本稿は2023年12月29日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアを中立に、ディフェンシブ資産のスコアを若干のプラスに維持

投資環境概観

景気の見通しは概ね変わっていないと考えるが、先行きの展望は若干軟化している。これは、過去数ヵ月見られてきた金融環境のタイト化を反映しているのかもしれないが、ここ1ヵ月は、利下げが近いとの観測からの金融環境はかなり緩和している。経済指標の鈍化とインフレの減速を受けて市場が近い将来の利下げを早急に織り込み、その結果金融環境が緩和すると利下げ観測が再び後ずれする、というお馴染みのシナリオが展開しているようだ。

インフレがピークから大幅に減速して実質金利が上昇すれば、今後数ヶ月内には幾分かの利下げが実施される可能性がある。金利は今ほど高くある必要はないのかもしれないし、イールドカーブの大幅な長短逆転は金融市場に歪みをもたらすため必ずしも有益ではない。しかし、中央銀行の目から見ればインフレは依然として主要なリスクであることから、現在の市場による利下げ期待の織り込み方は妥当な調整の範囲をはるかに超えていると考える。

インフレは減速が続くと予想するが、その過程はスムーズなものとはならず、リセッション(景気後退)が起こらない限り中央銀行の目標に達する可能性は低いとみている。当社では世界の需要を注視しているが、テクノロジー・ハードウェアのサイクルなど改善傾向がうかがえるケースもある。さらに、AI(人工知能)へは大規模な投資が続いており、日本のリフレ改革も効果をもたらしているようだ。したがって、長期的成長をテーマとして引き続き選好しており、これをインフレ・ヘッジ(コモディティ関連株と金)とともに魅力的で質の高い利回りを提供する幅広く分散されたポートフォリオに加えることは、理に適っていると考える。


クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアを中立に、ディフェンシブ資産のスコアを若干のプラスに維持した。米FRB(連邦準備制度理事会)がこれまでの引き締めに満足した模様となった途端、金融環境は再び緩和し、債券利回りが低下してリスク資産が健全な買いが入った。最近の一連の引き締めが経済に深刻な打撃を与えるとの見方もあるが、当社の見るところ、その可能性を示唆する兆候はほとんどない。米国経済は、緩和的な財政政策、依然健全な民間部門のバランスシート、適度に好調な労働市場を背景に、引き続き堅調に推移している。

最近の債券市場の上昇を受けて、デュレーションは再び割高になったと言える。経済がリセッション(景気後退)の危機に瀕しており、そう遠くない将来にFRBが利下げに踏み切らざるを得なくなると考えるのであれば話は別だが、当社ではこのような見方をとっていないため、より魅力度の高い利回りとスプレッドを提供している短期ゾーンの債券を選好している。

グロース資産のなかでは当月もスコアの変更は行わず、長期的成長性を提供している日本株と米国のテクノロジー株、そして収益が好調で金利上昇とインフレへのヘッジとなりやすいエネルギー株を引き続き選好している。ディフェンシブ資産では、先進国ソブリン債のスコアを大きく引き下げてその分投資適格クレジットのスコアを引き上げるとともに、ハイイールド債のスコアのマイナス幅を縮小した。デュレーションはグロース資産に対するプロテクション特性として妥当なエクスポージャーと考えるが、セクターや銘柄などの選択においては選別的スタンスで臨んでいる。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

今年のグロース資産はこれまでのところ、ボラティリティの高い展開ながらも2桁台の上昇とパフォーマンスが概して良好だが、これを資産全体にもたらしたのは11月の大幅なリリーフ・ラリー(安堵感からの相場上昇)である。経済が全般的に予想以上の底堅さを見せており、金利がピークを打ったように見受けられることから、先行き見通しは改善している。非常に重要な点として、今年は企業の利益率が予想されたよりもはるかに持ち堪えており、当社が見込んでいるように2024年がソフトランディング(リセッションを回避した緩やかな景気減速)を迎えるとすれば、この利益率が持続できないと示唆する材料はほとんど見当たらない。

欧州株式は、2023年の最初の4ヵ月早々に15%のリターンを記録した後、横ばいで推移していたが、ついに上昇に転じて年初来リターンが20%となっている。欧州は、中国の景気回復の下振れを受けて製造業と輸出が鈍化するなか、リセッション入りした。インフレが減速しているためECB(欧州中央銀行)は利下げを行いやすい立場にあると見受けられ、またドイツのPMI(購買担当者景気指数)は底打ちした模様である。

基本的には、短期のクレジット物が株式の不安定な益利回りに比べて安全で魅力的な利回りを提供しているなか、グロース資産においては長期的な成長機会を選好する。しかし、欧州など一部の地域が緩和サイクルに向かう可能性があることから、景気循環的な投資機会に対して引き続きオポチュニスティックなスタンスを維持する。今のところ、欧州株式のコンセンサス収益予想は魅力度が後退しているように見受けられるが、将来の機会をアナリスト達がまだ見出していないことを反映しているのかもしれない。

