBが利上げ路線の継続を余儀なくされる可能性があるとともに、地政学的リスクが高まっていることだ。一方、米国の労働市場や経済活動が急減速することに加えて、支払い延滞や債務不履行の増加が、世界のクレジット市場の信用スプレッドを拡大させる可能性がある。このことが、過去の水準に比べてやや割高感が続いている様子のアジア投資適格クレジットのバリュエーションに、ある程度の圧力をもたらすかもしれない。


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