本稿は2024年1月26日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアを中立に維持、ディフェンシブ資産のスコアを中立に引き下げ

投資環境概観

金融環境は2023年10月後半以降、大幅に緩和している。過去2年間において米FRB(連邦準備制度理事会)は早計な金融緩和へと傾く市場の期待を何度も押し返してきたが、12月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合ではそうせず、インフレが目標に向かって順調に減速傾向を辿っているとの市場の見方と実質的に同じ見解を示した。米国のインフレが良好な水準まで鈍化しており、それによってFRBが(やや)ハト派的なトーンやより明るい景気見通しへとシフトできていることは間違いない。

当然のことながら、市場は非常にポジティブな反応を示した。ただし、その織り込みが急激に進み、3月にも利下げが開始されその後も複数回の追加利下げが行われるとの期待を反映するに至ったのは、経済指標が依然堅調で金融環境の緩和を受けた景気加速の可能性もあることを考えると、行き過ぎであるように見受けられる。こうしたなか、金利市場は乱高下の激しい推移が続くと予想しているが、再び金利上昇局面を迎えるとしても米国債は10年物利回りで5%がかなり固い天井になりそうであるため、2023年10月後半のような懸念すべき状況にはならないだろう。

一方、米国経済は引き続き堅調な様子であることから、グロース資産、および利回りが魅力的で満期の短いグローバル・クレジット物に対してはポジティブな見方を維持している。米国がインフレ2%に戻るかどうかはそれほど明確ではないと依然考えている。むしろ、この点については、戻らないかもしれないとの確信を強めており、金融環境の緩和に伴い最終的には根強いインフレが再来する可能性もあるとみている。重要な道標となり得るのは、インフレ動向に最も大きな影響を及ぼすエネルギー価格だろう。なお、現在のところ、エネルギー価格は比較的低水準で安定している。インフレの方向性が依然足元の市場予想が示すほど明確ではないなか、コモディティ関連資産は引き続きヘッジとしての役割を十分に果たすとみている。


クロス・アセット

当月は、ディフェンシブ資産のスコアを中立に引き下げるとともに、グロース資産のスコアを中立に維持した。2023年最後のFOMCは、金融環境がここ数ヵ月で大幅に緩和したにもかかわらず、メンバーからタカ派的なトーンが消えインフレとの闘いに明確な進展が見られたことが強調されるなど、多少のサプライズをもたらした。

米国経済は依然としてかなり堅調で、労働市場や消費需要はいずれも明確な悪化がまだ見られていない。一方で、インフレは減速傾向を辿っており、FRBとしては2024年後半の利下げ実施を十分に見込める軌道であると満足しているようだ。これは重要なトーンの変化であり、グロース資産とディフェンシブ資産がともに2023年末にかけて力強く上昇するきっかけとなったことは間違いない。そうしたメッセージの変化は、資産価格のサポート材料という点においては歓迎すべきものとみている。しかし、インフレ圧力は依然残っており、インフレがFRBの目標水準まで自然に減速して2024年に大幅な金融緩和が可能になるとの足元の想定が、そう簡単には実現しないのではないかとの懸念を深めている。

グロース資産のなかでは、スコアの変更は行わなかった。金利感応度の高いリートと上場インフラ資産のスコアをマイナスに据え置く一方で、インフレ・ヘッジ効果を期待できるコモディティ関連株や、長期的グロース株および景気循環株のスコアをプラスに維持するのは、適切なバランスだと考えている。ディフェンシブ資産のなかでは、米国債市場で2024年における大幅利下げの織り込みがあまりにも急激に進んだことから、残存するインフレ・リスクを考慮してソブリン債のスコアを引き下げた。その分、イールドカーブの長短逆転によって短期ゾーンの利回りが妥当な水準にあるとともに、経済情勢が引き続き信用クオリティの追い風となっている、投資適格クレジットとハイイールド債のスコアを引き上げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

新興国市場は、極めて不調な中国市場が全体のパフォーマンスの足を大きく引っ張ってきたというだけの理由で、投資家に避けられる場合がある。中国の景気見通しは新興国市場の見通しを分析・評価する上で重要だが、中国株が下方圧力に晒されているのは、需要の低迷というより、企業収益の成長停滞見通しに関係していると当社ではみている。中国の経済成長が期待外れに終始しているのは確かで、その主な要因としては景気刺激策の規模が十分でないこと、そして2022年にロックダウン(都市封鎖)が続いた影響や不動産市場の低迷継続の影響から消費者心理が回復せず落ち込んだままであることが挙げられる。しかし、中国の需要は大きく落ち込んでいるとは言えず、また、米国の大規模な財政出動や友好国にサプライチェーンを移す「フレンドショアリング」といったテーマを受けた需要の構造転換など、他の需要ドライバーが世界中で台頭している。当社では新興国に魅力的な投資機会を見出しているが、非常に選別的なスタンスで臨むのが得策と考える。