欧州にとって重要な問題は、(中国を中心とする)外需が回復するかどうか、そしてインフレの減速と今後起こり得る金利の低下を受けて、景気がどれくらい早く回復できるかである。通常、利下げは景気の底打ちに先行し、株価と企業収益の回復の種をまく。従来の感覚では株式市場が上昇するには早すぎるように思われるが、ここ数年たびたび指摘してきたように、現在の景気サイクルでは従来の常識が必ずしも最良の指針になるとは限らない。

株式:高ボラティリティの上昇過程

ここ数年の金利市場の混乱期において、株式と債券市場の最悪の下落相場との相関性が極めて高かったことを考えると、一歩下がってそのような展開を促した要因を考察することは、今後の潜在的投資機会を理解する上で重要である。下のチャート1を見ると、米国のテクノロジー株(ナスダック総合指数で31%)、日本株(TOPIXで31%)、欧州株式(ユーロ・ストックス50指数で29%)のあいだで過去3年の累積パフォーマンスが驚くほど近いことがわかる。各市場とも年率換算で約9%と相当の上昇を見せているが、その過程はかなりボラティリティが高く市場ごとで著しく異なっている。

チャート1


日本株は3市場のなかで最もボラティリティが低かった(低ベータと言える) が、2023年第2四半期には明確に上放れしており、当社では同国で進行中の構造改革から引き続き同市場を株式市場のなかで最も有望視している。ナスダック市場は、金利の上昇と企業収益の悪化を受けて2020年後半から2023年1月上旬の底値にかけての累計リターンが-14%となったが、その後、AIへの期待と企業の実質収益の大幅な上振れを追い風に大幅な上昇に転じた。一方、欧州株式は2023年11月にナスダック市場と同様の上昇を見せた。

株価は最終的に収益に追随するものであり、ナスダック市場では、構成企業の収益予想が2022年後半から2023年序盤にかけて悪化したものの、その後は過去最高益へと大きく引き上げられた。企業の売上高は一般的に名目GDPに追随するものであり、また利益率が軒並み改善したため、この3年間は企業収益予想が引き上げられてきた。

チャート2

これら3市場のうち、最も意外と言えるのは欧州株式だろう。域内諸国がリセッションに陥っているとともに欧州の輸出にとって重要な中国の需要が期待を下回っているにもかかわらず、収益予想は最も高くなっている。しかし、日米市場とは対照的に、欧州の収益予想が10月半ばから悪化していることは注目に値する。

株価と企業収益の動向を比べてみて、予想ベースのPER(株価収益率)に基づくバリュエーションは概ね正確だと考える(チャート3参照)。欧州株式は12.5倍と「最も割安」に見受けられ、日本株は14.3倍、ナスダック市場は2023年7月下旬の26.6倍をピークに24.0倍となっており、これらの逆数で求められる益利回りはそれぞれ約8%、7%、4%となる。もちろん、予想ベースの益利回りは重要だが、下方脆弱性や上昇の可能性は市場によってかなり異なる。

チャート3

日本株は、株価が収益予想の変化を上回るペースで動いているため割高気味に見える。これは、11月の日本株の上昇幅がナスダック市場や欧州株式に比べて小さかった理由と見なされるかもしれない。しかし当社のみるところでは、日本株のバリュエーションはむしろ、7月から10月にかけての下落局面で日本株が他の2市場に比べてよく持ち堪えた理由と言える。日本の企業収益は、短期的にはまだ大幅な上方修正に至っていないが堅調であり、同国の構造改革がより大きなテーマになると考えられ、今後数年にわたり収益性が大幅に高まっていく可能性が高い。

ナスダック市場の2023年初めからの12ヵ月先収益予想上昇率は25%と、株価上昇率の49%を下回っているが、同市場の場合は、AIを原動力とする長期的成長が今後数年にわたって収益成長の主要な牽引役になると考える。同市場の収益成長予測は本質的に不確実性が極めて強いと言えるが、特許データを用いて生産性向上を予測した最近の学術研究によると、一部の経済圏では既存の仕事の最大7%がAI活用型のオートメーションに取って代わられる可能性がある。これは大きな数字であり誤差の幅は大きいが、テクノロジー業界では実質収益の成長がすでにもたらされているとみられ、今後数年間は当該成長が十分に支えられていくと予想している。

