本稿は2023年11月28日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアを中立へと引き下げ、ディフェンシブ資産のスコアはプラス幅を拡大

投資環境概観

「高金利の長期化」シナリオを織り込む市場の調整は、株式と債券の下方相関性が強かった10月をピークに、流れが一巡した感がある。潜在成長率を上回る成長を続けている米国経済が企業収益を堅調に下支えしていることから、当社では「高金利の長期化」は株式にとって必ずしもマイナス材料ではないとの見方を維持している。しかし、市場調整の過程を経て、イールドカーブ全体にわたり上昇した金利の水準に比べると、企業収益の魅力度が単純に見劣りするようになったことにも同感する。

各国中央銀行はこれまで行ってきた金融引き締めの度合いに満足している模様で、長期金利の上昇が今後数ヵ月の景気の冷え込みにつながると予想されることを認識している。世界的な利上げサイクルは(少なくとも差し当たりは)概ね完了したように見受けられ、(過去3ヵ月にわたり株価下落の材料となってきた)6ヵ月間の債券利回り上昇に終止符が打たれた可能性がある。

過度に弱気な市場センチメントが後退しつつあり、年末に向けて季節要因も好材料となることから、市場ではリリーフ・ラリー(安堵感からの相場上昇)が続く公算が大きいと考える。バリュエーションは多くの資産クラスで依然魅力的な水準にあり、米国の企業収益は悲観的な市場予想を引き続き覆している。状況が落ち着くにつれ、2023年がより良い締めくくりを迎えられるようなファンダメンタルズ面の好材料が数多く出てきており、長く続いてきた史上最悪の債券下落相場は(ようやく)ほぼ一巡したと考える。


クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアを中立へと引き下げる一方、ディフェンシブ資産のスコアを引き上げてプラス幅を若干拡大した。経済成長が依然底堅いのに加え、第3四半期の決算シーズンがある程度好調な内容であったことから、米国株式の下げ幅の大きさは当社には意外であった。しかし、クロス・アセットの観点からすると、債券利回りの上昇を受けて、投資資金が株式からリスク・リターンの観点でより持続的なリターンが期待できる債券に流れたことは、不思議ではない。現物債券の利回りの上昇に伴い、利回りが相対的に低く、クレジット市場以上の潜在リターンを実現するには企業収益の拡大(したがってそれなりの経済成長)に依存する部分が遥かに大きい株式に比べ、キャリーがそこそこありデュレーション・リスクも限定的な短期債は、リスク・リターン面で有利と言える。

経済の観点からは、金融引き締めの積極度を考えると、経済成長が潜在成長率を上回っていることも少々意外である。しかし、米国の大規模な財政出動が顕著かつ強力な相殺作用をもたらし、経済の車輪を回転させ続けているようだ。現時点では、財政出動の効果は学生ローンの返済再開を主因として若干鈍化しつつある。これは1つのデータに過ぎないが、緩和的な財政政策が金融引き締めの主な相殺要因となってきたという当社の見方からすれば、重要な意味を持ち得る。米国の景気が悪化に転じるか、またその時期がいつになるかはわからないが、好悪材料を考え合わせると、特に債券利回りを景気低迷の可能性に照らして評価した場合、リスク調整後ベースでは魅力度の高い債券利回りを(キャピタル・ゲインを狙う)オポチュニスティックな成長機会に対して選好する。

グロース資産のなかでは、減速ペースが期待したよりも鈍いインフレへのヘッジとして、主にコモディティ関連株のスコアを最も大幅なプラスに維持しており、その分、利回りが短期金利対比で依然低いように見受けられるリートと上場インフラ資産のスコアをマイナスとしている。ディフェンシブ資産では、より有効なヘッジ・ツールとして金のスコアを引き上げてプラス幅を拡大し、その分、先進国ソブリン債と現地通貨建て新興国債券のスコアを引き下げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産のスコアを中立としたのは、景気見通しに対して具体的な懸念を抱いたというよりも、利回りベースの投資機会が浮上してきたからだ。10月までの金融引き締めの度合いと極めてタイトな金融環境からすれば、今後数ヵ月のあいだに景気が鈍化することは間違いないだろう。しかし、その逆風は、日本株や米国のテクノロジー銘柄といった構造的な成長機会よりも、景気敏感株により大きな痛手をもたらす可能性がある。