新興国の投資機会に見られるばらつき

株式市場は長期的には経済成長に追随するものである。過去3年間でインド市場が53%上昇する一方で中国市場は40%下落しており、これほどパフォーマンスが極端に乖離した例は他に見当たらない。インドが株式のパフォーマンスでリードしている核心的要因は相対的な景気回復力の強さにあるが、同国は構造的かつ継続的に収益性という面で世界をリードしてきた。大雑把に言えば、インドは資本を最大限に活かす傾向があり、中国は資本の配分を誤る傾向がある。これが常に当てはまるわけではないものの、この一般論には数十年にわたって続いてきたパフォーマンスの乖離を説明できるだけの的確性が十分にある。また、インドは新たな成長源泉が追い風となっており、その代表的な例がサプライチェーンのシフトからの恩恵である(中国はその犠牲になる場合が多い)。インドは新たな需要源に対応するために生産能力を増強しているが、中国は過剰生産能力を活用するために新たな需要源を見つけようとしている。

他の新興諸国では、景気見通しと市場パフォーマンスの差異はより微妙である。例えば、台湾と中南米諸国の過去3年間のリターンはほぼ0%に近い(チャート1参照)が、株価動向を左右する成長の原動力はそれぞれ異なっている。台湾株式は依然テクノロジー・ハードウェア(半導体とメモリー)のサイクルが主な原動力となっているが、一方で中南米株式は同地域が輸出するコモディティや各国内のマクロ経済・政治動向に関するセンチメントに左右される傾向がある。

チャート1


企業収益予想は、インドと中国の株価パフォーマンスの乖離や、台湾と中南米地域の株価動向を左右するドライバーの一部を理解する上で有用だ。驚くことではないが、チャート2が示すように、インド企業は利益成長率が最も高いだけでなくそのボラティリティが低い。インドの予想利益成長率は3年間で60%を超えている。これはインド株式市場のパフォーマンス(55%上昇)と同等の水準であり、また、さらなる上昇のチャンスも十分にある。一方で、中国の企業収益は同期間において伸び悩んでおり、中国がどこに成長機会を見出すことができるのかという疑問を投げかけている。

台湾の企業収益予想は、景気刺激策を原動力とする非常に旺盛な需要に加えサプライチェーンの混乱によって強まった価格決定力を要因として、2022年の夏までに60%上昇した。しかし、こうした要因が解消されるにつれて追い風は逆風に変わり、また、大幅な過剰在庫によって状況はさらに悪化した。現在は在庫水準が正常化しているとともに、新たなサイクルが始まっている。今回は、人工知能(AI)への大規模投資を背景とするハイパフォーマンス・コンピューティングへの需要が新たな追い風となっている。企業収益は上向いてきており、こうした動きは今後も続くとみている。

中南米諸国の企業収益予想は、概してコモディティ市況に連動してきた。ピーク時(2022年半ばの約70%増がピーク)に比べればまだ弱いものの、3年間で約50%上昇しており、プラスのモメンタムを増しているように見受けられる。引き続きコモディティ価格への追い風が見られることから、企業収益見通しは改善すると考える。さらに重要な点として、米国の需要やフレンドショアリング、利下げに伴う内需拡大も企業収益を下支えすると期待される。

チャート2

バリュエーションはおしなべて妥当な水準にある。インドの予想PER(株価収益率)は22倍と割高気味(チャート3参照)だが、企業収益は一貫して期待通りの伸びを見せており、成長率予想も引き続き良好である。中南米諸国の予想PERは8.4倍で、特にファンダメンタルズが改善していることを考慮すると割安に見える。したがって、株価は下支えされており、景気が回復するにつれておそらくはバリュエーションが見直され上昇する余地もあると考える。台湾については、株価予想においてテクノロジー・ハードウェアのサイクルが重視されているが、当該分野のアナリスト予想への反映が遅れがちであるため、PERは株価評価を行う上であまり役に立たない。中国は割安な予想PERがさらに低下しており、足元では10倍弱で推移しているが、景気回復への道筋がより明確になるまでは、中国株式は冴えない展開が続くかもしれない。