欧州はバリュエーション面での魅力度が高い。企業収益は名目GDP成長率に牽引され市場予想を上回っている。そこで重要となるのは、景気が下振れしインフレが減速するなかで、企業収益が持ち堪えられるかどうかだ。欧州では他の地域よりも早く利下げが行われるかもしれないが、利下げが実際に実施されるのはまだ先の話だ。一方で企業収益予想は下方修正が始まっており、回復には時間がかかるとみられる。いずれにせよ、バリュエーションがサポート材料となって今後さらなる上昇局面を迎える可能性はあるが、現時点では依然として他地域により優れた長期投資機会を見出している。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 景気循環性の強い高配当利回りよりも長期的成長機会を選好:日本株や、来たるAI革命において現在も今後も依然恩恵を最も受けやすいテクノロジー株など、構造的・長期的な成長機会に引き続き投資価値を見出している。
  • コモディティ関連株:コモディティ関連株は、バリュエーションが魅力的であるとともに潤沢なキャッシュフローがサポート材料となっており、後者は景気のソフトランディング局面でも持続して、依然根強いインフレ・金利リスクからのプロテクションを提供するとみられる。
  • 一部の新興国株式:中南米株式は、予想ベースのPERが8.0倍と非常に割安である。実際、同市場は過去3年のリターンが現地通貨ベースで若干のマイナスとなっているが、一方で同期間の企業収益は55%の伸びを見せている。最近では収益予想が上方修正されつつあり、コモディティ輸出や内需の回復、利下げ余地(域内の実質金利は世界で最も高い)、「フレンド・ショアリング」(生産拠点やサプライチェーンを同盟国や友好国に限定して構築すること)の機会から長期的な成長見込みも有望である。台湾と韓国は、テクノロジー・ハードウェアのアップサイクル(元の状態よりも価値を高めて再利用すること)から恩恵を受けるとみられる。インドは、好調な企業収益、「フレンド・ショアリング」による新しい機会、中東への新しい貿易ルートの開拓が追い風となる可能性がある。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産では、ソブリン債のスコアを再度引き下げ、マイナスに維持した。過去数十年間の経験則によると、中央銀行は政策金利がターミナルレート(金利の最終到達点)に達した後に間もなくして金融政策の緩和を開始してきている。市場は早くもこの定石に則って金融緩和を織り込みに行っているものの、コロナ禍の余波を受けて景気見通しには曇りが生じている。金融政策の引き締めは欧州や英国など一部の地域では期待通りの効果をもたらしているが、世界最大の経済大国である米国の景気はこれまでのところ利上げにもかかわらず底堅く推移している。大半の先進国においてイールドカーブが逆転していることも、長期債の魅力を低下させている。したがって、ソブリン債よりも高格付けのクレジットを選好する。

投資適格クレジットについてはスコアを再度引き上げてプラス幅を拡大した。当該資産クラスはバリュエーションが引き続き割安な水準にあり、モメンタムも良好である。高格付けの発行体は強固な財務基盤を有しており、ディフェンシブ資産のなかで利回りを追求するには最良の分野とみている。同セクターは平均を上回るスプレッド水準も提供する。さらに、米国景気が以前の想定よりも底堅く推移しており、このように金利が高止まりする環境下では投資適格クレジットが好調なパフォーマンスを発揮するとみている。

英国は状況が欧州に収斂

ここ3ヵ月間、金融市場はユーロ圏での比較的積極的な利下げを予想し始め、1年後のキャッシュ・レート予想は3.60%から2.77%へと低下した。欧州は経済成長がリセッションの水準に入っており、インフレも2.4%まで減速していることから、当社ではECBが最初に利下げを実施する中央銀行の1つになる可能性が高いと以前から予想してきたが、英国もそう遅れずに利下げを実施するかもしれない兆しが見られつつある。2023年を通じて、英国のキャッシュ・レートに対する市場の予想は先進国のなかでも最もタカ派色が強く、年央には6.50%を超えていた。しかし、最近ではこのタカ派的な見方が反転し、今ではおよそ半年後の利下げ実施が予想されている。

チャート4

このような見通しの変化の背景には、英国の経済指標が悪化しており、BOE(イングランド銀行)のタカ派姿勢が終焉を迎える可能性を示していることがある。景気の観点からは、英国は2023年第1四半期から第3四半期までのGDP成長率がわずか0.5%にとどまっており、軟調なPMIは今後のさらなる景気低迷を示唆している。しかし、より重要なのは、先進国のなかでも最も速いペースで加速していたインフレが、その後、より許容しやすい水準まで減速してきたことだ。興味深い点として、下のチャート5が示すように、英国のインフレはユーロ圏とまったく同じ軌道を辿っているように見受けられ、今後3ヵ月に英国経済においてインフレがより適度な水準へと減速する可能性が示唆されている。

チャート5

インフレ率がより正常な水準に向かって減速し、景気も低調なペースが続けば、BOEが金利を高い引き締め水準に維持する必要があると主張するのはますます難しくなるだろう。したがって、以前から考えていたECBの利下げの必要性に加えて、欧州大陸各国と状況が似てきた英国もまったく同じ道をたどる可能性の高いことが明らかになってきた。金利の観点からは、英国債10年物の利回りがドイツ国債の利回り対比でほぼ30年ぶりの高水準にある(チャート6参照)ことから、英国債は上昇を続ける余地がある。利下げの時期については、インフレがまだ目標値をそれなりに上回っているためBOEはECBに数ヵ月遅れる可能性があるが、利回りの低下余地がより大きい英国債は、デュレーション・エクスポージャーを取る対象としての魅力度がより高いと言える。

チャート6


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは依然適正水準にあるが、多くの国でイールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に低くなっており、満期が短めのクレジット物を選好している。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクとインフレ圧力の高まりに対するヘッジとして有効であることを証明している。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、ドル全面安の予想からクオリティの高い新興国通貨を選好している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:



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