米国経済を浮揚させている主な追い風は、寛大な財政出動と民間部門の強固なバランスシートで、後者にはコロナ関連の景気刺激策によって積み上がった健全な貯蓄超過が含まれる。この貯蓄超過は消費支出が進むにつれて減少しつつあるが、当社の分析によるとコロナ関連の景気刺激策の効果はまだ残っており、景気のバッファーとなり得る。当社の見解では、重要なリスクは失業率の上昇だが、これは今後悪化に転じる兆しがうかがわれる。それでも、企業は投資を進めているように見受けられるので、判断は難しい。

当社ではグローバル株式市場の特定の地域やセグメントを選好しているが、満期が短めのクレジット物は、リセッション(景気後退)下ですらリターンがマイナスになることはほとんどないことから、特にリスク調整後ベースで魅力的な利回りを提供している。とは言え、株式は、成長機会を捉えるとともに、(企業収益が名目成長率と同様の動きを見せる傾向にあることから)インフレをヘッジする役割を果たす。

資産クラスの相対価値の変化に巻き込まれた株式

株式と債券の相関性は依然として極めて高いが、この状態は金利変動の速さがもたらす不透明感に伴って起こる傾向がある。「高金利の長期化」シナリオが後退し景気への懸念が再燃すれば、相関性は3月に生じた銀行危機の時のようにマイナスに転じるとみられる。それでも、ポジショニングの変化の一部はより長く続く可能性が高い。

端的に言えば、利回りを重視する投資家にとって、投資資金を株式から債券に戻すのは自然な流れである。短期のクレジット物は、利回りが1990年代以来の高水準に達しており、特に2001年以来初めてS&P500指数の構成銘柄の平均益利回りを上回ったことから、多くの投資家がこうした利回り型資産クラスを見直すようになっている。

「ドットコム・バブル」時代との比較は縁起が良くないが、利回りを成長機会対比で評価するという点では適切な比較と言える。1990年代は、バブルを引き起こしたのが実際の企業利益ではなく投機と夢であったため、バブル崩壊の際には保守的な投資家が恩恵を受けた。今日の場合、企業利益とキャッシュフローの強さは極めて現実的であり、したがって保守的な利回りと長期的な成長とのバランスを保つことが賢明だと考える。

チャート1


長期的な成長を狙う資産クラスとして、当社では日本株を選好している。日本株は、リフレと大幅な構造改革が追い風となっているのに加え、為替ヘッジ後の米ドル・ベースでの益利回りが7%を上回っている。日本と他国とのあいだで大きな金利差が続く限り、日本株はそもそも為替ヘッジのキャリーが益利回りに上乗せされるため、他の資産クラスが日本株を上回るリターンをあげるのは難しいだろう。

また、米国テクノロジー株は、これまでのところ概してMicrosoftやMeta、Nvidiaといった超大型企業に恩恵をもたらしてきた生成AI(人工知能)を背景に、引き続き強力なテーマであると考える。しかし、この分野の有望な応用はまだ初期段階にあり、生産性向上の評価はまだ裏付けに乏しい。それでも、潜在利益はかなり大きいと言える。

当社では、AIが破壊的変化を加速させ、勝者が大きな利益を手にすると考えている。現段階で勝者と敗者を判断することは不可能だが、投資に回せるキャッシュフローが潤沢な大型企業が早い段階でリードしており、かなり割高となった資本を必要としている企業に対して強力な優位性を持っていることは明らかだ。この力関係は当面継続するとみており、大型テクノロジー株を選好するスタンスの継続は妥当と考える。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 景気循環性の強い利回りよりも長期の成長機会を選好:公益事業セクターやリートなど利回り(債券の代替)目当てで買われてきた株式は、利回りの上昇により魅力度の増した債券分野の資産に取って代わられ、苦戦を強いられている。株式のなかでは、日本株やテクノロジー・セクターなど長期的な成長が見込める分野が、今後数ヵ月(もしかしたら数年)にわたって最良の投資機会を提供すると考える。
  • コモディティ関連株:コモディティ関連株は、長期的成長からはほど遠いものの、依然として供給が比較的不足している素材・エネルギーの提供元であることに変わりはない。インフレは減速しつつあるものの、コモディティ分野で需要が供給を上回っていることもあり、コロナ前の水準まで戻るとは考えにくく、コモディティ関連株はインフレ・ヘッジとして機能しやすい。
  • 一部の新興国株式:今回のテクノロジー・ハードウェアの転換期において上昇の可能性がある台湾および韓国、力強い(かつ利益を伴う)成長が期待できるインド、益利回りが依然目立って高く、フレンド・ショアリング(生産拠点やサプライチェーンを同盟国や友好国に限定して構築すること)と金融緩和を追い風に上昇の可能性がある中南米諸国を主に有望視している。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産では、ソブリン債のスコアを再び若干引き下げた。各国間における経済成長の乖離はより顕著になり始めており、米国が引き続き潜在成長率を上回る伸びを見せているが、欧州と英国では陰りの兆しがうかがわれている。米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする各国中央銀行は、年明け以降市場で予想されてきたよりも長い期間にわたって金利を高く据え置く必要がある可能性を示唆している。最近の会合で追加利上げは見送られているものの、中央銀行は長期債利回りの上昇を容認することで利上げと同様の効果を狙っているようだ。

