当レポートは、英語による2024年7月4日発行の英語レポート「Global Investment Committee’s outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
グローバル投資委員会(GIC)の基本シナリオの主要な結論は以下の通り。
- 基本シナリオとして、大半の主要国でGDP成長率がプラスになるとみており、欧州を除く全地域でやや景気上振れのリスクがあると考える。この基本シナリオでは、米国と欧州でインフレが緩やかなディスインフレ傾向を伴いながらレンジ内で推移する一方、日本ではリフレが継続し、中国でもリフレが加速すると予想している。
- 当委員会が前四半期に示した見解の通り、米国の景気やインフレに一段の減速が見られなければ、米FRB(連邦準備制度理事会)が年内に実施できる利下げは1回にとどまる可能性があり、これはFRBが6月に発表した「経済見通し」にも反映されている。年内に1回でもの利下げを実施できれば、米国はプラスの経済成長を維持できると考える。米ドルはコンセンサス予想よりも堅調さを維持する可能性が高いとみている。
- 日本では賃金と物価の「好循環」が続き、経済成長率が潜在成長率を上回る水準にとどまるとともに、インフレが当面日銀の目標である2%を上回ると想定する。経済成長が基本シナリオから乖離するリスクは、2024年後半においては上方・下方とも均衡しているが、2025年には下振れリスクが強まるとみている。円はこれまでの下落を取り戻すと予想するが、これを受けて企業収益には当面下方圧力がかかるかもしれない。
- 欧州では、今後1年もディスインフレ傾向が変わらず続くとみられるなか、経済成長低迷への対応としてECB(欧州中央銀行)が利下げを継続すると予想する。
- 中国が5%を超えるGDP成長率を維持できるとは考えにくく、経済成長は4%台半ばに向けて徐々に鈍化するとみている。外需へのリスクとして、貿易関税の影響などが挙げられる。中国の物価については、需要の堅調さというよりもベース効果を主因として、リフレを予想する。
- 企業収益は今後1年もプラスの伸びが続くと予想する。しかし、当委員会の利益成長率想定は市場コンセンサスよりも保守的であり、バリュエーション(PER)の上昇を見込むのは割高感が相対的に低い市場のみにとどまっている。
- 当社が基本見通しとしていない発生確率のより低いリスク・シナリオのうち、重視しているのは、米国・欧州における貿易障壁や財政拡大などに起因するインフレ・リスクである。インフレが加速し中央銀行の政策金利が予想を上回ることになった場合のもう1つのリスク要因は、企業によるAI(人工知能)関連の投資が収益性への懸念から鈍化するかもしれないことである。発生確率としては非常に低いが、起きた場合に当社の見通しへの影響が大きくなり得るリスクとしては、金融市場のシステミック・リスクなどが挙げられる。
2024年第2四半期の振り返り:中央銀行の政策の織り込み直し、リスクの集中
6月27日にGICが開催された時点で、市場は、株式市場(上昇相場が長期化)とFRBの政策(2024年に実施される利下げは3回ではなく1回と想定)の両方について、当委員会が第1四半期に示した見解に概ね収束していた。日銀についても同様で、当委員会が4月に予想した通り、同中銀は3月にマイナス金利政策を終了した後も緩和的政策を維持して景気を下支えした。一方、当委員会の第1四半期時点の想定と異なる展開となったのは欧州で、インフレと景気がともに十分減速したことから、ECBは(本稿執筆時点ではまだ政策金利を据え置いている)FRBに先駆けて利下げサイクルを開始することができた。しかし、欧州の景気回復の足取りは依然鈍く、一方でECBは、最初の利下げの効果を評価しながら、インフレが予想通り鈍化しつつあることを確認している模様だ。
現在、米国経済は2つの異なるスピードで動いており、企業収益と将来の企業収益予想が堅調さを維持している一方で、消費者心理(特に将来に対するセンチメント)は大きく悪化している。レイオフ(一時解雇)はまだ勢いを増していないものの、雇用とその結果としての労働力流動性は幾分冷え込んでおり、失業率はまだ低水準ながらも着実に上昇しつつある。このような家計関連指標は、製造業サイドで見られるようになってきた活況の兆候(PMIの底打ちや未出荷在庫の減少など)とは対照的だ。一方、米国のインフレは鈍化を続けているものの、そのペースは利下げが近いとFRBが示唆できるほどではない。
