本稿は2024年4月23日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアを大幅なプラスに、ディフェンシブ資産のスコアを中立に維持

投資環境概観

インフレの先行き不透明感はますます強まっており、米国債をはじめ先進国ソブリン債全般にとって不利な状況となっている。米国は非常に大きな財政赤字を抱えており、米FRB(連邦準備制度理事会)は、インフレ圧力が継続的な低下から上昇に転じる可能性が十分にあることから、今や利下げ時期の決定にあたって難しい立場に立たされている。経済活動が加速する環境下、エネルギー関連株は引き続きヘッジとして有効であり、金は価値貯蔵の手段としての認知が高まりつつある。

現在のレジーム・シフト(経済の構造的変化)を裏付けるマクロ・ファンダメンタルズを見極めるのは容易ではなく、そのため当社では統計モデルを頼りとしている。これらのモデルでは、資産クラスのボラティリティおよび相関性の経時的自然変動を考慮している。実際、金は現在、先進国ソブリン債よりも安全性の高い資産であるように見受けられる。金に比べて先進国債の方が、ボラティリティと対株式リスクの相関性が高いからだ。興味深いことに、当社のモデルは、現地通貨建て新興国国債が数年前より安全な資産であることも示している。金融政策の正常化と持続可能な債務水準によってもたらされている高い実質利回りが、相対的な安全性の高さから注目され始めているのだろうか。

当社では、財政出動や堅調な国際移民、投資の拡大、製造業サイクルの好転を考慮し、経済成長環境が改善するとのポジティブな見通しを維持している。景気見通しはかなり明るいように見受けられるが、米国の財政支出の度合いなど、完全に持続可能とは言いきれない要素も認識している。幸いなことに、リスクの観点からは、当社はモデルに従いポートフォリオでディフェンシブなスタンスをとっており、インフレ・リスクをヘッジしながら好景気の恩恵を享受できるポジショニングとしている。


クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアを大幅なプラスに、ディフェンシブ資産のスコアを中立に維持した。米国の継続的な財政出動、国際移民の増加、世界的な製造業サイクルの好転により、世界の需要は依然十分に下支えされている模様だ。興味深い点として、金利の上昇は、政府の支出が抑制されていないことからまだ流動性を抑制するに至っておらず、総需要の観点からはそれほど問題ではないように思われる。この状況はグロース資産ばかりでなく、金のようなディフェンシブ資産にとっても追い風となっている。債券は、発行量の多さとインフレ率がFRBの目標2%を上回る水準にとどまる可能性を受けて、投資魅力が後退するかもしれない。

グロース資産のなかでは各資産クラスのスコア変更は行わず、成長性とインフレ・ヘッジ特性の組み合わせという観点から先進国株式とコモディティ関連株を最も高いスコアに維持した。新興国株式のスコアも小幅のプラスに維持する一方、上場インフラ資産とリートのスコアは大幅のマイナスに据え置いた。これは、両資産クラスの利回りが現在のグロース株の機会に比べて投資魅力に欠けること、また両資産クラスの金利上昇への感応度が高いことによる。

ディフェンシブ資産のなかでは、前月に中立に引き下げた金のスコアをプラスに戻した。これはデュレーション・リスクに対する金のプロテクション特性を再評価したもので、この特性は今後数ヵ月あるいは数年にわたり持続するとみている。金のスコアを引き上げた分、スプレッドと利回りの魅力度が後退した投資適格クレジットと先進国ソブリン債のスコアを小幅に引き下げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産は3月に入って上昇が加速した。実体経済を反映して、様々な地域やセクターが幅広くサポートされた。先月のレポートで取り上げたように、マイナス金利の終了は欧州と日本にとって追い風となり、両地域とも銀行が年初来で最もパフォーマンスの良好なセクターとなっている。

欧州で銀行セクターを牽引しているイタリアとスペインの金融機関は、偶然にもちょうど10年前、業績が最も低迷していた銀行である。当時のECB(欧州中央銀行)総裁のマリオ・ドラギ氏は、量的緩和やマイナス金利を含め「必要なことは何でもする」と約束したが、これらの措置の意図は銀行にバランスシートを立て直す時間を与えることにもあった。