一方で、金のスコアを引き上げてプラス幅を拡大するとともに、投資適格クレジットのスコアをプラスに維持した。金価格はここ1ヵ月ほどボラティリティが高まったが、その後は対米ドルで安定し対円では史上最高値を更新している。この金の好調さは、実質金利の上昇とドル高という、通常なら貴金属の需要を減退させる2つの要因にもかかわらず維持されており、金が地政学的リスクとインフレ圧力の高まりに対するヘッジとして有効であることを証明している。また、旺盛な需要の背景として、中央銀行が外貨準備の分散を続けていること、投資家のポジションが依然軽いことも挙げられる。

投資適格クレジットは、バリュエーションが引き続きソブリン債に比べて魅力的な水準にある。2023年に入ってからこれまで、世界経済が予想を上回る強さを見せ米国景気が加速に転じるなか、投資適格クレジットのスプレッドは以前考えられていたよりも堅調に推移してきている。今後の「高金利の長期化」環境でも、これまでに被った金利上昇による打撃をスプレ ッドがある程度相殺してくれることから、投資適格クレジットはスプレッドの好調なパフォーマンスが続くと予想される。

収斂しつつある政策金利予想

過去40年間で世界的に最も積極的な金融引き締めサイクルの1つを経て、世界の政策金利に対する市場の予想は現在、利上げサイクルの終了を示している。先物市場では複数の国による利下げが織り込まれており、米国、カナダ、英国、ニュージーランド、オーストラリアなど各国の政策金利予想が4.30%から5.05%の間に収斂している。下のチャート2が示す通り、今後6ヵ月間は政策金利が概ね横這いに維持され、6~12ヵ月後に大きめの利下げが始まるとみられている。オーストラリアはこのデータセットのなかで唯一小幅な利上げが予想されている国だが、これは米国の5.5%、カナダの5.0%、英国の5.25%に対してオーストラリアの政策金利が4.35%に過ぎないことを反映している。

チャート2

このような市場予想が映し出しているのは、政策金利は引き締め領域にあり中央銀行はインフレを目標水準に収めるという目的を達成しつつあると、大半の中銀高官が考えているということだ。興味深いことに、インフレ率は過去18ヵ月にわたって根強く高止まりしているが、ブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)の水準は今後5年間についてインフレが落ち着く環境を織り込んでいる。カナダと米国では、今後5年間のインフレ率は2%をわずかに上回る程度と予想されており、オーストラリアも2.8%とオーストラリア準備銀行の目標レンジである2~3%に収まっている。このように、市場の水準は、世界的な利下げの動きを織り込み始める準備が整った理由を示唆しており、インフレが抑制された状況に戻る一方で政策金利が引き締め水準にあれば、一定の緩和が必要となることを意味している。なお、英国はインフレ予想が4%近くにあり、市場は高インフレが続くと依然考えている。

チャート3

しかし、市場が利下げを織り込み始めようとしている一方で、FRBなど中央銀行からのメッセージはこれまでのところ慎重なものにとどまっている。10月31日~11月1日に行われたFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見で、利下げについて質問されたFRBのパウエル議長は、「実際のところ、当委員会は現段階では利下げについて全く考えていない」と答え、その後、「我々が問うているのは、追加利上げを行うべきかどうかだと言っていいだろう」と付け足した。この慎重さは、金融環境を引き締め水準から脱却させられると示唆する前に、インフレ抑制の務めを果たしたことを確実に確認する必要があるとのFRBの考えから来ているようだ。引き締めの度合い、そしてインフレ率が中銀の目標へと戻ってきているペースを考えると、市場の織り込みは現在の政策金利見通しをより正しく解釈している可能性があると当社ではみている。今後6~12ヵ月のいずれかの段階で利下げが実施されるかもしれず、そうなればディフェンシブ資産にもグロース資産にも同様に新たな息吹きが吹き込まれるはずだ。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは依然適正水準にあるが、多くの国でイールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に低くなっており、満期が短めのクレジット物を選好している。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクとインフレ圧力の高まりに対するヘッジとして有効であることを証明している。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、ドルの全面安を予想していることからクオリティの高い新興国通貨を選好している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:



当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。