日銀は最近、マイナス金利やイールドカーブ・コントロール、ETF(上場投資信託)買い入れといった非伝統的緩和策を終了したが、日本のリフレの「好循環」が軌道に乗るかを注視しながら、しばらくは緩和的スタンスを維持すると示唆した。日本の企業収益と設備投資は引き続きポジティブな兆候を示している。設備投資は、(6月調査の短観でも明らかな)慢性的労働力不足やソフトウェアおよび研究・開発への投資に下支えされている。春闘で見られた過去最高水準の賃上げを受けて、(特にインフレが鈍化しつつあるなか)実質賃金の伸びがプラスに転じるのは近いとみられるが、経済指標や消費者の行動にはまだ永続的な実質所得拡大への期待が反映されていない。円相場は対ドルで数十年ぶりの安値まで下落しており、海外に収益基盤のある大手企業には追い風となっている。
中国では、国内の不動産問題が続いているものの、外需と世界的な製造業サイクルの底打ちが低迷する内需をある程度相殺している。とはいえ、貿易摩擦は激化を続けており、その傾向は特に太陽光エネルギーや電気自動車など中国の戦略的投資分野で顕著となっている。政府は引き続き、財政で内需を支えることへのコミットメントと、モラルハザードと見られるのを回避したいという願望とのあいだで、釣り合いを取るようにしている。全国人民代表大会では経済成長率を2023年と同様の前年比5%程度に押し上げる方針が示され、市場にはとりあえず評価されたが、デフレ圧力は引き続き逆風をもたらしている。
このような背景に加え、金融環境が緩和方向に動きつつあることから、GICではコンセンサス予想と同様、大半の主要国において潜在成長率を上回る経済成長が続くだろうと想定している。物価については、米国と欧州で緩やかなディスインフレ基調が続くと予想するが、この見通しには特に2025年に上振れリスクがあるとみている。
コンセンサス予想:潜在成長率を上回りながらも鈍化するとの景気見通しは、右肩上がりの企業収益予想とは対照的
コンセンサス予想によると、米国のGDP成長率は2%超から1%台後半へと鈍化するものの、この先1年の見通し期間を通じて潜在成長率(ブルームバーグ上の推定値によると1.5%程度)を上回る水準にとどまるとみられている。景気を支えると見込まれるのは消費と民間投資だ。インフレ率は(総合インフレで)3%超から2%台半ばへと徐々に減速し、2025年6月末には2%をやや上回る水準になると予想されている。FRBの「経済見通し」通り、市場ではFRBが2024年末までに少なくとも1回の利下げを行い、年内または2025年序盤に追加利下げを実施すると織り込んでいる。コンセンサス予想では、2025年第2四半期末までに1.00%超の利下げを見込む一方、FRBの利下げに伴って10年物米国債利回りが4%近くまで低下し、米国のイールドカーブはこの先1年も長短逆転状態が続くとみられている。
企業の利益成長予想はマクロ経済の予想よりもはるかに強気で、コンセンサスでは米国企業は2桁の増益を遂げ、ダウ平均株価構成企業の利益成長率は今後1年を通じて20%超を維持すると予想されているが、PER(株価収益率)は2025年第2四半期にかけて20倍へと緩やかに低下するとみられている。米ドルは、コンセンサスで最近の上昇分を一部吐き出し全面安の展開になると予想されており、対円では145円へと下落するとみられている。他の通貨については、6月27日現在、2025年第2四半期までに対米ドルでユーロが1.10超、英ポンドが1.29、オーストラリアドルが0.69まで反発すると予想されている。