実際、欧州でも日本でも銀行のバランスシートの強化が進み、銀行セクターは2020年後半からの債券利回りの上昇を背景として好調に利益を生み出している。インフレが長引く可能性が高いことから、当社では金利の高止まりは長期化する可能性があるとみており、高金利環境から恩恵を受け続ける銀行株や金融株を保有することは概して妥当と思われる。

銀行株の観点から見た景気回復の広がり

銀行株は景気ファンダメンタルズの指標として当てになる。先月、欧州と日本の株式市場は、プラス金利の見通しを追い風に予想を大きく上回る上昇を見せた。銀行システムが良好な状態にあることは、通常、堅調な株式市場の必要条件である。健全な状態にある銀行が実体経済の成長を支え、延いてはそれが市場全体の追い風となるからだ。

世界金融危機以降、欧州と日本の銀行は株価パフォーマンスがそれぞれのローカル市場全体に劣後していたが、債券利回りの上昇に伴い2020年の終盤に向けてようやく収益が好転した。日本の銀行株は同国市場全体を大幅にアウトパフォームしており、欧州の銀行株もモメンタムが加速しているように見受けられる。

チャート1


もう少し詳しく見ると、銀行のバランスシートは世界金融危機以降立て直しが進んでおり、不良債権が大きく減少している。しかし、バランスシートが改善しても、低・マイナス金利が純金利マージン(NIM)に悪影響を及ぼしたため、収益好転につながらなかった。2020年後半からは、債券利回りの上昇という形の救済が銀行にもたらされ、日欧ともに銀行のNIMが改善した。下のチャート2は、債券利回り(ドイツ国債10年物)とイタリア最大の銀行Union CreditのNIMとのあいだに直接的な連動性があることを示している。日本の銀行についても同様のことが言えるが、日本国債10年物の利回りの上昇幅はおよそ-0.25%から0.80%超と比較的小さかったため、当該現象はあまり顕著とはならなかった。

チャート2

これまでのところ、銀行は利益を伸ばしてきているが、これがまだ融資の伸びを押し上げるに至っていないのは、主に、世界金融危機以来、民間部門の借入需要が広く低迷している結果だ。この一因は人口動態にもあると言える。高齢化社会では、債務を増やすよりも返済する傾向が強いからだ。

そこで政府は、公的部門の債務を大幅に拡大することで、民間部門の残したギャップを埋めようとしている。それでも、銀行株と金融株は実体経済への適度なエクスポージャーを提供している模様で、高金利の長期化に対するヘッジにもなりやすい。

金利とインフレが市場予想を上回る水準にとどまる可能性があるなか、高金利の長期化が金融機関の収益に与えるプラスの影響を考えると、銀行株や金融株は底堅さを維持し得ると当社ではみている。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • コモディティ関連株:当該資産クラスは、キャッシュフローが潤沢で、生産能力が依然限定的ななかコモディティ価格が下支えされ底堅さを増していることから、インフレと金利が高止まりする環境下で堅調なパフォーマンスを維持する可能性がある。
  • 日本株:地域別配分では引き続き日本株を選好している。日本で構造改革が予想された通り進んでいることが理由だが、これは企業の収益性改善を背景に市場の上昇継続が可能であることを意味する。
  • 米国の長期的グロース株:テクノロジー関連株の上昇ペースは景気敏感株が3月を通じて見せた大幅上昇に比べると鈍化したが、テクノロジー関連の投資やAI(人工知能)の高成長機会は依然有望視している。
  • 欧州株式のスコアをプラスに:欧州株式は、割安なバリュエーションで投資価値と景気循環的な成長機会を提供しており、ポートフォリオにバランスをもたらす。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産におけるスコア変更は当月は小幅にとどめ、金のスコアを引き上げる分、投資適格クレジットと先進国ソブリン債のスコアを引き下げた。債券のスコア引き下げは、イールドカーブの反転度合いが最も大きく信用スプレッドが相対的にタイトな市場を中心に、米国や欧州、アジアにわたって行った。インフレは予想された以上に長引く兆候を示しており、米国の雇用市場は堅調さを維持している。したがって当社では、FRBが市場が期待しているほどの利下げを実施できないリスクがあると引き続きみている。そこで先月に続き、金のディフェンシブな役割について再考察する。