チャート3

以上を総合し、新興国に対しては引き続きポジティブな見方をしているが、一方で非常に選別的な姿勢を維持し、最も有望な投資機会を厳選していく方針である。中国はもはや新興国の経済成長見通しにとって最も重要な要素ではなくなっており、各国市場には変化目まぐるしいマクロ経済・地政学的情勢に左右される独自のリスク/リターン・ドライバーがある。当社では、今後もパフォーマンスの乖離は続くとみている。したがって、新しい情勢や場合によっては新しい世界秩序に照らして各市場やセクターの独自の特性を考慮することが、引き続き賢明であると言えるだろう。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 日本株を最も選好:日本では、改革を受けて企業のバランスシートの再構築が急速に進んでおり、今後数年にわたって企業の収益性が改善していくとみられる。また、日本は欧米の重要な同盟国であり、脱中国の動きとして日本への投資が好調に推移している。
  • 米国の長期的グロース株:米国はハイテク産業および長期的成長機会の中心地であり続けており、そのことを明確に示した最新の潮流がAIである。AIへは今後も旺盛な投資が続くとみており、またAIは労働力不足のなかで世界が切実に必要としている生産性の大幅向上をもたらすと予想している。
  • コモディティ関連株:中央銀行は利上げを終了し、リセッション(景気後退)の兆しが見られないなかで利下げ開始が近づいている。コモディティはかつてリセッション懸念という逆風に見舞われたが、一方で当該資産クラスは、想定よりも根強く続く可能性のあるインフレや、場合によっては先行き不透明感が続く金利動向に対して、最も効果的なヘッジになるとみている。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産では、当月も再びソブリン債のスコアを引き下げてマイナス幅を一段と拡大した。当月はFRBによる早期利下げ開始期待を背景に債券利回りの低下が続くなか、債券のイールドカーブは対キャッシュ・レートの長短逆転度合いが再び比較的高い水準に達した。インフレが減速するにつれて世界の主要中央銀行が2024年に利下げを開始するとの見方には同意できるものの、一連の経済指標が世界的なソフトランディング(リセッションを回避した緩やかな景気減速)の可能性の高まりを示唆していることを考えると、予想されている利下げの幅やペースはやや前のめりであるように見える。イールドカーブの逆転により、ソブリン債ではインカムとキャリーの獲得が特に難しくなっているため、そのスコアを引き下げ、その分、より優れた利回り獲得機会をもたらし得る分野のスコアを引き上げるべきと考えた。

このような考え方の下、投資適格クレジットのスコアを再び引き上げてプラス幅を一段と拡大した。投資適格クレジットのなかでは、オーストラリア、英国、カナダなどの市場が良好なスプレッドを提供しており、長期ソブリン債を保有するよりも優れた利回り獲得機会をもたらしている。加えて米国は、景気が引き続き好調さを示しており失業率が4%を下回っている一方で、インフレ率がFRBの2%目標まで減速する兆しはまだ見られない。ソブリン債が割高で経済成長が好調であり続ける環境下、投資適格クレジットのスプレッドは堅調に推移すると予想される。

インフレは最後の1%で下げ渋るか

過去2ヶ月の金融市場は強いリスク選好局面に突入したが、その原動力となったのはFRBによる早期利下げ開始観測だ。こうした市場期待が高まったタイミングと時を同じくして、米国のインフレは一桁台半ばの高水準から3%台へと減速している。この水準は大半の中央銀行のインフレ目標からすると十分に低いとは言えないが、それでも正しい方向への一歩であり、引き締め的な金利水準はもはや妥当ではないだろうと市場が予想するには十分である。足元ではインフレ率がより対処しやすい水準にあるように見えるのは事実だが、一方でFRBがインフレを2%まで戻せるかどうかには疑問も残る。このことを示しているのが現在の6ヵ月前比インフレ率(チャート4参照)で、2023年の最後の6ヵ月間は依然として1.6%で推移している。これは2%目標を達成できるペースではなく、今後6ヵ月間で少しでも物価上昇が加速すれば総合インフレ率は2%を超えることになる。したがって、FRBは少なくとも2024年の最初の2四半期は引き締め的な政策スタンスが求められるとみられる。

チャート4

足元の環境に似ているかもしれないのが1990年代後半と2000年代半ばで、インフレ率は2~4%のレンジで推移し、FRBの目標である2%を上回り続けていた。これらの期間においてFRBはインフレを抑制するべく実質金利(キャッシュ・レートからインフレ率を差し引いたもの)を2~4%に維持し、実質金利をマイナスに誘導したのは世界金融危機の後に景気浮揚に取り組む必要が生じてからだった。この情報を参考にすれば、インフレが2.5%を一貫して上回り続ける場合、FRBは引き締め政策として、インフレ率を2%上回る水準に短期金利を維持し、インフレが収束したとみなされるまでその水準を維持しなければならないと判断すると考えられる。このような状況下で想定される米国のキャッシュ・レート水準は4.5%前後となり、これはドットプロットが示しているFRBの2024年の金利見通しと大差ない水準である。

これにもかかわらず、市場では相当強気な利下げ見通しが織り込まれており、高水準にあった実質金利が低下してきている。下のチャート5は、向こう12ヵ月間における主要中央銀行のキャッシュ・レート予想を示したものだが、市場は2024年中にすべての国のキャッシュ・レートが4%を下回ると予想している。このことは、必然的に実質金利が低下し、2024年末までに政策スタンスが中立となる可能性もあることを示唆している。こうした予想に沿って長期債利回りは大きく低下し、債券のイールドカーブは利下げ期待から長短逆転している。当社では、こうした債券利回り低下を受けて、最近ソブリン債のスコアを引き下げている。インフレ指標は軟化しているものの、世界的に景気は堅調で失業率も極めて低い水準にとどまっていることから、引き締め的な政策スタンスの解除が必要な状況になるとはまだみていない。

チャート5


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは依然適正水準にあるが、多くの国でイールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に低くなっており、満期が短めのクレジット物を選好している。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクとインフレ圧力の高まりに対するヘッジとして有効であることを証明している。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、ドル全面安の予想からクオリティの高い新興国通貨を選好している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:



当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。