日本のGDP成長率は、コンセンサスでは2024年序盤の一時的なマイナス成長(前年同期比)から潜在成長率(日銀の推定では0.6%強)を上回る水準への回復が予想されている。インフレについては、日銀の目標である2%に向かって徐々に鈍化し、2025年第2四半期までに生鮮食品を除くインフレが前年同月比2.1%に達するとみられている。一方、日銀は景気刺激策の引き揚げを継続し、2025年第2四半期末時点の無担保コールレートは0.4%前後、10年物国債利回りは1.2%超になると予想されている。日米金利差の漸進的縮小に対する市場の反応は鈍いが、コンセンサス予想では円は対ドル、対ユーロともに地合いが回復し、ドル円で145円、ユーロ円で161.5円への反発が見込まれている。日本の企業利益は、2024年後半は2桁台と好調な伸びを維持するものの、2025年序盤には鈍化して2025年第2四半期までに再び減少に転じる可能性があると予想されている。
ユーロ圏のGDP成長率は、コンセンサスでは低調な水準から潜在成長率(ブルームバーグ上の推定値によると0.6%前後)を上回る水準まで加速し、2025年第2四半期には前年同期比1.5%に達すると予想されている。ユーロ圏のインフレは、2025年第2四半期末にはECBの目標である2%をわずかに上回る程度まで鈍化し、コアインフレはそれよりも若干高い2%台半ばになるとみられている。ECBによる利下げは複数回予想されており、2025年第2四半期末時点の政策金利は翌日物金利スワップに織り込まれているのと同水準の2.9%前後になるとみられている。10年物ドイツ国債利回りは2025年第2四半期までに2.25%へ低下し、イールドカーブの長短逆転が1年先まで続くと予想されている。ユーロ圏と英国の企業利益成長率は年末から2025年にかけてマイナスからプラスに転じるとみられている。米国のバリュエーションと同様、ユーロ圏と英国のPERも、利益の伸びが株価の上昇を上回るにつれて徐々に低下するというのがコンセンサス予想となっている。
中国のGDP成長率は、コンセンサスでは2024年半ばに一時的に5%を超えるが、その後は1年の見通し期間を通じてこの水準を下回ると予想されている。鉱工業生産は当面の固定資産投資の下支え要因になるとみられており、一方で小売売上高は2024年末にかけて回復すると予想されている。総合とコアの両インフレは緩やかなリフレの兆候を示し、2025年第2四半期末までには1%台を回復すると予想されている。
コンセンサス予想によると、コモディティ価格はすでにピークを打っている。原油価格の上昇リスクを予想する向きもあるが、予想筋の多くは、原油価格がブレント原油で1バレル当たり80米ドルに向かって下落し、金については2025年第2四半期末時点で1オンス当たり2,200米ドル近辺にと戻るとみている。
GICの見通しとコンセンサス予想の比較:GDPおよびインフレの基本見通しは一致も企業収益についてはコンセンサスより弱気
GICのガイダンス・レンジは本稿の補足1を参照。
経済成長とインフレ:概ねコンセンサスと一致
GICでは、基本シナリオとして、欧州以外のすべての地域でGDP成長率が若干上振れするリスクがあるとみている。
米国のGDP成長率は、2024年半ばの2%超から、見通し期間内に1.75%へ鈍化すると想定している。上振れ・下振れリスクはいずれもあるが、当委員会ではこれらのリスクが下方よりも上方に偏っており、成長率が2%超にとどまる確率を25%と見込んでいる。米国の総合およびコアCPI(消費者物価指数)上昇率のガイダンスについては、基本シナリオはコンセンサス予想とほとんど差がなく、総合物価上昇率は2025年第2四半期までに2.4%へ、コア物価上昇率は同期間に2.3%へ減速すると想定している。ただし、GICメンバーの何人かは、インフレの上振れを発生確率のより低いテールリスクとして想定しており、これについては「当委員会の見通しに対するリスク」セクションで論じる。