金の再考察

先月の本レポートで金についてコメントしたが、金は3月にも大幅な上昇を見せ、1オンス当たり2,229米ドルへと9%超上昇した。先月説明したように、金は(歴史的に見てコモディティ価格の逆風となるはずの)実質金利が上昇する環境下でも上昇している。しかし、コロナ危機の余波のなか、実質金利は金の長期的な価格動向にそれほど大きな影響を与えなくなっており、過去3年における過剰流動性が金に影響を与え始めている兆しが表面化しつつある。

この傾向は、金価格と米国債利回りの動きを比較すると明らかである。インフレが市場の予想よりも根強いものとなり、米国の失業率が一貫して4%を下回っているなか、FRBが当初期待されたほどの利下げを行えるかどうか、市場は疑問視し始めている。米国政府にとっては残念ながら、これは同国財政の債務支払い能力に疑問を投げかけることになるかもしれない。2026年には同政府の純利子負担が1兆米ドルに達し、財政赤字が対GDP比6%を超える驚異的なペースで拡大するからだ。

これが金にとって重要な理由は、大幅な財政赤字が金価格に与える影響を考えれば明らかになる。米国の財政状況は世界金融危機以降特に悪化しているものの、対GDP比5%を超える赤字が続くことは稀である。下のチャート3が示すように、財政赤字が対GDP比5%を継続的に超えた局面は1990年以降で2回しかない。これは、通常は予算の立て直しがすぐに実施されるからだ。金価格はこれらの局面で大きく上昇しており、現在の状況も例外ではない。政府債務が高水準にあり歳出が持続できない可能性のある水準に達していることから考えて、現在の環境は、金のように減価することのないディフェンシブ資産にとって引き続き追い風になるとみている。

チャート3

この概念をさらに掘り下げるには、マネタリーベース(中央銀行が供給する通貨)残高に対する金価格の相対パフォーマンスを考察するのが有効である。金投資に熱心な向きは、米国のマネーサプライに対する1オンス当たりの金価格の比率に言及することが多い。チャート4は、過去3ヵ月に金が急騰した一方で、この上昇が過去3年に見られたマネーの膨張に比べると比較的緩やかであることを示している。金価格がマネーサプライを大きく上回るペースで上昇した2009年とは異なり、現在の金価格は過大評価されているようには見えない。むしろ、マネーサプライとの比較においては、金価格は長期的な平均水準にあるにすぎないことが示されている。

チャート4

さらに重要なのは、過去2年間に金利が大幅上昇して債券と株式の相関性が高まったのに対し、株式と金の相関性は比較的安定したままであったことだ。これは、金が伝統的な債券資産よりも高い分散効果をもたらし、市場の混乱局面でポートフォリオに安定性を提供してきたことを示唆している。FRBの動きを予想するのが困難となり得る環境下、金は今後もポートフォリオに優れた分散効果を提供し続けると考える。金は、予想された以上に根強いインフレへのヘッジとなるとともに、さらに重要な点として、すでに不安定な財政をめぐる政府の失策に対してのヘッジともなる。

ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは引き続き適正水準にあるが、多くの国で依然イールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に低くなっている。イールドカーブがスティープ化するまでは、満期が短めのクレジット物の選好を継続する。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクおよびインフレ圧力長期化に対するヘッジとしての有効性を証明している。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、また当社ではクオリティの高い新興国通貨を選好している。一部の新興国通貨はドル高から目立った圧力を受ける可能性があるが、特に金利と外国為替のボラティリティが低下すれば、さらなるサポート材料になると考える。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:



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