一方、日本の経済成長率の想定もコンセンサスと同様で、基本シナリオとして潜在成長率を上回る伸びを見込んでいる。ただし、2025年第1四半期の前年同期比成長率が大きく加速するというコンセンサス予想には同意しておらず、それまでの金融引き締めの遅行効果により、2024年第1四半期の景気が軟調であったことに伴う前年同期比でのベース効果を日本は十分に生かすことができない可能性がある。2024年後半は基本シナリオからの上振れ・下振れリスクが概ね均衡していると考えるが、2025年は利上げの遅行効果と海外景気軟化の可能性から下振れリスクが高まるとみている。インフレの基本見通しもコンセンサスと同様だが、全体としては、総合インフレについて上振れ(コストプッシュ)リスクへの偏りを見込む一方、コアインフレについては下振れリスクがあるとみている。ただし、GICメンバーのなかには、2025年にインフレが一時的に前年比1%を下回る水準へ後退する確率を25%の確率で想定している者もいれば、コアインフレが2%台半ばの水準で「立ち往生」する可能性を想定している者もいる。また、円が急速な反発を見せた場合は企業収益にとって当面の逆風となり得ることから、円相場の回復の度合いやペースによっては、景気の下振れリスクが浮上する可能性もある。海外で売上げのある大型企業は、収益面でこれまで円安から恩恵を享受することができており、これがさらなるバッファーとなってサプライヤーからの値上げを吸収し賃上げを行うことができた。
全体として、欧州のGDP成長率に対するGICメンバーの想定は引き続きコンセンサスよりも弱気にとどまっている。ただし、ECBの金融緩和を受けて、見通し期間の前半(2024年後半)における欧州の経済成長は、低調にとどまるという当委員会の基本見通しから上振れする可能性がある。見通し期間の後半(2025年前半)については、リスクが下方に偏っているとの見方をしている。欧州景気は製造業の回復により幾分持ち直したものの、地政学的リスク(ウクライナ戦争や紅海の海運混乱など)に晒されているだけでなくユーロ圏で消費・国内投資の低迷が続いていることから、当委員会メンバーはユーロ圏の経済成長見通しをあまり楽観視していない。ユーロ圏のインフレについては、2025年第2四半期末までにECBの目標である2%に向かって減速する可能性が高いと予想するが、基本見通しからの乖離リスクは当面上方・下方で均衡するものの2025年にかけて上方に偏るとみている。
中国のGDP成長率はコンセンサス予想に近い水準にとどまり、5%超から見通し期間の終わりまでには4%台半ばへと減速基調を辿ると想定する。しかし、中国がリフレに転じ得るペースについては不透明で、中国のインフレは、2024年いっぱいは基本見通しからの下振れリスクが上振れリスクを上回る一方、2025年には有利なベース効果によって見通し期間の終わりまでに再び1%を超える可能性がある。
金利:2025年にかけて不透明感が増すとみられる
日銀の政策が極めて緩和的(金利はゼロに近い)であることを考えると、同中銀が利上げサイクルをさらに進めるにつれて不透明感が強まるとみられる。GICの基本シナリオはコンセンサスよりも幾分タカ派的で、日銀が9月末までに1回目、2025年3月末までに2回目の利上げを実施すると想定しており、2回目の利上げが2024年12月よりも前に実施される可能性もあるとみている。当社の基本シナリオでは、2025年第2四半期末までに3回目の利上げが実施され、翌日物金利が現在コンセンサス予想で織り込まれている0.4%を若干上回る水準に収束すると見込んでいる。ただし、2025年にかけては、(前述の「成長とインフレ」セクションでの議論と同様)不透明感が上方にも下方にも強まると予想する。一方、10年物日本国債利回りはコンセンサス予想よりも速いペースで上昇すると想定しており、7月に日銀がおそらく量的引き締めを開始して債券市場に下落圧力がかかる可能性が高いなか、基本シナリオでは、2025年第2四半期末時点の10年物国債利回りは(本稿執筆時点のコンセンサス予想である1.23%に対し)1.35%に収束するとみている。
米FOMC(連邦公開市場委員会)については、GICの見通しはコンセンサス予想に極めて近い。当委員会では、米国の政策金利が2024年末時点で5%を若干上回る水準へ、見通し期間の終わりまでには4.5%へ低下すると想定している。基本シナリオから乖離するリスクは上方・下方ともにあるとみており、見通し期間の終わりまでに政策金利が4.13%以下へ低下するか4.75%以上にとどまる確率を25%と見積もっている。また、当委員会メンバーの多くはテールリスクが上方に偏重しているとみており、これについては後述の「当委員会の見通しに対するリスク」セクションで説明する。一方、米国債のイールドカーブは長短逆転が続くと予想しており、基本シナリオでは2025年第2四半期末時点の10年物米国債利回りを4%強とみている。ただし、見通し期間の後半については当委員会メンバーの見方がより分かれており、何人かは米国の金利とインフレに上振れのテールリスクがあると判断している。
ECBの政策金利についても、コンセンサス予想(2025年第2四半期末時点で3%)と同様の動向を想定している。ただし、一定の上振れリスクもあると考えており、見通し期間の終わり(2025年第2四半期末)にかけてのインフレ上振れリスクに沿って、根強いインフレにより年末の政策金利水準が3.3%以上となる確率を25%と推定している。ドイツ国債の利回りは2025年第2四半期末にかけて2.25%前後へ緩やかに低下するとみているが、全体として上振れリスクよりも下振れリスクの方が大きく、時期としては(景気の低迷を主因として)見通し期間の後半に集中すると予想している。
為替:ドルは底堅さが持続、円は緩やかな反発へ
コンセンサス予想と最も明確に異なっているGICの見解は、米ドルが主要通貨の多くに対して根強い堅調さを示すという見通しだろう。方向性としてコンセンサス予想は米ドルの全面安を見込んでいるが、GICでは基本シナリオとして、ユーロ、英ポンド、オーストラリアドルの対米ドル・レートは今後1年においては上昇せず、3通貨とも下落するとみている。これは、3通貨とも対米ドルで上昇すると見込んでいるコンセンサス予想とは対照的である。しかし、円の対米ドル・レートについては、バリュエーションの極端さ(1ドル=161円超という水準は1ドル=100円弱であるべき購買力平価から大きくかけ離れている)を考えると、コンセンサス予想ほどではないにせよ幾分調整する可能性があると予想している。円の方向性については当委員会メンバーのあいだで見方が分かれており、現在の水準からさらに円安が進むと予想する者もいれば、円高が予想を超えるペースで進んだ場合の市場や景気への潜在的リスクを指摘する者もいる。総合すると、1年後の円の対米ドル・レートは146.5円と想定するが、円の反発はコンセンサス予想よりも緩やかなものになるとみている。基本シナリオからの乖離リスクは双方にあると考えるが、米ドルが対円だけでなく幅広い通貨に対して下落するというコンセンサス予想が実現する確率は25%と推定している。
コモディティ:上昇相場はまだ終わっていない
GICの見解がコンセンサス予想と異なっているもう1つの分野は、コモディティの見通しである。コンセンサス予想がコモディティ価格はすでにピークを打ったとみているのに対し、当委員会はコモディティ市場が全体的に引き続きサポートされると予想している。金は最近の上昇基調を継続して2025年第2四半期末には1オンス当たり2,600米ドルに達し、ブレント原油は1バレル当たり85米ドルで底を打つ可能性が高いとみている。また、ブルームバーグ商品指数は105に向かって上昇を続けるとみており、コモディティ価格が市場の織り込んでいるような下落を見せる確率は25%と推定している。
企業収益の伸びは堅調さを維持するも右肩上がりとはいかないだろう
全体として、2025年第2四半期までの1年における企業の利益成長は、かなり安定した推移を維持すると予想する。しかし、米国企業の利益成長は、特に景気減速が予想されるなか、大型株であっても20%超える水準にとどまることはないと予想する。ダウ平均株価の構成企業については、より保守的な2桁成長(2025年第2四半期時点のEPS成長率予想の中央値は15.6%)を予想しており、S&P500の構成企業も堅調な利益成長を示すとみられる。バリュエーション(PER)については、利益の伸びが価格の上昇を上回る形で低下傾向を示すと予想しており、S&P500のPERは2025年第2四半期末までに19倍を下回るとみている。
日本企業は、当社の日本株運用において投資対象の大半を占めるTOPIX全体にわたり、1桁台の健全な利益成長を予想する。大型株は(今サイクルでこれまでそうであったように)市場全体を上回る利益成長を続けるとみるが、とはいえ、大型株企業の利益成長が(2桁台前半へと)鈍化するなか、ある程度のセクター・ローテーションが起こる可能性があると考える。また、特に日本の内需が改善し始めれば、市場全体でも底堅い利益成長が示され得る。2025年第2四半期までにTOPIX構成企業が2桁の利益成長を見せる確率は25%と推定する。TOPIXのPERは、バリュエーションの再評価が進むのに伴って緩やかな上昇基調が続き得ると予想しており、2025年第2四半期末までには16倍程度に落ち着くとみている。
しかし、日銀の利上げの影響という形で一定の下振れリスクも残る。もう1つの下振れリスクは、円安などの要因に基づき遅れて起こるコストプッシュ・インフレである。円安は、海外に収益基盤のある大手企業には追い風だが、輸入物価の上昇から影響を受けやすい内需系の中小企業にとってはそうはならない。当委員会メンバーの1人は、自社株買いが活発化していること(それに伴って自己資本利益率の向上が期待できること)を好感しているが、銘柄選択の主要な基準として事業再編や生産性向上への投資を進めている明確な兆候を重視している。一方、ドル円相場の反転が急激すぎると、これまで円安の恩恵を享受してきた大手上場企業に大きな悪影響をもたらす可能性があり、内需の回復などの相殺要因がなければ日本の企業収益全体にとって逆風となり得る。
香港ハンセン指数構成企業の利益成長は、この先1年で緩やかに改善すると予想する。ただし、見通し期間の前半においては(中国が近いうちにデフレを脱却できるかをめぐる不透明感に関連して)ある程度の下振れリスクがあると考えており、2024年後半に1桁台の減益となる確率を25%と見込んでいるが、基本シナリオとしてはその後回復に転じるとみている。とはいえ、(貿易摩擦や関税引き上げなど)一定の下振れリスクは残り、2025年にかけても利益の伸びが依然阻害される可能性がある。
欧州株式は、英国株式やオーストラリア株式とともに、過小評価されているとの言及もあるものの、これらの地域で企業収益の成長鈍化が見込まれることを主な理由として、GICの大半のメンバーのあいだでは概して選好されていない。しかし、特にバリュエーションの水準が低いことを考えると、注視していく価値はあり、当委員会メンバーの1人は、欧州株式のPERが近年の過去のバリュエーションと比較しても低水準にとどまっていると指摘している。
当委員会の見通しに対するリスク:選挙、インフレ、AI投資の再評価、システミック・リスク
GICの基本見通しは概ねコンセンサス予想と一致しているが、2025年第2四半期までの1年においては、経済成長の下振れテールリスクが上振れテールリスクよりも大きく、今現在は発生確率が低いとみなされるものの、発生確率が上昇し得る。一方、インフレについては、発生確率の低いリスク・シナリオは上方に偏っているとみている。
- 選挙、保護主義、財政拡大、インフレ:当委員会メンバーのうち数名は、見通しに対するテールリスクとして、発生確率の低いイベント以外から発生する可能性があるものを挙げており、その多くは、米国の選挙後の貿易関税や財政拡大など、米国のインフレ・リスクの分野に集中している。貿易関税はトランプ再選の可能性と極めて密接に関連しているが、財政拡大などから生じるインフレは必ずしも特定の選挙結果と関連していな。これらを発生確率のより高い(25~50%)下振れリスクとしたメンバーは、その影響度を「中~高」と評価している。他の多くのメンバーは、インフレや(財政危機を引き起こす可能性のあるフランスのケースなどの)政治リスクを、発生確率は低い(10~25%)ものの影響は大きいリスクと指摘している。あるメンバーは、確率は非常に低いが影響の大きいリスクとして、貿易・金融摩擦が貿易・金融戦争へと極端に激化し資本規制や関税が追加される可能性を挙げている。一方、日銀がインフレを抑制できなくなるケースは、確率としては極めて低いと想定するが、そのような事態が予想外であるからこそ、現実化した場合の影響は大きくなり得るとの指摘もある。
- AI投資の再評価:AI投資の再評価の可能性は、当委員会の見通しに対するもう1つのリスクとして複数のメンバーが挙げた。発生確率は低い(25~40%)ものの極端に低いわけではなく、米国の企業収益成長とテクノロジー・セクターのバリュエーションにおける主要なドライバーの鈍化につながる可能性がある。これには、(イノベーションに不可欠な)研究・開発への投資が収益性の足枷と見なされる可能性も含まれる。当該リスクを見通しへの主要リスクとして挙げたメンバーは、その影響を全体として「中程度」と評価している。
- (1)と(2)のリスクが相まって根強く続く状況:GICメンバーの1人は、インフレの加速(および長期化)とAI投資の再評価とのあいだに相関性がある可能性を指摘した。2024年にはすでに利下げ観測が再評価されている(FRBの利下げは年初には3回と織り込まれていたが、本稿執筆時点では1回となっている)ことを考えると、貿易関税や財政拡大をさらなる加速要因としてインフレが長期化し、FRBによる予想外の利上げを招くリスクは、(当委員会の基本シナリオではないものの)可能性がゼロというわけではない。このような事態が発生した場合、テクノロジーへの大規模投資を進めるのに不可欠な資金流動性が突如悪化する可能性があり、そうなれば、資金調達コストの上昇が想定されるなか、AI投資の再評価が突然起こり得る。この場合、これら2つのリスクがともに起こる確率はより低くなるものの、その影響はAI投資の減少か米国のインフレ加速が単独で起きた場合よりも大きくなるだろう。
- 金融のシステミック・リスク:金融・市場危機の発生も複数のGICメンバーが挙げたリスクの1つであり、発生確率の低い(10~25%)テールイベントとされながらも、現実化した場合の影響度は「高」と評価された。金融のシステミック・リスクとしては、プライベート・デット市場における潜在的な信用危機が挙げられ、複数のメンバーが、プライベート・クレジット市場のレバレッジをめぐる不透明性やプライベート・エクイティとの関連性(プライベート・エクイティ企業が運用資産を集めるにあたって小規模債権者がプライベート・エクイティ企業に貸し付けるNAVローンなど)を挙げている。
運用戦略の結論:全体として経済成長はまだ続くが、慎重さをもって臨む
全体的な経済見通しは、総合的な観点からは悪くはない。GICでは、2025年にかけてプラスの企業収益成長が続く可能性が高いとみている。ただし、企業の利益成長のコンセンサス予想は、(潜在成長率を上回りながらも依然鈍化を見込んでいる)GDP成長率のコンセンサス予想と完全に整合しているようには見えない。(ECBの追加利下げに加えて)FRBによる利下げが予想されるものの、バリュエーションの水準から考えると、2024年のうちに利下げが1回行われたとしても、さらなる価格上昇がもたらされる可能性は低いとみる。企業収益は、特に将来の生産性向上を見込んだテクノロジーへの投資が現在のペースで続けば、しばらくは健全な伸びが維持されるだろう。しかし、さらなる財政拡大や米国の貿易障壁など、成長に対する発生確率の低いリスクは、テールリスクから発生確率の高い下方シナリオへとエスカレートする可能性があることから、慎重さが必要と考える。
一方、日銀は、他の中央銀行が利下げを行っているなかで例外的に利上げを行っている。当委員会では、堅調な景気と緩和的金融環境が引き続きTOPIX構成企業の収益の追い風になると予想するが、見通し期間のあいだに見通しが変動するリスクがないわけではない。コンセンサス予想と異なる当委員会の主な見解の1つは、円以外の通貨に対して米ドル高が継続することで、円以外の通貨は対米ドルでの下落を取り戻すのにコンセンサス予想よりも時間がかかるかもしれない。円の反発は大型株の海外収益にとって逆風となる可能性があるが、そうなったとしても、内需の回復が中小型株や内需銘柄を下支えし、市場全体の企業収益がプラスの伸びを維持すると引き続き期待している。コモディティ価格についてコンセンサス予想よりも強気の見方をしているのに加え、米国のインフレ上振れリスクが他国へと波及しやすい状況も想定される。当委員会の基本シナリオでは潜在成長率を上回る経済成長が続くと見込んでいるが、インフレやAI投資の再評価、金融のシステミック・リスクに関連するリスクについては引き続き警戒していく。
補足1:GICの見通しのガイダンス・レンジ
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。